願い事は

風の中の真実の和葉ちゃん側からの視点です〜(^^;)平ちゃん側は「風の中の真実」へどぞ!

少しずつ風が冷たさを増して、体温を奪い去ろうとその体に向かってくる―・・・。

吹きすさぶ刺すような風が頬に当たるのを感じながら、和葉はゆっくりと階段を上って行った。

屋上へと開いたドアから流れ込む風は、冷たく厳しい。
和葉はその冷たさに震えながら、階段を上りきり、そっと開け放たれたドアから屋上へと出た。

屋上は思ったより暖かかった。

さっきまで感じていた寒さはきっと、校内をめぐる風の通り道となって、階段を北風が通り抜けていたからだろう。

「平次・・・おるん?」
恐る恐る和葉は誰もいない屋上に問い掛ける。

返事は―・・・ない。

「おっかしいなぁ・・・。ここやと思ったんやけど・・・」



昨夜二人で出かけた先で、偶発的に事件に巻き込まれ、たまたまその場に居合わせたという事で平次の本領発揮となった。
事件を解く時の平次の顔は、どんな時よりも魅力的で。
不謹慎かもしれないが、その表情をまた間近で見られるとなって和葉は内心喜んでいたのだが―・・・。

「和葉、お前はパトカーの中で寝とれ・・・長引くかもしれへんから・・・」

でも、と躊躇う和葉の手を取ると、平次はバタンとパトカーのドアを閉めた。

「・・・・・・俺は慣れとるけど、明日も学校があんねん・・・後で事件の事はなんぼでも聞かせてやるから・・・な?」

平次の優しい笑顔に、嫌とは言えず・・・。
次にふと目を覚ました時は、隣に平次がいて、パトカーは家へと向かっていた。
「・・・・・・・平次・・・・・寝た?」
「アホ、寝とるわけないやないか・・・今犯人捕まえたとこやで?」
思ったより難航した捜査に、事件は真夜中過ぎに解決するといった結果になってしまった。
「じゃあ寝とらへんのん?・・・・・・今日も学校やで?」
「・・・・・大丈夫やて、いつもの事や。それより、ほら、着いたで・・・」

そう和葉を送り出す平次は、いつも通りの笑顔だった。

「お前んとこには電話しといたけど・・・まだちょっと時間あるし、今度はベッドでちゃんと寝ぇ・・・。」
付き合わせて悪かったな、と謝ると、平次は和葉に見送られながら、パトカーの窓を閉めた。

暗い中、ポケットのカギを取り出す。

家の中は家族の者が皆寝静まっていて、和葉を心配してつけておいてくれたのだろう、台所の灯かりが足元を照らしていてくれた。
和葉はそっと物音を立てない様に、自分の部屋へと向かった―・・・。

時間が時間だ。
入浴も済ませたかったが、家族を起こすと悪いので、それは朝にして、とりあえずベッドに横になってみる。
いつも通りの笑顔の平次がちらついて、中々寝付けなかった。
「平次は・・・慣れてる言うてたけど、こんな生活に慣れてるんやろか・・・」
目を閉じてみる。

浮かんでくるのは平次の事ばかりで、少しも寝付けそうにない。

時計を見たら、午前4時少し前だ。
今から寝ても・・・
そんな思いが頭を過る。

「・・・・・・・・・・・・・・・そや!」

和葉は、一枚上着を羽織ると、ベッドをそっと抜け出した。


「お、和葉・・・うまそうやな、何作っとるんや?」
外の景色がやっと明るくなってきた頃、寝ぼけ眼の父親が台所に顔を覗かせた。
「ん、弁当作っててん・・・お父ちゃんも欲しい?」
「あぁ・・・あるんか?」
「ちゃんとあるで?心配せんでも・・・そうそう、平次のおじさんの分もあんねんっ!ちゃんと届けてな?」
和葉の手元には3つの大きな弁当箱と、2つのかわいらしい弁当箱が並んでいた。



今、その弁当箱の内2つが和葉の手の中にあった。

「平次〜?」
違う場所だったのかもしれない。
そう思い、教室に戻ってみようと振り返った時だった。

「あ!」

平次は、入り口の建物にもたれかかって陽の光の中で眠っていた。
足音を立てないように、そっと近づく。
平次を起こさないように・・・。

「疲れてたんやね・・・」
キラキラしたあの顔も好きやけど・・・

和葉は、そっと平次の隣に座り込んだ。
いつもは見せない、無防備な寝顔を間近で見つめる。

こういうのもええね・・・

自然と顔がほころぶ。

「なあ、平次・・・アタシに出来る事あったら何でも言うてな・・・?平次の重たい荷物、一緒に持ってあげられる様になりたいねん・・・」
柔らかな陽射しの中で素直な言葉が口から出てくる。
「って・・・起きてる時にはこんな事言えんけど・・・」
和葉が照れ隠しに苦笑する。

すっと和葉の背中を冷たい風が撫でる。
「・・・・・・・!」
やっぱり少し寒いか、と思った時だった。
平次の腕がすっと伸びて、和葉の背中にまわった。
和葉は平次の背に掛けられた学ランに一緒にくるまれる様にして抱き寄せられた。
「・・・こんなとこにそないな寒そうなカッコで来るもんやないで?」
「へっ平次、起きてたん!!?」
「・・・・・・・・・そないなデカイ声で喋っとるんや、起きんわけないやろ・・・」
「ど、どの辺から起きてたん!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前が俺を探しとるとこから・・・・・・・・・・・・悪ぃ、寝かせてくれ・・・・」
「て、最初っからやんっ!意地悪やなぁ、起きてるなら起きてるで言うてくれればええのにっ!!」
「・・・あぁ・・・やっぱり落ちつくな・・・・・・・・」
それだけ言うと、平次は和葉の肩に頭をこつんと乗せてすうすうと寝息を立て始めた。

「もう・・・なんなん?・・・・・・・・・弁当冷めちゃうやん・・・」
2つ分の弁当を膝の上に乗せて、和葉もそっと平次に寄り添った。

冷たい風の中でも、ここだけは温もりを感じられた―。

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