秘密

「平次・・・」
廊下でその姿を見掛けて、和葉が声を掛ける―・・・。
「おっ・・・和葉」
平次が笑顔で和葉を迎える。

たったこれだけの事が嬉しくなる瞬間。

でも、時々それ以上の笑顔を見たくなるのは、やっぱり贅沢なのだろうか・・・

「服部君っ!!」
クラスメイトの女の子が、勢いよく教室のドアを開けた―・・・。

「和葉が倒れてしもたん!!!」
女の子の様子から、だれきっていた教室内の空気が一気に張り詰めた。

一番に反応したのは、やはり平次だった。
女の子がドアを開けた時以上の勢いで、廊下に飛び出していく。

「服部君、中庭や!」

一陣の風が去った後のように、教室内は再びざわめきが戻ってきた・・・今度は、別の意味で・・・。

「・・・・・・・・・・ちゃんと分かってんのやろか・・・」
「服部君やもん、大丈夫やろ・・・」
「でも、あんな慌てた服部君見たの初めてや・・・!」
「やっぱり、あの二人デキてんのとちゃう?」

噂話に頬を染めながら、女の子たちは嬉しそうに微笑む。対照的に、男達ははあっと深い溜息を吐いた・・・。

「・・・平次の奴、やっぱ和葉の事好きなんやろか・・・」

明るく元気な和葉は、誰にでも分け隔てなく接してきた。
相手に悩み事があれば、どんな話でも親身になって聞いてくれる和葉に、好意を持っている奴は少なくなかった。

「なんやのん、そんなシケた顔してぇ!和葉に服部君諦めぇ言うのん!?」
「そんなんやないて・・・和葉がしあわせになってくれたら嬉しいのは当たり前やん・・・!」
「平次がはっきりしてくれたらええんや!はっきりしてくれたらな!!」

そう、全ては平次の和葉への気持ちが曖昧にされているがためだった。


中庭に息を切らして平次が辿り着くと、人垣の中に、和葉が横たわっていた。
「和葉!!!」
慌てて駆け寄る平次に驚いて、周りを囲んでいた人垣がざっと和葉から離れた。
「・・・・・・・あ・・・・・・・・?へ・・いじ?」
和葉に意識があるのを確認して、平次は体に張り詰めていた力が抜けた・・・。
「なんや、意識はあるんかいな・・・」
「・・・・・・な・・・なんや、目の前が急に真っ暗になって・・・」
「見たとこ貧血やな・・・」
ぐったりした和葉を抱きかかえると、平次はなるべく揺らさないように保健室へと向かった。

「・・・貧血と、それから・・・睡眠不足からきてる過労ね・・・」
保険医はそう言うと、ベッドを一つ、和葉のためにあけた。
「しばらく横になってなさい」
平次は保険医の言葉にようやく胸を撫で下ろした。

それからの午後からの授業、気が焦るばかりで、先生の声など、耳にも届かなかった。

目は開いているのに、視線の先の校庭も入っているのに、脳裏には和葉の青ざめた表情しか写らなかった。

授業の終わりを告げるチャイムでようやく正気に戻った平次は、和葉の分の学生鞄と自分の鞄を持つと、保健室へと急いだ。

「・・・・・・・・・なんで二人分も鞄があんのん・・・?」
和葉の視線が平次の鞄に突き刺さる。
「今日部活は?・・・あんた、剣道部あるんやろ?」
「・・・そないな事言うたかて、倒れた奴を一人で帰らせるわけにはいかへんやろ・・・家まで送ってってやるて言うてんねん・・・」
「・・・・・・・・・ええよ、別に一人で帰れるから・・・・・・もう十分休んだし・・・」
「心配すな!和葉をこないな状態で一人で帰らせたら、剣道部の連中もうるそォてかなわんのや!!」
「は?なんやのん、それ・・・?」
「なんや、知らへんかったんか・・・お前剣道部の連中に結構気に入られてんねや!」
「・・・・・・平次にそういう事・・・嬉しそうに言われとない・・・・・・・・・・・」
ぽつりと呟いた和葉の言葉は、幸いなのか、そうではないのか、平次の耳には届かなかったらしい。

こういう、デリカシーのかけらもない言葉を聞かされるたび、和葉は平次を好きな理由を見失いそうになる―・・・。

「なあ・・・お前なんか悩んどるんとちゃうのか?」
「は・・・・?」
「寝不足の理由や!お前に限って睡眠障害なんてデリケートなもんはありえんやろし・・・」
「デリケートやのーて悪かったなァ・・・別になんでもあらへん・・・考え事しとって遅なってしもたのが、ここんとこ続いとっただけなん・・・」
「・・・せやから、それを悩み事って言うんとちゃうんか!?言うてみ?悩みなんてもんはなぁ、人に話して軽くなる事もあるんや!」

和葉は、平次の顔をじっと見つめた―・・・。

言えというのか・・・その睡眠不足の理由を、よりにもよって平次本人に・・・・・・・・・・・・。

和葉は大きく溜息を吐いた。

「・・・・・・・・・・・なんや?」
「なんでもあらへんよ・・・・・・」
「ホンマか?」
「ウソ言うてどないすんのん・・・・・・」
「それもそやな・・・・・・・・・」

平次にしてはやけにあっさりと引き下がってくれた・・・。

和葉は、安堵の溜息を吐いた。
まっすぐに射抜くような目で見られると、自分の気持ちも何もかも見透かされているような感覚に囚われてしまうのだ。

実際はかなり自分の周りの事には疎いのだが・・・。

そこが平次の良い所でもあり、悪い所でもあった。

きっと睡眠不足の本当の理由を聞いたら、平次は怒るやろな・・・アタシかて、別に平次を心配させるつもりも倒れるつもりもあらへんかったんやけど・・・。

怒りの形相の平次を想像して、その剣幕に思わず溜息を吐いた。

きっと、喜んではくれへん・・・よねえ・・・・・・・・少なくとも、いつものあの笑顔でもない事は間違いあらへんな・・・

この計画・・・失敗やったかな・・・・・・・

和葉は少し後悔し始めていた。

その後、平次に沈んだ気持ちを悟られないようにいつもの自分を演じながら、和葉は家へと帰った。


何回目かのコール音の後でやっと電話が通じた。
「はい、もしもし毛利探偵事務所です!」
子どもの演技も、最近では演技だと思えない程に上手くなっとるな・・・
ふとそんな事を考えつつ、平次は電話口のコナンに話しかけた。
「あんだ、服部・・・おめーかよ・・・」
嫌々といった声のコナンに、話を切り出す―・・・。
「なあ、・・・・・・なんや、和葉がいつもと違うんや・・・落ち込んでるっちゅうか・・・様子がおかしいねん」

事情を一部始終聞いたコナンは、呆れて何も言えなかった。

「・・・な?おかしいやろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あのなぁ・・・・・・・・それで分かんねーのはおめーぐれーだよっ!!!」
「お!!?分かったんか!やっぱ工藤やな!!」
電話の向こうでコナンが深い溜息を吐いているのが聞こえた。
「?」
「・・・今からだと・・・そうだな、2ヶ月後辺りじゃねーかな?・・・それまでには謎も解けるだろーから、これ以上詮索しないでそっとしといてやれよ?」
「なんや、それ・・・分かってんねやったら教えてくれてもええやないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バーロ!おれが話していいよーな話じゃねーんだよ!!・・・大体おめーも少しは察してやれよな・・・・・・・・・」
それだけ言い終わるとコナンは一方的に電話を切ってしまった。

「なんなんや、一体???」
平次も仕方なく受話器を置いた。

「・・・・・・・・服部君何だって?」
食事の支度をしながら、蘭がひょっこりと顔を出す。
「・・・新一にーちゃんはって・・・そういえば、蘭ねーちゃん今編み物してるよね?・・・もしかして新一にーちゃんに何か編んでるの?」
「ん?・・・あげないわよー、大バカ推理の介になんか・・・」
その割には鼻歌なんて歌いながら玉ねぎを刻んでいる。
一旦真っ二つに切った後、冷蔵庫にしばらく入れてあるので、目にはしみないのだが、それでも笑顔で鼻歌歌いながら切るのは少し違和感がある。

「ねえ、もしかして和葉ねーちゃん、編み物してるんじゃない?」
「え、やだ!服部君にバレちゃってるの!?・・・内緒にしておいて驚かすんだって張り切ってたのに!」
「や・・・心配しなくても、平次にーちゃんにはわかんないと思うよ?」

苦笑するコナンに、蘭はぽつりぽつりと話し始めた。

「和葉ちゃんとこないだ電話で話しててね、編んでみたくなっただけなの。・・・ほら、自分が一生懸命作った物を喜んでもらえた時って嬉しいでしょ?それに・・・・・・・そういう時の笑顔が見てみたいって言ってた和葉ちゃんの気持ち、私にも分かるもん。」
頬を少し赤く染めてそう話す蘭に、コナンはふっと微笑んだ。
「でも貰う人も、くれた人がそれだけ自分を大切に想っててくれるんだって気持ちがそれ以上に嬉しいんだよね!・・・それが大切な人なら尚更・・・!」
「ね!・・・・・・・・服部君喜んでくれるといいわね!私も頑張らなくちゃ!」
いつか、面と向かってその笑顔を見せたい・・・その笑顔が見たい・・・

コナンの笑顔に自然に優しさが満ちていた。


一方、受話器の向こうの平次は、あれから電話の前で頭を捻って考え込んでいた。
「・・・そっとしとけ言うとったな・・・なんでや??」

2ヶ月後??
平次はふっと壁にかけてあるカレンダーを見た。

12月・・・?12月になんがあるんや??
1月やったら『えべっさん』やけど・・・・・・・・・・・・・あいつんち別に商売しとらんしなぁ・・・?

2ヶ月でオンナゴコロの謎を解くのは少し難しそうだった。

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主役は誰だ?みたいになってますが(^^;)
最初に書きかけたのとは全然別物になってます(^^;)いえ、あんまり和葉ちゃんがらしくないかなと思って書き直したんですけど、まだらしくないか・・・出直してきます〜(−−;)