名探偵KAITO(番外編)第3幕

「ショーの始まりって・・・・・・」

「桂が犯人だって事だろ!?」
飛田も馬場も、うろたえていた。


「いいえ・・・ラストシーンは始まったばかりですよ?・・・この事件の真犯人を挙げるシーンです。」

快斗はにこやかにそう言った。

「・・・・・・・・・・・どういう事だ?」
「つまり、あなた方のどちらかがこの事件の真犯人だと言っているんです。」

快斗の背後のふすまがすらっと開いた。
「け・・・刑事さん!!?」

「そう、特別キャストの横溝刑事です・・・。彼には僕がお願いして来ていただきました。」
「・・・・・・・・友情出演ですがね・・・」
横溝も快斗に合わせて、慣れない軽口を叩いた。

「・・・・・・・さて、それでは、駒沢さんの手のなかの駒・・・ダイイングメッセージの事からお話しましょうか?」

快斗は今日、宿の主人が隣の家から借りてきたという将棋の駒を、机の上に広げ、桂馬をその中から選び出した。

「・・・これが彼のダイイングメッセージです。これであなた達全員を指し示す事が出来るんですよ、ご存知でした?」
「・・・・・・・・全員って・・・・」
「・・・『誰を指しているかまで特定できない』と言いたいんでしょう?・・・」

快斗の余裕の笑みに、二人は顔を見合わせた。

「・・・出来るんですか?」
横溝も不思議そうに口を挟む。

「そう、このままではこの駒は3人の内誰を指してるかは分かりません。でも、そこに被害者の意図が加わったら?」
「あ!それで証拠の駒を持ってきてくれと・・・」
嬉しそうに横溝は懐から例の駒を取り出した。

「・・・・・・・・・これがどうかしたのかよ?言っておくけど、血で文字を汚して示した所で桂を指したのか馬場を指したのかなんて、どっちだかわからねーぞ?」
飛田の言葉を遮って、快斗は続ける―・・・。

「ああ、この血液はそういう意味ではありませんよ。・・・・・・・・・・・あの駒沢さんの死体の手の形、それからこの駒に付着した血液の跡から推理するとですね、こういう形で彼は駒を握った事になるんですね。」

快斗は将棋で駒を指すように、主人が用意した駒を握ってみせた。

「桂馬飛びってご存知ですか?・・・将棋の中で桂馬は随分特徴のある飛び方をするんですよね。左右どちらかに1コマ動いて、そこから更に前へ2コマ進む・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・?」
「分かりません?・・・将棋を指している様子を見せたかったんですよ、彼は・・・つまり、犯人は・・・・・・・・・」

快斗は犯人の前に、将棋をパチンと指した。


将棋を見下ろしながら、彼の膝はぶるぶると震えている・・・。



「・・・・・あなたですね?・・・・・・・・・・飛田さん!」


「な・・・飛田が!?」
馬場が意外そうに大声を出した。

「彼は、部屋割りを将棋の板に例えたんですよ。」
「でっ、でも・・・・・どうして・・・・・?だって、おれを例えるなら、飛車を使った方が確実じゃないか!?」
「彼は使いたかったけれど使えなかったんですよ・・・あなたがすぐに気付いて「飛車」を彼の指の間から抜き取ってしまいましたから。地面に残っていた跡で、何かを抜き取ったのは分かりました。それがちょうど将棋の駒程度の物だという事も・・・殺害した時は暗くて地面に跡がついたなんて、そこまで分からなかったんでしょう?」

「・・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・」

「それで駒沢さんが咄嗟に思い付いたのが部屋割りに例えて、この桂馬を使う事・・・。これだけでは正確に伝えられないと踏んだ彼は、自分の右手で将棋を指している真似をした。・・・わざわざ自分の指の跡がきちんと残るように血液を指の形に付着させてね。・・・そしてあなたはそれに気付かなかったのか、あるいはこれを見て、容疑を自分以外の人間にそらせる・・・そう思ってそのままにしておいたのでしょう?駒沢さんの本当の意図に気付かずに・・・」

飛田の表情からは既に血の気が失せていた。
「必死に探しましたよ・・・。将棋の駒のセット・・・。どこにあったと思います?」

余裕の快斗の表情に、飛田は枯れかけた声で尋ねる。
「・・・・・・・食事をしてた部屋の、茶だんすの中でした・・・。でもこの中に、二つ駒が足りないんです。桂馬と飛車の一つずつ・・・。昼間・・・いえ、正確には夕方日が落ちる頃まで、この将棋はおれと小説家のおじさんが二人で使っていました。その時にはきちんと揃ってましたよ?ですから、この駒が無くなったのはそれから後という事になりますよね。小説家のおじさんが駒を戻してから、おじさんが起きるまでの間に誰かが持ち出したんです。・・・おそらく、駒沢さんでしょう・・・。二つ駒が無い事に気付かれると、その種類からあなた方にもダイイングメッセージを気付かれるかもしれないと怖れたんでしょう。箱ごと隠してしまえば、そこまで気付く人はまずいませんからね。何も無かったのなら、帰るまでに返しておけば済む事ですし。・・・で、あなたはそれを殺害後に必死になって探していたのに、見つけられなかった・・・。飛車を元に戻す必要があったからですよね?」

快斗はそう話しつつ、彼の顔を見た。


凍り付いた・・・・・・そんな言葉がぴったり来るような表情である。

「・・・・・・・・・証拠が・・・・あるのか・・・・・・?」

馬場が怒りを露わにして口を挟む。


「・・・・・・・・・・あなたの・・・ズボンの右ポケットの中に・・・。なくなったままの飛車の駒が・・・。」
「・・・ないって、おめーが犯人じゃないって、証明してやれ、飛田!!」


馬場の声が、虚しく飛田を貫いていた。
「飛田!!」


飛田は、重い口をやっと開いた・・・・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・それは・・・出来ないよ・・・・・・・」

飛田はポケットから突っ込んだ手を出した・・・・・。


コトン・・・と渇いた音を立てて、駒が畳の上に転がった。


「・・・・・・・・・・・・・!!」

馬場は言葉を失った。

茶色く変色した血液がほんの少し、彫られた文字の溝に・・・木の溝に入り、駒を染めていた。


「・・・・・・・・・・・いつから・・・・・・・・疑ってた?」

「青子とおれの言葉が聞こえてたと言った時からですよ。」
「・・えっ?」
「・・・貴方こう言ってましたよね、すぐ隣の部屋だから君の声はよく聞こえたと・・・。あの時、おれと青子は部屋を入れ替わってたんです。だから、すぐ隣の部屋だからという貴方の言葉はおかしいんですよ。・・・つまり、貴方は知らなかったんじゃないかと・・・部屋にいて本を読んでいたのなら、当然会話の内容から、おれ達が部屋を入れ替わった事は知っているはずなのに・・・そう思ったのが最初です。」
「ああ・・・そうだよ・・・知らなかったさ・・・。ホントは、馬場・・・お前に容疑がかかるように仕向けてやりたかったのさ・・・。」

自嘲気味に笑いながら、飛田は馬場を見た。

「・・・・・・・・・真咲を自殺に追い込んだのはお前らだって知ってるんだぜ?」

馬場の視線が下に落ちた・・・。

「・・・お前らがおれ達の2年前の悪事を真咲に事細かに話したって事は、本人からの手紙で知ってるよ。おれが首謀者だと嘘をついた事も・・・それから、最近お前らがした悪事を実際には仲間にも加わらなかったおれのせいにして話した事もな・・・。仲間から抜けたおれの事を、駒沢が良く思ってない事も気付いてた・・・。」
「・・・・・・」

馬場の表情からは、明らかに血の気が失せていた。
「あいつから、最後にその内容の手紙を貰ったんだ・・・。『あなたの事を信じられなくなった・・・誰も信じられなくなった』ってな・・・。部屋からお前らの作った合成写真を・・・お前らが証拠だと真咲に見せた写真がくしゃくしゃになって見つかったよ・・・。真咲から言い出して、とっくに別れてた事にして、お前に罪を被せてあいつを殺してやりたかったんだ・・・。桂には悪い事をしたと思ってる・・・。」

そう言いながら、飛田は横溝に両手を差し出した。


「・・・・・・・・・・・・・・認めるんですね?」
「・・・・ええ・・・・・・・・」


若い刑事が、手錠を構えて飛田に近づくのを、横溝がそっと制した。

「先に行っていてくれたまえ・・・」
横溝がそう言うと、刑事は飛田を連行して、車に乗車させていった。
「ありがとう・・・あなたのおかげです!」

そう言う横溝刑事に、快斗は少し悲し気に微笑み返す。

「・・・どうかな、快斗君・・・刑事になりませんか?山荘での事件といい、今回といい・・・向いてると思うんですが・・・」
「・・・・・・僕にそう言った人は二人目ですよ・・・でも残念ながら、性に合いませんから・・・。」

きっぱりと断られ、横溝は苦笑しながら去って行った・・・。



帰り支度が整って、快斗は青子より先に浜辺へ出ていた。

帰りは快斗の活躍を聞いた民宿の主人が、駅の近くの港まで船で送ってくれるというのだ。
行きに大変な思いをして、海でも遊びそびれた二人が、これを断るわけはなかった。


浜で青子と主人を待っている快斗に、見送りに来た小説家が声をかけた。
「で、どうして君は・・・彼のポケットに何か入ってると気付いたんだい?」

小説家の・・・半ば晴れ晴れとしたような表情に、快斗は躊躇いながら話した。

「それは・・・彼が車のキーを取り出す時、一瞬躊躇って、その後左手でズボンの上から中身を確認するように・・・選別して、右手でキーを取り出したのを見たから・・・。上手くカモフラージュしてたけど、マジシャンの前では赤ん坊のようなもんさ。・・・・・・それで、あ、あそこには人に見られちゃまずい物があるんだと思ったんだよ。・・・人間、自分の立場を危うくするような物はなかなか捨てられねーからな・・・。誰かに拾われたらアウトだもん・・・」
「・・・・・・たったそれだけで?」
「いいや?・・・探偵が本職じゃねーからな・・・。ちゃんと『らしい』確認方法はさせてもらったよ?・・・例えば、悩み事の相談を持ち掛けて、その隙に・・・ね!」

快斗はふっと笑いかけた。小説家も、にっこりと微笑んでいる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・君は・・・・・・・」


小説家の声が、押し寄せる波の音に静かに溶け込んでいく。



「・・・・・・・・・・探偵になる気はないのかい・・・・・・・・・・・・・・・・?」


快斗は、静かに微笑んだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねーな・・・・・・・少なくとも、今のおれには・・・考えられねー選択肢の一つだ・・・」

小説家が、快斗の瞳をじっと見据える・・・。

「・・・いずれ、私の息子が君に会う事になるだろう・・・・・・・・・・・・もっとも、息子が私に話していないだけで、もう会っているかもしれないがね・・・!」
「え・・・・・・?」
「自己紹介がまだ・・・だったね?・・・私の名前は工藤優作・・・三文小説家さ。」


一瞬、間が空いた・・・。


「・・・じゃ・・・息子って・・・高校生探偵の工藤新一!?」


にっこりと返す微笑みの中に、優作の答があった。

「安心したまえ・・・君達の勝負に口出しも手出しもするつもりは全く無いから・・・。」

快斗の口からは言葉が出てこなかった。

「・・・この会話は、潮風が洗い流してくれる―・・・。君がもし、怪盗KIDならそう言うかな?・・・私も楽しみにしてるんだよ・・・君達の勝敗の行方を・・・」

「・・・どうしておれが・・・KIDだと・・・?」
「簡単な事さ。・・・私は君のお父さん・・・黒羽盗一も知っているんだ。なにしろ、KIDの名付け親は私だからね!・・・それから、私の作品・・・闇の男爵のモデルも彼だ・・・」
「え!?」

遠く青子の姿が見えた。

「・・・彼とは数奇な運命の下に出会ったようでね・・・。君達もそれ以上にだね、きっと・・・健闘を祈ってるよ、快斗君!」
「それってどういう・・・」

快斗の言葉を、優作が遮った。

「・・・・・・・さあ、ここまでだ。君の一番大切な人が、すぐそこまで来てるよ・・・」
「快斗ぉ〜!!ごめんね〜、遅くなって〜〜!!!」

息を切らして、青子が走り寄ってきた。快斗は、呆れたといった表情をして、視線を青子に移した・・・。



白い漁船の舳先に、青子は乗り出すようにして前を見ていた。
「ね、ね、快斗っ、タイタニックのシーンみたいだねっ!」
「・・・縁起でもねー・・・沈んじまったらどうすんだよ・・・それよか先に落ちるぞ、絶対!!」

呆れ返る快斗に、青子が無邪気に微笑みかける。

「快斗が助けてくれるんでしょ?」
「・・・はあ!!!???・・・熱でもあんじゃねーか、おめー・・・?」
「・・・言ってたじゃない!!」
「言ってねーよ、そんな事っ!!」
「男なら自分の言葉に責任持ちなさいよっ!!」


小さな白い漁船の上で、いつものありふれたじゃれあっこが始まった。


後書きと書いて「こうかい(後悔)」と読む!!(笑)

だあああ!!もおむちゃくちゃでんがな!!(−−;)
推理小説家はやっぱすごいや・・・
青山先生はやっぱし神様ね♪(@▼@///)
くぬぎは青山先生にどこまでもついて行くわ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!(あとがきじゃなかったのか?(^^;))

こんなものを読んで下さった皆様、ご迷惑をおかけしました(−−;)