名探偵KAITO(番外編)第2幕

「・・・・・・・・・・ん・・・・・・・」


快斗が寝返りを打つと、どすんという音と軽い衝撃が体を走った。

「・・・・・・・・・・・・・・?」

どうやらふすまに足が直撃したらしい。


「・・・・なんでふすまなんか・・・・・・・・?」
視線が徐々に上に移動して行く・・・

「・・・・・!!!!!」


・・・・あっああっ・・・青子!?

心臓が口から飛び出るというのはこういう事なのだろうかと思えるほど、快斗は驚いていた。

すぐに昨夜の事を思い出したのだが、青子の無防備な寝顔を覗いていたら、今度は別の意味で心臓が早鐘を打ち始めた。


「・・・・ん・・・快斗・・・・・・・」
寝言で自分の名を呼ばれ、快斗は一人焦ってしまった。

「・・・・・・・アユ・・の・・塩焼・・・・・・き・・・・・・・・・・アジの・・・開き・・・・・・・・・食べて・・・み・・・て・・・」

「・・・・・・なんの夢見てるんだよ、なんの!!!」

苦笑しつつ、快斗はそっと青子の手を離して身支度を整えた。


まあ、その方が青子らしいっちゃらしいけどな・・・。

トントンと、ふすまをノックする音が聞こえた。
快斗の元いた部屋の方・・・つまり、今青子が寝ている部屋の方だ。

「あ、こっちです!」

快斗が慌てて廊下に面したふすまを開ける。
そこにいたのは昨日の小説家だった。

「・・・あれっ、宿の主人に聞いたらこっちの部屋だって言ってたから・・・。」

「あ・・・・・・ちょっと・・・・・・ワケありで・・・・・」


それを説明するにも、すぐ隣の彼らに聞こえてしまうかもしれない・・・。
快斗が躊躇っていると、小説家の方が先に用件を話し始めた。

「・・・・・・・・え?将棋板ですか・・・?」

「そう、君と手合わせしようと思ったんだけど、いつもの所に置いてなかったから、君が持っていったのかと思って・・・」
「いえ、おれは・・・・・・・・・・・隣の大学生達じゃないですか?」
「・・・・・・・・・折角久しぶりに相手が見つかったのになぁ・・・」
「あ、小説・・・書けました?」
「・・・・・はは、2本ね・・・。あと3本残ってる・・・」
「大変ですね」
「ああ、宿の主人に離れの部屋にしてもらったおかげで夜中でも誰にも迷惑かけずに専念できるんだ。・・・トイレはちょっと不便だけどね」

苦笑する快斗に、小説家も笑って返した。

「さて、そろそろ朝食の時間だ・・・。君も来るだろう?」
「ええ・・・連れを起こしてから行きます」
「・・・・・・・・・・昨夜は楽しかったかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」
「花火の後の散歩だよ。波打ち際を彼女と二人で歩いていただろう?」
「・・・あっ・・・」
「ここの裏路地に入った所にね、一風変わった所があるんだ。・・・今夜二人で行ってみるといい。」
にこっと微笑んで立ち去る小説家を、快斗は赤くなりつつ見送った。



食事の時間を過ぎても、駒沢の姿はそこには無かった・・・。

大学生達も、それぞれ部屋が別々なので、声を掛け合いはしてきたものの、部屋にも駒沢はいなかったと言うのである。
「・・・どうしたんだろーね、駒沢さん・・・」
青子も心配そうにしているというのに、他の馬場や飛田たちは平然と食事をしている。

彼らに言わせると、駒沢のマイペースは今に始まった事ではないのだそうだ。

「いつだったか、ほら・・・前に海に行った時も、朝まで散歩してたしな、あいつ・・・」
「そん時も必死に探しまわったけどよ、ばかみてーにへらへら笑いながら戻って来たしな・・・。探すだけ無駄だよ」

おいおい、友達じゃねーのかよ・・・
彼らの言葉に、快斗は内心呆れ返っていた。

「・・・でも食事の時間になっても戻ってこないのは・・・おれ探してくるよ・・・」
桂がすっと立ち上がって、部屋を後にした。
「・・・・・・・・・?」

快斗は妙な違和感を感じていた。


「快斗ぉ、海行こっ!!」
青子は白の水着を着て、快斗を誘いに来た。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「どう?似合う?」
「・・・おめーちょっと胸が大きくなったんじゃねーか?良かったな!ちゃんと成長してて!」
「って、どこ見てんのよっ、快斗のえっち!!!」

いつもなら、ここでどたばたとじゃれあっこが始まるのだが・・・

「・・・・・・そーゆー目で見られたくねーんだったら、ちゃんとその上にこれ羽織ってろ!」

そう言って快斗が投げてよこしたのは、白いパーカーだった。

「おれはやだからな!!・・・おめーが他の男にそーゆー目で見られんの!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・快斗・・・・・・・・?」
「おれも着替えるから待ってな!」

ぴしゃんとふすまを閉められて、青子は戸惑ってしまった。

「・・・も〜・・・なんなの・・・?」
快斗の貸してくれたパーカーに、そっと袖を通す・・・。
パーカーは、ほんの少し、快斗の匂いがした・・・。



「無人島?」

「そ!・・・宿の主人が漁船で連れてってくれるってさ!・・・無人島っつっても観光客がいっぱいいるらしいけどな!」
快斗の案内で、青子は細く曲がりくねった道を歩いていく。

「行く!おもしろそう!!」

足取りも軽く、二人は船の置いてある港の方へと向かった。

「・・・・・・・・・・あ!」

何かを見つけたらしい。
青子は一瞬立ち止まって、民家の軒下に駆けて行った。

「・・・?どうした?」
「スズメ・・・・・・が・・・」

青子の手には、小さなスズメの雛がいた。

「・・・・・・・・あの巣から落ちたんだな」
すぐ上にある軒下の巣を見上げると、快斗はそう言った。

「・・・・・・・・・・・・・・快斗ぉ・・・・・」

「・・・・・・・・わあったよ・・・!」
快斗はその脇に立てかけてあった脚立に登ると、青子から雛を受け取り、そっと巣に戻してやった。
最初は警戒していた親鳥も、巣に戻った雛を見て、電線の上から静かに見守っている。

「ありがとー、快斗!」

スズメに代ってお礼を言う青子に苦笑しつつ、脚立の上から周りを見回した。


ん・・・?

「ソテツ・・・?」

「え?何?」
「向こうになんか天然記念物があるらしいぞ?」
「えっ!?」

快斗の視線の先には、古びた看板が立てかけてあった。

「・・・・・・・・・・・・ちょっと行ってみるか!」
「うんっ!」

脚立を元に戻すと、快斗は青子の手を取って駆け出した―・・・。



小さな路地を入ると、それは裏の山へと続いていた。
うっそうとした雰囲気はあまり気持ちの良い物ではないが、青子が震えながらも自分を頼ってくれるのは気分が良かった。

「快斗ぉ・・・」
「情けねー声出すんじゃねーって!・・・ほら、もうすぐそこみたいだぜ?」

先に坂を登り切ってその光景を目の当たりにしたのは快斗だった。

「着いた?」

顔を覗かせようとする青子を、そっと制する。


「見るな!!」


「えっ?」



そこに転がっていたのは、変わり果てた駒沢の姿だった・・・。



青子を駒沢の姿が見えないくらいの所まで戻らせ、快斗は駒沢の周りの様子を見た。

うつ伏せになった駒沢の頭部から、血が流れている。
死因は頭部の打撲による出血のようだった。

この様子だと数分間は苦しんだはずである。

「・・・ねえ、快斗ぉ・・・もうじき警察が来るからそのままにしておかないと・・・」

青子の言葉も耳に届かないかの様に、快斗は駒沢の手元を見た。
寿司を握るようなその格好は、苦しんだにしては妙な格好だった。・・・ふと見ると、右手の指先に何かが見え隠れしている。

「・・・・・・・・なんだ?」

快斗は這うようにして、指の隙間からそれを見た。


「・・・・・・・・・・将棋の・・・・・・駒?」

詳しく見ようと覗き込む快斗に、背後から声をかけた男がいた。


「・・・・一体何をしてるんだね、君は!!!」

その声に、快斗も驚いて振り向いた。


「・・・・・・・・・・・・ああっ!!?快斗君!!???」
「横溝刑事!!!」
「えっ、じゃ・・・死体の第一発見者って・・・・・・・・・・・!」

「知り合い?快斗・・・」

二人の驚愕に水をさすように青子がきょとんと尋ねる。


「ら・・・蘭さん!?」
「違いますよ!!!し―――っ!!!」

青ざめた快斗が横溝の口を必死に押えた。
「蘭さんって誰?」
「そ・・・そおんな事より、今は事件事件!!!」

慌てて快斗は横溝の背中を押して、現場に向かった。

「・・・・・・・ねえ、横溝刑事、この人の指に隠れてるモノ、見せていただきたいんですけど・・・」
「え?・・・あ、ホントだ・・・何か握ってるな・・・鑑識さん、写真撮って下さい!」

鑑識が一通り写真を撮り終えると、横溝は快斗に袋に入れた駒を見せた。

「・・・将棋の駒・・・これは『桂馬』だね・・・それに血液がべったり・・・被害者の血液と見て間違いなさそうだ。」
「・・・・・・・・・ダイイングメッセージってやつですかね?」

一緒にいた若い警官も頷きながら覗き込む。

「・・・桂馬・・・桂さんも馬場さんも相当するなあ・・・。」
快斗の呟いた一言に、横溝はすかさず死体の身元を知っているのかと尋ねた。
「ええ、一緒の民宿に泊まっている人です。この人の友達も一緒に・・・」
「すぐ呼んできてくれ!!」
横溝の声に、若い警官がさっと行動を起こした。

3人が連れられてきたのはそれから少ししてからだった。
浜で泳いでいた飛田と馬場はすぐに見つかったものの、桂は駒沢を探してあちこちふらふらしていたのだから、時間がかかったのも無理はなかった。

「・・・・・・・・駒沢・・・・・!」

変わり果てた友人の姿に、3人は驚きの余り言葉を失ったかのように、そこに立ち尽くしていた。

「・・・・・・・・・・・・誰が・・・・・こんな・・・・・・・」

最初に口を開いたのは桂だった。真っ青になっている桂に、馬場が食って掛かる。

「・・・・・・・おめーじゃねーのかぁ・・・・・?」

「馬場、やめろよ!!!」

「・・・・・・・・・・」

桂の言葉が途切れた。

「駒沢を探すフリして殺したんだろ!!!」


胸座を掴まれて、桂はキッと馬場を睨み付けた。桂のそんな表情は見た事が無かったのだろう、馬場はうろたえながら手を放した。

「・・・よせって・・・」

飛田の言葉に、馬場の苛立ちは矛先を変えた。
「へっ、いいこちゃんぶるなよ!!・・・おめーだって動機はあんだろ!?・・・あいつのせいで・・・あ・・・!」

馬場は、言ってはいけない事を口にしてしまったといった様子で、一気に青ざめていた。

「・・・・・真咲の事か?・・・・・・・あんな女の事なんかどうだっていいんだ!!あいつからわけのわからない事を言い出して別れたんだしな!あんな勝手な女・・・それより、お前だって駒沢に内定潰されて怒ってたじゃないか!!」
「なっ・・・!!!!!」
「お前なんかが一番に内定取るなんて許せない、ヤバイ手を使ってでも潰してやる、そう言ってたんだぜ、あいつは!!!」
「まあまあまあ・・・」
「・・・・・・・・・・死亡推定時刻は昨夜12時半から2時にかけてです・・・。その頃あなた方は何をされてましたか?」

横溝の質問に、馬場は不機嫌そうに青子と快斗の二人をちらっと見てから答えた。

「・・・・・・・寝てたよ!」

馬場を制するかのように、飛田が口を開いた。

「おれは寝付けなくて・・・部屋で本を読んでました・・・。」
「それを証明できる人は?」
「残念ながら・・・あ、でも、隣の声は聞こえてました・・・。時計を見たら・・・12時半過ぎくらいでしたけど・・・」
「隣・・・・・・って・・・?」

快斗が慌てて口を挟んだ。

「ああ・・・聞くつもりはなかったんだけど・・・小さな声だったし、隣だからやっとって位しか聞こえなかったから安心して?」
「・・・あ・・・いえ・・・別に・・・」

赤くなりながら、快斗は昨夜の自分の言葉を反芻してみた・・・


まあ、特に聞かれてまずいような事は話してない・・・・・・
快斗はホッと胸を撫で下ろすと、青子の表情を見た。きょとんとしている青子の様子から、青子自身は聞いていなかった事を知った。
「最後におれですね・・・・・・アリバイになるようなものはありません・・・・・・。その時刻は寝てましたから・・・」
「そうですか・・・」

その桂の表情から嘘を読み取ると、横溝は今度は全員の関係について尋ねた。

「大学のダイビングクラブのメンバーですよ・・・特にダイビングが好きってわけでもないけど・・・悪友仲間って所ですかね」
「桂は好きだよなぁ・・・なんせ素潜りでいける奴だから・・・」
「・・・・・・・・・・海で育ったからだよ・・・。小さい頃はよく地元で潜ってたしな。」


あ、まただ・・・

快斗は桂の表情を見てそう思っていた。


時々ズレるのだ。
人懐っこい笑顔で、明るい青年と、暗い影を落とすその表情が・・・。


この人、なんかあるな・・・


直感で感じた快斗の思いと、横溝刑事の考えが重なった。
横溝が小声で、若い警官に指示を出すのを、快斗は見逃さなかった。



そう、一番怪しいのはあの人・・・・・・・・



でも何かが引っかかるのだ。


思考の中を模索して、快斗は駒沢の死体に歩み寄った。

あの人達全員にはアリバイが無い・・・・・・・
あの人の言葉の裏側には何かがある・・・・・・・・・
そして、あのダイイングメッセージは桂と馬場のどちらを指したものなのだろう・・・・・・・・・・


小説家に意見を尋ねてみたら・・・

そう思いついて、快斗は顔を上げた。



「ん・・・?」
青子に飛田が何やら耳打ちしている。青子の頬が真っ赤に染まっていくのが少し離れた快斗にも分かった。
「あ・・・青子・・・どうした?」

声をかける快斗に、にっとイタズラっぽく笑って飛田が青子から離れて行った。

「・・・・・・えっ、何っ快斗!!?」
青子が快斗の言葉に過剰に反応する・・・。
「・・・・・・・・?・・・・・・・・なんだよ?何話してたんだ?」
「なっ、なんでもないわよっ!!!」

青子の反応はどう見てもなんでもないものではないのだが・・・。

「どーせ、あの美形の飛田ってにーちゃんに何かお世辞でも言われたんだろ・・・」
「ちっ違うわよっ!!」

青子がムキになって反論する。

「快斗が昨夜青子に・・・・・」
「おれが昨夜おめーに?」
「・・・・・・・・・・何があってもおめーの事だけは守ってやるから・・・っていうのはちゃんと聞こえてたって・・・」
「え?」
「そんな風に思われてるなんて、いいよねって言ってくれたの・・・」
「おめー・・・あいつにそれ何か言ったか?・・・寝てたから聞いてなかったとか」
「えっ?・・・言ってないよ?」
「そか・・・」

再び考え込んだ快斗に、青子は少し苛立ちながらも一緒に考えをまとめ始めた。


「あの刑事さんが言ってたよ。・・・駒沢さんはここで誰かと待ちあわせていて殴られたんだろうって・・・。駒沢さんの部屋に置いてあったバッグから脅迫じみた手紙が出てきたんだって。」
「おそらく犯人からだろうな・・・。手紙で呼び出した駒沢さんを宿を抜け出して殺害、部屋に戻る・・・いや違うな・・・それにしては・・・」
「なにか変?」
「大体どうして彼は将棋の駒なんか持ってたんだ?」

そう、屋外でこんな暗い明かりも無い所で将棋なんて指せるわけがない。

「それは・・・犯人が持たせたんじゃないかしら・・・?」
「犯人が・・・・・・・・あ、待てよ?」

快斗は横溝刑事に声をかけた。

「・・・・・・・・・・指紋?」
「そうです。その駒に着いてる指紋を調べて欲しいんです・・・。被害者の他に誰かの指紋が残っているかどうか・・・」

鑑識を呼んで、横溝は早速指紋を調べ始めた。

「・・・被害者の他に・・・・・・・ああ、3人ほど触れてますね・・・・。しかし、なんだこりゃ・・・血でべったりと汚れてて調べづらいですなあ」
鑑識の言葉と改めて見た将棋の駒に、快斗は確信を得た。
「・・・って事はこれは被害者本人が持ってきた物ですね。犯人が自分の指紋を消さないはずはないし、拭き取ったとしたら、残った指紋は被害者のものだけでしょうから・・・。」
「ってどういう事?」
「・・・・・・被害者はおそらく自分を脅迫してきた人間を、もしもの時の為に指し示せるように持参したんだよ。」
「・・・脅迫してきた相手が分かってるのにわざわざ来たの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・それもそうか・・・・・・・・・」

完全に行き先を見失っていた。


こういう時、工藤ならどうするかな・・・


そんな事まで浮かんできた。



・・・・・・・・・・・・いや、おれはおれだ・・・あいつじゃねー・・・・・・・・

快斗はいきなり駆け出した。


「あ・・・快斗君?」
民宿に向かう道すがら、一旦出た浜にいたのは、飛田だった。
「・・・どうしたんすか、こんな所で・・・」
「いや、車の中に買い置きの煙草を忘れてたみたいでね・・・、今から取りに行こうかと思って・・・」

にっこりと微笑み、ズボンの右ポケットからゆっくりとキーを取り出す・・・。

・・・・・・・・・・・・・・あれっ?・・・・・・・・・
快斗が感じたのは妙な違和感だった。

「快斗君は煙草とか吸わないの?・・・ああ、吸うわけないよね、高校生だし・・・。おれが言うのもなんだけど、煙草は身体に良くないよ?」
「・・・・ええ・・・・・・ついて行ってもいいですか?」
「え?・・・ああ、もちろん・・・でもどうして?」

理由を聞かれて、快斗は返す言葉に詰まってしまった。

「あ・・・分かった!彼女との事だろ?・・・何か相談かい?おれよりは桂の方が・・・ああ、今は相談なんて出来る状態じゃないか、あいつは・・・」
勝手にそう推測してくれて、助かったという思いに気付かれないように、快斗は悩んでいる自分を演じてみせた。

「・・・・・・実は、おれ・・・」

当の本人が聞いていたらと思うと言えないような言葉が次々と口から溢れ出てくる・・・。

もし自分がKIDと快斗の二つに分類できるのなら、間違いなく今は怪盗KIDの方だなと思えるほどだった。
そして、そのついでといった感じで、本題の動機や彼らの詳しい関係についても聞いてみた。

宿に着くと、飛田が居間に向かうのを見て、若い刑事に声をかけた。

「彼から目を離さないで下さい・・・勿論、トイレに行く時も、一瞬たりとも!」

若い刑事はきょとんとしながら快斗を見た。

「・・・と横溝刑事からの伝言です。お願いしますね?」

敬礼をして、若い刑事は飛田のいる居間に向かった。



目指すは小説家の所だった。

快斗の煮詰まった推理を聞いていた小説家は、民宿中に響くほどの大声で笑い始めた。

「・・・そんなに笑う事ねーだろ・・・」
「あっはっは・・・いや、ごめんごめん・・・!!!・・・・・いいところは突いてたんだけどねえ・・・!」
「やっぱ笑われたか・・・。・・・・・・おじさんならどう思う?」
「・・・・・・・・どうして私に話す気になったのか教えてくれたらね?」

にこやかな小説家に、快斗は少し戸惑いながら答えた。

「・・・・・・・・・・おれは・・・・・・探偵じゃない・・・・刑事でもない・・・。もしおれの考えが間違ってて・・・罪も無い人が犯罪者呼ばわりされたら・・・これほど怖い事はねーと思うんだ・・・。おれが知ってる奴に、同級生の探偵が二人いるけど、おれにはそっちの方の才能は残念ながら無いんだよ・・・。」

小説家は静かに快斗をまっすぐ見つめた・・・。

「・・・・・うん、君はいい目をしている・・・濁りの無い・・・・・・」
「は?」
「そういう気持ちが一番大切だと思うがね、僕は・・・。ヒントをあげよう・・・君のダイイングメッセージの考えは根本的には間違ってないよ?それから・・・・・・彼女を守ろうというその言葉も、助けになってくれるだろうね。」
「・・・・・・・・・・おじさんは犯人が分かったんだろ?・・・皆の前で謎解きしてくれよ・・・」
「・・・残念だが、私にも専門外なんだ・・・。ショーは君の得意とする分野だろう?・・・それから人の細かい癖まで調べ上げる事も・・・」



快斗ははっと小説家を見た。


この人、おれが怪盗キッドだと知ってる・・・!!?

「その人物や動機をしっかり調べたまえ。生まれから人となり、細かくだ。・・・それで見えてくる。・・・今後のアドバイスをさせてもらうが・・・推理におけるトリックなんてのはね、手品と一緒さ。必ずどこかに人の盲点をついた所があるんだ。それに気付くか気付かないかだけだよ?」

・・・・・・快斗は言葉も出せなかった。


「・・・・・・・・・・・君には素質がある・・・・・・」

小説家の目は澄んでいた。

「・・・・・さあ、行きなさい・・・ショーの始まりだよ?」

躊躇いながら、快斗は部屋を後にした。

彼は快斗の秘密をばらしたりしない・・・不思議とそんな気がしていた。



青子を連れて、快斗は現場に戻って来た。
死体はもう引き払っていてそこには白い線の縁取りだけが残っていた。
「あ、快斗君・・・探してたんだよ、どこに・・・」

横溝が声をかける。
「・・・・・・・・実はね、赤木桂さんに重要参考人として署まで来てもらう事になったんだよ。」
「桂さんが?」
「・・・あの人には動機があったんだ・・・。2年前、高校3年生の夏に、彼の実家の近くにこのクラブのメンバーが泊りがけで遊びに行った事があったらしいんだが、そこで桂さんの幼なじみの女の子が・・・自殺してるんだ。」
「・・・・・・・・それとどういうつながりが?」
「・・・2年前の夏に、その桂さんの生まれ育った所に彼らが滞在してたんだよ・・・・・・夜更けに彼女と仲間の一人が歩いてたのを見たって話もあったんだけど」

青子のきょとんとしている様子に、横溝は言いづらそうに快斗に耳打ちをした。

「どうやら、その事故に駒沢さん達が一枚かんでたらしいんだ・・・。彼らは海でナンパした女性達を・・・・・・・・・・・」

後味が悪そうに、横溝が途切れ途切れの言葉をつなげていく。

「いや、赤木さんの幼なじみはナンパされたわけじゃなさそうだったんだけれど・・・」
「どうして捕まえられなかったんですか!!?」

思わずきつい口調で、快斗は横溝に返していた。

「・・・・・・・・・証拠がなかったんだよ・・・・・・・彼女は自殺してしまっていたし・・・」
「・・・・だからって・・・・だから・・・・・・って!!」


桂が言っていた言葉の意味が、快斗の体に染み渡るように全身に満ちてきた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・もし今度の事件が無かったら・・・・・・・・・・・・・・・・・」

怒りで全身が震え出した。

「・・・・・・・・・・・・快斗・・・・・・・?」
不安そうに覗き込む青子が、そっと快斗の手に触れた。


・・・・・・・・・・・・こいつも桂さんの幼なじみみたいな目に遭う所だったんだ・・・・・・・・・・

今なら分かった・・・全てを理解する事は深すぎて出来ないが、想像するだけで快斗はめまいを覚えていた。

「だから、今度の重要参考人は赤木桂さんだと睨んでるんだ・・・」


横溝は辛そうに呟くと現場を後にした。




快斗が現場を離れたのは、日も落ちかけた頃だった。
青子は鬼気迫る迫力の快斗に何も言わず付き合っていた。

時々、なるほどとか、これかとか呟いては、一心不乱に地面を這いずり回る快斗に、青子はそっと寄り添うように見守っていた。
ぽたぽたと滴り落ちた血痕に、地面にキスでもするのかと思うほど顔を近づけていた快斗が、にっと不敵な笑みを見せて顔を上げた。

「・・・帰るぞ!」

やっとこっちを見たと思ったら、出てきたのはぶっきらぼうなその一言だけだった。・・・それから一言も言葉を出さない快斗に、不安そうな視線を投げかけながら、青子はずんずんと歩き始める快斗の後を必死で追いかけた。


いつもなら、ここで文句の一つも言っているのだが・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・快斗ぉ・・・・・・・・」

やっと口に出せたのは、泣き出したいのを精一杯こらえているのが分かる、呟きほどの快斗を呼ぶ声だけだった。

随分先に行ってしまった快斗は、固い表情のまま青子の元まで戻ってくると、ぶっきらぼうに青子の手を掴んだ。


「ほら、行くぞ!」
「・・・・うん・・・」

青子は涙ぐみながらその手をしっかりと掴んだ。


「・・・・・・・・・・・・・・ねえ、快斗・・・もし青子が同じ目に遭ったら・・・・・・・・・遭ってたら・・・・・・・」

きゅっと立ち止まると、快斗は青子を睨み付けた。

「・・・・・・・・・・それ以上言うなよ・・・・・・・」


今までに見た事もないほど、快斗が怒りに満ちているのが分かる。

「・・・・・・・・・そんな目には遭わせねー!!」
「もし・・・・・・・・そうなったとしても・・・快斗は人殺しなんかしちゃやだよ・・・?」
「殺さねーよ・・・・・・・・・・死んだ方がマシだと思えるほどの地獄に落としてやる・・・・!!!少なくとも、今回の犯人みてーに、誰かに濡れ衣着せて陰で笑ってるなんて事はしねーよ!」
「えっ?」

快斗の意外なセリフに、青子は涙ぐんだままきょとんとしている。


「桂さんは犯人じゃねー・・・ホントの犯人は別にいる!!・・・・・・・・そいつが桂さんに濡れ衣着せようとしてるんだ!」
「えっ・・・・・・・・」
「あのダイイングメッセージの本当の意味が分かったんだ!!・・・・・・動機はまだ分からねーがな!証拠も見つけた!」



水着を着替えて、青子は小説家の所に行った。快斗の提案だった。青子に聞かせるような話でもないし、かといって部屋に一人にしておくのも今は心配だった。

そして、その間に、快斗は彼らの周りを事細かに尋ねた。もちろん、横溝刑事にも協力を仰いで、彼らの周辺の聞き込み調査もお願いした。


「警察が怪盗の手伝いか・・・知ったら驚くだろうな・・・」


だが、これ以上に情報力に溢れた組織はそうはないだろう。使わない手はなかった。
苦笑しつつも、泉のように流れ込んでくる彼らの情報に、快斗は犯人に対しての「疑問」が「確信」へと変化していくのを実感していた。


まもなく、犯人の動機がはっきりしてきた。


「・・・快斗遅いなぁ・・・青子も行くって言ったのに・・・」
「・・・大丈夫だよ。・・・・・・・それに女性に聞かせるような話じゃないしね・・・彼なりに気を遣ったんだろう・・・。それより、何か飲むかい?と言ってもコーヒーしかないんだけど・・・」」

小説家のパソコンの脇には、コーヒーがいつでも飲めるようにとポットやカップが用意してあった。
青子は慣れた手つきでコーヒーをいれると小説家の手元にカップを置いた。

「あ、ああ・・・ありがとう・・・」

手元のパソコンの画面いっぱいに並んだ文字の羅列にを覗き込む・・・。


「何書いてるんですか?」
「・・・・・・・・・推理小説・・・・・・かな?」

文章の中に、見慣れた人物名を見つけて、青子が知っている事を告げると、小説家はふっと微笑んだ。

「・・・・・・・・光栄だなぁ、こんなかわいいお嬢さんに知っていてもらえたとは・・・!」

「えっ・・・じゃやっぱり・・・」
「この三文小説の作者ですよ。・・・・あ、快斗君には内緒にね!・・・自分で言いますから、それまでは『おじさん』で・・・」
「快斗驚きますよ、きっと!!・・・おじさんの作品好きだもん!特にこのシリーズ!!!」
「へえ・・・」

くすくすと笑い合う青子と小説家は、不思議と穏やかな空気の中にいた。


まるで、父と娘だな・・・

小説家は、自分の発想に思わず微笑んでいた。



そして、その二人とは対照的な空気の中に、今快斗はいた・・・。

苛立つ二人を目の前に、快斗は若い刑事から、さっき頼んだ事を尋ねた。
「・・・何かを捨てたりしませんでした?」
「ええ、一瞬も目を離したりしませんでしたが、この部屋でずっと煙草を吸っていただけで・・・あとは携帯で電話を受けてしばらく話し込んでいました。特に何も無い会話でした。」
刑事の言葉に、快斗は極上の笑顔を返し、礼を言った。

「・・・・・・・・・なんだよ、おれ達集めて何する気だ?さっきからちょろちょろとおれ達の周りをうろつきやがって!」
血気盛んな馬場を、飛田が止める。

「推理小説とか・・・推理ドラマ見た事あります?・・・・・・・・・ラストシーンが始まったんですよ。」


快斗の言葉に、二人は息を飲んだ・・・・。



「役者は揃いました。・・・・・・・・・・さあ・・・ショーの始まりです!」


実際にモデルとなった土地があります。ここで大分そこの特色(?)が出ちゃってますねえ(^^;)
でも、そこの天然記念物(ちゃんとこれもモデルがある)は民家の庭先・・・。もちろん殺人現場には使えません♪
無人島もちゃ〜んとありますよ〜♪海もすっご〜く綺麗なんですなぁ!!!
今回横溝刑事を出したいがためと、殺人を可能に出来るように色々現場の設定かえちゃってます。(おいおい)
大事な思い出の場所をそんな現場にするな、くぬぎ(笑)

ああ、手直ししすぎて何がなんだかわからなくなっちゃった(ーー;)
ん〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・こんな事なら短編にしとけばよかった(笑)