発端
「あ、あの、良かったら少しお話しません?」
そう申し出たのは青子の方だった。
「え・・・でも」
薦められた向かいの席に、蘭は少し戸惑った。
「連れなら、隣の車両で電話掛けてるから、しばらく戻って来ませんし」
まるで捨てられた子犬の様に心細そうな青子の表情に、蘭は素直に薦められた座席に座った。
その途端、青子の笑顔は一層明るくなった。
青子ちゃんってかわいー・・・!
蘭はつられて微笑んでいた。
「あの、今回はどちらへ?」
「伊豆なの。友達と二人で」
蘭の言葉に、青子は少し言葉を詰まらせながら尋ねる。
「・・・もしかして、相手の方は・・・か、彼氏さんですか?」
「ふふ、そう見える?」
「・・・・・・・・・・違うんです?」
「向こうで寝てるんだけど、相手は女の子なの。」
青子は蘭が振り向いて指したその座席を見た。
座席で死角になっていてその人の姿は確認出来なかったが、網棚の上の女物のバッグは二つ、仲良く並んでいた。
「青子ちゃんの好きな相手はもしかして、今日一緒に旅行してる人?」
「や、ややや・・・やだっ、違いますよぅ!」
青子の言葉とは裏腹な顔色が全てを白状していた。
「・・・・・・・・・中学の時、私も好きな人と一緒に行ったんだ。無理な日帰り旅行だったんだけどね」
「蘭おねーさん・・・?」
ふっと遠くを見詰めた蘭に、青子も一瞬表情を曇らせる。
「あ、やだ、そんなんじゃなくて・・・今でも近くにいるよ?今でも一緒に行きたいって言えば、きっとOKしてくれるんだけどね」
そう、それはコナンの姿としての新一なのだが・・・
「私の好きな人って、幼馴染なの。」
青子は、そう告げる蘭の笑顔に見とれてしまった。
「曖昧でしょ、幼馴染って・・・友達でもない、兄弟でもない、恋人くらいの至近距離なのに、でも相手の気持ちは見えない・・・そんな不確かな距離なんだよね」
蘭の言葉に、青子は悲しそうに微笑みながら言葉を続けた。
「一番近くに変わらずにいたい・・・でも今の関係を壊すのは嫌・・・・・・・」
「・・・・・・・・・青子ちゃん?」
「・・・・・・分かります・・・・・・・・・・・・青子の好きな人も幼馴染だから・・・」
辛そうな青子の微笑みに、蘭はどうしても自分の想いを重ねて見てしまう。
「・・・・・・・・なんだか、蘭さんってホントにおねーさんみたい・・・!」
ぱっと花が咲く様に、青子の笑顔が輝く。
くるくる変わる表情に、蘭は子犬を相手にしている様な可愛らしさを感じた。
そして、きっとこの表情をさせているのは、快斗なのだという事も・・・
「・・・・・・・・・・また会えますか?」
「きっと・・・!」
二人は不確かな約束をして、お互いの席に戻った。快斗が戻って来たのは、それからしばらくしてからの事だった。
「なんだよ、にやにやして・・・」
「ううん、なんでもないの〜」
さっきまでとは打って変わったこの表情の変化に戸惑いつつ、快斗は蘭の影響を改めて感じた。
あいつの最大の魅力だよな・・・
会う者をホッとさせる蘭の存在は、青子の中にも芽吹いたのが分かる。
「・・・・・・・・・おめー、誰と話してたんだ?」
「蘭おねーさんの事?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・おねーさん?」
「うん、青子にとってはおねーさんだもん。すっごく素敵な人なんだよ!」
「へえ・・・」
快斗の微笑みが優しくなる。
「・・・・・・・・・・・・・・快斗のメールの相手が蘭さんみたいな人だったら、青子も何にも言う事ないんだけどな・・・」
「え?」
青子がぽつりと漏らした言葉は、小さすぎて快斗の耳には届かなかった。
青子が行きたがっていた神社は、結構有名なお寺の中にあった。
参道には幾つもの年代を感じさせるお店が並んで、独特の風情を漂わせている。
その一つ一つは、櫛を売っていたり、お香のお店だったりと、土地独特の物が多かったが、どれも年代や日本を感じさせる物ばかりで、外人観光客でも賑わっていた。
「かわいいね、妹さん?」
手作りアクセサリーを並べた露店の店員に声を掛けられ、快斗は苦笑していた。
「え、兄弟じゃない?・・・あんまり自然な感じだから、兄弟だと思っちゃったよ」
周りの店にそぐわない雰囲気からして、ちゃっかり舗道を借りて店を出しているのは間違い無かった。
「おにーさん、どう?彼女に一つ」
その口はともかく、並べられた品物は一級品とはいかないまでも、そこそこ見られるものばかりだった。
「・・・一つ買ってやろーか?」
「・・・・・・ホント!?」
青子は快斗の言葉に表情を輝かせる。
「何でもいいけど、あんま高い物は買えねーぞ?」
「あのね、あのね・・・欲しい物があったの!」
「え?」
さっきからそわそわしている青子には、店員と快斗のやり取りなど耳に入っていなかったらしい。
青子はぱっと快斗の腕を掴むと、寺の脇にある神社の手前へと連れて行った。
「お守り?」
きょとんと尋ねる快斗に、青子はにっこり微笑んで言った。
「そう」
「・・・・・・・・・・・なんでまた・・・」
「快斗に買って貰うと御利益があるような気がするから!」
「はあ?・・・・・・・なんだそりゃ」
訳の分からないままお守りを買う。
「じゃ、ちょっとここで待っててね?すぐ戻るから・・・」
「って、どこ行くんだ?」
「・・・・・・この上の神社にちょっと用事があるの。絶対上がって来ないでね?」
「なんで・・・別にいいじゃねーか」
「絶対来ちゃだめっ!」
青子の剣幕に、さすがの快斗もたじろいだ。
「・・・分かったよ、早くしろよ?」
快斗は神社の下の鳥居で待つ様に青子に言われ、道行く人を眺めていた。
神社は、鳥居を抜けて小さな石段を上がった所・・・その有名な寺よりほんの少し高台にあった。
あまり知られていないのか、道行く人々はその階段に見向きもせず、目の前の参道を歩いていく。
一体上はどうなっているのか・・・
知りたい気持ちはあったが、青子に盾付いて見に行く程の興味は無かった。
参道を行き交う人の群れの中に、知っている顔を見つけて、思わず快斗は声をあげた。
「あ・・・・・・!」
「・・・・・・・・あ、快斗君!」
手を振る蘭の側には誰もいない。
「一人?」
「うん、園子はパーティの前に、主催者のおじさんに挨拶に行ってるの」
「で、おめーはなんでこんな所に?」
「・・・ここの神社、伊豆に来る時は寄るようにしてるの!お守りも買わなくちゃだし」
「・・・・・・・・・・・・おめーも?」
「・・・”も”って事は青子ちゃんも買ったのね?」
くすくすと蘭が笑う。
「金出したのは俺だけどな・・・」
快斗は苦笑しながら買ったばかりの青子のお守りを蘭に見せた。
「あ、いいなぁ・・・それって御利益ありそう!」
「おめーまで青子と同じ事・・・何のお守りなんだ、これ?」
「内緒!」
蘭のくすくす笑いに少し拗ねて見せながら、お守りを小さな紙袋に戻した・・・時だった。
「きゃああっ!!」
女性の悲鳴が聞こえた。
「い、今のってまさか・・・!」
「青子!!!!??」
血相を変えて、快斗が石段を一気に駆け登る。
「青子!!どこだ!?」
青子の返事は無い。
快斗は青ざめながら青子の姿を必死に探していた。
小さな神社の境内で、探す所など、そうは無い。すぐに死角になっている社の裏側にまわる。
猛スピードで開ける視界に飛び込んで来たのは、青ざめ倒れている女性と、彼女に横たわる様に倒れている青子の姿だった。
や、やっと事件だ・・・(^^;)
この神社、かなり有名な所が参考になってます(^^;)場所は伊豆ではありませんが、皆様、一度は耳にした事があるんじゃないかしらといったお寺・・・。その脇にホントにあるんです、この神社・・・(−−;)
こんな表現で分かった方いらっしゃるかなー・・・(^^;)いませんよねぇ?
ちなみに、お守りのイメージは大坂のとある場所の・・・ですがこっちも相当いじくってますので、ホントに参考程度(^^;)
何せ最低でも7年は前の記憶なので、曖昧な部分も多々ありますが、当時の写真を元にして記憶を呼び起こすなんて真似をしてますので、イメージだけという事にしておいてください(^^;)
くぬぎの父は「家族旅行大好き〜♪さぁ、日曜日だ、行くぞ〜♪」って人なので、昔はよく出かけましたからねぇ(くぬぎは車酔いが酷いので現地についてからもぐったり・・・そのおかげで記憶が曖昧な所が多いんですが。おまけにあまりにもお出かけしてたんで記憶がごっちゃごちゃになってます(笑)20過ぎてからですが、自分で出かけたりする時に「あ・・・見覚えがっ(^^;)」って場所は結構あったり・・・父に「連れてってやったのに覚えてない・・・」とその記憶の曖昧さを指摘されつつお友達とのお出かけは続く・・・(笑))
ちなみに、この神社、やたらいっぱい人がいました!(笑)石もちゃんとあります!(^▼^)