二人
これで何度目だろう・・・
幼馴染の無理に微笑む姿を目の当たりにするのは・・・
朝、出掛けからずっと気になり続けていた。
ずしりと重い2日分の衣類の入ったスポーツバッグを肩に掛け直して、快斗は腫れ物に触れる様な思いで彼女に声を掛けた。
「何?」
「・・・・・・・・・おめー、何無理して笑ってんだ?」
「無理?してないよ?・・・どーして?」
逆に尋ね返される。
してるじゃねーかよ・・・
心の中でぼやきつつ、快斗が再びバッグを掛け直した時、目当ての電車がやってきた。
乗り換えで小さな電車に、向かい合わせて二人が座る。
「なあ・・・おじさん、何も言わなかったのか?」
「・・・何を?」
「・・・・・・・・・年頃の娘が、男と二人で旅行に行くなんて言うんだぜ?」
「相手が快斗だもん。『おお、そうか、行っておいで!』ってにこにこ送り出してくれたわよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・普通止めるだろ・・・」
青子は呆れ気味の快斗の様子に苦笑している。
「仕方ないよ、お父さん忙しくて青子に構ってられないもん。・・・代わりに快斗が構ってくれるから、ありがたいと思ってるみたい。」
「そか・・・」
複雑な思いでその言葉を受け止める。
青子の父親が忙しいのは、快斗自身も少なからず関わっているせいなのだから・・・。
寂しい思いをさせている責任の一端は自分にもあった。
「・・・・・・・・・・・青子は寂しくないよ?」
「え?」
快斗は一瞬動揺した。・・・自分の口から、張り巡らせた思考を漏らしてしまったのかと思ったのだ。
「・・・今青子の事、お父さんが構ってくれなくて寂しい思いをしてるんだろーなって思った・・・でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで・・・・・・」
「快斗の表情見てれば分かるよ。・・・幼馴染だもん!」
そう言っていつもの笑顔を見せる・・・が、その一瞬後はすぐにそれは消えてしまう―・・・。
「そうだな、付き合い長いもんな・・・。腐れ縁っての?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
青子の沈んだ表情に、快斗はいつになくイライラしながら声を掛けていた。
「・・・話せよ、聞いてやっから・・・」
それまで自分を見詰めていた青子の視線が逸らされる・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言えない」
「・・・・俺でもか?」
快斗の言葉に、青子はいつかどこかで見た表情を見せた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・快斗には言えない・・・・・・・」
青子らしくない、どんよりと曇った様な・・・今にも降り出しそうな表情に、快斗は追求を諦めた。
これ以上何を言っても無駄だといった青子の意志を、気持ちを、その場の空気が伝えて来る。
一瞬の気まずい沈黙の後、青子はちらっと快斗を見た。
それは、いたずらをした子どもが親の様子を伺う様な、不安そうな眼だった。
「・・・どこ行きたいか、ちゃんと調べて来たか?」
快斗は理由も分からず苛立っていた自分を自嘲しながら、青子に助け船を出した。
いつもの青子なら、途端にぱっと明るい笑顔を見せる所だったが・・・
「うん・・・あのね、一つだけ・・・」
「どこだよ?」
「・・・・・・・・・快斗は他の所を見てまわってていいよ、ぱぱっと済ませちゃうから。」
「なんだよ、それ・・・」
きょとんと問い返す快斗に、青子は答えなかった。
やれやれ、針のムシロに座らされた気分だぜ・・・ったく・・・
心の中で悪態を吐いた時、ポケットの中の携帯が小さく震えた。携帯はメールが届いた事を快斗に知らせていた。
誰からだ?
青子の視線を気にしつつ、携帯を手に取る。
「あ・・・」
送信主は蘭だった。
少しホッとした笑顔を見せる快斗を横目に、青子は溜息を吐きながら流れて行く窓の外の景色を眺めた。
『彼女にあんまりキツイ言い方しちゃ駄目だよ!』
え?
その文面に、快斗は思わず立ち上がって辺りを見回した。
3つ程向こうの席の向かい側にその笑顔を見つけ、ホッとする―・・・。
「あ、青子、ちょっと悪ぃ・・・電話しなくちゃいけねー用事があったんだ」
目の前でメールのやりとりはさすがに相手に悪いので、青子に断りつつ席を立つと、快斗は隣の車両に携帯を片手に移動した。
がらんとした隣の車両に移ると、快斗は今いた車両が見えるような席に座った。
ここからなら、青子は背中越しだが、蘭はしっかり見える。
「さて、と」
席を確保して、快斗はおもむろにメールを打ち始めた。相手はもちろん蘭だった。
『一人で旅行?』
そう尋ねる快斗に、蘭は返事を打ち返してきた。
『駄目だよ、彼女放っておいて・・・』
『いんだよ、ちゃんと断って来たし・・・それにあいつは彼女じゃなくて、幼馴染!』
『ホントかな〜?』
『ウソついてどーすんだよ・・・それより今一人か?』
『友達と二人だよ!・・・今相手は目の前で寝てるんだけどね。快斗君からは死角になってて見えないよね』
『工藤?』
『ううん、女の子。ほら、園子よ、「ラン」のHNで快斗君とチャットしてたでしょ?』
園子・・・彼女は仕事の上でも一度調べた事があったので、快斗自身も良く知っていた。
何より、彼女自身は知らないだろうが、蘭と知り合うきっかけをくれたのも彼女だった。
『園子は新一も同級生でよく知ってるし、コナン君ともよく顔あわせてるから、快斗君が園子の事を知らずに顔を合わせたらまずいかなと思ったの』
蘭の文面から、怪盗KIDとしての自分を思う優しさが伝わってきた。
ホッする一瞬・・・その心地良さに浸ってしまいたくなる。
『心配してくれたのか?』
『当たり前でしょ?』
『・・・・・・・・サンキュ』
それは怪盗KIDとしては無用の心配だったのだが・・・蘭が自分の身を案じてくれたのは何より嬉しかった。
『どこに行くんだ?』
『伊豆・・・園子の別荘に。パーティに両親の代わりで園子が出席する事になったんだけど、泊まる別荘で前に殺人事件があって、一人では怖いって言うからついてきたの』
蘭の言葉に快斗は暖かな苦笑を漏らす。
『って、おめーだってお化けとかの類は苦手だったんじゃねーの?』
『・・・園子が一緒だし、多分大丈夫だと思うの』
『俺も伊豆なんだ。向こうで会えるか?お互いこっそり抜け出して・・・』
『え?駄目だよ』
それは自然と口に・・・文章に出ていた。
『俺はおめーに逢いたい』
顔を上げた蘭の表情を視線に捉えた。
「・・・?」
蘭の視線は快斗ではなく、別の何かを捕らえていた。
『どうかしたのか?』
時が止まった蘭を再び突き動かしたのは快斗からのメールだった。
快斗からのメールの着信を知らせる振動に驚いた様に、蘭が手を滑らせて携帯を落とした。
ちょうど駅に到着するために列車は速度を落とそうとブレーキをかけ、携帯はさらに加速していく。乾いた音を立てながら、園子の足元を滑りぬけ、青子のいる座席のすぐ近くで止まった。
青子は滑って来た携帯に目を落とす。
蘭が慌てて拾いに来たのを見て、青子は足元の携帯を拾い上げた。
「はい、どうぞ・・・」
「あ、ありがとうございますっ」
手渡しかけた携帯をふと見て、青子は手を止めた。
「・・・・・・・あの、何か・・・?」
「あ、あの・・・このお守りって、もしかして・・・」
携帯についた、小さなお守り・・・それは旅行情報誌に小さく紹介されていた物と同じだった。
「あ、これですか?これは伊豆の神社で買った物ですけど・・・」
「やっぱり!・・・・・・・・・・・・あの、こんな事聞いちゃいけないって分かってるんですけど」
もじもじとした青子に、蘭はくすっと微笑んだ。
「・・・・・・・・・・・願い事は叶えられてますよ・・・初めてこれを買ったのは中学生の頃ですけど」
尋ねる前に返事をされて、青子は驚いて蘭の顔を見た。
「ど、どうして・・・」
「・・・なんとなく・・・これを買った時の私に似てるかなって思ったから・・・」
青子の頬が赤く染まる。
青子の少し困った様な表情を見て、蘭はふっと微笑んだ。
「大丈夫よ、きっと。・・・願い石の事は知ってる?」
「・・・二つの離れた石を・・・目を閉じてまっすぐに隣の石に辿りつけたら願いが叶うっていう石ですよね?」
「・・・大丈夫、まっすぐ歩けるわ・・・自分を信じてね」
事情をすべて知っているかのような蘭の微笑みに、青子は気持ちが軽くなっていくのを感じていた。
快斗は、連結部の窓から二人の様子を伺いつつ、青子の久しぶりに明るい笑顔を見て、どこかホッとしていた―・・・。
「やっぱおめーはすげーよ・・・」
ぽつりと心の内を漏らしながら―・・・
掲示板などで予告はしてましたが、ついに青子まで登場してしまいましたっ(^^;)
しかもサブタイトル変更・・・(^^;)
青子ちゃんと蘭ちゃんを会わせたくて、トリックを考えていたんですが、当初の予定だとトリックとしてはシチュエーションに結び付けるのは難しいかと思いまして(−−;)
つまり、サブタイトルどころか全部書き直ししてるんですね(^^;)
3と同じくちょこちょこアップする予定です。よろしかったらお付き合いください(^^;)