恋敵

「なんだ?」
毛利探偵事務所の郵便受けに、ダイレクトメールやちらしに混じってコナン宛ての封筒が一通混じっていた。
事務所の机で手紙を選別していた小五郎は、不機嫌そうに指で封筒を弾く。
「ほらよ・・・おめーにだ・・・」
「え?」
おれに?

今更ながら、江戸川コナンは架空の人物である。知り合い相手ならいざしらず、郵便物など届くはずもなかった。

不思議そうに、白い封筒を受け取ると、コナンは差出人の名前を見たが、そこには何も記入されていない。
「・・・・・・・誰だろ・・・・・」
ふっと最近癖になりつつある乾いた溜息を吐きながら、コナンは封筒を改めて観察した。
「・・・・・・かなりな上物だな・・・・・」
光に透かしてみる。中には・・・・・・・・・
「・・・・・・・・カード?」
ゆっくりと封を開けてみる。
「あ・・・・・・・・・」
コナンの驚きの混じった声に、小五郎が反応した。
「・・・・・・・・・・あ?どーかしたのか?」
「な・・・なんでもないよっ!・・・・・元太達と約束してたの思い出したんだ!ちょっと出てくるね!!」
「あ、出かけるんなら、ついでに煙草2,3箱買ってきてくれ!・・・いつものヤツだからな!」
「う・・・うん!・・・・・・遅くなるかもしれないけど!」
「ああ、構わん・・・もう一箱あるにはあるからな・・・・・・・蘭の奴がいねー間にできるだけストックしておくんだよ!あいつがいるとうるせーからなぁ・・・」
「・・・・・・・はは・・・そんなせこいマネするくれーなら、煙草やめろよ・・・」
「ん?なんか言ったか!?」
「な・・・・・なんでもないっ!!行ってくるねっ!」
慌てて出て行くコナンを、小五郎はビールをぐいっと飲みながら見送った。
「こないだ旅行から帰ってからなんか変だよな、あいつ・・・・・・・・・」
ふとした疑問も、ビールの泡と同じく、喉を通って消えていった。


「あー、焦ったぁ・・・でもなんであいつが・・・?」
息を切らせてコナンは改めて封筒からカードを取り出した。

『今宵、貴殿にお尋ねしたい事があります。
貴殿にお会いできるのを楽しみにお待ちしています。』

「怪盗KID・・・」
コナンの胸がずきんと痛んだ。

目の前に浮かんだのは、蘭が奴に助けられたあの光景・・・
コナンには助けられなかった、あの光景・・・・・・・・・・・・

握り締めた封筒は、コナンの心の傷と同じく、深い皺を刻み込んでいた。

待ち合わせの時刻までまだ間がある。
今、蘭の顔を見ると、必死で保っているうわべだけの平静が壊れてしまいそうだった。

今のぐらぐらの自分を、誰にも見せたくなかった。

あの光景を目の当たりにして、蘭に暗号を送った相手を悟ってしまった。
そして、まんざらでもない蘭の心の揺れも・・・・・・・。

久しぶりに工藤の門をくぐった。
慣れ親しんだ階段を上り、コナンは自分の・・・新一の部屋のベッドに横になった。
「蘭・・・・・・・・・・・」
蘭がくれた、季節外れのセーターが、ベッドに横になったコナンを見守っていた。

まどろむコナンの脳裏に、蘭の・・・新一に向けていた蘭の笑顔が鮮明に蘇[った。

「・・・・・・・・・・・蘭・・・・・・」
感情の揺れで、ひどく疲れていたらしい。
ベッドに横になるなり眠ってしまったコナンが、次に目を開けたのは、待ち合わせ時刻の間際だった。
「うわっ、やべっ!!」
慌てて寝室を飛び出すと、コナンはそのまま東都ビルの屋上へと向かった。

なんとか辿り着いた屋上には、既に怪盗の姿があった。

「よお・・・遅せえじゃねーか、探偵君?」
「・・・・・・・・・・おめー・・・・・どうして・・・・」
「今回、暗号なんて使わずに手紙をよこしたか・・・・・・それとも・・・蘭にちょっかい出す理由か・・・・・・でなければ蘭がおれの正体に気付いていて、その上でおれがちょっかい出してるのか・・・?」
コナンは、快斗の言葉に少し口をつぐんだ・・・。

「どれもだな・・・・・・いや、・・・全ての問いに解答は察しがついてる・・・・・・」

コナンの暗い表情と沈んだ声に、快斗はふっと微笑んだ。
「それはそれは・・・名探偵たる所以・・・ですかな?」
「蘭の・・・・・・・・・様子を見てればわかるさ・・・・・」
「・・・・・・・知ってて止めねーのかよ・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・止める権利があればな・・・・・・とっくに止めてる・・・」

快斗は、コナンの静かな笑みに衝撃を受けた。
「止める権利なんて・・・そんなの何で判断するんだよ!?」
「・・・・・・おめーは事情を知ってるんだろ?・・・蘭を一人残して事件に首を突っ込んだ結果がこれさ・・・。」

随分弱気だな・・・・・・

快斗はモノクルの奥で、自嘲気味な微笑を浮かべた・・・。
「蘭の様子で分かるんなら・・・もっと大事な事に気付いても良さそうなもんだけどな・・・案外自分の事には鈍いのか?」
「・・・・・・え?」
「そんなんなら俺だって名探偵になれるぜ?」
にやりと快斗が微笑む。
「・・・・・・・・気がついてなかったんだな・・・」
きょとんとしているコナンに、快斗は言葉を続けた。
「・・・あの日から、蘭の奴まともに笑ってないんだぜ?」
笑ってるじゃねーかと言いかけて、コナンははっとした。

そういえば・・・・・・最近、本物の笑顔は見ていない・・・。

そう思うと癪に障った。
おれよりこいつは蘭の事を見ていたのか・・・
途端に怒りが込み上げてきた。

じろりと睨みつけるコナンに、快斗はにやりと微笑む。

「・・・・その意気だぜ?探偵君・・・。おめーに元気がねーと蘭にまで影響するからな・・・」
「はぁ!?なんだよ、そりゃ・・・・・・」
「・・・まあ、早い話が俺は蘭の味方って事だよ。あいつは俺の宝物なんだぜ?・・・・・・・泣かせるなよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おめーは何が言いたいんだ・・・・・・・」
快斗のキザなセリフに、コナンはジト目で応戦した。
「・・・・早いとこ元の姿に戻れよって事・・・・かな?」
「うるせ――――!!!おめーに言われなくても!!!」
コナンの怒鳴り声に、快斗は笑いながらビルの屋上から、その白い翼を広げた。

「あ〜あ・・・おれってお人好し・・・・・・」
自嘲しながらも、快斗は視界に広がったネオンの洪水に溜息を吐いた。

別にコナン・・・工藤新一を元気付ける義理も何も無いのだが・・・それだけ、蘭の元気のない様子を見ているのが嫌だったのだ。

「まあ・・・・いいか、これで蘭が元気になってくれるんだったら」
ネオンの向こうに蘭の笑顔を見て、快斗は更に高度を上げた―・・・。


「なんだったんだよ、一体・・・・・」
ぶつぶつ言いながらも、コナンは探偵事務所に足を急がせた。

随分遅くなってしまっていた・・・。

やっと事務所のビルが見えるほどに近づいて来た頃、階段の入り口に、人影が見えた。
「・・・・・・・・・・・・蘭?」
蘭もコナンに気付いたらしい。顔を上げて、駆け寄ってきた。
「どこ行ってたのよぉ!心配しちゃったじゃないっ!!」
「え・・・・・・・」
蘭の目の端が赤い・・・。
泣いてたのか・・・・・・・・?
涙の理由も見当たらず、コナンは苦しそうな表情を見せた・・・。
「・・・・お父さん、出ていく時のコナン君、なんだか様子変だったって言うし、・・・・またどこか行っちゃったのかと思ったじゃない・・・・・」
「ご・・・・ごめんね、蘭ねーちゃん・・・・・・・・」
蘭の目に、いっぱいの涙が溢れ出したのが、窓からの光でちらっと見えた。
ぎゅっと蘭がコナンを抱きしめる―・・・。
「ら・・・・・・・・・・・蘭・・・・・・ねーちゃ・・・・・・?」
「も・・・、もうや・・・だよ?どこにも・・・っ・・・行かな・・・いで・・・ね?」
鳴咽にまみれて蘭が必死に訴える。
子どものように泣く蘭を、コナンはぎゅっと抱きしめ返した。
「ごめん・・・・・・もうどこにも行かないから・・・・・」

いつか、舞台の上で抱きしめた時は小さく感じた蘭の身体が、コナンの身体には随分大きく感じられた。

今は・・・・・・小さな・・・・こんな身体だけど・・・・・・・・いつか元の姿に戻ったら・・・・・

一度は諦めかけていたそのぬくもりを感じてしまった。・・・もう、諦める事など出来ない・・・。

ましてやあいつにくれてやるなんて・・・な

コナンはさっきまでの弱気な自分を思い出して、嘲笑し、快斗の真意に気付いて苦笑した。

「・・・恋の上でも宿敵・・・そういう事だな?・・・お互いフェアに行こうぜ?」
そう呟くとコナンはポケットに突っ込んでいた快斗からの招待状を取り出し、グシャッと握り潰した―・・・。

「あらら、気がついてたのね〜・・・」
招待状に仕込んであった盗聴機を握り潰され、受信機で音を拾っていた快斗は苦笑していた。
「・・・フェアに・・・ねえ・・・もう既にフェアじゃない気がするけどな・・・」
耳からイヤホンを抜くと、快斗は丸い月を眺めた。
「・・・・・・これ以上難しい盗みはねーだろーけど、諦めねーぜ?探偵君・・・!」

涼しさを運ぶ風が、快斗の頬を撫でて行った―・・・。
丸い月が、おせっかいな怪盗を優しく照らしていた。



い、いかがでしょう、快斗主役じゃなくなってますが・・・(^^;)(推理物でもないし(自爆))

3でここまで書いておけば良かったのですが、それだとコナン君が主役の座を奪ってしまいかねないので(既に経験済みって所が・・・(笑))持ち越しました!
いっそ省かせていただこうかと思ったのですが、ある方からメールで「コナン君がかわいそう」というご意見をいただきましたので、あえて短編で入れさせていただきました(^^;)(くぬぎは新蘭派ですので、やはりコナン(新一)が出てくるとそっちに傾いてしまいますからねえ(^^;))

こんな感じでいかがでしょう、皆様・・・(^^;)あっ、あっ、石を投げないでね??

今回コナンが主役と言ってもいいくらいなのですが、一応シリーズの続編(中継ぎ)なので、「KAITO」にアップです〜

今後は「彼女」が出てくる予定です。誰なのかはお楽しみって事で♪