花火

「新一〜!」
朝から蘭の元気な声が響く。

昨日やっと志保から小包で解毒薬が数錠送られてきて、やっと蘭は子どもの身体から解放される事になったのだ・・・が・・・

「新一がお父さんになってトロピカルランドに連れてってくれるって約束したもんね!」
と、今日までは子どもの姿でと、解毒薬を飲むのを拒んでいたのである。

「トロピカルランド・・・?」

蘭の言葉でやっと思い出したように、新一はとぼけてみせた。

「お父さん達の代わりに連れてってくれるって約束したじゃない!」

蘭はよっぽど楽しみにしていたらしい、子どもの姿でいるのは今日までなのに、新しい服をいつのまにか新調している。
新一だって、楽しみにしていたのであるが・・・。


「今日はお父さんだね、新一!」
「・・・随分と年の近い娘だけど・・・ま、家族サービスといきますか。」
いつもの蘭と新一とは違った雰囲気で、トロピカルランドのゲートをくぐった。

トロピカルランドは、大勢の家族連れでごった返していた。

「もう・・・!新一が出掛けにゆっくりしてるから!」
と蘭が不平をこぼす。
「そんなに早くついたって意味ないじゃねーか・・・10時に開いたばっかなのに・・・」
蘭に手を引かれ、乗り物の列に並ぶ。

「ミステリーコースター・・・」

曰くあり・・・な乗り物だな、と新一は苦笑した。
蘭も同じ事を考えていたらしい、新一の手をぎゅっと握ると、「どこへも行かないでね?」と呟く。
返事の代わりに、新一は蘭の手をぎゅっと強く握り返した。

コースターが終わると観覧車、最近出来たばかりのアトラクション・・・と、蘭の元気はとどまる事を知らない。
蘭のはしゃぐ姿を見ていると、まんざら父親役も悪くはないなと新一は思っていたが、こうも連続だと参ってしまう。

蘭に休憩させてくれと言うと、新一は電話をかけに蘭の側を離れた。

しばらくして戻ってみると、蘭の周りに小学生くらいの男の子が数人まとわりついていた。
「あ!・・・・・・・おかえり!」
蘭の言葉に、男の子達が一斉に新一に注目する。
「・・・この子達は?」
と訝しがる新一の腕をぎゅっと抱くと、「この人が私の大事な人なの!」と紹介する。
「だ、大事な人・・・ってっ・・・!」蘭の言葉に新一が耳まで赤くなる。
少年達はじろじろと新一を見ると、面白くなさそうに離れていった。

「な・・・なんだぁ、今の?」
「・・・・・・・・ナンパされちゃった・・・!」舌を出す蘭に、新一はぎょっとした。
「ナンパ・・・!?」
「だから、大事な人を待ってるって言ったの」
新一は照れくさくて憎まれ口をきいてしまう。
「・・・今日は、俺、お前の父親役じゃなかったっけ?」
「うん!おとーさんは大事な人でしょ?」
満面の笑みの蘭のその言葉は、新一の期待とは全然違っていた。肩透かしをくらった・・・そんな気分で新一は憮然としてしまった。
「んも〜!すねないでよ〜ぉ・・・」蘭が苦笑する。
「すねてねーよ〜!!」「うそ!すねてるっ!」「すねてねー!」「すねてる!すねてる!!すーねーてーるー!」「こんのぉ!」新一が蘭の頭を腕で抱え込んで捕まえる。
「きゃ――――!」明るい笑い声がこだまする。

こうしていると、仲のいい親子か、兄弟に見えているのだろう、行き交う親子連れやカップルが微笑みながら二人を見ている。

「さ!次は何に乗る?」
「んとね、・・・これは最後にとっておいて、・・・こっちに行ってみようか・・・?」新一が広げた地図を見ながら、二人で軽い昼食をとりつつ打ち合わせをする。
ふと、隣の席を見ると、若い父親と幼い女の子がキスをしている。
どうやら、その子の家ではキスは日常茶飯事のようで、二人とも嬉しそうにキスの交換をしあっている。
「・・・日本も外国なみになってきたんだね・・・」との蘭のセリフに、新一は苦笑いしている。
「・・・・・・俺達もする?一応今日は父親と娘だし?」
小さくなった蘭が相手だからこその、新一の余裕の発言である。
「いいわよ?」
蘭も余裕の冗談を返す。
「・・・できるのかぁ?」
「できるわよ?」
「・・・・・・してみろよ?」
新一が身を乗り出して、蘭に顔を近づける。
「・・・・・・・・・・っ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・他ならぬ好きな相手である、親子のキスでも意識してしまって出来るわけがない。
真っ赤になって、蘭は俯いてしまった。

やだ、新一の事だから、絶対からかわれる・・・・・・・

そう思ったのだが、新一はそれ以上この事でからかったりはしなかった。


お昼からも目いっぱい乗り物に乗ったりして楽しんだ二人は、ゲート近くのメリーゴーラウンドの側で座り込んでいた。

もうじき日暮れ・・・ここからは花火が見える絶好の場所だった。

あの日も小五郎や英理と一緒に観るはずだった花火である。

あの頃は、それを思い出すと寂しくて仕方がなかったのだが、今は、手を伸ばせばそこに新一がいる。
「?・・・何だよ?」
「うふふ・・・何でもな〜い!」
「・・・気持ちわりーな〜・・・」呆れ半分の新一の手を、小さな手で握る。
一瞬、新一も戸惑っていたようだが、すぐにそれまでと同じように空を見上げた。

・・・新一とずっとこうしていられたらなぁ・・・

蘭は微笑みながら新一の方を見やる。

「・・・・・・」

「えっ?」
蘭が聞き返す。あまりに小声でよく聞き取れなかったのだ。
たしか、あっ、いた・・・と聞こえたと思ったんだけど・・・?

トロピカルランドのぬいぐるみでも見つけたのかな・・・?

蘭が手元の時計を見る。

花火まであと・・・15分位ある。

蘭が「なにが?」と聞き返すより先に、新一が口を開いた。

「わりぃ、蘭・・・ちょっと待っててくれ!」
「え〜〜!!」
蘭が目いっぱいの不満を込めてそう言うと、新一は蘭の頭をくしゃくしゃっと撫でて、笑顔を見せた。
「そんなに遅くはならないと思うんだけど・・・」
蘭はこの笑顔に弱いのである。
「も〜!急いで戻ってきてよ?」
「へ〜い!」
新一は大急ぎで駆け出していった。

「ん、もぉ!」

大方トイレか何かだろう・・・

そう思い、空を見上げながら待っている蘭に、女性が声を掛けた。
「・・・あなた一人なの!?」
「え・・・違います、今」
そこまで言いかけて女性の顔を見て、蘭は驚いた。

「おかあさん!?」

「新一君から電話が・・・」
そう言いかけた英理の目も点になった。
「・・・・・・・あなた!?」
「英理!?なんでお前がここに!!?」
小五郎も来ていたらしい。
「あなたこそ!・・・どうして!?」
「俺は・・・新一の奴に、蘭がここでこの時間に待ってるって聞かされて・・・」
「私も・・・!蘭の身体の事情を聞いて、蘭がここで待ってるから来てやってくれって・・・!」
「あんのやろ〜!はかりやがったな!?」
殺気立つ小五郎のスーツのジャケットを小さくなった蘭が下からつんつんと引っ張る。

にこっと笑っているつもりだったが、目には涙があふれて止まらない。

あの頃、本当になって欲しくてたまらなかった光景が、今、蘭の目の前に広がっている。

小五郎も、自分の娘の涙に、怒りを静めた・・・。

「ほんとに・・・小さくなったんだな・・・。新一に説明してはもらったんだが、信じられなかったんだ・・・。」
「うん・・・、私の不注意なんだけど・・・薬を知らずに飲んじゃったの・・・。」
「こうしてると・・・あの頃みたいね・・・」
「だな。俺達は年を取っちまったけど・・・」
二人顔を見合わせて微笑みあう小五郎と英理を見て、蘭は大声で泣き出した。

英理と小五郎は、突然泣き出した我が子に驚き、なだめようと懸命になる。

「蘭・・・」
「ほら、昔みたいに肩車してやろうか?」
小五郎に肩車をしてもらった蘭は、英理が離れて行ってしまわないようにと手をつないでもらった。

それでも、10年分の涙は止まる事を知らず、蘭はずっと泣きじゃくっている。

二人は泣きじゃくる蘭をなだめながら、顔を見合わせた。

ふいに空が明るくなって、一面に光の粒が散らばる。

「・・・・・・・・・・花火・・・・・・!」

その美しさに英理が思わず声をあげた。

「おお、・・・ほんとだ・・・。蘭、見てみろ・・・。」
小五郎の声に、涙が止まらないまま蘭は顔を上げた。
涙で滲んで、花火が無数に瞼いっぱいに広がった。

新一は、三人の様子を見て、安心して帰路についた。

帰り道、東京にしては珍しいほどの星空が広がっていた。

「父娘・・・か・・・」
新一のつぶやきも、花火と一緒に夜空へと吸い込まれていった。

とりあえず、ここまで・・・でしょうか?推理物なんて書いた事はないし、考えた事もないので、めちゃめちゃですが、一番書きたかった花火のシーンが書けたので良しとします。自己満足だね。トリックなんて、頭のないくぬぎには考えられないので、誰か文章にしやすいトリックを考えてメールで下さい。(優作さん、へるぷ!と何度打ち込んだ事やら・・・。)

戻る逆コナン案内へ・進む