証拠
二人は現場に到着すると、実際の状況をつかもうと、早速ぶつかった様子を再現してみた。
「ここでぶつかったのか?」
「うん、この茂みの中を突っ切ってきたの。・・・皆よく通るみたいだから、横切ってきたみたいだね。」
新一は、振り返って事件の現場の方を見る。
「・・・現場の方からほぼ一直線上にあるかな・・・」
「で、ここでぶつかったの」
軽く、こつんとぶつかってみて、蘭の言うように倒れた形に地面に座りこむ。
「こうか?」
「・・・ううん、もっと・・・、お腹を抱えてた・・・左手を地面について・・・」
「・・・・・・なんか、転んで倒れたにしちゃ変な格好になるなぁ・・・」
それもそのはず、右手はお腹を押さえて、左手は地面を触っていたというのである。
「そうね、なんか、落としたものを探してるみたい。・・・コンタクトとか。」
「ほんとに落としたのかもしれないな・・・。」
「犯人を決定できる証拠?」
二人で顔を見合わせる。
「よし!探すぞ!」
二人は這うようにして、その何かを探し始めた。
ぶつかった所では見つからず、茂みの中にまで二人の捜索が及んだ。
「空缶・・・なわけねーよな・・・」
「煙草の吸い殻・・・」
「唾液で分かるのはせいぜい血液型くらいだからなぁ・・・その線も薄いだろうな・・・」
「免許証・・・が落ちてたら届け出がありそうなもんだし。」
自分で言っていて、苦笑している。
と、茂みの奥の方に光るものが見えた。
「なんだ、・・・あれ・・・」
木の枝を拾ってきて、かきだすと、それは小さな指輪だった。
落ちてそれほど経ってないようである。
汚れもついていない。
見た所・・・婚約指輪には見えないが、裏にイニシャルが彫ってある。
「Y to M・・・」
これ・・・だろうか、犯人が見られてはまずいものとは・・・
「蘭・・・」
声を掛けるが、返事はない。
「蘭・・・?」
蘭のいた茂みの辺りを覗き込むが、そこに蘭の姿は無い。かわりに、幾つもの足跡があった。
・・・これとこれは蘭の足跡にしては大きすぎる・・・。
その大きい足跡が、小さな足跡の上にあった。
嫌な予感が走った。
「・・・そうだ!」
今朝、もしもの時の為に、灰原が使っていたディテクティブバッヂを蘭に持たせておいたのだ。
メガネにしときゃよかったぜ・・・とぼやきながら、新一は自分が使っていたバッヂを取り出して、蘭と通信を試みる。
「蘭・・・蘭・・・!おねがいだ、出てくれ!!」
祈るような思いが通じたのか、蘭が応答する。
「どーしたの?」
「どーしたの?じゃねーだろ!!急にいなくなりやがって!どこにいんだよ!」
「ここ?・・・えと、新一と昔よく遊んだ・・・」
蘭の声が急に途切れた。
電池切れ?
そんなはずはない。
博士に今朝充電してもらったばかりだ。
残る可能性は一つ、犯人によって通信を切られたのである。
蘭の話し振りに怖がったりしている様子がなかったから、ひとまず危害を加えられたりはしていないのだろうが、安心できない。
「蘭!どこだ!?蘭!!」
焦ってがむしゃらに走り出そうとするが、頭の中に、蘭の言葉が響いた。
「えと、新一と昔よく遊んだ・・・」
昔よく遊んだ・・・?
「落ち着け、よく考えるんだ・・・!」
・・・・・・・・・・・サッカー・・・ブランコ・・・違う・・・
焦って考えがまとまらない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くっそ〜!!
フラッシュバックのように、突然、新一の目の前に、蘭の泣いている姿が現れた。
「・・・・・・」
泣いている蘭に、声を掛ける小学生の自分の姿も見える・・・。
「・・・おとーさんとおかーさんが・・・」
ああ、これはあの日だ・・・。
小五郎のもとから英理が立ち去って間も無いあの日だ。
家でふさいでいる蘭を、無理に連れ出して気分を晴らそうとしたのだが、蘭は泣いているばかり・・・。
樫の木の下で、蘭に覚えたてのリフティングを見せたり、木に登らせて高い所からの景色を見せてやったり・・・。
「いつか、皆でまた暮らせるようになるといいな・・・」
「うん・・・!」
木の上でした会話で、やっと蘭が笑ってくれた・・・。
「あそこだ!!」
新一は現実に戻ると、樫の木へと急いだ。
「無事でいてくれ!」