約束
「こんな格好で会いに行ったら、お父さん、びっくりする・・・よねぇ」
怒りもおさまって、蘭の歩調もゆっくりになってきている。
「・・・だろうな・・・。」
「電話にしよ!・・・留守電に入れておくから、これからついでにお買い物して行こうか!」
げ、また・・・?という表情の新一に、蘭は苦笑した。
「別に、お買い物じゃなくてもいいの。新一と一緒にどこかに行きたいなって・・・。・・・駄目?」
「でも、お前、狙われてるかもしれないのに・・・」
新一は反対の様で、渋い表情で答える。
「・・・わたし、お父さんとお母さんとが別居したのがこれくらいの時だったのよね。その直前に、連れてってくれるって約束してあったのに、だめになっちゃったんだ。」
蘭の寂しそうな様子に、さすがの新一も折れるより他なかった。
「・・・・・・で、どこなんだよ、そこ・・・」
ぱっと蘭の表情が明るくなる。
「トロピカルランド!・・・新一とは何度も行ってるけど・・・あそこで、三人で花火見たいねって話してたの!」
「じゃ、今日は俺が親父さん、て事で。・・・行くか、蘭!」
二人は手をつないで米花駅へと向かった。
駅は連休という事もあって、子ども連れや学生達の姿も多かった。
ばれやしないかとビクビクする蘭に、新一は「その姿じゃ子どもにしか見えないから大丈夫だよ。堂々としてろよ。」と話し掛ける。
なるほど、さすが経験者だと蘭が苦笑していると、電車が間もなく到着するといったアナウンスが流れた。
新一は用心して、蘭を連れてホームの端から少し離れた所で電車を待った。思ったより大勢の人が乗るつもりらしく、二人の後ろにもたくさん人が集まってきた。
「?」
また・・・だ。
あの変な寒気・・・。
こんな暑い日の照っている所で・・・?
違う・・・。この感じ、どこかで・・・
背筋の寒気に、蘭が振り向きかけた瞬間だった。
後ろの大勢の人込みが倒れるようにして前へ前へと進んできて、押しやられるようにして蘭の身体が落ちかけた。
「あ・・・!」
新一とつないでいた手がすり抜けそうになる。
瞬間、新一がとっさに手をつかんで、蘭の身体を支えた。
もう少し新一の反応が遅れていたら、蘭は線路の上だっただろう・・・
「・・・ちょっと、大丈夫!?誰よ、押したの!出てきて謝りなさいよ!!」
OL風のお姉さんが語気を荒げて後ろの人だかりに怒鳴りつける。
「・・・」
OLの言葉には誰も何の反応もしなかった。
「・・・変ね・・・」
皆、不思議そうに後ろを見やるだけで、誰が押したのかは見た人はいないようである。
「どうして・・・?」
OLの不満そうな声をかき消すかのように、電車がホームにすべるようにして入ってきた。
「大丈夫ですか!?」と駅員が駆け寄ってきたが、誰も怪我がない事を確認すると押さないようにと注意をして、すぐに現場を離れて仕事へと戻っていった。
「今の・・・わたし・・・?」
震えながらの蘭の声に、新一は冷静に電車に乗るように勧め、蘭の手を引いて、電車へと自分も乗りこんだ。
「蘭・・・、今の集団の中に、昨日お前がぶつかったって相手はいないか?」
そっと耳打ちした新一の言葉で、蘭は今電車に乗った相手をひとりひとり確認する。
「・・・・・・いない・・・みたい・・・」
やや、間があってから、新一が返事をした。
「・・・・・・そうか・・・・・・」
「ねえ、今のって、わたしが落ちるように狙ったんだよね・・・?」
「・・・・・・」新一は言葉を飲み込んだ。蘭を狙ったのかどうかは別として、あの中に、蘭が落ちかける直前まで殺気を放っている奴がいたの事には気付いていたのだ。
「・・・あのね、わたし、さっきも寒気がしてたの・・・。ファミレスで感じてたような・・・」
蘭の言葉に、新一は飲み込んだ言葉を吐いた。
「ごめん、蘭・・・俺も気付いてた・・・。」
「どうして謝るの?」
不思議そうに蘭がたずねる。
「・・・わざとじゃないにしても、危ない目に合わせちゃったからだよ・・・。」
新一は静かに、昨夜のあの事件に対しての自分の見解を語り始めた。
もちろん、他に聞かれないように細心の注意を払っている。
「あれは・・・通り魔じゃなく、計画犯罪なんじゃないかって思うんだ・・・」
蘭を抱き上げ、耳元でささやく。
「詳しい話は家に帰ってからしよう・・・。ここじゃまずい。」
新一の言葉に、蘭が不満気にえ〜っと声をあげる。
「事件が片付いたら行こう!・・・約束するから!」
自分が狙われているなら仕方ないか・・・
しぶしぶ蘭も承知して、一つ先の駅で乗り換えて帰る事になった。