不安な夜
誰にも見つかる事無く、蘭を連れて新一は家に辿り着いた。
蘭は、気を失ったまま、新一の腕に抱かれていた。とりあえず、新一は蘭を自分のベッドに寝かせると、博士に電話を入れた。
博士は新一の頼みを快く引き受けてくれた。その事に安心して、新一は受話器を置いた。
・・・それにしても。
さっきの鉄パイプはやけにタイミングよく蘭に向かって落ちた来た。それに、刃物で切ったようなロープの跡・・・。
タイミングから見て、蘭が狙われた事に間違いはなさそうである。でも、何故なんだ・・・?新一は蘭の寝ている自分の部屋へと急いだ。
「・・・・・・・ん・・・・・・。」
蘭が目を覚ましたのは、ちょうど新一が電話を終えて部屋に戻ってきたところだった。
「蘭・・・、大丈夫か?」
新一は心配そうに蘭を覗き込んだ。
「・・・?」
すぐにはその言葉の意味が分からなかった蘭だったが、一呼吸すると、自分に向かって落ちてくる鉄パイプの山の光景を思い出して、突然声にならない声をあげると身を竦めた。
「・・・・・・っ!」
「蘭!?」
蘭のおびえように、新一は蘭を抱き寄せていた。
「・・・蘭・・・もう、大丈夫だ・・・」
「・・・〜・・・っ」
蘭は新一の胸に顔を埋めながら、少しずつ少しずつ、落ち着きを取り戻していく。
「なあ、お前・・・」
狙われそうな心当たりは?と聞きかけて、新一は言葉を飲み込んだ。
今は必要以上に怖がらせる事はないか・・・。
俺が守ってやればいい事なんだし・・・。
もっと・・・蘭がもっと落ち着いてから・・・。
今はただこうして蘭を安心させてやりたい・・・。
蘭を抱く腕に、自然に力が入る。
「ん・・・オホン・・・!」「!?博士・・・!!」
新一は慌てて蘭から離れようとして、急に不自然に動いたせいだろう、バランスを崩して、後方に倒れた。
「お邪魔だったようじゃが、蘭君にこれを渡しておこうかと思っての・・・」
博士が蘭に手渡した紙袋の中には、新一も見覚えのある発明品がいっぱい入っていた。
「・・・博士、これ・・・。」
時計型麻酔銃、蝶ネクタイ型変声機・・・、キック力増強シューズ・・・。
「これを使って、家に電話を入れなさい。お父さんも心配しておるじゃろうからのぉ・・・。」
その中で、博士が蘭に手渡したのは、蝶ネクタイ型変声機だった。
蘭も、小五郎の事は気がかりだったのだろう、ほっとした様子でそれを受け取ると博士に「ありがとう」とお礼を言う。
・・・蘭に微笑みかけ、博士は新一の方に向き直ると、そっと耳打ちした。
「・・・好きな女性が一つ屋根の下・・・君の気持ちも分かるが、今の状況と蘭君の事をちゃんと考えるんじゃぞ?」
新一の顔が更に火がついたように真っ赤になる。
「どうしたの?」
「なっ!なんでもない!!」
新一は慌てて博士の背を押して、部屋の外に出ると、バタン!と勢いよくドアを閉めた。
新一はドアを閉めて、蘭に聞こえないようにと、書斎までぐいぐいと博士の背を押していく。
書斎の扉を閉めて、やっと新一は口を開いた。
「は、博士〜ぇ!!」
「ははは、図星だったようじゃな!」
「そんな事考えてもなかったよ!」
「ははは!・・・まあ、健全な証拠じゃて!」
「博士!!」
ゆでだこの新一を堪能するほどからかった後、博士は新一の本来の頼みである警報機を備え付けた。
これで、外からの侵入者があったら防犯ベルが鳴るから、夜でも安心して休める。新一はやっと一息ついた。
博士を見送ると、有希子の部屋を掃除して、新一は自分の部屋の蘭の所に顔を出した。
蘭に有希子の部屋を使ってもらおうと思ったのである。
だが、蘭の答えは予想と反していた。
「へ?ここに・・・?」
「うん・・・ダメ?」
蘭は上目遣いに新一を見あげる。
くそ、かわいいじゃねーか・・・。
新一は心の中で呟いた。
「・・・ダメじゃないけど・・・。じゃ、俺は親父の部屋を使ってるから・・・」
立ち上がりかけた新一のシャツの裾を蘭は引っ張った。
「?・・・何?」
「あ・・・、あの、一緒に・・・」
赤くなったのは新一だけではなかった。
「一人じゃ怖いの・・・」
あ、なんだ、そういうワケか・・・。
新一の肩の力が一気に抜ける。
まあ、あんな目にあったばかりだし、無理も無い。
蘭の怖がりは今に始まった事じゃないし・・・。
新一が布団を運んで来る事を告げて、部屋を出かけた所で蘭が声をかけた。
「一緒に寝ちゃダメ?」
蘭が不思議そうにたずねる。
「い・・・っ、一緒って!」蘭は新一の心の中など知らず、大胆なおねだりをした事にも気がついていない。
「・・・だって、怖いんだもん・・・。」
まあ、今の蘭の姿を見て、あれこれ考える新一の方がおかしいのである。
「そ・・・それだけはダメ!!」慌てて、新一はドアを閉めた。
たくもう・・・、あいつ、ちゃんと考えて言ってるのか・・・?
新一は客間から布団を一組出して、ため息をついた。
新一が戻ってくるのをビクビクしながら待っていたらしい、蘭は身体を起こして、新一の姿を確認すると安心したようににこっと笑い、また横になりながら、新一が布団を敷くのを嬉しそうに見ていた。
「・・・なんだよ?」
「ん?・・・なんでもなぁ〜い」
布団を敷き終えると、新一も横になった。
「ね、新一・・・?」
「んん?」
新一は照れ隠しに不機嫌そうに答える。
「・・・あのさ、手、つないでいい・・・?」
・・・。
新一は、蘭に背を向けながら、無造作に右手を差し出した。
新一の手を、蘭の小さな手が握る・・・。
・・・・・・・・・震えてる・・・?
「・・・蘭・・・」
振り向きながら、新一は蘭に声をかけるが、返事はなかった。
手の力も抜けていた。
余程怖かったのだろう・・・。
蘭の言葉にあれこれ考えていたが、蘭は新一に頼りたい一心だったのだ。
新一は、蘭の手を握り返しながら起き上がると、蘭の身体を抱きかかえ、自分もベッドに入った。
蘭の身体はすっぽりと腕の中に収まる。
蘭の身体のぬくもりがシャツを通して直接伝わって心地いい・・・。
「ばっかみて〜・・・博士が余計な事言うから、変に意識しちまったじゃね〜か・・・。」
新一は深いため息をつきながらそう呟くと蘭の肩を抱き寄せ、心地よいぬくもりの中、眠りについていった。