狙われた蘭
蘭との食事も久しぶりだった。
二人はどこにしようかと散々迷った挙げ句、公園の脇のファミレスに入った。やはり、子ども連れで入るのにはこういう所の方が便利だったからである。
「今度はもっと雰囲気のある店に行こうな。」
新一がにっと笑う。蘭もつられて笑顔を見せた。
考えてみれば不思議なもので、ついこの間までは小さな男の子と女子高生だったのが、今は小さな女の子と高校生に立場が逆転してしまっている。ふっと新一の頬から笑みがこぼれた。
「・・・何?」
蘭は不思議そうにその笑みの理由をたずねる。
「いや、・・・嬉しいなと思って・・・。」
「?何が?」
頬杖をついた新一があたたかい笑顔で蘭を見つめる。
「・・・俺が小さくなった時は、蘭に守られてばっかだっただろ・・・。今度は立場が逆だなと思ったらさ・・・。」
「・・・コナン君だって、わたしの事守ってくれてたじゃない・・・。包帯男の時も・・・大阪で刺されそうになった時も・・・それから・・・」
「あの頃は、俺のせいでお前を危険な目に合わせるわけにいかないって必死だったしな。」
ほんの少し前の事なのだが、懐かしい過去を思い返すような表情で新一は遠くを見つめて微笑んでいた。
「・・・ほんとに・・・それだけ・・・・・・?」
蘭が悲しそうに呟いた言葉は新一の耳には届かなかったらしい。
新一が、えっ?と聞き返すのと同時に頼んだメニューが運ばれてきて、会話はそこで途切れた。
新一の旺盛な食欲に、蘭は小さくなった事も忘れて、世話をやく。
「ほら、ご飯粒ついてる!」
椅子の上に立って、思い切り背伸びをして新一の頬のご飯粒を取る。
「ん?・・・ああ・・・。」
新一も、素直に蘭にご飯粒を取らせる。
「も〜!もっと落ち着いて食べなさいよ。そんなんじゃ消化に悪いわよ?」
「へ〜い」
小さくなっても蘭は蘭である。
新一は嬉しさに目を細める。
・・・ふと、隣の席のおばさんの視線に気がついた。
「可愛いわね、娘さん・・・じゃないわね、妹さん・・・かしら?」
ハハ・・・。新一と蘭は、顔を見合わせながら笑いをこらえていた。
おばさんは間もなく席を立つとレジへと向かっていった。
「ホントの事知ったら、びっくりするだろうな、あのおばさん・・・。」
ボソッと新一が呟く。
「ね!」
蘭も同意する。
「幼なじみです!って言ったら変に思うだけだろうね!」
蘭の言葉に一瞬、新一が詰まった・・・。
「・・・な、なあ、その幼なじみっての・・・」
言葉を続けようとして、蘭の様子がおかしいのに気がついた。
「・・・どうした?蘭・・・」
「・・・なんか、寒くない・・・?」
そう言いながら、蘭は身をすくめる。
「寒い・・・?」
新一にはそんな風に感じられない。
薬の影響かとも思ったが、APTXを飲んだ時の状態なら新一が一番よく分かっていた。
「・・・さっきから、寒気が・・・」
蘭のセリフに、新一は自分の額を蘭の額にこつん、と合わせる。
「熱もないみたいなんだけどな・・・。とにかく、今日の所はもう帰ろうか。風邪のせいかもしれないしな。」
新一は、レシートを手に取ると、レジへと急いだ。
どれくらい歩いただろう。
新一は、背中の蘭の身体がなるべく揺れないように気をつけながら、ゆっくりと歩いていた。
「蘭、大丈夫か?」
新一の背に揺られて、蘭が答える。
「もう大丈夫みたい・・・。降ろして、自分で歩くから。」
新一は足を止めた。
「・・・ほんとか?」
「うん・・・お店を出て、少ししたら寒気も治まったし・・・。薬の副作用、なのかなぁ?」
「・・・どっちかっつーと風邪だろうと思うけど?・・・今夜はあったかくして寝なくちゃな・・・。」
新一の背から、地面に足をついて、蘭が降りる。
「心配し過ぎだよぉ。ほら、こんなに元気だもん!」と、蘭が新一の前から勢いよく駆け出す・・・。
と、その時、蘭が横を通り抜けようとしたトラックの荷台の荷物が、かすかに揺れるのが新一の目に映った。
「・・・蘭!!」
新一が蘭に駆け寄るのと殆ど同時に、蘭めがけて、トラックの荷台から大きな鉄パイプが転がり落ちてきた。
グワングワン・・・と重い鉄パイプの落ちる大きな音が辺りに重く響いた。
二人は・・・無事だった。
新一の腕の中で、気を失ってはいるが、蘭にもたいした怪我はなさそうである。新一も、とっさに蘭を抱えて飛びのいた時の擦り傷以外は怪我もなかった。
辺りは、突然の事故に驚いた人達でごった返している。
「・・・荷物が崩れたんですってよ。」
「まあ、怖い!」
「誰も怪我しないで済んで、よかったわね〜・・・」
新一は、蘭を壁にもたれかけさせると荷物を結んでいた荷台のロープを確認しに行った。
「・・・・・・・・・・」
ロープには、明らかに人の手で切られた形跡があった。
「偶然・・・?にしちゃあ、出来過ぎのタイミングだったな・・・。」
どちらにしても、新一が蘭をおんぶしていたら、避けようもなかった。二人が無事なのは、幸運としか言いようがない。
誰かが事故という事で、親切にも警察に連絡を入れたらしい。遠くからサイレンの音が近づいてきた。
「まずい!」新一は荷物を拾い集めると、蘭を抱きかかえて、足早に立ち去った。