小さくなった蘭

小さなカプセル状の薬が出てきた事がすべての発端だった。

「・・・なんだろ?」蘭は2つあったカプセルの一つを手に取ると、陽にかざしてみた。

「これかな・・・風邪薬・・・」

新一の家に遊びに来たはいいが、頭痛がひどくて風邪薬をもらって飲む事になったのである。
救急箱の中の他の薬のラベルはどれも腹痛だの、睡眠薬だのとラベルが貼ってある。風邪薬と明記してあるものはない。この薬は別の所から出てきたものだ。

「まあ、薬だし、害はないでしょ」と、蘭は水と共に薬を飲み込んだ。


しばらくして、激痛で気を失っていた蘭は目を覚ました。

身体中がまだ痛い・・・。

薬のせい・・・?蘭がそう思いながら起き上がろうとすると、自分の手足の変化に気がついた。

「なに、コレ!?」

服が異様に大きくなっている・・・いや、自分が縮んでしまったのだ!

「ま・・・まさか・・・」鏡を探して自分の姿を写してみる。「あ・・・・・・!」新一にコナンになった時の事を聞いてはいたが、さっきの薬がそうだったのかと蘭がたまらず悲鳴をあげた。と、その悲鳴を聞いて、新一が飛んできた。
「どうした!?蘭!・・・・・・・・・・・・・あ!?」新一も驚いた様子で立ちすくんだ。
「ど・・・どうしよ〜・・・新一〜ぃ!」涙を目にいっぱい溜めながら蘭は新一に助けを求める。しかし、新一も困ってしまった。

「今、灰原の奴が解毒剤全部持って大学に研究しに行ってるんだよ・・・もしかしたら博士の所に少し残していってるかもしれないから、ちょっと待ってな!」新一が駆け出して行くと、蘭は慌てて後を追った。


最悪だった。博士の所にも解毒剤は無く、志保の帰りまで待たなければならなかった。

「今日中に帰って来るんでしょ?」という蘭の問いかけに、博士は申し訳なさそうに答える。
「すまんが・・・、あと5日か、1週間は・・・」
「じゃあ、取りに行くわ!どこの学校?」
そう言った蘭に、今度は新一が答えた。
「・・・イギリス・・・」えっ、と蘭が絶句する。
「あっちの大学に知り合いがおるとかで・・・、観光がてらの研究旅行なんじゃよ。」博士の説明も蘭の耳には聞こえていない。

「でも、まあ、1週間以内には元に戻れるわけだし・・・。」とムードを明るくしようと新一の発言。そりゃそうだ。新一はもう元には戻れないかもしれないって位の状況がずっと続いていたんだから。

「おじさんに説明しなきゃな・・・」そう、例の薬の事は、志保をかばうためともう一つは薬を悪用されないためにその存在を他に漏らしていないのだ。もちろん、小五郎に対しても例外ではない。

薬の事を知っているのは、博士と新一、平次・・・薬の考案者の志保、それから、新一の父、優作と母有希子、蘭の7人だけである。

「お父さん、今日は浮気調査の張り込みで帰らないよ」だからこそ、新一の所に遊びに来られたのである。新一が戻ってきてからというもの、小五郎は蘭の交友関係にやたら厳しくなったのだ。

「それだけ愛されてるって事だろ?」新一はそう笑うが、蘭はたまったものではない。

「・・・そか・・・。なら、おばさんの所に・・・」
「お母さん、裁判が始まって、それどころじゃないもん・・・」
自分で言っていて、一層気落ちしてしまったらしい。蘭は、目に涙をいっぱい溜め始めた。
「うわっ、バカ、泣くな!そ・・・園子んちは!?」
「それはいかんじゃろ、天下の鈴木財閥・・・人の出入りもさすがに多いじゃろうし、人目について薬の存在が知られたら・・・」
今度は博士に言われて、蘭は泣きじゃくり始めた。

「おい!泣くなって!・・・他が駄目なら俺んちに来ればいいんだから!」

ものすごく大胆な事を言ってしまったと新一が気がついたのは、蘭が目を輝かせた後だった。

幸い、蘭は気がついていない様子で、新一に抱きついた。「うわっ!」新一は、高校生の蘭に抱きつかれた想像までしてしまい、慌てて鼻をつまんだ。


「服かぁ・・・さっすが博士、ダテに灰原と暮らしてなかったな」

博士のアドバイスで、二人は今の蘭にちょうど合うサイズの服を探しに行った。

灰原の服はもう残っていなかったので、博士から借りる事もできなかったのである。

ちなみに今着ているのは、コナンだった頃に着ていた新一の服である。とは言っても、例の蝶ネクタイ姿ではなく、当時、蘭と買い物に行って買った服だった。

今は、新一に手を引かれて小さくなった蘭の姿・・・。

「なんか、変な感じだな!」ふさぎがちになってしまう蘭を気遣い、新一が話し掛ける。
「え?」
「あの頃は、逆の立場で手をつないで歩いてたんだからな・・・。」
「・・・うん・・・ねえ、コナン君と初めて会った時もこうして手をつないで帰ったんだよね!・・・覚えてる?」
「ん?・・・あ、ああ・・・。」
新一は顔を赤らめて蘭から視線をずらした。
新一の表情を見て、蘭も思い出したらしい。

「ね、新一?好きな子いる?」

ぎくっとして、新一は咳込んだ。

「ほら!気になる子とかいるでしょ?学校に・・・」
「い、いねーよっ!」

あの時の会話だとすぐに分かったのだが、コナンの時は素直に言えた事も、新一ではままならない。

「ふふ・・・」と笑って、蘭は寂しそうに俯いた。

その表情に、新一は思わず口を開いていた。

「・・・俺はいるよ!すっごく気になる奴!そいつは・・・気が強くて意地っ張りでそのくせ涙もろい・・・みょーちくりんな・・・」
蘭を少しでも元気付けようとの気持ちからだったのだが、真っ赤になってしまって、その後が続かない・・・。

「元に戻ったら、トロピカルランドに連れて行ってやるからな!元気だせ!」
「うん!」蘭の笑顔が少し戻ってきた。


女の子の買い物は、たとえ相手が子どもでもやっぱり時間がかかるのな・・・。
新一はため息混じりに呟いた。

帰り道はもう真っ暗である。

何着か服を買って、二人は帰路についたのだが、公園の前に差し掛かった所で、人だかりが出来ていた。

「・・・なんだ?」
事件と思えばどこまでも・・・新一は蘭を残して人だかり目指して駆けて行った。
「ちょっ・・・新一ぃ!置いてかないで!」
蘭も慌てて新一を追おうとした、その時だった、ドンっと人にぶつかり、小さな蘭は弾き飛ばされた。
相手も予測しなかったのだろう、転んで懐を押さえている。
「あ、ごめんなさい、大丈夫ですか・・・?」
蘭が声を掛け、男が振り返りかけたその時に、蘭が追ってこないのに気付いて新一が引き返してきた。
「らぁ〜ん!何やってんだよ、そんなとこで!」
「あ、今ね、男の人とぶつかっちゃって・・・」
そう言いながら振り向くと、そこに男の姿はもう無かった。
「あれ・・・?」
「誰もいねーじゃねーか・・・。」
「変ね・・・確かにいたんだけど・・・。」

散らばった紙袋を二人で拾い集めて、新一は蘭を抱きかかえると現場へと急いだ。


「通り魔の犯行か・・・?それにしては手口が妙だな。・・・死因は・・・ナイフで頚動脈をざっくり・・・か。まだ死んでからほんの少ししか時間が経ってない・・・。」
新一が被害者の女性の検死を始める。とは言っても、素人の検死だ。警察がやってきて、すぐに追いやられそうになる。

「工藤君!」
親しみを込めての呼び方に、新一を追いやろうとする刑事の手が止まった。
「目暮警部!お知り合いなんですか!?」
失礼しました、と刑事は頭を下げて離れた。

蘭は念の為にとフードを被った。

「君がいてくれるんなら、解決間違いなしだな!」
「・・・だといいんですけど・・・犯人はもう逃げてしまったかもしれませんよ・・・」

「・・・・・・ん?その子は?」
警部が新一の足元に視線を落とした。

「あ、親戚の子で・・・。今、事情があって僕が預かってるんです。」

君も大変だねと警部は笑いながらそう答えた。

「どれ・・・君の名前は?」
警部は小さい頃の蘭の顔を知っている。
バレるのではとヒヤヒヤしながら蘭は俯いて新一の足にぎゅっっとしがみつく。

「すいません、警部・・・この子、人見知りが激しいんで・・・。」
新一の言葉に、警部は頭を撫でようと伸ばしかけた手を引っ込める。
「ん?おお!そうか・・・」
危なかった・・・。
とりあえず、犯人は通り魔という事で、新一の推理も披露されないまま、警察の人たちも皆引き上げていった。

「ごめんな、蘭・・・やっぱ怖かった?」
新一の問いかけに、蘭は苦笑した。
「そりゃ怖かったわよ!新一ったら、あたしの事置いてどんどん行っちゃうんだもん!」
「あ、そっちの方か・・・。じゃ、お詫びに食事でもどう?」と誘われ、蘭は二つ返事でOKした。

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