コーヒーと番茶
「嫌われてしまったかしら・・・。」
落ちたばかりのコーヒーをカップにこぽこぽと注ぐ。ふわりとコーヒーの匂いが改めて部屋の空気と混ざり、浸透していく。そんな中で何気なく口に出されたその言葉に、既に手の中に湯のみを包んでいた会話の相手は「は?」と一言声をあげた。
「・・・誰に?」
誰にと聞かれて「新しい友人」と返すと、思わず眉間に皺を寄せたのは博士の方だった。
「・・・・・・コナン君にかの?」
「ああ・・・」
博士に言われて初めて、そっちに受け取られる可能性もあったわね、と思い至った。
「違ったかね?」
不思議そうに博士が首を傾げた。
博士には、最初に家に招いたその晩に、彼が来た事を話した。何と言っても博士は家の主だ。彼の知らない所で勝手な事をするわけにはいかない。口には出さなかったそんな思いが博士には伝わったのだろう。「哀君に友達が増えるのは賛成じゃし、ワシに気兼ねをする必要も無いんじゃよ。」と温かく笑ってくれた。
「彼の、大切な人・・・」
そう、いつも会話に出てくる彼女に、一度会ってみたくて頼んだのだった。
彼女の事を話している、その彼の表情はとても暖かで、柔らかで。その表情だけで、彼がどれほど彼女を大切に想っているのかが分かるから。どんな子なのか会ってみたかったのだ。・・・勿論、彼自身は、彼女に対する気持ちまでバレているだなんて気が付いていない様子だったけれど。
「ああ、藍君か・・・」
「ええ。」
彼の想いに気付いていない人間は皆無と言って良い程、彼の周囲には彼女の存在が知れ渡っている。吉田さんに至っては、「取られちゃった。」と拗ねてみせるくらいだ。だが、実際に会った事のある人間はかなり限られてくる。勿論、博士もその例外では無かった。
「で、どんな子じゃった?」
「・・・・・・似てたわ、彼女に・・・。」
くすくすと零した笑みに、博士が明らかに戸惑いの色を浮かべた。ああ、比喩では伝わらなかったかしら、と「江戸川君と好みが似ているという意味よ。」と口にすると、博士は一層複雑そうな表情を浮かべた。
「どうしたの?」
「・・・いや、新一からは哀君にそっくりだと聞いておったから・・・」
「え・・・?」
少しの空白の後、ぷっと吹き出したのは私の方だった。
ひとしきり笑い終えるまで、博士は待っていてくれた。
「・・・そんなにおかしいかの・・・?」
「ええ・・・。彼は工藤君を越える探偵の資質がありそうよ。人間に対する洞察力、観察力は今の時点でも引けを取らないわね。」
一口、コーヒーを啜る。
「彼は、彼女と話している姿を私に見られたくなかったみたい。かなり意識して私とばかり話してたわね。それもかなり専門的な話題で、私の気を逸らそうとしてたわ。でも、彼女の様子がいつもと違ったのかしら、大丈夫かって話し掛けたのよ。」
「ほぉ・・・」
「その時に彼女の微笑った表情がね。すごく似てたのよ。」
だから、分かってしまったのだ。彼があんなにも必死に隠そうとしていたものが。
「女性の好みまで遺伝するのかしらね、って言ったら、彼、真っ赤になって怒るんだもの。」
勿論、彼が怒るのは分かっていたから、彼女には聞こえない様に気を使ったのだけれど・・・。却って耳打ちなどして不安がらせてしまった様だった。だから、はっきりとは言えないまでも匂わせる発言は繰り返したのだ。だが彼女は気付く様子もなく、あの笑顔を見せてはくれなかった。その代わりに、見せてくれたのは、覚悟を決めた様な、強さを湛えた、笑顔・・・。
「後ろに置いて大切にされるより、隣に立ちたい・・・か・・・」
彼自身に断る事なく、強さを手に入れようとひたむきに上に進もうとする。そんな強さも、似ていると思う。
彼女なら、彼の隣に立っていけるだろう。彼もそれを望んでいるだろうし。
また、来てくれるだろうか。
二人だけの時間が終わろうとするその時に交わした、指切り。
・・・コーヒーとカフェオレの美味しい淹れ方を教えるという約束を、果たしに。
あとがき
はい。藍ちゃんの名前を決めるに当たって「黒」と「青」で「藍」になるじゃないかという発想で、というのは前に書いたと思うのですが。くぬぎが「藍」の文字に目を留めた最初のきっかけは「蘭」に漢字の形が似てる事だったんですよ^^;
(補足ですが。快ちゃんは純粋に「黒」と「青」で「藍」と付けたんですよ。「蘭」の字に似せた形の物をというのは、くぬぎの独断と偏見です、一応・・・。)
快ちゃんと青子ちゃんの娘という事で、蘭ちゃんに似る要素は十分兼ね備えてましたし、でも、哀ちゃん的ポストも欲しい、と。そういえば、と思い出したのがまだ宝睦となっていた時点で出てきていた、青子ちゃんのお母さん。哀ちゃんと同じかな?な髪の色だったので、そうか、隔世遺伝なら!と上手くはまってくれたのが藍嬢vvv^^;
青子ちゃんのお母さんは「まじっく快斗」の作中には出てきていませんので。念のため。