陽光
芽吹き始めたばかりの木の葉から漏れる陽光を浴びながら、少し先を駆けていた。そんな我が子が、お父さん、と呼びかけながら嬉しそうに振り向いて。その小さな手のひらをいっぱいに広げて大きくあげた腕を振った。少し前なら信じられない光景だ、と思わず苦い笑みが零れた。
どこか冷めた瞳をした我が子は、どうやら知能の面では俺の血を色濃く受け継いでしまったらしい・・・。本来なら子どもが見る事は適わない。そんな現実を見ながらも、この子は俺達の前では・・・所謂、オトナの望む子どもを演じていた。
その年齢に見合わないあの子の、妙に人という生き物を達観し、諦めてしまった様な眼差しが抜けて。最近こっちがギクッとするくらいに、柔らかく、微笑う―・・・。
それはまだ、外見の年齢には見合わない微笑み。
いつだったか、子どもの頃からあんな悲しい瞳をしていて藍は大丈夫なのだろうかと、青子に漏らした事があった。
「快斗の娘よ?」
青子はそう言って笑った。いつか、その知能に成長が追いつけば、藍は藍になるわよ、と。
いつか、藍が本当の意味で微笑う事が出来る日が来ると、二人で待っていた。
「なあ・・・藍の奴、どうして」
「・・・・・・快斗には分からないわよ、きっと」
くすくすと、青子が笑う。どーせ俺は家をちょこちょこ留守にしてるし。青子の様に間近で藍を見てはいられないから・・・藍を変えるきっかけにも気付きづらいんだろうけどさ、とぶつぶつ呟いていると。だって、青子と同じなんだもの、と困った様に笑った。
「・・・どういう意味だよ・・・」
「・・・・・・時計台の下で声を掛けてもらったのよ。」
「へ?・・・時計台?誰に?」
「例えに決まってるでしょ!」
そうね、と青子が口にしたその名前に、心臓が跳ねた。
「・・・快斗?どうかした?」
「あ、いや・・・」
話を仕切りなおそうと、再び青子がその名を口にした。
工藤・・・工藤って・・・・・・・・・
でも、まあ、工藤って苗字はこの世でアイツだけじゃない、という微かな望みも、「ああ、そうそう、思い出した!コナン君よ、工藤コナン君!」という嬉しそうな青子の声に粉砕された。
この日本でその苗字にその名前。まさかと思うより絶望が先に来た。
ああ、と複雑な心境で深く吐いた溜息に、青子が、ふっと笑った。
「そんなに心配しなくても・・・悪い子じゃ無いわよ、藍の目を信用しなさいよ。」
「・・・・・・・いや、そういう心配じゃなくて・・・」
じゃあ何の心配?と青子は俺の目を覗き込んで笑った。
「大丈夫よ、とっても素直でまっすぐな子みたいだし。」
「え・・・藍がそう話してたのか?」
「うん、・・・最初の頃はね。でも、最近は話してくれなくなってきた。」
「って事は、そいつとケンカでもしたのか?」
そうじゃないわよ、と青子が微笑んだ。
「あの頃・・・少し寂しそうに、でも嬉しそうに青子の話、聞いててくれたお父さんの気持ち、今ならちょっと分かる気がするな―・・・」
へ、と漏らした声に、青子がすい、と人差し指を俺の口元に持ってきた。
「良い?あんまり詮索しないであげてね。」
「あ、ああ・・・」
そうだな、と進んだ道の先に居る、小さな人影を目で追うと、嬉しそうににこにことこっちを見ている。
そうだな、泣かせたくねーし・・・な。
謎は謎のままにしておく事で守れる笑顔があるんなら、それで良いか。
色づき始めた木々の向こう、手を振る藍と、隣に立つ青子の笑顔が曇る事の無い様に、と見上げた空に願いをかけた。
あとがき
コナン#なので、快ちゃん視点のこの話はどうしようかと迷ったのですが、Jrが居なくてもまあ、世界は地続きになってるのでこっちに納めてます^^;(名前だけならJrも出てきてますし・・・)
ここで快ちゃんに言わせようとしていた台詞があるのですが。うん、それはまたの機会にv