君が生まれてきた理由。



人は誰しも一人

たった一人




穏やかな昼下がりの太陽にさらされ、金色の木の葉が何処からか舞い落ちる。


庭に敷き詰められた色とりどりの絨毯は、乾いた音を立てながら踊る様に風と戯れる―・・・。



静かな庭先ー・・・、その屋敷の外見よりも広く感じるのは、きっと余計な物が何も無いからなのだろう。

何度か公園で顔を合わせる様になって、色んな話をする様になった。


手品は勿論、最近観たテレビの話や、お互いの学校で流行っている事・・・話題に事欠かく事は無かった。

一度、工藤くんに読みかけの推理小説の話題を出された時だった。

そのトリックとやらが、知っている手品のトリックに共通する所があったから

私なりに犯人が使ったと思われる手順を話して、それが可能な人物を指すと、彼は驚いていた。


もっとも、彼は違った視点から犯人を見破っていたらしいけれど



「お父さんみたいだ!」

その言葉が彼の最大の賛辞なのは、彼の表情ですぐ分かった。・・・彼の表情は読みやすいから。・・・だから、工藤くんの大好きなお父さんに会ってみないかと言われた時は、正直嬉しかった。新聞や・・・テレビで騒がれている彼は、お父さんに似ているというのが第一印象だったから・・・。


・・・工藤くんのお父さんだから・・・人懐っこい人じゃないかしら・・・


・・・何故だか、寂しそうな表情で窓から外を眺めるお父さんの表情が、頭に浮かんで。・・・胸がぎゅっと締め付けられる・・・。



時々・・・


そう、本当に時々だけれど・・・

お父さんは一人で居る時にそんな表情をする事があって・・・


初めてそれを知ったのは、幼稚園の頃・・・偶然覗いた部屋の中で、お父さんは一人、そんな表情を浮かべて窓の外を見ていた。

あまりに私の知っている父とは違ったから・・・思わず「お父さん?」と声を掛けた。

「うん?どうした?」

そう言いながら振り返ったお父さんは、いつもの様に微笑んでいた。




お父さんはいつも明るくて、手品で人を驚かせたりして周りにいる皆を楽しませているけれど・・・



誰にも気付かせないそれは、見えない壁。




それは、厚くて高くて・・・


その向こう側にいるお父さんは見えるのに

ガラスみたいに透けて見えるのに


越えられない壁・・・



きっと、お母さんも、私もそこには居ない。



その壁を感じる時、お父さんがとても遠く思えるのは事実だった―・・・





服や髪が乱れていない事を確認すると、顔を上げて、少し高い所に付いている呼び鈴を鳴らした。


「はぁい!」

重そうな玄関の扉の向こうから、聞き慣れた声が聞こえて、ちょっとホッとした。ガラにも無いけれど・・・緊張していたらしいと気付いて、思わず笑みがこぼれた。

「・・・藍ちゃん!」

人懐こい笑みで出迎えた彼に連れられて、大きなお屋敷の中に入る。
太陽の光の差し込む明るい玄関を抜けて導かれ・・・品の良いドアを開けると、書斎には眩しい光が溢れていた。

思わず細めた目をゆっくりと開けると、筒状の部屋の真ん中には大きな木製のデスクが構えていて・・・その向こう側には採光の為もあるのだろう・・・随分高い所まで窓が占めていた。

「お茶淹れてくるからここでちょっと待っててね!」

そう言い置いてパタパタと部屋を出て行く。工藤くんの薦めるままに部屋の中に進む。

ずらりと並んだ本の数々を伝って上に向けられた視界には、図書館に居る様な光景が広がっていた。

工藤くんに聞いた事があったから、特別驚いたりはしなかったけれど・・・それでも吹き抜けの円形状の部屋の壁一面が蔵書で埋まっているその光景は、私が知っている世界の物とは異質だった。


確か工藤くんの話だと、海外の本も置いてあると言う。

・・・英語の物だけじゃないとも。


お父さんなら読めるんだろうけど・・・と苦笑していると、再び背後でドアが開く音がした。


「・・・工藤くん?」

そう言いながら振り返り・・・目に飛び込んできたのはお父さん・・・そっくりの男の人だった。

一瞬、目の前にいる人をお父さんだと錯覚してしまった程に・・・




目を見開いた彼は、私の顔をじっと見ながら何か言いたそうに口をぱくぱくと開いて・・・

「お邪魔してます」と言った私に返ってきたのは予想もしない一言だった。


「・・・はい・・・ばら?」


微かに聞き取れたのは、その名前の様な言葉だけだった。


時計がどこかでコチコチと音を立てて・・・時が止まっているかの様に、彼は微動だにしない。

「お父さん?何してんの?」
工藤くんの声が背後から聞こえて、慌てて彼は振り返った。


・・・私自身もここまでそっくりだとは思ってもみなかったから驚いたけれど。

でも、工藤くんのお父さんが私に驚いた理由が全くと言って良い程に読めない。



自分のお父さんの背中を押して中に入って来た工藤くんが、私達の真ん中に立った。

「藍ちゃん、この人がボクのお父さん。工藤新一って言うんだ。・・・お父さん、この子が藍ちゃん。」

「あ、ああ・・・君がコナンの友達の・・・」
そう言い置いてから、彼は私の前に跪いて・・・すっと右手を差し出した。その大きな手に、小さな手を重ねた。

「黒羽藍です・・・よろしく」

「黒羽・・・」
意味深に、その私の名前を飲み下す様に繰り返し、彼はじっと私の顔を覗き込んだ。

「・・・君の髪の毛の色は・・・天然?」
「・・・染めてるとかじゃありません。」
「あ、ごめん・・・悪い意味じゃないんだ、・・・その・・・知ってる人に似てたから・・・」
悪意は感じられなかったから、バツが悪そうにそう言いワケをする工藤くんのお父さんにふっと笑ってしまった。

「・・・私の母方の祖母がこういう色だったそうで、祖母に似たのだろうと言われてます」
「そう・・・」
「そんなに似てますか?」
「・・・・・・・いや、その・・・彼女は今はもう子どもじゃないんだけど」

照れくさそうに頬をポリポリと掻く・・・工藤くんのその仕草は、お父さん譲りだったんだ・・・と気がついた。


きっと、お父さんも工藤くんと同じで・・・温かい人なんだなと感じられたから。

自分でも驚く程、素直に微笑んでいた。

「私もです。・・・・・・父にそっくりで・・・一瞬見間違えました。・・・工藤くんも似てると思ったけれど・・・お父さんはそれ以上にそっくりで」



笑みと共に握手を交わす・・・握った手は・・・ーその微笑みと同じ様に温かかった。










あとがき

はい、ついに出ました^^;禁断の遭遇っ(ぐはっ)

いい・・・いいんだ、こっちはどこまでも突っ走るぞおっ><;;;と心に決めつつオロオロオロオロオロ(笑)


藍ちゃんと新一パパとの出会いって事で〜・・・後編に続きます^^;;;(またかぃ)