気持ちの温度。
指先の温度―
気持ちの温度―・・・
伝える温度と
伝わる温度・・・
いつしかお互いに交じり合って調和する
不思議な関係・・・
蘭に何か怒ってるわけじゃなかった―・・・
ただ、たまたま虫の居所が悪かったのだ。
「ただいま」
いつも通りそのドアを開ける。
冷たい風の吹きすさぶ外に比べて、中は穏やかで温かい空気が満ちていて―・・・冷たい指先がジンと痛んだ。
「おかえりなさい。ご飯は?」
「いい・・・」
血まみれの死体を目の当たりにした直後。
今更、食事がノドを通らないなんてデリケートな事を言うつもりもないが
もう日付も変わったこの時間に、食事なんてとったら胃にもたれそうだ。
「・・・顔色悪いみたいよ?」
「・・・・・・・暗いからそう見えるんだろ」
心配そうに覗き込む蘭に、不機嫌な表情にその言葉・・・我に返るのが遅すぎた。
そんなオレの態度に、目の前の蘭は子どもみたいにきょとんとしている。
しまった、と思った瞬間
蘭はただ、くるりと背を向けた。
「ら・・・蘭・・・」
躊躇いがちに呼ぶ声を無視して、蘭はすたすたと行ってしまった。
吐いた溜息に自分がへこまされる。
別に、蘭にこのもやもやした感情をぶつけるつもりなど無かったのだが・・・結果的に鋭く研ぎ澄まされた棘が、蘭を傷つけてしまった事に相違無い。
かじかんだ指先でボタンを外すと、ソファの背に脱いだ上着を放り投げて、どかっとそこに身体を投げ出した。軋んだ音とともに、身体がゆっくりとソファに沈み込んだ。
「・・・・・・蘭は関係ねーのに・・・バーロ・・・」
・・・それを胸に刻み付ける様に、己の愚かさを口にするー・・・
守りたいものを傷つけた自分を、それ以上に傷つけたくて
もう一度吐いた深い深い溜息と共に、意識もゆっくりと闇に沈みかける。
「・・・こんな所で寝てると風邪ひくわよ・・・?」
そっと耳元で囁かれた声・・・
夢の中かと思う程にそれは優しく響いて
正気に戻るのに一瞬間が空いた。
「起きられる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・あ、ああ・・・」
すぐには戻らない意識の糸を、手繰り寄せながら起き上がると、目の前にはティーカップがあった。
「?」
「・・・朝から何も口にしてないんでしょ。・・・ミルクティなら胃にもたれないかなと思って」
空腹にいきなりコーヒーじゃ、胃に来るかもしれないからねと、目の前で微笑む。
差し出されたカップを両手で受け取ると、まだ半分は戻らない意識のまま、そっと口をつけた。
ゆっくりと喉を通る温かなそれは
身体の中をゆっくりと
ゆっくりと
凍て付いた胸の内に染み込むかの様に
鈍くなっていた罪悪感と一緒に、身体を満たした。
「・・・熱かった?」
カップの湯気の向こうの蘭は、心配そうに首を傾げて
「悪かったな・・・」というオレの言葉に再びその大きな瞳を見開いた。そして・・・ゆっくりと柔らかく微笑んで
外は寒かったでしょ?と・・・そう言った。
気がつくと、さっきまで冷たいと感じていた自分の指先が、カップの温もりに暖められていた。
「・・・温かい・・・」
そう呟いた言葉も、温かいミルクティに溶けていった。
冷たい夜
温まった指先・・・
あとがき
ささくれだった気持ちに一番効果的なのは、何気ない優しさかなぁと・・・
くぬぎ自身がかなりささくれだった時に、そういう気持ちに触れて、ふと我に返る事が出来まして・・・
こんなんくぬぎらしくないやと・・・笑い飛ばせるのは、きっと支えてくれる人達がいてくれるから・・・
ありがとう^^