おもかげ

コナンは、傘を少し傾けて空を仰いだ。
暗い雨雲に覆われながら、小さなビルが見える。
コナンの祖父、小五郎の事務所・・・今は小五郎が使っていないので、新一が使っているのだが・・・が見えた。

ここに来るのは初めてではなかったが、今日のように一人で来るのは初めてだった。

「お父さんも結構うっかりしてるんだよね・・・」
新一の忘れ物の携帯をちゃんと持ってきている事を確認して、再び上を見上げる―・・・。
ジト目で事務所の窓の文字を見上げながら、コナンは上へと続く階段をゆっくり上って行った。

事務所は電気も点いておらず、人気もなかった・・・。
「事件・・・で出かけちゃってるのかな・・・」
蘭には、いなかったら事務所の机の中に入れておけばいいと言われていたので、コナンは躊躇う事無く事務所に明かりを点けた。
新一の机に座ってみる。
憧れの父親に少し近づけた気分で、コナンは事務所を見回した。

少し大胆になったコナンは、新一の机の引き出しを開けてみる。
「わ・・・メガネだ・・・!」
メガネなど、誕生日の時以来である。コナンはひょいっとメガネをかけて、もう一度事務所を見渡した。
「なんか、お父さんになった気分だ・・・!」
・・・と、ふいに・・・ドアが開いて、女の子が事務所に入ってきた。
「だ・・・誰っ?」
女の子の声が事務所に響いた。
「あ・・・えっと・・・」
誰もいないと思っていたので、コナンは驚いてまともに口をきけない。
相手の女性も、目を大きく見開いて、コナンを見つめていた。
少しずつ、その両目が潤んできているのが、離れているコナンにも分かった。

「・・・・・・・・・・・・・・・コナン君・・・・・・・・・・・・・・・・?」

やっとそう口を開いたかと思うと、女性はコナンを怖がらせないように、静かにコナンに近寄って来た。
「・・・・・・・・・・どうして僕の名前を知ってるの・・・・・?あ・・・あの・・・おねーちゃん誰・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わたしよ・・・・・・」
どこかで見たような・・・そんな懐かしい感じの女性に、ぎゅっと抱きしめられ、コナンの鼓動が跳ね上がった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ずっと・・・・・・・・・・・・ずっと探してたんだからぁ・・・・・・・・・!」
誰かに似ている・・・・・・
「・・・お母さん・・・?」
そう、写真の中でしか知らないはずの高校生の頃の蘭に生き写しだったのだ。
泣きじゃくる女の子に、コナンはそっと呟いた。
「・・・・・・・・・もう泣かなくていいよ・・・・・・・僕が守ってあげるから・・・」


雨の中、新一が慌てて事務所に戻ると、歩美の膝の上でコナンが寝息を立てていた。
「あ・・・おかえりなさい・・・」
「ただいま・・・って、どうしてコナンが?」
「所長の忘れ物を届けに来てくれたんですって・・・」
歩美は愛しそうにコナンの前髪を撫でている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
思わずその光景に声が出せなくなった新一に気がついて、歩美が話しかけた。
「・・・所長?どうしたんですか・・・?」
「あ・・・いや・・・その・・・・・・・・・・・、昔のおれと蘭を見てるみたいだと思ってさ・・・・・はたから見たら、こんな感じだったんじゃないかな、と・・・・・・」
新一の言葉に、歩美はくすっと微笑んだ。
「光栄です・・・」
あれから・・・コナンの姿ではなくなってから、歩美は絶対に新一の名前を呼ぼうとはしなかった。呼んでしまえば、「コナン」がいなくなってしまった事を認めるようで、怖かったのだ。でも、そばにはいたい。かつてコナンだった、初恋の彼だった人から離れていたくはなかった・・・。歩美のそんな気持ちは、新一もなんとなく分かっていたし、歩美が探偵事務所でアルバイトをしたいと申し出た時も、黙って雇った。・・・いずれ他の誰かに目がいくようになるまで、歩美を見守っていてやるつもりだった。
だから、蘭の事や、コナンの頃の事・・・コナンの事は二人の間では禁句に等しいものだったのだ。
「・・・コナンと・・・こいつとなんかあったのか?」
「えっ?」
「・・・・・・・・・・・明るくなったからさ、歩美のそんな笑顔見たのは、久しぶりだし・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・蘭おねーさんの・・・・・・気持ち、今なら分かる気がします・・・・・・・」
歩美はじっと新一の目を見詰めた。・・・迷いの無い、まっすぐな瞳で・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・蘭おねーさんを守ろうとした・・・所長の気持ちも・・・・・」
歩美の瞳に、涙がいっぱいになって、頬を伝い零れ落ちた。・・・それはコナンの頬に小さく水溜まりのように滴り落ちた。
「ん・・・・・・・・」
目を覚ましかけたコナンの頭を撫でながら、歩美は言葉を続けた。
「わたし・・・・・・・・・・・認めるのにこんなに時間がかかっちゃった・・・」
「歩美・・・」
「だから、きちんとふって下さい・・・このままじゃ、わたし前へ進めないもの・・・・・」
涙を流しながらの歩美の笑顔は、とても綺麗だった。
「・・・・・・・・・・あ・・・・・・・歩美・・・・・・・ごめん、騙してて・・・でも、お前らに会えた事、ホントに感謝してる・・・ホントに・・・」
新一の途切れ途切れの苦しそうな言葉を、歩美が止めた。
「・・・ありがとう、新一さん・・・」
歩美が初めて新一の名前を呼んだ。
「ごめんな・・・」
「・・・おとーさん?」
歩美の膝の上で、コナンが目を覚ました。
涙を瞳一杯に湛える歩美と、浮かない新一の表情から、その場の空気をコナンなりに読み取ると、新一を睨み付けた。
「・・・・・・・・・お父さんが歩美ねーちゃん泣かしたの・・・・・・・?」
「え!?こ・・・これは・・・」
「あっ、違うの、コナン君!・・・わたしが泣いてたから、所長が慰めてくれてたの・・・・・!」
「ホントに?」
歩美は、コナンに悟られないように微笑みかける―・・・。
「ホントよ!」
「・・・・・・そっか・・・歩美ねーちゃんが困った時は言ってね!僕がいつでも助けてあげるから!!」
コナンの言葉に、歩美は今度は心から微笑んだ。
「子どもって無邪気でいいですよね!」
「・・・・・・・・おめー、今の冗談で聞き流さない方がいいぜ?10年前の蘭もそうだったけど・・・」
「え?」
「なんでもねー・・・コナンの頑張り次第だなって事!」

きょとんとする歩美の表情に懐かしい蘭のおもかげを見ながら、新一は10年前に思いを馳せていた。

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10年前っていうのはどんぶり勘定ですが、ちょうどそれくらいだと、歩美が蘭ちゃんと同い年、コナンがコナン(新一)と同い年になるよなと思って・・・あっ、計算するのはやめましょーね!!!(笑)
くぬぎが歩美ちゃんだったら、コナン君がいなくなった事は簡単に認められないし、でもコナン(新一)のそばから離れる事も出来ないと思うんですね・・・じゃあ、新一にーちゃんのとこでバイトしながら・・・と思って出来たお話でした♪

失恋するのも勇気がいるよね・・・・・・?(j−j)

ちなみにタイトルの「おもかげ」は、誰と誰に誰を見たのか分かります?(^^;)・・・って、国語の試験問題みたいだ(笑)