ぬくもり

蘭・・・

久しぶりにあの頃の蘭の夢を見た。

夢の中の蘭は、高校2年生で新一の・・・おれの帰りを・・・不安を抱きながら待ち続けている・・・。
夢の中のおれは、小さな身体で、本当の姿を隠して・・・蘭の涙に、不安に、気付かないフリを強いられて・・・。

新一の姿で涙を拭ってやりたいのに・・・
新一の姿で抱きしめてやりたいのに・・・
新一の姿で優しい言葉をかけてやりたいのに・・・

全ては蘭の身の安全の為だとわかってはいるものの、辛い日々にくじけそうになった事もあった。

ごめん・・・ごめんな・・・・・・

辛い思いをさせて・・・不安にさせて・・・

新一は、渇いた身体に水を求めるかのように、優しく腕の中の温もりを抱きしめた。
腕の中の温もりが、優しい気持ちにさせてくれる・・・。
「蘭・・・」

夢の中で、どこかで、こんな夢を見ているのは昨夜光彦達と遅くまで飲んでいたせいだと気付いてはいたのだが、夢心地の快い温もりを優しく抱きしめる。

「・・・・・・蘭・・・・・・」

新一の蘭を呼ぶ声に、コナンが目を覚ました。
「・・・おとーさん・・・?」
「・・・・・・・・・・・ごめんな、蘭・・・」
コナンは、新一の寝言でまだ新一が夢の中にいる事に気付いた。
すぐにまた熟睡に入った新一を起こさないようにと注意を払いながら、コナンは新一の腕の中から抜け出すと、階下のリビングへと降りていく・・・。

コナンがリビングに入ると、蘭がびくっとして立ち上がった。
「あ・・・、コナンだったの・・・」
少々期待外れ・・・といった様子だ。
「おとーさんならまだ寝てるよ?」
「あ、あ・・・そう・・・」
無関心を装いながら、蘭はコナンの言葉に深く溜息を吐いた。
「昨日なんかあったの?」
「え!?・・・な、なにもないわよ?どうして?」
「だって、おとーさんが僕のベッドに寝かせてくれなんて言うの、珍しいもん」
「そ、そう・・・?昔はよく一緒に寝てたんだけど・・・」
「それに、おとーさん、寝言でおかーさんの名前ばっか呼んでたし。」
「えっ・・・」
意外そうに応える蘭は、頬を赤らめて嬉しそうではあった。
だが、次のコナンの言葉に、蘭の表情は凍り付いた。

「ごめんな、蘭・・・って」

「・・・・・・ほんとに・・・?」
「う、うん・・・」
凍り付いた蘭の表情は、怒りの熱で溶け、更に怒気を増していった。

間の悪い事に、その時ちょうど新一が眠い目をこすりながら、リビングのドアを開けた。

「うん?・・・蘭、おはよ・・・」
まだ半分寝ぼけた様子の新一は、いつもと変わらない。
「し・・・し、新一ぃ〜!!!」
「ん?どうした、蘭?涙なんて浮かべて・・・」
「どうしたもなにもないわよ!う、浮気してたでしょう!?」
「へ!?浮気ぃ!?」
蘭の涙の抗議に新一はたじろいだ。
「正直にいいなさいよ!」
「ちょ、ちょっと待て!何がどうなってんだ!?」
おとーさんが浮気ぃ!?とコナンも驚いていたが、そんなコナンも目に入らず、蘭は新一の昨夜着ていたYシャツの襟元を広げて見せた。
「ほらっ、こんな所に口紅がついてるでしょ!?こんな所、上着をどこかで脱がなきゃつかないわよ、口紅なんか!!」
さすがに探偵の妻といった言葉だ。
「あ・・・それは元太が・・・」
「しかも昨夜携帯に電話したら女の子が出たわよ!?」
新一は、危うい記憶を辿る・・・。
「ん・・・?・・・ちょっと待てって・・・それ多分歩美だよ・・・ちょうどおれが席を外してた時に電話が鳴ったって言ってたから・・・あんまり何度もかかってくるから仕方なくって・・・」
「じゃどうしてコナンの所で寝てたのよ!」
「ちょうど帰ってきた時にコナンが水飲みに起きてきてたし、おめーを起こしちゃ悪いと思ったんだって!」
「下手な言い訳しないでよ!・・・正直に言ってくれた方がまだましだわ!」
大粒の涙をこらえながら、蘭はますます感情的になり、手当たり次第、手につくものを新一に投げつけ始めた。
「お、おいっ、ばか!・・・やめろって・・・!コナン、部屋から出てろ!」
コナンが慌てて部屋から出ると、新一は飛んでくる物を避けながら、蘭に近づいていった。
「蘭!!!」
やっと蘭の両腕を捕らえる事ができた。
「落ち着け!・・・昨夜光彦達と飲んでたんだ。・・・口紅はあいつらのタチの悪いイタズラだよ!!」
「じゃあ・・・じゃあ・・・!!!」
わっと泣き出した蘭に、新一は戸惑いを隠せなかった。
「・・・・・・・・ごめ・・んなって、・・・どういう・・・・・・・意味・・・よ!!??」
泣きじゃくりながらの蘭の言葉に、新一が驚きの余り目が点になる。
「コナ・・・ンが言ってた・・・わ、ごめ・・て言ってた、て・・・寝ご・・とでっ・・!!!」

一呼吸おいて、新一にその言葉の意味が・・・自分の夢の中での言葉につながった。

「・・・・・・・・・・・・・・ごめんな・・・蘭・・・・・・」
神妙な表情でそう告げる新一の表情に、蘭はやはり浮気をしていたのだと勘違いをして両手で顔を覆った。
そんな蘭を優しく・・・ガラス細工を扱うように、優しく新一が抱きしめる・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・おめーにこんなに辛い思いをさせて・・・不安にさせて・・・。・・・誰よりも・・・今、側にいてやりてーのに・・・」
不自然な新一の言葉に、蘭はほんの少し落ち着きを取り戻して、きょとんと新一の顔を見た。
その両目には涙が溢れている・・・。
「・・・あの頃はずっと・・・毎日そう思ってた・・・。・・・その寝言は・・・・・・・・・・夢を見てたんだ・・・・・・・コナンだった頃の・・・・・。おめーが・・・悲しい思いしてんのを、ただ見てるしか出来なかった頃の・・・・・・・・・・・・・だから・・・・・・・・・・」
蘭の目にいっぱいの涙が、光を湛えてきらっと輝く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから、ごめんな、蘭・・・・・・・・なんだよ・・・・・・・・・・・」

こらえきれなくなって、蘭の頬を光が伝った。

新一は再び蘭の身体を抱きしめた。

あの頃・・・
コナンとして誰よりも蘭の側にいた、あの頃・・・・・・・
誰よりも身近にいたかもしれない。
誰よりも一緒に時を過ごしていたかもしれない・・・・・。

でも・・・・・・・・・

今はおれの姿で

蘭の涙を拭う事ができる・・・・・・
蘭を抱きしめる事もできる・・・・・・・・・・
蘭に優しい言葉を掛けてやる事もできる・・・・・・・・・

腕の中の温もりが、渇いた自分の中を満たすように潤わせてくれるのが分かる・・・・・・・・・・

腕の中の安堵感に、新一は心底ホッとすると、蘭の唇に引き寄せられていった・・・・・・・・・・・・

「おとーさん、おかーさん、ケンカ終わった?」
一時避難していたはずのコナンがひょいと顔を出した。
「!!!!!!!!!!!!」
慌てて二人が離れる。
「ケンカは?仲直りしたの?」
「そ・・・・・・・・そう・・・・・・、うん、おとーさんとおかーさんは仲良しだよ???」
引きつりながらの微笑みに、コナンは一応納得してくれたらしい。

やれやれ・・・・・・

「・・・・・・・コナン、早く支度しろ・・・今日も学校だろ?」
「あ、うん。着替えてくるね!」
コナンが両親の和解に元気な笑顔を見せて、自分の部屋へと急ぐ・・・・・・

コナンの足音が遠ざかるのを二人は静かに聞いていた。
「・・・・・・・・・・行ったな・・・・・・・?」
「・・・新一も支度・・・・今日も仕事でしょ?」
涙を拭いかけた蘭の手を、新一が止めた。
「な、何??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
蘭の頬を伝う涙を、新一が唇で拭った。
瞼にまで到達した所で、新一は蘭の顔をまっすぐ見詰めた。
「・・・ねー、キスシーン?」
二人は驚いてドアの方を見た。
「コ・・・コナン!!????お前上に行ったんじゃなかったのか!!????」
してやられた。
遠ざかる足音は、コナンの演技だったようである。
ちゃんと両親が和解したのか見守っていたつもりなのだろう・・・コナンは悪気の無い笑顔で二人を見つめていた。

またもや入った邪魔に、新一は深い溜息を吐いていたが、蘭は対照的にくすっと明るく微笑んでいた。

「さ・・・二人とも学校にお仕事でしょ!・・・支度しなくちゃ!!」
「そういえば・・・おめー何で今日に限ってそんなに神経質になってたんだ・・・?」
それはふと湧いた疑問だった。
蘭は少し悲しそうに微笑んだ。
「・・・・・気がついてた?・・・昨日だったんだよ・・・新一がいなくなっちゃった日・・・・・・・・・」
あ・・・そうか、それで・・・・・・・
「だから・・・・・・なんか不安になっちゃって・・・。あの時みたいに新一がいなくなっちゃったらどうしようとか・・・携帯に電話してもなかなか出てくれないし・・・あの時の事、思い出しちゃって」
蘭の言葉を新一が遮った。
「・・・バーロ、どこにも行かねーよ・・・おれが戻って来るのはおめーのとこだけだ・・・。」
「新一・・・・・・・・・・・・」
蘭はやっとホッとした笑顔を見せた。
新一はドアを開けて、近くにコナンがいない事を確かめる・・・。
「さ、新一遅刻しちゃうよ?」
新一は支度を促す蘭の背に手をまわした・・・。

UP00.6.10

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あ・・・中途半端なとこで終わってますね(笑)今回はコナン君お邪魔虫〜♪長くなるよりは皆様の御想像におまかせしようかと・・・・・・・・簡単に言うと「さぼった」(笑)