一番大切な人
工藤家に赤ちゃんが誕生した。
朝の光の中、新一はうろうろと書斎をクマのようにうろついていた。
「う・・・ん・・・でもなぁ・・・」
部屋の中には紙屑が辺り一面にくしゃくしゃと放り投げられている。
「だ〜・・・決まらねえ・・・!!」
そう、新一は赤ん坊の名前を決め兼ねているのである。
生まれてくる子どもが男の子か女の子か、楽しみに待てるようにとわざわざ医者に口止めしてもらっていたので、名前は決まっていなかったのである。
ま、俺のネーミングセンスじゃな・・・
書斎での事を思い出し、新一は苦笑した。
「江戸川コナン・・・だもんなぁ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱりあれ・・・かな・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・蘭は・・・・・・なんて言うだろうか・・・。
怒るだろうか・・・それとも・・・
迷いながら新一はその名前をメモに書き込むと、くしゃっとポケットに無造作に突っ込む。
新一は、急いで戸締まりをすると、病院にいる蘭の所へ急いだ。
部屋の中で、蘭は赤ん坊を抱いてベッドに座っていた。
息を切らしてやってきた新一を不思議そうに見ながら、視線をまた腕の中の赤ん坊に移す・・・。
「あ・・・寝てたんだ・・・わりぃ・・・おこしちまったか?」
「ううん、大丈夫・・・寝てるよ・・・」
蘭は赤ん坊をそっと赤ん坊用のベッドに寝かせると、新一の方に向き直った。
あのさ・・・名前の事なんだけど・・・と新一はおもむろに切り出した。
「あ、うん、・・・あのね、新一は怒るかもしれないけど・・・実はもう決めてるんだ・・・」
「へ・・・?」
驚く新一に、蘭は恥ずかしそうに言葉を続ける。
「・・・・・・あのね、・・・怒らないでね?・・・・・・わたしの一番大切な人から名前をもらってもいいかな・・・」
一番大切な人!?
しかも・・・・・・怒らないでね!!??
まさか、前田聡とか・・・レックスのあいつとか・・・それから・・・・・・それから・・・・・・
ミーハーな蘭の事だ、芸能人の名前はたくさんあがってきた。
名前があがる度に、新一の表情から血の気と余裕が無くなっていく・・・。
「た、大切な人・・・って・・・?」
なんとかそこまで言えたものの、新一の声はうわずっていた。
赤くなった蘭の頬に、新一は引きつりながら次の言葉を待つ・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コナン君・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「だから、工藤コナン・・・・・・・・ってどうかな・・・って・・・」
新一の引いていた血の気が、一気に顔に上昇してきた。
「・・・一番大切な・・・?」
「そう・・・他にいないでしょ・・・?・・・新一がいなくて心細くなってたわたしを・・・いつも見守ってて、支えてくれた・・・コナン君以外には・・・ね?コナン君?」
蘭が新一に向かってコナンと呼んだのは初めてである。
新一も微笑みながら、ポケットから例の紙切れを取り出して、蘭に見せた。
その紙にも・・・・・
「新一・・・これ・・・・・・って」
「俺もそのつもりだったんだ・・・。蘭がコナンにもう会えないのかななんて言ってたから・・・。俺の・・・江戸川コナンはもう無理だけど・・・」
「新一・・・」
蘭の目が潤んできた。
「な・・・泣くなよ・・・こんなとこで・・・」
蘭の涙を拭いながら、新一が蘭の隣に腰を下ろす。
「だって・・・」
「俺だって・・・嬉しかったんだからな・・・蘭が俺の・・・コナンの事をそう思っててくれたんだって分かって・・・」
新一が蘭の肩を優しく抱き寄せる。
蘭の涙は止まりそうになかった・・・。
UP 00.4.24.
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