新しい生命
「だめ〜っ!だめだめ!それだけはぜ〜ったいだめえ!」
蘭が顔を赤らめて、必死に言い返す。
「なんでだよ・・・」
新一は不服そうである。
「だって・・・」
そう、新一は出産に立ち会いたいなどと言ってきたのである。
「いいじゃん、減るもんじゃなし・・・俺も立ち会いたいよ・・・。俺と蘭の子が生まれるんだからさ。」
「だって・・・恥ずかしいじゃない・・・」
「見られて恥ずかしがるようなとこ、もうどこもねーはずだろ・・・?」
ばしっ・・・
新一の後頭部に蘭のスリッパが命中した。
「って――!!!」
「えっちな事言うからよっ!」
二人のやり取りを、平次と和葉も笑いながら見ている。
「く・・・工藤・・・、お前早速尻にしかれよってからに・・・」
「ホンマ、蘭ちゃんに頭が上がれへんやん!」
「笑い事じゃねーよっ!ホントに見たいんだから!」
「・・・・・・出産するとこ、ビデオにまで撮るなんて言うのよ!?」
平次が固まった・・・。
「想像するな!」
新一が背後から赤くなった平次を羽交い締めにする・・・。
「そ・・・それは嫌やな・・・。後で見るにしても、誰が見るん・・・?」
和葉も真っ赤になってしまった。
「でしょぉ!?」
「で、いつなん?出産予定日・・・」
「明日」
「10月15日だよ」
「あし・・・たぁ!?」
けろりと答えた新一と蘭に、平次と和葉は驚きの声をあげる。
「大変やん!・・・準備とかもう出来てんのん?」
「うん、後は陣痛が始まれば・・・・・・」
「・・・・・・蘭?」
蘭の異変に真っ先に気がついたのは、新一だった。
「・・・・・・顔色悪いぞ?大丈夫か・・・?」
「・・・ん・・・」
力なく返事をする蘭の表情を、和葉も覗き込んだ。
「大丈夫なん?・・・ホンマ、工藤君の言う通り、めっちゃ顔色悪いで?」
「・・・・・・・・・いた・・・・・・」
陣痛だ・・・!!
平次と和葉がおろおろする中、新一はすぐにかかりつけの病院に電話をいれる。
「すご・・・」
和葉の感嘆の声に、新一は何気なく、にこっと微笑んでみせた。
「蘭がいつそうなってもいいように、頭の中でシュミレーション何度もしてたんだ。痛い思いを長引かせなくて済むように・・・ってね?」
「へ〜・・・いい旦那さまやん!」
照れ笑いしながら、新一は和葉に車を玄関にまわしてきてもらうようにと鍵を渡して頼んだ。
「・・・工藤君はどないすんのん?」
そう和葉が聞いている間に、新一は蘭をひょいと抱き上げていた。
「うわ・・・お姫様抱っこやん・・・」
見ている和葉の方が照れてしまった。
蘭本人は、痛みの為に、そんな事に構っているような余裕などなかったのであるが・・・。
痛みに耐え兼ねて、蘭がうわごとのように新一の名を繰り返し呼び続けていた。
ハンドルを握りながら、「蘭・・・もう少しだからな・・・!」と新一もその都度声を掛けた。
後部座席では平次と和葉の二人が、心配そうに見守りながら、遠慮がちに言葉を交わしている。
「なんか・・・入るすきあらへんなぁ・・・」
「こっちが照れてまうやないか・・・」
「それはそうと、平次出る時に何もたもたしとったん?・・・蘭ちゃん大変やのに・・・」
「あ?・・・病院ついてのお楽しみや!」
「なんや、それ・・・」
平次のそんな様子に、うちは大丈夫やろか・・・と和葉は溜め息を吐いた。
病院に着くと、予想を裏切るかのように、看護婦達は「大丈夫ですから」の一点張りで、ちっともとりあってくれなかった。
「初産なんてね、そんなにすぐには生まれないもんなんです。」
と言われ、蘭は待合室というベッドが大量に並んだ部屋で待たされる事になった。
苦しそうな蘭が、「大丈夫・・・心配しないで・・・?」と切れ切れの息の間から答えるたび、新一は冷静さを欠いていく。
和葉も「なんや、あの看護婦!冷たいなァ!」と悪態をつく。
新一は苦しそうに痛みに耐える蘭の手を取ると、自分の頬をすり寄せた。
「蘭・・・」
蘭は痛みに耐えているというのに、何も出来ない自分がもどかしかった。
ふと、和葉は平次の姿が見えない事に気がついた。
周囲を探すと、平次はベッドの間に隠れるようにして座り込んでいた。
「・・・平次、何してんのん・・・?」
眉間にしわをよせて和葉が声を掛けると、びくっとしたように平次が振り返った。
手に持っているのは・・・ビデオカメラ・・・
新一が蘭の出産用にと買ったばかりの新品である。
「あんた・・・何持ってきてんのん!蘭ちゃんが苦しい思いしてる時やのに・・・!!」
「だからや・・・おれは工藤みたいな場面取る気ぃはないからな・・・。」
平次は呆れ返る和葉を押しのけると、カーテンの隙間やベッドの合間からビデオをまわし続けた。
そうこうしている間に、陣痛の感覚がどんどん狭まってきて、蘭は分娩室へと運ばれていった。
その頃になると、蘭も不安を隠し切れずに新一の手を握って離そうとしなかった。
「・・・俺も立ち会っていいですか・・・?」
医者へ問い掛けると返事はイエスだった。
ほっとしながら新一は分娩室に向かう・・・。
「なあ、俺らも立ち会ってええか・・・?」
医者は少し躊躇ったが、蘭の許可が出たので、平次と和葉も中に入る事が出来た・・・。
「平次、こっちから向こうは行ったらアカンで!?」
「おお、まかしとき!いい絵とっちゃるから・・・!」
平次の言葉に不安を抱きながらも和葉は蘭と新一の姿を見守った・・・。
しばらくして元気な産声が室内いっぱいに反響した。
汗だくの蘭のおでこに、新一がキスを贈る・・・。
「ありがとな・・・蘭・・・がんばったな・・・」
「う・・・ん・・・」
目にいっぱい涙を溜めて、嬉しそうに蘭が微笑む・・・。
先に分娩室から出されて、三人は蘭の入る部屋へ先に行く事になった。
「少しの間、入院するから、必要な物とか取って来るよ・・・。お前らはどうする・・・?」
「ん?俺らか?・・・こっちに残っとるわ。蘭ちゃんが戻ってきた時誰もおらへなんだら寂しいやろし・・・な?和葉、お前も残っとけ」
「ん・・・そうやね、うちらはここにおるから、工藤君必要な物だけ取ってき?」
そうか・・・と言いながら、新一は車のキーを手に、自宅へと急いだ。
それを見届けてから、平次はにかっと笑うと、和葉に部屋の中でさっき撮ったビデオを見せ始めた。
「なんでこんなん撮っとったん?こんな非常時やっていう時に・・・」
「こんな非常時やからや!・・・何が映ってるかよう見とき!」
しばらくビデオを見ながら、病室での編集作業が続いた。
蘭の麻酔が覚める頃には一本のビデオテープが出来あがっていた。
さっきまでの仏頂面はどこへやら・・・和葉はすばらしく機嫌が良くなっていた。
「蘭ちゃん・・・目ぇ覚めた・・・?」
「これは、俺らからの出産祝いや!・・・工藤となんかあった時に見せたり!」
「え?う、うん・・・ありがと・・・」
「今見てもええんちゃう?・・・工藤君おらんことやし・・・」
和葉の笑顔につられて、蘭も笑顔を見せ始める。
「ここの病室、ビデオデッキあんねん。貸してみ?セットしたるわ!」
和葉にビデオを渡すと、テレビのスイッチがついた・・・。
和葉達が病室にいてくれているとはいえ、新一は大慌てで病室へと駆け込んできた。
「蘭!目ぇ覚めたか・・・!?」
ところが、蘭は目を閉じたままで、平次と和葉の姿もない・・・。
「あ・・・れ・・・?」
頬を掻きながら、新一は蘭の寝顔を覗き込んだ。
起き上がれるようなら子どもを一緒に見に行きたいと思っていたのだが・・・。
無理もないか・・・
蘭の寝顔を再び覗き込む・・・。
「蘭・・・」
蘭の髪を優しく撫でた・・・。
「・・・新一・・・?」
目を開けかけた蘭が、にこっと微笑む。
二人の思いが目で通じ合ったらしい。
柔らかい光の中、二人の唇が重なり合う・・・。
蘭の枕元には、新一が蘭を真剣に心配する姿と、蘭が新一を信頼する姿がしっかりと収められたビデオが光を浴びながら二人を見守っていた。
それは生まれてきた子どもに対する最高の贈り物になった。
両親が愛し合い、自分が愛されて生まれてきた事実を収めたテープなのだから・・・
UP 00.4.23.
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まだくぬぎの書きたい所まで行かなかった・・・。書き始めると止まらないからな・・・くぬぎ。短編なら他のサイトにも添付できるのに(苦笑)出産なんて経験が無いくぬぎ(爆笑)がこんな出産テーマに小説書くとはね。笑っちゃうね。(^^;)