正しい読書の楽しみ方。4おまけ




「・・・・・・ってさ」
一通り、蘭との会話の内容を聞いて、電話の向こうでは深い溜息が聞こえた。
「ホンマ、仲のエエこっちゃなー。」
「ば、バーロ、そんなんじゃ・・・!」
「でもまあ、あの姉ちゃんにそないなアドバイス貰たんや、もう感想文は書けたんやろ?」
あっけらかんと訊いてきた服部に、いや、まだ少し、と言葉を濁そうとすると「何やっとんのや!」とあまりにデカイ声で厳しいツッコミが入った。それもそうだ、服部としては遊びに行く予定を決めたいからと電話してきたのだから。

「ごちゃごちゃ考えとるからアカンのや!エエか、あの姉ちゃんが言うてる事をまとめたったら、出る答えはひとつやないか!」
「へ?」
「セールスマンになるんや!」
「はぁ?」
「エエか?お前はその本を売り込むセールスマンや!」
「・・・ちょ、待て、何でそこで」
「その本が売れへん事には、ウチに入れてもらえへん、マッチ売りの少女や!」
「お・・・おいおい」
「凍えて死にとないやろ!」
今は夏だ、っつか、ちょっと待てと訴えながら、脳裏では服部が赤い頭巾とスカートで、片手にマッチが山ほど入った藤のカゴを持って、どこだか知らない路地裏で一人、よよよとハンカチを咥えて泣き崩れていた。

本来のマッチ売りの少女なら、そこでマッチを擦って、暖かい暖炉や食事、幸福だった昔を懐かしむのだが。服部から続く言葉は、そんなしおらしいものじゃなかった。

「マッチ擦っとるヒマがあったらやな、その本を売り込む美辞麗句並べ立てて、相手に買わす事だけ考えるんやっ!」
「・・・おいおい、買わせるんじゃなくて、オレが書くのは感想文・・・」
「エエかー、商売の基本は、いかに相手のココロをくすぐるかや!これやったら払た金以上の価値があるかもしれへんて思わせるトコが突破口や!仮にも大女優の血ィ引いてんねやろ、そんな美辞麗句並べ立ててヒトのココロをくすぐるのなんて朝飯前のハズや!」

・・・世界屈指の推理小説家の血の件を出される事はこれまでいくらでもあったが、女優の方を出されたのは多分オメ―が初めてだよ、と深く吐いた溜息も、服部には届かない。

「そんなんで立派な探偵になんかなられへんぞ!」

いや、探偵になるのに小学1年生のレベルに合わせた読書感想文が書けなくちゃいけない、なんて試験があったら間違いなくオレはキレると思うんだが、という言葉を飲み込んで、思い切って聞いてみた。

「・・・オメーに読書感想文の書き方をそう教えたのって、親父さん・・・じゃねーよな・・・?」
「あ?・・・ンなワケあるかぃ。」

良かった、大阪の府警本部長殿じゃなかった、とほんの少し胸を撫で下ろす。

「オレもなー、昔は読書感想文苦手やってん。本読むんは、まあエエんやけどなー、純文学っちゅーんがどーもそそられへんねやなー。」
「あー、分かる。何か事件とかトリックとか無いと燃えねーんだよなー。」
「読書感想文にはエエ思い出もあらへんしなー」
「・・・オレもよく『小説家の息子なのに』って言われたぜ。」

大体、血で書けなんて言われても、脳裏に浮かぶのは血まみれで倒れた被害者が、息絶える間際に残したダイイングメッセージくらいしか思いつかないし、DNAなんて言葉を出されりゃ即DNA鑑定に繋がるアタマで何をどう書けっつーんだよ、なあ、と愚痴ると、服部は、ああ、ウチの場合はちょぉ違てんねん、と笑った。

「オレがぜんっぜん宿題しよーとせぇへんから、て、真っ白い原稿用紙目の前に山積みにされて、オカンがハチマキ締めて竹刀構えて後に立っとんねん!」

「そ・・・それって・・・」

「『エエか、平次!アンタは今からこの本を売りこまなアカンのや!セールスマンになったと思い!この本が売れへん事には、アンタは路頭に迷うんやで!命懸けで宣伝文句をその原稿用紙にたたきつけるんや!』て、めっちゃ厳しかってんで!」

まあ、大阪人やからの、商売に結びつけた方が考えまとまりやすいやろ、って事やったみたいやけど、と当時を振り返りながら、電話の向こうの服部が豪快に笑った。

・・・世界屈指の推理小説家と、女優の息子とはいえ、あの二人はその方面に関しては息子に一切任せっきりだったから。まだ恵まれてたんだな、と遠いL.Aの両親を思った。



あとがき
本当は、蘭ちゃんバージョンの前に探偵団バージョンを入れる予定だったのですが、また何かの機会にv
えーと・・・くぬぎは純文学は嫌いでも苦手でもないんですが、感想を書けとなるとなー、と思い悩んだクチです(^^;)ちなみに、ウチの親はくぬぎに関しては放任主義を貫いてくれてました。なので、宿題のペース配分も自分で何とかしてたんですね。でも、ちゃんと「修羅場」は経験してましたv・・・弟の宿題で(笑)