君に届く様に。
司会者の言葉でふと気付く。そういえば、オレはあんまり興味無いから見ねーけど。毎年やってんだよな、これ。
見慣れない番組では、2グループに分かれて歌を競っている。同じ歌を同じ様に歌って、なら比べようもあるだろうが、彼らは一体何処で勝ち負けを判断されるのだろう。ふと湧いた疑問を投げかけようとコタツの向こう側を見れば、おっちゃんはぐうぐうと大いびきをかいている。まあ、無理も無い。大掃除だからと蘭にかりだされて思い切りこき使われていたのだから。終わった途端、「ビールが美味い」と飲みだして・・・かれこれ5時間は経過している。
そういえば・・・。
誰かと迎える正月、なんて・・・何年ぶりだろう。
そんな、らしくもない考えを巡らせていたのに気付いた様に、蘭が口を開いた。
「・・・ちゃんと繋がってくれるかなあ」
振り向けば。蘭は手にした携帯をじっと見つめていた。
一瞬開いた妙な間の後、おずおずと切り出してみた。
「・・・誰かに電話するの?」
それなら、今連絡しておかないと、繋がりづらくなっちゃうかもしれないよ?と促すと、「ううん、今じゃダメなの」と返って来る言葉。
「・・・今じゃ意味がないの。」
「え?」
「あと・・・3時間くらい・・・かなー・・・。」
よりにもよって、一番混雑するであろう時間。繋がりにくいので、と携帯の会社からも通知が来てる筈だ。
「・・・じゃあ、携帯じゃなくて、家から電話してみたら・・・?」
「あ、家からじゃダメなの・・・番号知らないし・・・それに・・・」
メールだから、とぽそっと付け加られたその言葉に、もしかして、と思った。
「・・・新一にーちゃん・・・に・・・・・・?」
はっと上げた顔の頬は一瞬でさあっと染まって。返事を聞くまでもなく、こっちまで頬に熱を帯びた。
ひととおり、否定の言葉が並べたてられた後、はあ、と息を吸い込んで「食べる?」とコタツの上にあったみかんを手渡された。
「・・・用事って・・・」
「何でもないの!」
「・・・聞いてもいい?笑わないから・・・」
ちょっとオレの顔を見て。恥ずかしそうに蘭はみかんの皮をむき始めた。
「・・・あけましておめでとう、って・・・」
なんだ、ただのおめでとうメールか、と、ふと小さく安堵の息が漏れた。
「それだけ?」
「・・・うん・・・・・・」
でも、新一なら「出動要請かと思った」なんて言っちゃうんだろうけど、とちょっと乱暴にみかんの皮が裂かれていく。割れて押し潰されていくみかんの匂いが、部屋いっぱいに広がった。
「・・・寂しくないのかな・・・」
え?と聞き返せば、返って来たのは、ひとりで、という言葉。
「・・・新一にーちゃん平気なんじゃない?そーゆーの。」
「・・・・・・そう?」
「寂しいって思うより、読み放題とか言って喜んで推理小説読み漁ってる方じゃない?」
「うー・・・ん、そう・・・そうよね・・・きっと。」
「うん。だからそんな心配しなくても大丈夫だよ。」
さく、と気持ちよく割れるみかんとは対照的に。すっきりしない蘭の表情。
「・・・そっか、私だけよね・・・」
「何が?」
「新一は強いから・・・」
きっと、なんでもない事なんだわ、とぽつり呟いて、押し黙る。
違うのに。そんな表情させたいんじゃないのに、と悔やんで、ああ、言葉が足らなかったのだと思い至った。
「新一にーちゃんは、さ、一人って感覚が無いんだよ、きっと。」
「うん、寂しがってるの、私だけだもんねー・・・。」
「そうじゃ、なくて・・・。」
背負ってる、かもしれない。けど。
「蘭ねーちゃんがさ、いつもそうして、気持ちを傍に置いていてくれるから・・・。どんな時でも、一人って感覚が無いんだ、と、思う・・・よ、きっと・・・」
弄んでいたみかんを口へと運びながら、最後に。
「自分の事を、そんなに思っていてくれる人が居るなら、その人は一人じゃないもの。」
そう付け加えると、蘭は小さく「新一が寂しくないと良いな。」と呟いた。
「・・・さんきゅ。」
蘭の耳には届かない様に、ぽつりと小さく呟いたのは、『工藤新一』から届く予定の言葉。
今日はいつもより長いメールを送ろう。いっそ、電話を掛けてしまってもいいし。何を話そうか。
見上げた時計の長針が、やけにゆっくり感じた。