ありがとうたんていさん
じゃらじゃら、と、探偵事務所に奇妙な音が続いた後、やっと顔を上げた小五郎は「5348円・・・」と呟いた。
数えやすい様に分けられたそれぞれの硬貨が、10枚単位で塔をいくつも形成して・・・それを集計した結果がそれだった。
「あ、5000円以上あったんだ」というコナンの声も虚しく響く―・・・。小五郎は、仏頂面で電話を引き寄せた。
「ちょっと・・・お父さんどうする気?」
「決まってんだろ、せめて自分の宿泊費くれー出してもらわねーと割りに合わねーよ!」
小五郎の指先がダイヤルに掛かった所で、蘭が受話器をもぎとって強引に切った。電話のコードで積み上げられた硬貨の塔がいくつか崩れて・・・机の上でキリキリと踊っているものもあった。
「・・・何するんだよ」
「・・・和輝君の分は、私のお小遣いから出すから、それならいいでしょ!?」
ね、いいでしょ、と哀願する蘭に、小五郎は、「馬鹿、ジャリタレしてるあっちの方が、オメ―よりよっぽど金持ってるに決まってんだろ」と吐き捨てた。
「・・・このお金はそういうお金じゃないと思うの・・・・・・」
散らばった硬貨を一枚一枚集めなおしながら、ぽつりぽつりと、蘭の口から言葉が零れていく―・・・。
「・・・・・・きっと、和輝君、自分のお小遣いから・・・ちょっとずつ溜めてきたお金だと思うの・・・」
なんでそんな事が分かるんだよ、という小五郎の言葉に、蘭がぐ、っと詰まった・・・。
「だって、・・・なんとなく分かるんだもん・・・」
「・・・蘭ねーちゃんの言う通りなんじゃないかなあ・・・。」
そう言いながら、コナンは貯金箱から出てきた小銭を手に取って見せた。
「・・・そんなにいっぱいお金が入ってくるなら、小銭ばっかり入った陶器の貯金箱を送ってくるより、現金書留で送ってきた方が手間も掛からないよね・・・」
「そりゃまあ・・・確かにそうだが・・・」
「お母さんからのハガキが届かなくなったのが、去年の冬だから・・・そこから自分のお小遣いを、欲しい物我慢してちょっとずつ溜めてきたんじゃないかなあ・・・」
「・・・だからって、蘭があのガキの代わりに金を出す義理もねえだろ・・・」
「だって、分かるんだもん・・・。」
「・・・何が」
蘭は少し躊躇った後、ぽつりと、お母さんに会いたいって気持ち・・・と答えた。
ふ、と視線を逸らした小五郎に、思わず、ぐっと詰め寄って・・・堰が切れたかの様に、一気に、和輝君くらいの子なら、欲しい物とか我慢するの難しいと思うの。でも、それでもお母さんに会いたい一心で必死だったのよ、とまくしたてた。
「・・・ねえ、お父さん・・・」
「・・・ダメだ。・・・天下の毛利小五郎がこんな依頼料で動いたとなっちゃ恥だ、恥!」
「お父さん・・・」
「・・・蘭・・・オメー、コナンとこの送られてきた金で、新しい貯金箱買ってこい」
「は・・・?」
「今度はもう一回りも二回りもデカイヤツだ!・・・そう何度も何度も、我が家の温泉旅行にあんなジャリタレ一緒に連れて行ってやるワケにはいかねーからな・・・」
我が家の温泉旅行、という部分を殊更に強調して・・・。小五郎はぷい、と窓の外を向いてしまった。
「・・・お父さん?」
「早く行って帰ってこねーと、晩飯の支度に間に合わねえだろーがよ!」
うん、と大きく頷くと、コナンと二人で机の上の小銭をかき集めて、送られてきたその箱の中に入れた。
背中越しにでも、その蘭の笑顔が読み取れる程の暖かな空気の中、雑音がやっと途切れると、「じゃあ、行ってくるね」という声と共に事務所のドアの開いた音がした。
「・・・・・・」
目が合ったのは、割れた子豚と、その背中に貼り付けられた「ありがとう たんていさん」の文字。
小五郎に残された依頼料。
・・・たまにはこんな依頼料もいいか、と、小五郎は咥えた煙草に火を点けた。
あとがき
和輝君のお話・・・貯金箱が送られてきたのは、やっぱりこういう理由なんじゃないかなあと^▼^
つっぱねて見せてるみたいだけど、大人びて見せてるみたいだけど。和輝君、ほんとに良い子でvvv・・・蘭ちゃん、「コナン君に似てる」と発言してましたけれど、た、確かに^^;;;。・・・実は、新一にーちゃんと蘭ちゃんで同じネタ被り物があったんですよ・・・^^|||今回、手直しした方を同時にアップしてしまいますけれど。
・・・周囲の人に対して、和輝君はすごーくきちんとした子だと思います。サイン求められても嫌な顔一つせず皆に丁寧に応じてますし。・・・でも、『身近な』な大切な人』に向けるのは、本当の素顔と不器用な優しさ・・・。
最後になってしまいましたけれど・・・和輝君、良かったね、お母さんに会えて・・・^▼^