手を伸ばせば
文章は彼女視点ですが、本筋というか、くぬぎの書きたかったのは彼視点です^^;ちなみに、時期としては新一にーちゃんが中3の辺りです^^
手を伸ばせばそこにいる―・・・
いつも私は側に居るから
あなたがどうしようも無くなったら
いつでもどんな時でも
地球の裏側からでも飛んでくるから
力になるから
だから
その手を伸ばしてね・・・
空の青がゆっくりと薄くなっていくこの季節。
街路樹も少しずつ木の葉を染め始め、街が色めき立つこの季節。
ふと足を止めれば、いつも見ている景色も随分違って見えて・・・
だが
今はそんな景色など目にも入らない。
一心不乱に目指す場所へと、前のめりになりながら街を突き抜ける。
ボストンバッグがガタガタと、アスファルトの小さな段差にあげる悲鳴すらも耳に届かなかった。
懐かしい我が家は、1年前とあまり変化なく・・・ゆっくりと開けた扉から中へ入ると、気持ちの良い風に、洗濯物がはたはたとなびいていた。
それがちょっと意外と言えば意外だったけれど・・・
驚かせてやろう―・・・
そう思って、そっと音を立てずに玄関のドアを開く。
人気の感じられない屋敷の中・・・アタリをつけて開いたのは、書斎の扉だった。
「新ちゃん・・・!」
そっと声を掛けると、手にした本からゆっくりと視線をこちらに投げかけて・・・次の瞬間大きく目を見開いた。
「か・・・母さん!?何で?父さんは!?」
「私一人よ?」
にこっと微笑みかけると、怪訝そうな表情で様子を探る。頭の中のこの子は、笑顔だったり怒っていたり・・・その表情は印象深いものばかりだから。離れるまで気にも止めなかった変化する途中の何気ない表情に・・・ああ、この子が目の前にいるんだと、そう実感が湧いた。
「父さんとケンカでもしたのか?」
「・・・そういうワケじゃないわよ。普通に帰ってきたらおかしい?」
「いや・・・別にそんなんじゃねーけどよ・・・」
本当は、少しだけ当たっていた。
新一も今年は受験生だから一度日本に帰れないか・・・そう優作に相談したのだが、「新一は新一でやってるんだから大丈夫だよ」と軽くそう言う優作に腹を立てて、半ばケンカの様にして出てきたのだ。
多分、出版社の打ち上げから戻ってきた時点で、私がいない事に気が付いただろうと思うけれど。
優作の事を考えて、少し曇った表情を読まれたらしい・・・新一がにこっと笑った。
「疲れたろ・・・何か飲むか?」
「あ・・・・・・いいわ、自分でやるから・・・」
「まあまあ、座ってろって・・・結構上手くなったんだぜ?コーヒー淹れるの」
そう?と聞き返すと、ふっと微笑む。
いつからこの子はこんなに優しい微笑い方をする様になったのだろう・・・
離れていた所為で気付けたのかなと思うと、ちょっと寂しかった。
ゆっくりとキッチンがコーヒーの匂いに包まれ始め、何となく・・・久しぶりに会えた新一の側から離れるのも嫌で、ひょこひょことついて歩いた。
新一が慣れた手つきでコーヒーをセットするのをぼんやり見ていると、「悪いけどカップ出して」と頼まれて食器棚に向かった。
ほんの1年しか経っていないはずの時の流れが、やけによそよそしくて
かつてよく使っていた食器棚が何だか違う物にすら見えてくる。
伸ばしかけた手が一瞬止まった。
「どうした?」
「あ、ううん、何でも・・・」
そっと手を伸ばしたものの棚に届かなくて・・・つま先で立ってもう一度手を伸ばすと、後ろからひょいと伸びた手がカップを先に取った。
あ・・・れ?
一瞬感じた違和感に、ばっと振り返ると、新一の顔がすぐ側にあった。
「悪いな、母さんと父さんのカップとかは棚の上に置いてるの忘れてた。・・・割ったら悪いと思ってさ」
「・・・そうじゃなくて・・・」
ん?と新一が振り返る。
「・・・もしかして新ちゃん・・・背、伸びた・・・?」
「・・・そか?」
「ロスに行く前は・・・私とそんなに変わらなかったじゃない・・・?」
相変わらず自分の事には無頓着な新一は、そうだっけ?と首を捻る・・・けれど
「あん?・・・何でそんな顔してんだ?」
「だって・・・・・・・」
新一の背が伸びた事すら、海の向こうでは知る由も無いのだと、・・・そう思うと・・・この子の親なのに、と情けなくて仕方ない。
「背なんて誰でも伸びるだろ?・・・育ち盛りなんだぜ?一応・・・」
「・・・・・・・・・・だって・・・」
「泣くなよ・・・泣かれたらオレが困るんだから」
ボリボリと頭を掻きながら眉間に皺を寄せると、気まずそうに新一がそう言った。
「ごめんね、新ちゃん・・・」
そう謝ると、バーロ、という・・・言葉が返って来た。
「・・・謝るんならオレだろ?・・・日本に残りたいっつってロス行き断ったのはオレなんだし・・・」
「でも・・・一人だけ残して行くなんて、親のする事じゃないわ・・・」
「父さんだけ行かせるワケにいかねーだろ?オレより自分の身の回りの事に無頓着なんだからさ」
1年前の問答を繰り返すつもりか?と皮肉を言いながら、こぽこぽと音を立てて淹れたコーヒーを、新一は私に手渡した。
「クリーム切らしててさ、牛乳しかねーけど・・・入れる?」
こくんと頷くと、冷蔵庫からそれを取り出して・・・その一瞬、冷蔵庫の中身もちらっと見えた。
どうやら、全くファーストフードに頼り切った生活をしているワケでも無さそうだ。
「・・・新ちゃん、ちゃんとご飯食べてる・・・?」
「ん?ああ・・・・・・・・・たまに本読んでて食べるの忘れてたりっつー事はあるけど、腹が減ってりゃ適当に食ってるよ」
「そう・・・」
「晩メシに何か作ってやろうか?」
そう言って笑う新ちゃんは、一緒に居た頃とは別人の様だった。
「・・・オレさぁ・・・ガラでもねーけど、一人で暮らす様になってからさ、母さん達に守られてきたんだなーってやけに実感したよ」
「親が子どもを守るのは当たり前の事じゃない・・・」
それすらも今は満足に出来ていないのだと、自分の台詞が突き刺さる。
「そういう意味じゃなくてさ・・・えと、なんつーか、ほら・・・例えば、・・・・・・・・食事の支度とか、洗濯とか・・・それから掃除もか・・・ホントに毎日の色んな事を自分でやる様になってさ、ああ、母さんは当たり前みてーにこういう事しててくれたんだなーって・・・思う様になったっつーか・・・」
「・・・?」
「母の日とかに『感謝』するっつーのはあったけど、アレだって面の皮一枚程度にしか理解出来てなかったんだよな、と思って・・・。こういう状況にならなきゃ分からなかった事だからさ・・・」
ああ・・・
そうか・・・
・・・やっと、この時点で新一に違和感を感じていた理由が分かった・・・
「あ、ば、バーロ、泣くんじゃねーって・・・!」
滲んだ視界の中、離れている間にいきなり成長した我が子の姿が見えない・・・
「バカね・・・新ちゃんの為に食事の支度や洗濯するのも、私にとっては苦労なんかじゃないのよ?」
その言葉と同時に大粒の涙が零れて、急に視界が拓け・・・新一は、にっと笑った。
あれから2年の歳月が経とうとしている―・・・
その時にした約束。
『困ったら必ず頼る事』を無視した我が子は、とんでもない危険な事件に首を突っ込んで、挙句の果てに身体に支障をきたしたと言うー・・・
これはそれ相応にキツイお灸をすえてあげなくちゃね?
締め切りをいくつも抱えた優作の部屋のドアをノックした―・・・。
あとがき
母より背が高くなったのは中学の頃なのですが(それにしたってくぬぎはそんなに背が高いワケではないですが^^;)、弟にも背を抜かれ、ついに家族の中で一番背が低くなってしまった母は、今だに自分じゃ届かない棚に相手がらくらく背が届くのが気に食わない模様です(^^;)
今日も拗ねました(^^;)
と、ご飯やら何やらの部分は、くぬぎも一時期家を出て生活していた時期がありまして(10代の頃ですね^^;)その時に洗濯やら掃除やらのありがたみが思い知らされたというか・・・
有希子さん(親)視点で書いてますけど、くぬぎとしては新一にーちゃん(子ども)からのメッセージのつもりで書いてます^^
くぬぎはわざわざ口には出しませんでしたが、家に帰ってから再び一緒に生活する様になって、離れる前のくぬぎとは違うと散々言われました^^;
今、弟が別に生活する様になって、たまに戻ってきたりすると、「ああ、こういう事か」と分かるのが何だか笑えます(^^;)