正しい読書の楽しみ方。
長い長い夏休みは、正直な所有難かった。
常日頃、その容姿に見合った生活を余儀なくされている私にとって、解毒剤の研究をする時間は限られていたから―・・・
学校に束縛される時間も、今なら自然に研究に廻せる。
そう思っていたのだけれど。
難問が一つ・・・
もう彼は終えているのだろうか・・・
「夏休み」が終わりを告げようとしていなければ、電話をかけるつもりにもなれなかったのだけれど。
既にカウントダウンが始まりつつある今、他に選択の余地は無かった。
パソコンの脇の電話を手に取ると、博士から教えてもらった番号に電話をかける。
何度目かのコール音の後、繋がった電話に、もしもしと話し掛けた。
「・・・え、灰原か?」
あまりに意外だったのだろう。
電話の向こうでぽかんと口を開けている工藤君の姿が目に浮かぶ。
「・・・悪かったわね。」
「や、そういうんじゃねーけど・・・意外だっただけで」
「・・・貴方のお父さん宛ての手紙がまた溜まりだしたから伝えておこうと思っただけ。じゃあね」
本当の用件が用件だったから、素直に切り出せず・・・切ろうとした瞬間だった。
「なあ、オメー読書感想文終わった?」
今度は私の方がぽかんと口を開ける番だった。
「・・・終わってないの?工藤君が?」
「それどういう意味だよ・・・」
「だって・・・貴方得意でしょ?読書なんて・・・」
「それが普通に読んでる様な本ならな?」
なるほど、確かに・・・
課題図書として私達に提示された本の中から、彼の興味を引く様な物はあるはずもなかった。
「オメーはどうしたかなと思ってたんだけどよ」
電話の向こうの名探偵さんも、同じ事で頭を悩ませていたのかと思うと、自分でも驚く程素直にそれが口に出来た。
「・・・奇遇ね。私もまだよ」
なんだ、と電話の向こうで溜息と共に漏れる声が聞こえた。
「残念ね。ホームズでなら、原稿用紙200枚はいけるでしょ?」
「・・・オメーだって、薬学の専門書なら500枚はいけるだろ?」
「選ぶとしても怪しまれない程度に、相対性理論くらいね」
「それだって十分怪しいぞ・・・」
交わす言葉に、ほんの少し気持ちが軽くなる。
「・・・適当に小学生らしい物を選んで、怪しまれない程度の文章なんて相当難しいわね」
「・・・・・・・・だろ?ヘタに上手く書いて、目立っちまってもいけねーし」
電話のこちらと向こう側とでしばらく考えた結果、1時間後に工藤君が、課題図書とされる本を数冊抱え込んでやってきた。
漢字を避けてひらがなを多用している文章は、思いのほか読みづらく、簡単に読み終えてしまえるだろうという予想は呆気なく覆されてしまった。
それでも2時間で大体の本を読破すると、目の前の工藤君と内容についてお互いの感じた事を述べ始めた。
「これってさあ、主人公がDNA鑑定依頼すりゃ早いんじゃねーの?そうすりゃ肉親かどうかなんて一発でわかるぜ?」
「・・・貴方の言う通りに運ぶとしたら・・・この本、10分の1の厚さで済むのかしら」
「ここもちょっと考えればこれがミスリードだって分かるのに。・・・あ、ここにも伏線張ってあるじゃねーか。ほらほら」
「それ、きっと、そういう本じゃないのね・・・。主人公が突然降りかかってきた謎を解きつつ苦難の末に幸せを掴むっていう、いわゆるとても明るいお話に作りたかったのだと思うわ」
「・・・そうなのか?明るいのか?家庭環境とか結構ドロドロしてるぜ?」
「作者の考え方自体が既に明るいわよ?これで最後は表面上ながらも幸せになってる辺りが特に。」
「・・・・・・・・・」
工藤君は、私の言葉に不満気に口を尖らせると、「そっちは?」と尋ねてきた。
「・・・私には理解出来なかったわ。」
「・・・・・・・それだけ?」
「ええ。・・・具体的に言うと・・・ラストにかけて、荒波に向かって船を漕ぎ出す場面なんて、危険がはっきりと予測出来るのに、何の知識もないまま突っ込んでいくのはどうかと思うわ。自分から揉め事に首を突っ込んで騒ぎを大きくしてしまう所なんて主人公の周囲の人間にとても共感できるとは思ったけれど。」
「・・・オメー、何気におれの事言ってねー・・・?」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・おい?」
「気のせいよ」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・多分」
「今の間は何だよ・・・」
1時間後・・・
何か思いつめた表情で出かけていた博士が、帰ってきた。
その手に「どくしょかんそうぶんのかきかた―低学年向け―」という本を携えて・・・
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たまにはギャグ版で・・・と思ったのですが・・・
常日頃専門書か女性雑誌以外は読みそうにない彼女が、こうした本を読むのであれば「夏休みの課題図書」かな、と・・・
読書感想文で悩んでおられる某おねーさまを目の当たりにして「この二人も絶対悩んでるだろう」と思ったのですが・・・
新一にーちゃんは「この方法にどうして気付けないのか」と論じてしまいそうですし、哀ちゃんは巻き込まれ型の主人公の『本人が気がついていない状況』に真剣に悩んでしまいそうかな、と^^;;;
ちなみに、彼らがお話している本、微妙に参考にさせていただいたお話はありますが、そういう本ではありませんので、念のため^^;;;