月明かりの下で




雨上がりの緑が鮮やかに匂い立ち―・・・木々の枝から、柔らかな新芽が芽吹く頃―・・・・・・

こんな日の夜風に当たるのは好きだった。

ほろ酔い気分でこんな風に当たっている時は、嫌な事も忘れてしまいそうで・・・手がひょい、とさきいかに伸びる。

「・・・・・・?」

指先にはそのビニールの包装以外に感触がない。
窓の外に行っていた視線を手元に戻すと袋は空だ。

「なんだ・・・もうねぇのか・・・」
開け放たれた窓から入ってくる風をつまみに・・・とはいかない。やはりつまみはつまみだ。
「蘭、つまみ持ってきてくれ!・・・おい、蘭!」
普段なら飲みすぎだのと返ってくる返事もない。その代わり、ひょい、と顔を出したのは居候のコナンだ・・・。

「蘭ねーちゃんなら園子ねーちゃんとこの別荘だよ?」
「あ?・・・ああ、そんな話してたな・・・」
何しろ酔っ払いの頭だ、正確には回っているはずもなく・・・
「はい、これでしょ?」
コナンが愛想良く差し出したつまみを受け取ると、後先考えずに封を開けた。
「・・・オメーもたまには付き合うか?」
「いっ・・・いいよ、僕は・・・!ジュースで」
ジュースでだろうと、コイツが付き合うのは珍しい。

・・・何か魂胆があるな?

そう考えるのは酔っ払いにも簡単だった。

少し問い詰めると、様子を伺いながら、話を切り出してきた。

「・・・写真?」

「そう・・・あのさ、蘭ねーちゃんの10年後のあの写真見て、若い頃のおばさんそっくりだって言ってたでしょ、おじさん・・・」
「ああ・・・」
「蘭ねーちゃんに聞いても、おじさんのアルバムはどこにあるか知らないって言うし・・・」
ジュースを持ってもじもじしながら・・・あまり飲むつもりもないのだろう、ひたすら俺の様子を伺っている。

「ねーよ・・・アルバムなんて・・・・・・英理が持って行っちまったからな・・・。若い頃の写真は全部その中だ・・・」
プシュッと音を立てて、新しくビールの缶を開ける。

「・・・・・・・・・・じゃあ、財布の中の写真を見せて?」


・・・・・・・・・知ってやがったな、コイツ・・・


眉間がぴくっと動くと、コナンは小さくたじろいだ。
「・・・おじさん、一人でお酒飲んでる時、たま〜に財布の中から写真出して見てる事あるでしょ?・・・ずっと気になってたんだけど・・・蘭ねーちゃんのあの写真を見た後のおじさんの様子からして、蘭ねーちゃんの写真でも無さそうだな、って」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・まさかオメー・・・その事蘭に言ってねーだろーな・・・」
「言ってないよ・・・知られたくないんでしょ?・・・だって、蘭ねーちゃんが家にいる時には絶対出さないもの」

・・・蘭には黙っててくれてたのか・・・

「その様子からすると、やっぱりおばさんの写真?」
この様子だと、蘭が帰ってきたら財布の中身をばらされかねない・・・蘭に見つかれば、必然的にアイツにも・・・それくらいなら、コイツに見せて、口止めしといた方が安全は安全か・・・
酔った頭での考えはそこまでしか回らない。

いいか、どうにでもなれだ・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺の写真だ」

コナンが点目になった。

「・・・・・・・・・・見るか?」
「う、うん!見せてくれるの!?」

それが目当てだったんだろーが・・・

懐から財布を出した。

「言っとくが、擦り切れちまって、見るに見れねーぞ・・・」

財布の中から無造作に取り出して、それをコナンに手渡す。
まじまじと見たアイツの頬が赤く染まっているのを見ると、まんざらでもないらしい。

「これ・・・・・これおじさんが撮ったの?」
「・・・・・・・・・・・・・バーカ、俺が撮ったから『俺の写真』なんだよ!・・・写ってるのは誰だかすぐ分かるだろが」
「・・・すっげー・・・」

そりゃそうだろうよ・・・俺はそうそう写真なんて撮らねーが、コイツは俺が撮った中でも一番綺麗に撮れたヤツなんだからよ・・・

見とれて声も出ないコナンに、間が持たずに話し掛ける。

「・・・似てんだろ、あの写真の蘭に・・・」

「・・・・・・・・似てる、けど・・・・・・おばさんの写真の方が綺麗だ」
バーカ、蘭そっくりじゃねえか、お前の目はフシアナか?・・・そう言おうと口を開いた時だった。

「写真って、撮る側と撮られる側の気持ちも写るって言うけど・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・別居解消しないの?」

そう来たか


「・・・・・・少なくとも、俺の方からするつもりはねーよ・・・今のとこな・・・」
「今のとこ?」
「・・・・・・・・・・・・・・この状態が一番良いだろ?アイツも弁護士として活躍してる、俺は俺で何とかやってる・・・この状態がな」
「それがおじさんの別居の本当の理由?」

やけに絡むな、今日は・・・
再び眉間に皺を寄せて見せたものの、コイツは怯む様子もなく・・・

「別居の理由がおばさんの料理って言うのはこじつけなんでしょ?ケガしたおばさんが、おじさんの為にって、無理して料理してたから・・・違う?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

痛いとこ突いてくるじゃねーか・・・・・・・こうなりゃだんまり・・・黙秘だ・・・

「おばさんが弁護士として活躍する様になったのは、おじさんとの別居の後・・・だったんだよねえ?」

答える代わりに、ぐびっとビールを煽る・・・味なんてしやしねぇ

「・・・大人の事情だ、子どもが口挟むんじゃねーよ・・・」

蘭も何かしらアイツと俺を会わせたがるが・・・コイツにまでそんな策略立てられたらたまったもんじゃねー・・・


「・・・・・・・・ホラ、そろそろ返せ・・・」

コイツに見せるんじゃなかったと後悔しつつ・・・受け取った写真を財布に戻す。

にこにこと訳知り顔の生意気なコイツの笑顔を見て、ふと知った顔が浮かんだ。

「その笑い方・・・・・・・」
「え・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・どっかで見たと思ったら、そっくりだな・・・誰にだ?ええと・・・」


ああ、駄目だ・・・頭の中がぼーっとしてて出てこねー・・・

「・・・ああ、そうだ、アイツだよ、アイツ・・・・・・・・・・くそ生意気な探偵気取りの・・・・・・・新」

「おじさん!!飲も!!!ほら!もっと持ってくるから!!!」
「あ?」

何がどうしたってんだ?

「・・・それとも気分変えて他のお酒持ってこようか!?」

顔色を変えて慌てるコイツを見ていたら、ぼんやりとした頭なりに策略が浮かんできた。

「・・・・・・・・・いいな・・・・・・オメーもたまには付き合え・・・」
「え!?・・・僕小学生だよっ!!?」
「飲めるんだろ?・・・前に蘭に隠れて飲もうとしてたらしいじゃねーか・・・白乾児、まだあったろ・・・持ってこい」

こうなったらめちゃめちゃに飲ませて、変な方面にやたら勘が良いときた、始末の悪いコイツの記憶を曖昧にさせてやる。

「パ・・・白乾児はちょっと・・・」

・・・・・・そんな事言っても逃がさねーぜ?

「じゃあ何なら飲める?」
「・・・・・・・・・・ジュ・・・ジュース・・・」

ジュースじゃ記憶は無くならねーだろーがよ・・・

「蘭がいねー時でもねーと、オメ―と差し向かい、なんてできねーからな・・・」


強引にガシッと肩に腕を回して、目の前のコップになみなみとブランデーを注ぐ・・・・・・・

ビールに日本酒、ブランデー・・・ああ、焼酎もあったな、そういえば。・・・いくらコイツの頭でもちゃんぽんしてやりゃ少しは効くだろ


「夜はなげーんだからよ・・・」
「げ・・・」

月明かりの下の会話は、忘却の彼方へと飛ばしてやろうぜ


頭の片隅に、明日の蘭のツノがちらっと浮かんだ。




あとがき

わはは、小五郎さん第2弾です(^^;)

「月明かりの下で・・・」のイラストにつけたお話なんですね(^^;)
そう、あの後ろにいる英理さんが写真として存在したらという仮定です(^^;)

酔っ払ってるおっちゃんの視点で書いたものですので、話の本筋はコナン君が担当してます(笑)

おっちゃんとコナン君のコンビ好きなんですよ〜v

でもこれ、カップリングとしては異色なんでしょうねえ・・・
いえ、別におっちゃんとコナン君をカップルとして言ってるんじゃなくて、組み合わせとして、なのですが(^^;;;;

・・・最近ホントに節操ナシなくぬぎです(笑)