特別
欲しいのは「特別」の壁じゃなく、「特別」のぬくもり―・・・
街中での待ち合わせ・・・
ただでさえ目立つルックス・・・日本警察の救世主として名高い彼が、誰にも見つからないはずはなかった。
いつもなら、お互いの家までどちらかが赴くのだが・・・朝から事件で家にいなかった新一は、携帯で蘭に駅で待っている事を告げた。
風に揺れる木の葉の奏でる優しい音は、抱えていた思いをほんの少し軽くしてくれ・・・後味の悪い事件を、ほんの一時忘れさせてくれる。
事件が一段落ついた所で、深く溜息を吐いて・・・今日、蘭と出かける約束をしてあった事に、心底ホッとしていた。
「あの〜・・・工藤新一さん、ですよね・・・?」
見るからに女子高生・・・といった女の子達に囲まれ、新一は幾分狼狽しながら、「あ、はい・・・そうですけど」と何気なく答える。
いつもなら、そんな対応はしないのだが・・・さすがにあんな事件の後では浮かれた対応をする気にもなれなかった。
「きゃあ!やっぱり!!」
突然黄色い声で騒ぎ出した女子高生達のその様子に圧倒されてしまった。
「あの、あの、私ファンなんです!サインしていただけませんか!?」
「え・・・サインって・・・」
「・・・なんでもいいんです!お願いします!」
会えるなんて思ってもみなかったから、書くものが何も無い、と差し出されたハンカチに、躊躇いがちにサインをすると、有難うございますと言われ・・・
それが余程嬉しかったのだろう・・・
女子高生は何度も何度も振り返り、手を振りながら離れていった。
その背中が見えなくなった頃を見計らって、取り出した携帯は、遅くなるという連絡すら蘭から届いていない事を報せてくれる。
「蘭のヤツ・・・おっせーなあ・・・」
メールにしようかとも思ったけれど、あまりにも遅いので、直接声を聞こうと電話をかけた。
コール音が2回・・・
「きゃっ!?」
すぐ近くから聞こえる着信メロディと一緒に、小さな悲鳴が聞こえてきた。
着信メロディの聞こえてきたビルの死角をそっと覗き込むと、見慣れた制服が背中を向けてごそごそ鞄を探っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・蘭?」
「きゃああっ!!?」
慌てて携帯を切ってホッとした所へ、新一の顔がにゅっと出て来て驚いた所為だろう、さっきの倍くらいの悲鳴が響いた。
「・・・オメ―・・・何やってんだ、そんなとこで・・・」
「あ・・・えと・・・」
「こっちは随分待たされてんだけど・・・」
かなりの仏頂面に気圧されて、蘭がおずおずと答える。
「・・・あ、あの今来たとこ・・・」
「・・・ふうん・・・汗かいてるもんな、額・・・かなり急いできたんだろ?」
新一が穏やかな笑顔を見せ、蘭はほっとして「走って来たから」と答えた。ふ〜ん、と言った後、新一はそのままの笑顔で続けた。
「・・・・・・・・・・・・・・でもその割には息切れてないよな」
とっくに見抜かれている事に気付いて、蘭は気まずそうに目を逸らしながら正直に話し始めた。
「・・・・・・・ごめん、ちょっと前に着いてた・・・」
「何ですぐに来なかったんだよ?」
不満を顔いっぱいに、新一はそう問い詰めた。
「だって・・・何か女の子と話してたから・・・」
「あ、あれは・・・向こうから声掛けてきたんだぜ?」
勘違いされたのかと声を荒げる新一の言葉を、蘭が遮った。
「あの女の子に悪いかなと思ったの・・・」
「へ?」
予想外の言葉・・・に新一は言葉を失っていた。
「いくら幼馴染とはいえ、・・・新一って有名じゃない?ファンもいっぱいいるし・・・だから」
「・・・?」
「・・・上手く言えないんだけど・・・・・・私が当たり前みたいに側にいるのって羨ましいと思うんじゃないかな、って・・・」
そこまで話すと、気落ちしたのだろうか・・・蘭の言葉が続かなくなった。
「・・・・・・あのなあ・・・・・・・・」
新一の不機嫌極まりない、といった声に、思わず蘭は目を閉じていた。
「確かに女の子にきゃあきゃあ騒がれるのは悪い気はしねーよ・・・」
ムッとした新一の手が、すっと伸び・・・蘭はビクッとその身を竦めた。
「・・・でも、おれだってフツーの人間なんだぜ?・・・一人で孤独してられる程強くねーんだよ・・・。嫌な事件の後は落ち込みだってするし、誰かに側にいて欲しいって思う時だってあるんだよ・・・」
すっと伸びた手は、それより一回り小さな蘭の手をそっと包み込んだ。
「・・・・・・・・・・・・誰でもいいから?」
問い返す蘭に、ちょっとムッとした。
「だから・・・誰でもいいってわけじゃなくて・・・」
「・・・私でもいい?」
新一の言葉を遮って、蘭が心細そうな笑顔と共に、新一に問い掛ける―・・・
「・・・駄目?」
「・・・・・・・・・・・・・・・現在募集してねーもん・・・」
自分の答えにしゅんとした蘭を見ながら
「・・・昔っからコイツだって決めてる奴がいるからな」
と照れくささにムッとしながらそっぽを向いた。
これ以上ははっきり言わなくても分かってくれよ・・・?
そっと横目で蘭の表情を見ると、さっきより数段落ち込んだ表情で蘭が呆然としていた。
・・・―やっぱりはっきり言わなくちゃ分かんねーのか・・・?
途方に暮れて見上げた青空に眩暈を覚えた。
欲しいのは「特別」の壁じゃなく―・・・「特別」のぬくもり。
あとがき
あーはーはーはーはー(^^;;;
新蘭らぶらぶ一直線・・・(おい)
いつも一生懸命な新一にーちゃん・・・。ファンはたくさんいます。
でも、新一にーちゃんだって、そんな事に気後れされちゃったらツライんじゃないかなーと思ったんですね(^^)
特別な相手に「特別な気遣い」は必要ありませんもん。
そう気を遣うのは、悪いことじゃありませんが・・・そう気を遣って距離や壁を間に置かれる以上に寂しい事ってありませんよね。
「特別」な存在になってしまった時、一番嬉しいのは、特別のぬくもりだと、くぬぎはそう思います(^^)