Voice

「・・・新一?」
甘い声に、心が穏やかになる瞬間。

『コナン』に対してのそれとは少し違う・・・声。

小学生の江戸川コナンから、工藤新一に戻らせてくれる・・・その声。

「・・・おぅ、久しぶり」
「・・・・・・元気にしてる?」
「ああ・・・」
「風邪なんてひいてない?」
「ああ・・・」
久しぶりの何気ない会話・・・

こんな事になってしまう前は、特に何も感じなかった・・・けれど

今は、その心地よさに浸ってしまいたくなる


江戸川コナンとして、蘭に名前を呼ばれても嬉しいとは感じない―・・・のに、新一と呼ばれると嬉しいのは何故だろう・・・


そんな事を考えていたら、蘭の呼ぶ声に気がつくのが遅れた。

「もうっ、さっきから呼んでるのに〜」
「あ、悪い悪い・・・考え事してた・・・」
「・・・何?」
「・・・・・・・」
「どうせ新一の事だから、推理の事でしょ?」
「はは・・・ま、そんなとこ・・・かな・・・」

苦笑しながら、答えをはぐらかす・・・

そう、あの頃、自分の気持ちを悟られない様にしていたそのままに・・・

「ねえ・・・」
「ん?」
「・・・あのね、お願いがあるんだけど・・・」
「あんだよ・・・今すぐ帰ってこいってのは無理だぜ?」
「違うわよ・・・・・・そんなんじゃなくて」

少し戸惑う蘭の声―・・・

「・・・・・・・・・・・・あのね・・・・・声が聞きたかったの・・・」

「?・・・今話してんじゃねーか・・・」

「違うの・・・そうじゃなくて・・・・・・」
「じゃあなんだよ・・・?」

「・・・・・・だって、新一、電話してきても素っ気無いし・・・その電話もたまにしかくれないし・・・・・・」

「そっか?」

新一としては・・・しょっちゅう電話している様な気もしているのだが・・・
「・・・声が聞きたかったんだもん・・・」
「・・・・・・」
「あっ、ほらっ、・・・元気なのかな、とか心配になっちゃうじゃない!?」
本音を漏らして、蘭は焦って付け加える・・・。

蘭にとっては、まだ自分の気持ちは知られていないつもりなのだから・・・

「私からは・・・今取り込み中かもしれないとか思うと電話しづらいし・・・」
「そっか・・・」
「メールじゃ声聞けないもん・・・」
「そうだな・・・」
「あっ・・・迷惑ならいいんだけど・・・新一事件で忙しいでしょ、ホントに暇な時でいいの・・・新一が私の事ちょっと思い出した時にでも」
そう言い終えた後、蘭は躊躇いながら、「ワガママかな」と付け足した。

それがワガママだとしても・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・新一にとってみれば、嬉しいワガママで・・・

だとしたら、電話かけっぱなし・・・じゃねーか・・・

そう言いたい想いを苦笑しながら押し込んで・・・

「そか・・・ちょくちょく電話するよ・・・」

・・・戸惑いつつ、言葉にした蘭の名前―・・・。

蘭への想いを込めた分、なんだか胸の中がやけにくすぐったかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・おれもだよ・・・」
「え・・・?何が?」
「じゃあな!・・・また声聞きたくなったら電話するよ」

慌てて切られた音に、柔らかな雰囲気が途切れ・・・蘭はそっと携帯を切った。



耳に残っているのは、囁くように自分の名前を呼ぶ声。


耳にくすぐったく響く―・・・甘い声。


『・・・新一・・・』
耳に残された嬉しそうなその声は、さっきと変わらず甘く暖かな余韻を残して・・・

思わず、その声の主の名を呼び返す。

「・・・蘭・・・」

幼い頃の・・・もう聞く事などなかったはずの声は想いを乗せつつ―・・・柔らかな夕暮れの風に解かれていく。

・・・心に優しい余韻を残しながら・・・。



大切な人の名前を呼ぶのって緊張しません?(^^;)もちろん、呼ばれる方もですが・・・
くぬぎは実生活で本名なんてあまり使わないから、余計かもしれませんけれど(^^;)