雪
時期は哀ちゃんが博士の家に来てしばらく経った頃です〜・・・。新一にーちゃんに会った辺り?
ホントなら、哀ちゃんが博士の家に来たのは夏場(半袖ですからねえ)ですが、どうしても雪景色の中にしたかったので、シチュエーション勝手に変えちゃってます(^^;)
この白い雪に・・・
・・・降り積もる雪の中に、この身を横たえ・・・
静かに埋もれていったのなら・・・
黒い色もいずれは埋め尽くされて白になってくれるのかしら・・・・・・
灰色の空を見上げ、そっとそのひとひらの雪に触れる・・・
・・・この雪の様に、心も記憶も融けていってくれたのなら、どれだけ楽だろう・・・
金色にも似た柔らかな茶色い髪に、白い雪が絡みつく。
少女はその小さな手で雪を払う事もせず、冷たい雪の中にその身を横たえていた。
その幼い姿に似合わない思考を、他の誰が感じ取れるだろうか・・・。
可愛らしい声に薄目を開ける。
小さな・・・白い子猫・・・
「・・・なに?・・・あなたも帰る場所がないの・・・?」
小さくミィと鳴いた子猫を抱き寄せて、再び目を閉じる―・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・温かいわね・・・・・・・
自分にも似た子猫の小さなぬくもりに、幸せを感じる。
・・・だが、これまでしてきた事への罪悪感がすぐに頭を掠め、幸せを感じた事を許せなくなる。
私は幸せになんてなっちゃいけない・・・
「哀君・・・?」
ふいに自分の名を呼ばれ、現実に引き戻される・・・
重い目を開けると、そこには博士の姿があった。
「・・・どうかしたのかね・・・風邪をひいてしまうぞい?」
いつもの穏やかな口調・・・。さっきまでの沈んだ自分の顔を見られずに済んだ事に心のどこかで安心している自分がいた。
助け起こそうと手を伸ばすその指先は、氷の様だった・・・
冷たい風にさらされながら、ずっと探していてくれたのだろうか・・・
私なんかの為に・・・?
胸に鈍い痛みが走る。
「・・・今夜は冷えそうじゃな・・・温かいスープでも作るとするかの。・・・もちろん、その腕の中の子にもじゃ」
なんでもない・・・それが自然な事であるかの様に、ふっと微笑んで、博士は哀の髪についた雪をそっと手で払った。
「・・・・・・・どうして私にこんなに優しくしてくれるの・・・?」
それまで自分が生きてきた環境を思えば、当然の疑問だった。
きょとんとした博士は、じっと私の顔を見つめて・・・やがて柔らかく微笑んだ。
「・・・哀君が良い子じゃから・・・かの・・・?」
良い子?
・・・・・・・・・私が?
・・・・・・・・・・・・・だって、私は・・・・・・・・・
「・・・良い子なんかじゃないわ・・・・・・私、人を殺したのに・・・それも大勢の・・・・・・」
哀の腕の中で、小さなぬくもりがミィと声をあげながら心配そうにその表情を覗き込んでいる。
言葉にした、その苦い気持ちを包み込むかの様に、博士はぽんと哀の頭に手を置いた。
「・・・・・新一君が飲まされた薬の事じゃな?・・・哀君はそんなつもりで作っておったんじゃないとワシは思っておるんじゃが・・・?」
ふっと気持ちが緩んだ・・・。
目の前に変わらずにいるはずの博士の顔がにじんでよく見えなくなった。
「・・・・・・・・哀君が作っておったのは・・・もっと別のねらいを持った薬じゃろう?それが偶然にも人を殺める効果をもたらした・・・違うかの?」
言葉にならない。・・・ただただ、目から涙が零れ落ちる。
どうして?
「・・・君を見ている限りでは、そんな・・・人を殺す薬を作っていた様にはとても見えんのじゃよ・・・」
どうして・・・?
「仮に作れと命令を受けても・・・受けんじゃろ、君は・・・。」
どうして・・・・・・・?
返事すらも出来ないまま、声を出す事もなく、ただ零れ落ちる涙を拭おうともせずに立ち尽くす哀の髪に、また雪が白く舞い降りてきた。
2度目に博士の手が、雪を払う為に哀の頭に置かれた時、子猫の頭に置かれた哀の手に、涙がポタッと落ちた。
「・・・・・・今は新一君も感情が昂ぶっておるから、あんな態度を取っておる様じゃが、哀君ともっと仲良くなれたら、おのずと理解してくれると思うんじゃ。・・・まあ、気長にゆっくりと・・・じゃな。」
「どうし・・・て?・・・」
「ん?」
「・・・どうしてそんなに優しくするの?私、あなたが思う様な人間じゃない・・・この手だけじゃない、全部・・・全部が血に染まってる。黒く染まってる・・・!私には理解出来ないわ・・・私を保護すれば、あなただって組織に見つかれば殺されてしまう・・・デメリットばかりで、良い事なんて何もないじゃない・・・」
生まれてからずっと組織の中で育った哀には、博士の行動は理解出来ない事だった。
誰かに助けて欲しくて、一時は同じ境遇の新一を頼ったが、全く関係の無い―・・・その隣の家の住人が救いの手を差し伸べてくれるだなんて思いもしなかったのだ。
ここを出て行けば、博士は安全だと知りつつも、組織の目が怖くて、それも出来なかった。
「厄介者よ・・・良い子なんかじゃない・・・・・・・・・・」
自分の言葉に、胸をえぐられる様な痛みを感じて、哀は腕の中のぬくもりをぎゅっと抱きしめた。子猫は、哀の涙をきょとんとしながら眺めている。
哀の言葉に、一瞬驚きを隠せなかった博士は慌てた様子で両肩を掴んだ。
この子は、人としての優しさを与えて貰える事すら出来ない環境におったんじゃな・・・
いや、それだけじゃなく、人との接し方など、教えてくれる者がおらんかったんじゃ・・・
必要以上に人と距離を置いている感じは、出会った夜から感じていた。
最初は警戒しているのかと思ったのだが・・・
「理解出来ないの・・・私には理解出来ない・・・!」
繰り返し呟く哀の声は、悲痛な叫び声に聞こえて仕方が無かった。
優しさに満たされたその心は、人一倍愛情に飢えている様に思えて仕方が無かった。
腕の中の子猫が、そっと哀の頬を伝う涙を舐めた。
子猫は哀の気持ちが理解できたのか、そのいたわる様な優しさに、哀はほんの少し癒されていく気持ちを覚えた。
「子猫みたいなもんなんじゃよ・・・」
「・・・・・・?」
「今の君が子猫を抱いている様な思いなんじゃ・・・。自分より小さな者が手を求めているのに、知らぬふりは出来ないじゃろう?」
哀は、腕の中の子猫を見た。
「・・・ただ単に、自分がぬくもりを求めているからって理由かもしれないじゃない・・・」
「・・・・・・それもあるかもしれんの・・・。哀君の様な娘・・・いや、下手をしたら孫なんじゃが・・・おってもおかしくない年齢だしの〜・・・。一人暮らしも慣れたもんじゃが、やっぱり寂しいものじゃ。・・・それを埋めてくれる存在というのは、メリットにはならんのかの?」
「・・・なるの?」
「なってくれれば嬉しいんじゃが?」
博士の言葉に応える様に、哀はぐいっと涙を拭った。
「・・・・・・私、何をしたら良い?」
「そうじゃの〜・・・まずは、ワシが作ったシチューを平らげてくれると嬉しいんじゃが・・・張り切ってたくさん作りすぎてしまっての・・・」
ふっと微笑んだ博士につられ、哀の口元も少し・・・ほんの少し緩んだ。
「そうして笑っておった方が良い・・・」
哀は博士の言葉で、自分が笑っていた事に気付くと、はっとその微笑を消した。
「しあわせになってはいかんと思っておる様じゃが・・・ワシはそうは思わんよ?自分の開発した薬の事を悔やむのなら、それに対抗して解毒薬を開発すれば良いのじゃないかの・・・。それで今までの事が帳消しになるとは言わんが、これから犠牲になるかもしれん人を救う事じゃったら出来るじゃろう?」
その言葉と共にぽんと置かれた頭上の手の平と、腕の中の子猫が哀の心の中に小さな灯りをともした。
「・・・薬の・・・研究をさせてもらえる・・・?・・・解毒薬を作りたいの・・・・・・」
遠慮がちに呟いた哀に向けられたのは、暖かな微笑みだった。
あの雪の日から、哀の心の中の灯りはほんの少しずつ大きく育っている。
子猫は飼い猫だったらしく、しばらくして姿を消してしまったが、哀の胸の中にはぬくもりとして宿っている。
パソコンの隣の燃え残ったMOと、博士の笑顔とが、哀の新しい道標になった。
シチュエーション勝手に変えちゃってすいません(><;)
しかも、最初は博士じゃなくて、光彦君だったんですが、抽象的ではなく、はっきりと言葉に出してくれるなら博士かな〜と、途中でキャラ変更(^^;)ああ、でも光彦のも書きたかった・・・(おい)
らぶらぶモノではなく、久々にふつーのモノを書きたくなってしまいまして・・・(^^;)
うう、精進いたします〜(><;)