「ほら、いい加減大人しくしてください。暴れたって先延ばしになるだけですよ?」
羽交締めにされてなお、ジタバタと暴れるアルバに半ば呆れてロスは言う。
「う…そ、そうだけど」
「だいたいお願いしてきたのは勇者さんじゃないですか」
「その言い方だとボクが喜んでしてほしがったみたいに聞こえるっ!!」
「違うんですか?」
「違うに決まってるだろっ!?」
顔を真っ赤にして、喚く。
いつもながら、一言一言への律儀なツッコミは見事だ。
ああ、これだから止められない。
そう、ロスは思う。
さっきだって、あんなに思う通りに「お願い」してくれた。
まあ、そんなこんなで機嫌が良いので、からかうのは程々にしてやろう、と思う。
「はいはい、わかりましたから。とにかくとっとと済ませてメシ食いに行きましょう」
「てか、なんでお前はそんなにあっさりしてるんだよ…」
男にキ…じゃない、口移しするのイヤじゃないのか?と尋ねるアルバ。
「キス」と言いたくないらしいのに、アルバの中の葛藤が感じられてちょっと楽しい。
内容に関しては、何を今さら、というような事だが。
「ただの「作業」でしょう。あと残念ながら、キスに夢見てるような歳でもないんですよ」
何時が初めてだったかとか、どんな相手だったかとか、正直ロスは覚えていない。
多分、疲れている時に引きずり込まれた娼館だった気がする。
思春期を迎えそうな頃にあの「事件」が起こったので、女の子とどうこうと言う思い出も無い。
何処をどう思い返しても、夢を見るような隙間は無かった。
ロスがそう言うと、アルバは少しムッとした顔をして少しの間黙り込み、
「…どおせ。ボクは初めてだったよ。夢見てて悪かったな」
完全に、拗ねた口調でそう言った。
そんな顔しても、正直ロスの嗜虐心がそそられるばかりだ。
なので、ついつい先程思ったことも忘れ、からかいの言葉を発する。
「そおですね~。まあ、勇者さんの夢は打ち砕かれる為にありますし!」
「んなわけあるかっ!!」
「やっぱり初めてだったんですね~。いやぁご愁傷様です」
「お前が言うなぁっ!!」
再びジタバタと暴れだすアルバ。顔には「もうヤダ、このドS」と書いてある。わかりやすい。
暴れる力を殺さずに、少しだけ腕を緩めてアルバの身体を回転させる。
急に向い合せになって、驚いたように暴れるのを止めるアルバ。
(このタイミングで止まるとか。ホントにこの人面白すぎる)
アルバの背が伸びた所為で、真直ぐに合う、視線。
大きな瞳にロスの姿が映っている。
あんなに、弱くて、小さくて、細くて、弱かったのに。
今は、ロスすら凌駕する強さ。
そしてそれは、自惚れでも何でも無く、ロスの為に培われた強さだ。
「ほら、「作業」しますよ」
そんなことを考えていると、思いのほか、優しげな声が出た。
「………ぅん…」
小さな返事に顔を近づけると、ギュッと目を瞑るアルバ。
思わずクスリと笑ってしまう。しかし、それにツッコミを入れる余裕は無いらしい。
しかし、目と共に唇までしっかりと引き結ばれてしまった。
これはいただけない、と思いながら親指でそっとなぞる。
「…口は、少し開けてください」
「え、な、なんで?」
「体内に入らないと、吸い取れません」
「…っ!」
そう言って、返事をしようとしたのだろう、少しだけ開いた唇に舌を割り込ませる。
そうしてアルバの返事ごと吸い込んでしまう。
アルバの顔は真っ赤で、後でからかってやろうかな、と思う。
そして多分そのせいで熱くなっている口内を侵食し、貪るように舌を絡ませる。
一度目は、完全に事故だったので「ぶつかった」記憶しかない。
二度目は、本当に「確認」だったので、どうしたら望んだ結果が出るか、しか考えていなかった。
なので、この「三度目」はなんだか特別な感じがした。
「作業」と言いくるめてはいるが、これはれっきとした「キス」だな、と思ったのだ。
この人の「初めて」は自分で、そしてそれは一生覆らない。
なんだかそれが嬉しくてしょうがないのは。
(いったい、どういうことなんだろう)
至近距離で、真っ赤な顔を見つめながら、そう思った。
--END--
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サイトを戦勇。メインに組み直して公開するのに、pixiv再録しかないってのもどうかと思い、いただいたタグを妄想元にしたものを書いてみた。
ちなみにタグは「初口移しのロス視点読みたいです」だったのですが、まあそれもそのうち。
これを先に書いたのは、「閑話休題」作成時にロス視点にするかアルバ視点にするかで悩んでいて、出だしだけロス視点も書いてあったので。
サイトUP:2013/03/21