初めての3度目~side Loss

「ほら、いい加減大人しくしてください。暴れたって先延ばしになるだけですよ?」

羽交締めにされてなお、ジタバタと暴れるアルバに半ば呆れてロスは言う。

「う…そ、そうだけど」
「だいたいお願いしてきたのは勇者さんじゃないですか」
「その言い方だとボクが喜んでしてほしがったみたいに聞こえるっ!!」
「違うんですか?」
「違うに決まってるだろっ!?」

顔を真っ赤にして、喚く。
いつもながら、一言一言への律儀なツッコミは見事だ。
ああ、これだから止められない。
そう、ロスは思う。
さっきだって、あんなに思う通りに「お願い」してくれた。
まあ、そんなこんなで機嫌が良いので、からかうのは程々にしてやろう、と思う。

「はいはい、わかりましたから。とにかくとっとと済ませてメシ食いに行きましょう」
「てか、なんでお前はそんなにあっさりしてるんだよ…」

男にキ…じゃない、口移しするのイヤじゃないのか?と尋ねるアルバ。
「キス」と言いたくないらしいのに、アルバの中の葛藤が感じられてちょっと楽しい。
内容に関しては、何を今さら、というような事だが。

「ただの「作業」でしょう。あと残念ながら、キスに夢見てるような歳でもないんですよ」

何時が初めてだったかとか、どんな相手だったかとか、正直ロスは覚えていない。
多分、疲れている時に引きずり込まれた娼館だった気がする。
思春期を迎えそうな頃にあの「事件」が起こったので、女の子とどうこうと言う思い出も無い。
何処をどう思い返しても、夢を見るような隙間は無かった。

ロスがそう言うと、アルバは少しムッとした顔をして少しの間黙り込み、

「…どおせ。ボクは初めてだったよ。夢見てて悪かったな」

完全に、拗ねた口調でそう言った。
そんな顔しても、正直ロスの嗜虐心がそそられるばかりだ。
なので、ついつい先程思ったことも忘れ、からかいの言葉を発する。

「そおですね~。まあ、勇者さんの夢は打ち砕かれる為にありますし!」
「んなわけあるかっ!!」
「やっぱり初めてだったんですね~。いやぁご愁傷様です」
「お前が言うなぁっ!!」

再びジタバタと暴れだすアルバ。顔には「もうヤダ、このドS」と書いてある。わかりやすい。
暴れる力を殺さずに、少しだけ腕を緩めてアルバの身体を回転させる。
急に向い合せになって、驚いたように暴れるのを止めるアルバ。

(このタイミングで止まるとか。ホントにこの人面白すぎる)

アルバの背が伸びた所為で、真直ぐに合う、視線。
大きな瞳にロスの姿が映っている。
あんなに、弱くて、小さくて、細くて、弱かったのに。
今は、ロスすら凌駕する強さ。
そしてそれは、自惚れでも何でも無く、ロスの為に培われた強さだ。

「ほら、「作業」しますよ」

そんなことを考えていると、思いのほか、優しげな声が出た。

「………ぅん…」

小さな返事に顔を近づけると、ギュッと目を瞑るアルバ。
思わずクスリと笑ってしまう。しかし、それにツッコミを入れる余裕は無いらしい。
しかし、目と共に唇までしっかりと引き結ばれてしまった。
これはいただけない、と思いながら親指でそっとなぞる。

「…口は、少し開けてください」
「え、な、なんで?」
「体内に入らないと、吸い取れません」
「…っ!」

そう言って、返事をしようとしたのだろう、少しだけ開いた唇に舌を割り込ませる。
そうしてアルバの返事ごと吸い込んでしまう。
アルバの顔は真っ赤で、後でからかってやろうかな、と思う。
そして多分そのせいで熱くなっている口内を侵食し、貪るように舌を絡ませる。

一度目は、完全に事故だったので「ぶつかった」記憶しかない。
二度目は、本当に「確認」だったので、どうしたら望んだ結果が出るか、しか考えていなかった。
なので、この「三度目」はなんだか特別な感じがした。
「作業」と言いくるめてはいるが、これはれっきとした「キス」だな、と思ったのだ。

この人の「初めて」は自分で、そしてそれは一生覆らない。
なんだかそれが嬉しくてしょうがないのは。

(いったい、どういうことなんだろう)

至近距離で、真っ赤な顔を見つめながら、そう思った。

--END--

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サイトを戦勇。メインに組み直して公開するのに、pixiv再録しかないってのもどうかと思い、いただいたタグを妄想元にしたものを書いてみた。
ちなみにタグは「初口移しのロス視点読みたいです」だったのですが、まあそれもそのうち。
これを先に書いたのは、「閑話休題」作成時にロス視点にするかアルバ視点にするかで悩んでいて、出だしだけロス視点も書いてあったので。

サイトUP:2013/03/21

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