詩集より針と糸
  針と糸
母が元気な時に
作ってくれた
どてらを着ていた
寝たきりで
身体が思う様に
動かないのに
針と糸を
持って来てと
 言うので
びっくりして
聞いてみた
そうしたら
直してあげるからと
言うので
どてらを見ると
袖が少し
ほころびていた
こういう
身体になっても
親でした

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詩集よりあかんぼうのようなの
 赤ん坊のような

寝たきりの母が
今日も
自分の帰りを
待ってくれている
今
帰ったからねと
母の
顔を見ると
歯が一本もない
赤ん坊の様な
口で
満面の笑顔を
浮かべてくれた
一日の疲れが
とれる瞬間です

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詩集より楽しい世界
 楽しい世界

寝たきりが長く続き
年も
九十三歳になりました
頭も少し
混乱してきた様だ
道理に合わない事を
言う様になった
でも
道理に合わない会話を
まともに受け入れて
話し合っていると
こんなに
楽しい世界が
有ったのかと
思いました

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詩集よりごほうび
 ごほうび

どの様な
生き様で
有っても
その人なりに
生き抜いて
いればこそ
いっぱいの
輝きを受け
厳しい時代を
生き抜いて来た
ごほうびが
必ず
頂けるはずです

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詩集より燃え立つ
 燃え立つ

現実の社会で
力の無い自分が
自信を
 失い掛けていた
諦めては駄目だよ
希望を
持ち続けるんだよ
本当の答えが
出るまではと
亡き父親の
励ましが
頭をよぎりました
どんな事が有っても
負けないで
答えを出したい

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詩集より別人
  別人

驚いています
どうして
こんなにも
素直に
なれるんだろう
昨日と
今の自分が
別人の様だ
無意識に迎える
朝の空気が
ものすごく
さわやかだ
今日こそはとの
気がしてきた

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詩集より親孝行
  親孝行

決まり文句に
親孝行
 したい時には
親はいないと言うが
そんな事はない
親の愛は
いなくなっても
無くなる事はない
子供の身体の中に
生涯
親は居るのです
どんな親でも
子供の幸せを
願っていたはず
自分が幸せに
なった時が
親孝行の時です

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詩集より現実
  現実

スタートの時は
夢と希望を
あふれんばかりに
持っていたのに
手厳しい
現実の中で
もみくちゃになり
打ちのめされている
いつの間にか
弱気になっていた
情けない
ものすごく
悲しいのです
負けている
自分が

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詩集より母の思いやり
 母の思いやり

貧しくて
食べるものが
少なかった
時代
お腹が
 いっぱいだから
食べてくれると
言いながら
くれた
にこやかな
母の顔
生涯
忘れる
事は無いです

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詩集より細い柱
  細い柱

どんな事が有っても
病弱な
父を含めて
家族五人
生き抜いて
行かなければ
 ならないと
ずっしりとした
重みを
細い柱
一本で
支えていた
母だった
生涯
裏切る事は
出来ない

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