冬空にオジロワシを求めて…


秋も深まり、仕事のほうは佳境を迎えつつあった。
何はなくとも期限にはすべてを間に合わせなければならない。当たり前の話ではあるけれど、これは結構辛いことなのである。
あたしは職場でも一番の下っ端であるから、偉そうな事をいえた立場ではないのだけれど、仕事には目立つ部分もあれば、
屋台骨を支える陰の部分もあるのが当然だと思っている。オーケストラだってラッパや笛(別に他意はないのだけど、楽団
では、あえてトランペットとかフルートとか言わずに、こう呼んでいた。うちのオケだけかもしれないけど。)だけいても
音楽にはならない。2ndヴァイオリンがいるからSoloヴァイオリンが映えるのであり、バスーンやベースが支えているから、
ハーモニーが流れるのである。こういっちゃあ何だが、わが職場は有能なソリストが沢山いるのだけれど、それだけでは仕事
は廻らない。ちゅうわけで、自分ではもっぱら留守番だったり、雑用だったり、いわば最底辺を支えてきたつもりである。そ
れもまた立派な仕事だと思うし、自分が居るからソリストが気持ちよく演奏できるのだという自負も多少はあった。
ところがだ、今年からやってきた上司はまったくお分かりでなかったらしい。
11月のある日、「ところでお前さん、普段何してんの?」と尋ねられたのだった。

へこんだ。久々に凹んだ。俺ってそんなに存在感無かったんだ…。そうかあ、俺って存在意義無いんだな、この人にとっては。
俺のささやかな自負って何だったのかねえ。
そして、壊れてしまったのであった…(うそ)、ちょっとだけ脱力感が漂ったのだった。

幸い休日出勤の山ができており、振り替え休みを取る暇も無かったので、仕事さえきちんと処理できれば、ではあるけども休み
は取れるはずである。最近は休日出勤しても手当てなんて普通は出してくれない。代わりに休めというのが上司の決まり文句
である。しかしだ、普段の仕事が減るわけでもないのに、休めるかい!
今回は、ちょっと壊れ気味だったので、「お〜〜とってやろうじゃないか」と意気込んでしまい、気が付けば沖縄行きチケット
を予約してしまっていたのであった。
しかしまだ休めるかどうかわからない。突然仕事が降って来るのもまた、うちの職場である。
粘り、粘って、先特割引の最後のタイミングで那覇行きを確保した。あとは休みを2日取るために必死で働くだけである。
ご承知のように、毎年師走は新田原へ行くのが恒例になっている。しかし、今年からあの標準レンズでも戦闘機がはみ出す
とんでもない滑走路脇の駐車場が閉鎖され、まったく魅力がなくなってしまった。そこで那覇である。今年最後の航空祭、
しかも昨年からはブルーインパルスも飛ぶようになった。そしてなんといっても南シナ海を守る最強の猛禽、オジロワシエン
ブレムのファントム戦闘機がいる。12月の沖縄は、天気が五分なのがつらいが(実際過去2年は大雨)、これに賭けてみるのも
面白いと思ったのである。
いつもお世話になっている宮崎のなむ氏に、今年は那覇へ行く旨振ってみたところ、なんと福岡と大阪のいつもの面子が釣れ
てしまったのだった。まあ釣れたというより、みんな同じように新田原が年の締めくくりだっただけに、行き場を探していた
のでありましょう。

例によって休みの日数を最短にすべく、往復は夜行バスから始まる。大阪行きの発車は夜10時半。おかげで
夕方からフタ仕事は出来る(やけくそ発言)。例によって破壊的に重たい荷物を担いでバスを乗り継ぎ、関空着が8時前。
   アホです
重量物は片っ端から預け(本当は機材だけでも持ち込みたいが、混んだ機内でそれもまた迷惑な話なので止めている)昼まで
ターミナルで撮影を試みる。しかし雨交じりの曇天で、おまけに視程もかなり悪い。対岸のりんくうタウンがかすむ。
   
これじゃあね。ベイパー長く曳いているのだが、全然目立たない。だんだんテンションが下がる。
おまけに、本当は目玉であったはずのペリカンカーゴ(カーゴイタリア)のDC-10はなぜかこの日だけキャンセル。飛んでくる
機体はことごとくノーマルカラーで、ますますテンションが下がる。
那覇行きはJALのBoeing767-300が登場。まったく普通です。何なんでしょう、この普通ぶり。本当はMDとAirbusオンリーな
出雲空港では絶対乗れない機材ですが、正直つまらんです。結局道中はほとんど昼寝で、気が付いたらファイナルアプロー
ち中でした。36ランウェイに滑り込み、タキシーウェイに降りたところでストップ。前便が遅れてスポットが塞がっている
のだという。ここで15分ほど待たされ、件のJTA機が出たスポットに入ったのはもう日が傾きかけた頃であった。
   
全国で唯一お尻からプッシュバックが撮れる空港だそうだ。
きちゃいましたよ、ここまで。
ここでわざわざ迎えに来てくださった諸氏と合流し、南のポイントへ行ってみる。しかしあまりに強風、ドン曇、しかも肝
心の飛行機があんまり来ない。仕方なく早めに撤収。
夜は当然泡盛ワッショイの大宴会。なにしろ、明日の撮影より今日の宴会のために来ている人ばかりなので?、果てしなく
続く。いつも思うことだが、こんな趣味で出会わなければ、街ですれ違いこそすれ、知り合うことも無いであろう境遇の
まったく違う人間が集まってドンチャカ騒ぐ。普通に自分の世界で生きていたら知ることも無いような、いろんな話が聞
けるのだ。みんなそれぞれの世界で苦労しているのだな、今の世の中は。
こうして那覇の夜が更けていく。