妊娠


平成15年は、私にとって本当に色々な事があった1年だった。
3月初め、国立の視力障害センターで3年間「あんま マッサージ 指圧」と「鍼 灸」の免許取得の為の勉強を終え、何とか無事卒業した。主人とは、生活訓練の時に知り合い視力障害センターでも、共に勉強や臨床に頑張った。
彼もまた、「ベーチェット病」という目の病気をもつ1人なのである。
2月に受験した国家試験の結果を、不安な気持ちで待ちながらもやっと卒業したという開放感にひたっていた。 3月終わり、合格通知が届くころ体調の変化に気づいた。胃の辺りがムカムカして気分が悪い日々が続いた。4月に入り、二人で住むマンションも見つかって引越しの準備をする中、私は病院に行く事となった。
「妊娠してますよ。3ヶ月に入ったところです。」そう告げられ、嬉しさでいっぱいになると同時に不安な気持ちにもなった。私達が、無事に子育てする事ができるのだろうか? 主人は以前から、子どもがほしいと言っていたので喜んでいる様子。視覚障害者でも子どもを何人も育てている人はたくさんいる。周囲の人から見れば大変だなぁと思うかも知れないが、自分の子どもがほしいと思うのは自然な事。なにも特別な事しようとしてるのではない。ぼんやりと映った体長36ミリの我が子のエコー写真を見ながら、そんな事を考えていた。
4月終わり、引越しも無事に終わり新しい生活が始まった。それが気分転換になったおかげで、つわりも軽くてすんだ。買い物に出かけたりすると、帰る頃に気持ち悪くなったりする程度だった。
主人は、部屋の掃除や色々な家事を手助けしてくれた。
市内の点字図書館で、 「初めての妊娠と出産」というCD図書を借りて勉強した。雑誌などをスラスラ読めるわけではないので、CD図書はとても助かった。 もう1冊借りた本がある。何を隠そう「高齢出産」というタイトルだ。 36歳で妊娠し、出産の時にはもう1歳年をとってしまうのだ。「若い ママじゃなくてごめんね。」そうお腹の赤ちゃんに言いながら、その本でも勉強した。最近は医学も発達してきているのか、病院でも高齢だからどうという事は何にも言われなかった。実際、同じくらいの年齢の妊婦さんがたくさん病院に来ていた。
その頃 主人は、自宅近くにテナントを借り鍼  マッサージの治療院開業の準備に忙しくなった。 7月中旬、開業までこぎつけ私も安定期に入った。最初の頃は、私も少しだけ仕事をしたりしていた。しかし、開業してしばらくは患者さんもまばら。これなら家で、のんびりしてた方がよいかもという事で、家で過ごす事になった。
お腹の赤ちゃんはとても順調だったが、病院の定期健診の時には母がつきそってくれた。 検診の時、いつもエコーで赤ちゃんの様子を見てもらうのだけど、私には小さな画面でよく見えない。代わりに母に見てもらって、いつもその様子を後で聞いていた。 「今日は、宇宙遊泳してるみたいに手と足をフワフワさせてたよ。」「かえるの赤ちゃんが泳いでるみたい。」「あら、今日は眠ってるみたい。」などなど。
妊娠中は、カゼひとつ引く事なく過ごせたが、お腹が大きくなるにつれだんだんしんどくなってきた。 妊娠後期の血液検査で、少し貧血だと言われ 薬を1週間飲んだ。けっこう食べていたんだけどなぁ。私の体重も徐々に増えていた。 でもやっぱり鉄分が足りないのか?ほうれん草 小松菜 ひじき あさり こうやどうふ 肉は、豚肉が特に鉄分を多く含んでいるとの事らしい。もちろんレバーも代表的な食品である。 そして、それらの食品を取った後ビタミンCを多く含む果物などを取ると、鉄分の吸収が促進される。反対に食後すぐにコーヒーや紅茶などのカフェインを多く含むものを取ると、鉄分の吸収が妨げられるという事だ。 コーヒーも我慢していたのだけど、1日に1,2杯ならよいとの事だった。
胎動も、5ヶ月の終わり頃から始まっていた。ピクピクと、まるで金魚にお腹をつつかれているような変な感じがしていたのを覚えている。 そのピクピクがどんどん力強くなっていくにしたがって、赤ちゃんも大きくなってきているという実感がわいた。
予定日は、11月21日。大きなお腹をかかえ、いつもの年より暑く感じた夏を乗り切り、秋になってますます食欲が旺盛になっていった。
臨月に入り、胎児の心音を聞く事になった。ドクドクと、聞こえている。赤ちゃんは元気そう。 しかし医者は、「全体的には問題ないと思いますが、心音の最初の打ち方がちょっと弱いかな。心臓も少し大きいように思います。」との事で、同じ病院内の小児科の循環器専門の医師を紹介された。いままで順調にきていただけに、とても不安になった。 次の日、その先生に診てもらった。30分くらいお腹にエコーをあてて調べていただろうか。「問題ないですね。さい帯の血液の流れも順調ですし。そうでなければ、ここまで赤ちゃんが大きくなってないでしょう。」 心音は、さい帯のねじれ方などによって、少し聞き取れにくい部分が出たりするのだそうだ。心臓が大きくなっていたのも、もうすぐ生まれるからではないかという事だった。念の為、生まれてからもう1度検査してみましょうとの事。ホッと一安心。
入院の準備も整い、あとは出産を待つばかりとなった。
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