対照的な医師


1歳の誕生日を迎えてすぐの頃、風邪をひいて熱が出てしまった。近くの小児科に初めて行ってみる事にした。
赤ちゃんの頃は、出産した総合病院の小児科に定期健診や、予防接種に通っていたのだけれどその度に病院で2時間半くらいの時間を費やしてしまう。待っている間に子どもは、眠くなってぐずったりミルクを飲ませたりオムツを交換したりしなければならない。ただでさえ忙しいのに、毎回長い時間待たなくてはならないのはご免だ。「うちの病院をかかりつけにしない方がいいですよ。」と、総合病院の小児科受付の女性がそう言っていたのが解る。
近くの小児科といっても、子どもを連れて歩いて行けるほど近い場所ではないので、結局実家の親に来てもらわなくてはならなかった。
初めて訪れる病院に、少し不安を感じつつも子どもを連れて行った。すると、初診だったせいもあってか40代位の医師は丁寧に診察してくれた。あまり沢山の患者さんがいる時間帯ではなかったので、育児に関する疑問質問をしてみたけれど親切に色々と教えていただく事ができた。予防接種の事、栄養の事、病気の事など今までちょっと気になっていた事を質問すると、適切なアドバイスをくれた。育児に関して、ちょっとした疑問や質問があっても他のお母さん達と情報を交換する場がなかったり、親戚や友達にも同じくらいの子どもをもった親はいない。最も、そういう場を探せばいくらでも見つかりそうな気はするのだけど。
それ以降、1歳半の定期健診や予防接種はもちろん、風邪をひいて熱が出た時などこの病院に通っている。待ち時間も少ないので、助かっている。たけるは、いつも元気なのであまり病院にお世話になる事はないのだけれど。
そんなたけるが、1歳7ヶ月の頃風邪の熱が下がって1週間くらいたった頃、また熱が出てきてしまった。今度は、風邪の症状はない。かかりつけの小児科で診てもらうと、「中耳炎の疑いがありますね。」と言われ、すぐ近くの耳鼻科を紹介してもらった。
その病院の医師は、やたら声が大きく威圧的な感じのする60代くらいの先生だった。私が視覚に障害があって見えにくい事を告げると、看護士さんは診察室えと案内してくれた。診察してもらうと、やはり中耳炎との事。鼓膜にはりで小さな穴を開けて切開し、奥にたまったウミを取り除かなくてはならない。視覚障害者であると判った医師は、どうして中耳炎になるのかとか切開しなくてはならないが、意味が解るか?などと質問してきた。一応、解剖の授業で耳の構造は習っていたので理解はできるのだけど、その医師は障害をもつ人には解らないだろうと言わんばかりに威圧的な言葉で説明をしてきたのだ。「そんな言い方をしなくても、普通に説明してもらえれば充分理解できるのに。しかも、耳が不自由なわけじゃないのだからそんなに大きな声で言わないでよ!」と心の中でそう思いながら、障害をもっている人をバカにしたような態度に怒りをおぼえた。
ワーワー泣き叫ぶ子どもを抱きかかえ、両サイドから看護士さんがしっかりと子どもを抑えて切開し処置が終わった。そして、診察室から出る私に看護士さんはとどめをさすようにこう言った。「中耳炎のこと解るんですねぇ。」「あぁ、どうして見えにくいだけなのに何にも解らないと思われるんだろう?」と、怒りをとうりこして悲しかった。この病院には、もう行きたくないと思ったのだけど切開した次の日は必ず消毒に行かなくてはならなかったので、しかたなく通う事に。耳に液体の薬を何日か入れなくてはならなかったので、それが大変だったけどすぐに慣れた。結局、2度ほど中耳炎で切開し何度かこの病院に通ったけれど、今思えば違う病院に変えればよかったのかも知れない。
しばらく時間がたつと、「医師もいろんな性格の人がいるもんだなぁ。」と思えるのだが、この時は久々に怒りを感じた出来事だった。
たけるは、4月や10月の季節の変わり目によく風邪をひく事が多いので、その度に中耳炎にならないかと心配している。鼻水が長く続いたり、熱が再び出たりすると要注意なのだそうだ。これも、小児科の方で教えてもらった事なのだけれど。とにかく、風邪をひかないように気をつけなくては。そして、もしひいてしまった時は早めに小児科の先生に診てもらって、早く治す事が大切だ。そうすれば、あの耳鼻科に行かなくてすむのだから。
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