棋力開発…明解 初級囲碁読本   実技編

 05 強い石には近寄るな
   A 厚い石の働き
強い石に近づくなという格言は次のことと同じことと同じことを言っています。
厚みを地にするな、生きている石の近くは小さい、相手の石を自己の厚みに誘い込め等々です。
初中級者の場合、この事は概念的には分かっている人が多いのに、実際の着手では守れないことが多い様です。何故なのか、私の受ける感じでは、地を作ることに意識過剰な為だと思います。中盤で15目の地を作るのが大きいという感覚がそれを助長しています。中盤では20目の地を作ることだって、たいして大きいとは言えません。30目の地の地模様があっても、弱い石があれば、30目は半分以下に目減りするはずです。
強い石は、戦いになった時、特にその力を発揮します。
だから、自己の強い石は出来るだけ戦いに役立たせるように心がけるし、相手の強い石には喧嘩をしなくても良い様に近づかない様に打ちます。強い石、厚い石で地を作っても大した成果には結びつきません。

<上辺>
右上の黒が強い石です。初級者は相手の地が出来ない様にと、地を作る邪魔をしようとして、必要以上に強い石に近づきます。
この構えでは、白1が限界で、8間でも、黒2とハサマレ、左上にある程度の模様を作られる可能性があります。この白1より黒の厚みに近寄る手は間違いなく悪手です。

<下辺>
右下の黒の形は大変厚い形です。 白を自己の強い石に近づけることが出来れば、厚い石が働いて来ます。従って、黒6と弱い方の黒石から打つのが最善です。
黒6でJ3や、K4は石の方向が違うことになります。強い方から打てば、相手の石が自己の弱い方に打たれるので、自己の弱い石が攻められることになります。

<右辺>
右上の黒の厚みに白が白1と打ったらどうなるでしょう。黒は黒2と打ち込みます。右上の厚みにより、黒2は攻められるのではなくて、攻める側になります。黒6により、黒7、黒8を見合いにします。これが、厚みを生かした打ち方です。

<左辺>
右辺は、白1が良くない手で、こういうケースでは、左辺白9と堅く打ちます。仮に黒が一杯に詰めて来たら、黒10の強い石をより強くし、左上を白の地模様にする白11のツケが良い手になります。
左辺の黒は厚みが働きません。

 05 強い石には近寄るな
   B ヒラキの判断
白のヒラキ、黒のヒラキ

<上辺>
右上の形は白Q13の利きがあるので、見た目以上に白が厚い形です。
この形で白からヒラクとしたらどこまでが妥当でしょうか。 妥当な着点は白1です。これより狭いと一路左に詰められます。

<下辺>
黒からのツメはどこまでが限度でしょうか。 黒2までが限度で、これより広いと、間に打ち込まれ、左下の白の厚みが働きます。


 05 強い石には近寄るな
   C 第3線は強い石
第3線にしっかり地を構えている石も強い形です。

<右辺>
白1と白3、どちらが良い手でしょう。 正解は白3です。もし、白1と打った場合に、黒が黒3や黒Q6に打てば、白1の石が攻められる可能性が出てきます。何故ならば、右上の黒は強い形だからです。 白1は強い石に近づきすぎており、上方への発展が望めないから、眼形も少ないということが言えます。

強い石の近くへは、自己の石の場合でも同様近寄らないことです。

<左下>
左下の白に対して、どちらからカカリますか?

正解は黒6。左上の強い黒石より遠い方からカカルのが良い手です。ここが、初中級者の間違うところです。黒4の方が、黒地が出来やすいから、そう感じるのでしょう。
確かに、その方が、左辺に黒地は出来やすいです。でも、白も下辺に白地が出来やすくなります。
黒C13、黒C14と元手をかけているところへ地模様が出来ることと、下辺の新天地に地模様が出来ることの意義はいうまでも無く、下辺が大きいと言えます。
逆に、白が左辺に地模様を作る難しさと、下辺に地模様を作る難しさは、どちらが難しいか? 当然、黒C13、黒C14という邪魔ものがいる左辺の方が難しい。
これが、黒6を正解とする理由です。


 06 攻守兼用の手は二重丸
   A 一石二鳥
同時に2つ以上の働きを石に与える手は効率が良い手ということになります。
1.攻めながら守る
2.攻めながら地を囲う
3.地を増やしながら、相手の地を減らす
等がその例です。

<右辺>
攻めながら守る例
白1により、二間ビラキで守りながら、二間バサミで攻める。

<左辺>
攻めながら地を囲う例
(確定地ではないが、地になる可能性あり)
三間バサミの攻め、コゲイマジマリからのヒラキで地模様作成。
<上辺>
攻めながら守る例
白1に対して、黒2が白を攻めながら、左上の黒を守る。

<下辺>
攻めながら守る例
白3に対して、黒4と打つのは、白9のハサミとヒラキを兼ねた手で、白の理想形。従って、黒4が定石ではあるが、その運用を誤った悪い手になります。
黒4では、黒H4、黒G3等白3をハサンで攻めるのが一石二鳥です。
<右辺>
地を作りながら攻める例
黒1は右辺上部を地にしながら、白3子を攻めています。

<左辺>
相手の地を減らしながら、守る例
白2は黒地を減らしながら、白3子を守る手です。
 06 攻守兼用の手は二重丸
   B 模様争いの天王山
自分の地を増やしながら、相手の地を減らす例

<右上>
黒1が絶好点です。双方の模様争いの天王山ともいうべきポイントです。この一手により、右辺全体の黒模様が大きく広がり、同時に、上辺の白模様が制限されてしまいました。

黒1で仮に左下を打っていると、白はO15やN15により、天王山を占めて、白地を盛り上げ、黒地を制限します。


 07 コスミツケの功罪
   A 攻めの性質
星に打って、コゲイマガカリされた場合に、コスミツケを打つケースが上級者の碁でも、比較的多いですが、これは次のことを認識した上で、打つことが肝心です。
1.コスミツケてノビられた形は部分的にはコスミツケた側の形が劣っている。
2.コスミツケるのは、隅を守る目的ではなく、サバキを封じる目的である。

<右上>
黒2がコスミツケです。星の石から黒2はコスミの形で、白1にツケているからです。黒2とコスミツケると白は殆どの場合白3とノビます。手抜きをして、黒3と頭を押さえられると、白1の活力を殆ど無くすし、白3とノビた形はしっかりした、良い形だからです。

<右下>
白から両方の裾開きを狙われた場合、黒4、黒6と打つのは、最悪の手です。黒4と白5、黒6と白7の交換は何れも白の方が良い形です。白7までの段階で、まだ、白R3や白R5を狙われるので、黒8とか守ることになれば、白5、白7と打たせたマイナスだけ残ります。

<左下、左上>
黒10の目的は左上の様に、白が根拠を作ることを防ぐことにあります。白15では、この手以外にも、白C16とツケる手、白16と三々に入る手などがあります。
左下の後に白が三々に入る手もありますが、その場合は、白2子を捨てる覚悟が必要になるので、白も簡単には三々に入れません。
<右上>
白1に対して、黒2のコスミツケは疑問。白1、3、5の形は二立三析という白の理想形です。この形は後に白11も狙われ、黒のつらい形です。 尚、この形は白S13などが打てると、白S17とワタレる形です。

<下辺>
白9の場合でも、黒10と打てば、白手抜きに対して、黒20や、黒21が急所で、白の苦しい形になります。

<左上>
この形で白15と打ってくれば、黒16のコスミツケが成立します。白17と打った形は二立三析の理想形ではありません。また、黒がコスミツケを怠って、単に黒18と打てば、白はB16にケイマし、白の理想形を実現させます。
 07 コスミツケの功罪
   B 守りの目的
コスミツケは基本的には攻める時に相手のサバキを防止する目的で打たれますが、例外的に守りを目的として打たれることもあります。

<右上>
白1と打たれた場合に、黒が手抜きをしますと、白3以下の分断の手段があります。

<右下>
白P3のツケコシを防止する黒10がその一例です。

<左下>
但し、黒10と白11の交換は部分的には白が良いので、コスミツケ以外の手を選ぶとしたら、黒14のナラビです。

<左下>
また、この形で、左上の隅を守る手として、黒16から、黒18の常形があります。


 08 モタレ攻めで技あり
   A 忙しい手
相手の石に単独で接触を図る手が損を招くのは、「 単騎の接触は不利をこうむる 」の項で説明しました。ツケや、カドに打って来たら、ハネや、ノビ、オシにより有利な形を作ることが出来るし、手抜きをすると反対に不利になるということでした。 実戦では、コウ以外で、やむを得ず手抜きをしないといけない場合があります。

黒は、白1に対してD10又はC9のオシを打ちたいのですが、右上の白1子が逃げ出せる状況になっています。白1子が逃げ出すと、右上の黒はバラバラになってしまうので、左辺を手抜きし、白1子を取ることになります。そうすると、白はいずれかの押さえを打ち、左辺で有利になる、ということになります。
白1の様に接触する手をモタレと言い、局面によって有効な手段となります。

尚、シチョウの逃げ出しの変化を表示しますが、白1の段階で、自分で読んで確認してください。
 08 モタレ攻めで技あり
   B 攻めの場面で
攻めによって利益をあげる「モタレ」の例1です。

<右上>
黒1と白にツケると、白は手抜きすると、黒P17などで不利になるので、白2と打ちます。黒3に対して白4とN17の切りを防ぐと、黒5により、白3子が封鎖出来ます。

<左下>
白は右上の様に封鎖されたくないとして、白6と打つと、黒7と切り成果を得ます。
攻めによって利益をあげる「モタレ」の例2です。

<右上>
黒1に対して白2とハネテ、白4と守ると、黒5と切られます。

<左下>
黒7に対して先に白8とトブと、黒9とハネられます。

モタレ戦術の要領を理解してください。


 09 打ち込みは機が熟してから
   A ヤキモチ
相手の模様が気になって、すぐ打ち込んでいくと、自石が攻められて非勢になる可能性が高い。
相手だけが模様が出来て、自分の石はその可能性が無いのなら、打ち込んで行く意味もありますが、自分の方も模様が出来るのなら、慌てて打ち込んでいくのは、良い作戦とは言えません。

黒の三連星に白1と打ち込むのは黒2、4と打たれて白不利です。白1、3の石が弱い以上、右上、右下が黒地になる可能性が高くなります。
白1で、D10と打てば互角です。
白番で次の一手はどこでしょう。

右辺の黒模様が気になって、R12などの打ち込みは不正解です。
白1と打って、次にR12の打ち込みを見るのが正解です。
白1で、下辺、右辺下方面の模様は良い形です。
 09 打ち込みは機が熟してから
   B 打ち込みの急所
<上辺>
上辺の白に対する打ち込みは黒1が急所です。白2のツケなら、黒H17の石と連絡出来ます。 黒H17の手は、黒1の打ち込みを有効にする準備の手ということが出来ます。

<下辺>
下辺の白模様の急所は黒11です。
この手は、黒O3の二間ビラキと、黒15のケイマスベリを見合いにしており、打ち込みの急所となっています。
この様に黒石の応援が無い場合には、2つの急所を見合いにした、黒11の様な着手が良い手となります。