櫻井氏への再質問-2006年4月30日

米本INDEX


櫻井義秀様

米本和広

拝復

 私の質問への回答書をいただきました。“誠実な”回答をありがとうございました。
 しかしながら、意味不明なところがあり、再度、確認の意味も含めて質問させていただきます。お忙しいところ申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

 回答書には次のように書かれています。
「客観的事実と異なる点や誤植に関わるご指摘については、重版・改訂の折りに訂正させていただきます」
 質問は多岐にわたるので、どの部分が事実と異なる点と認識されたのかわかりません。 先にお送りした質問の見出しを列挙すると以下の通りです。

@私のルポに対して、家族や牧師が法廷で反論した事実はありません

A実名報道の経緯をなぜ当事者に確認しないのですか。

B池本・中村論文を軽視するのですか。

C再び、なぜ当事者に確認しないのですか。

Dルポの記述を曲解していませんか。

E宗教社会学者はPTSDの原因を特定したり解釈したりすることができるのでしょうか。

FPTSDに関する論文、書籍を読まれたことはあるのでしょうか。

GPTSDのことを全くご存知ないと思うのですが。

Hインタビューもせずに当事者の心理を表現することは許されることなのでしょうか。

I櫻井さんは高須さんの名誉を明らかに毀損しています。

J櫻井さんと私は、ほぼ同じ時期に2人の女性と会っていますよ。

Kルポによって家族の絆が強まったことをご存知でしょうか。

Lルポのどこに信教の自由を主張している部分があるのでしょうか。

M宗教をやめさせる自由なんてあるのでしょうか。

N櫻井さんが日本脱カルト協会の理事であることを明かしていないのは、どういうわけでしょうか。

O日本脱カルト協会の会員牧師で、倫理条項に反した牧師がいた場合、理事として協会としてどのような対応を取られるのでしょうか。

Pカウンセラーがカウンセリングをしたあとに、カウンセリングのケアが必要だという話は寡聞にして知りません。

Q第3段階のケアの実際をご存知ですか。

RPTSDは拉致監禁が原因なのか、それとも統一教会時代のことが原因しているのか。

S拉致監禁の事実を認めるのですか、それとも認めないのですか。

 これらの中で、
(1)私のルポに関して明らかに間違っているのは@とLです。間違いであったと認識されたのでしょうか。
(2)ルポの対象となった当事者、また当事者の担当精神科医の発言を無視して、櫻井さんが取材もせずに、ルポの記述とはまるで違う独自な解釈を示されているのは、CDEHIJKRです。独自の解釈が間違っているのは、解釈された当事者(宿谷麻子さん、高須美佐さん)が指摘していることです。とりわけ、高須美佐さんを「心身症的状態にある」と恣意的に記述されたのは、最初の質問でも書きましたが、明らかな名誉棄損です。
 これらについても間違いだったと認めていらっしゃるのでしょうか。
 間違ってはいないと言われるのであれば、具体的な事実に基づいた根拠を示してください。
(3)質問のNは事実が間違っていると指摘したものではありません。櫻井さんが著書の中で日本脱カルト協会の理事であることを明かされていないことを指摘したものです。基本的なことを聞くのですが、私が指摘した通り、執筆段階で協会の理事職にあったのでしょうか。そうだとすると、なぜそのことを明かされなかったのか理由を教えてください。

 回答書の前段では次のように書かれていました。
「ご質問に対しては、拙著の中で書いてあることが私の見解ですので、拙著全体の主張とも重ね合わせてご参照願いたく存じます」

 この回答は決して誠実なものとは言えません。まるで国民を愚弄する国会での官僚答弁のようで、なにも答えていないのと同じです。私はこれまでいくつかの問題ある宗教(的)団体に質問してきましたが、無回答か、さもなくば「私たちの教義、これまでの主張で見解を述べていますので、それをお読みください」というものでした。櫻井さんはカルトに反対する立場を取っていらっしゃるのに、自分の本が批判されると、カルトと同じ態度を取るというのは、いかがなものでしょうか。

 それはともかく、客観的事実と異なると指摘した以外で、私が質問したのはABFGMOPQSです。整理、分類すれば実名、PTSD、脱会の過程、「宗教をやめさせる自由」の4点です。これらの疑問に、『「カルト」を問い直す』を再度、最初から最後まで読み直してみましたが、残念ながら、協会理事を明記されなかった理由を含め、どこにも見解は述べられていませんでした。そもそも、4点に関する記述はまるでなかった。どういうことなのか、首をひねるしかありませんでした。

 おそらく回答を回避するために、あえて官僚的、カルト的答弁をされたのでしょう。回答したくない人に再度の回答を無理強いすることはしたくありません。
 ただ、PTSDへの無理解はともかく、一般図書で宗教社会学者が「宗教をやめさせる自由がある」という見解を述べられたのは、社会的影響力の点で看過できない重要な問題を含んでいます。本を読んだ信者家族がそういう自由があると思い込み当然の権利として脱会行為(脱会説得ではなく)に走る可能性があるからです。したがって、この自由についてだけは見解を求めたいのです。学者としての社会的責任があります。しかし、忙しくて回答を書く時間がないというのであれば、この自由論について他の宗教学者なり法律家などが書いた書籍あるいは論文を教えてください。

 再度の質問は以上です。

最後に質問ではなく見解を述べておきます。
 私のルポはいたってシンプルで、拉致監禁した信者家族、拉致監禁された信者、信者の担当医を取材し、論ではなく事実としてまとめたものです。残念ながら拉致監禁を指導した黒鳥牧師には取材を拒否されましたが。したがって、ルポを批判的に記述する場合の基本的な作業としては、私が取材した人たちに取材することが欠かせません。同じ日本脱カルト協会の会員である黒鳥牧師なら櫻井さんの取材を拒否されることはなかったでしょうし、そうすれば脱会カウンセリングの実態をはっきり知ることができたと思います。最初の質問書でも繰り返し述べたように、そうした基本的かつ最低限の作業をされなかったがゆえに、統一教会から脱会した当事者たちを傷つけるような曲解したルポ批判になったのです。

 では、引用符がつかない、文字通り、誠実な回答を期待しております。
 ご回答、よろしくお願いいたします。

敬具
2006年4月30日

(追記)ご存知かもしれませんが、今利智也・理絵夫妻が理絵さんの両親・親族、黒鳥、清水の両牧師を訴えていた裁判(貴著P98)は、最高裁が異例の和解勧告をしました。両牧師は和解勧告を拒絶しましたが、両親・親族は応じ、和解が成立しました。
 和解内容は@互いに、相手方の信仰の自由や価値観を尊重し、これに干渉しないことを約束する。A円満な親子関係及び親族関係を築くことができるように互いに努力するというもので、和解交渉の過程で担当調査官は「干渉しないことを約束する」との文言に「今回問題となったような行為を二度と行わないことを約束する」との趣旨が含まれることを書面で両当事者に伝え、理絵さんの両親や親族はこれを了承しました。
「今回問題となったような行為」とは、拉致監禁行為のことを意味します。
 地裁、高裁の法廷で、両親や親族は「監禁したのではなく、親子の話し合いだった」と一貫して主張していましたが、一転して「(<監禁下での脱会説得は>親子の話し合いではなく)問題行為だった」と認めたわけです。
 ちなみに、最高裁は上告の受理審査の過程で、これまでの書面を精査した結果、親子の話し合いではなく拉致監禁だったと認識したようです。しかし、高裁の事実認定に問題があっても事実審は高裁が最終審ですから、上告を認めることはできず、それで異例の和解勧告となったようです。和解勧告を蹴った牧師に対する理絵さんたちの上告は当然棄却となり、高裁判決が確定しました。最高裁がいきなり棄却の判決をせず、異例の和解勧告をしたのは、原告の訴えを由々しきこととして受けとめたからにほかなりません。
 櫻井さんは「家族関係者は、法廷で親子の話し合いだと主張している」と書いていますが、この紹介の仕方も現実の推移からみれば破綻しているといってもいいでしょう。どうか現実を直視することを忘れないでください。


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