櫻井氏への質問の詳細7

FPTSDに関する論文、書籍を読まれたことはあるのでしょうか。
 =(p106)

櫻井:「たしかに、第1段階への導入と第2段階への移行がうまくいかなかったということがPTSDの原因であったかもしれない。原因を特定することで、問題の根に気づき、それを解消できればそれにこしたことはない。しかし、症状が長引けば、初期の要因よりも現在の症状がさらに次の症状を生み出し、現状を改善する手だてが企てられなければ、さらに悪化するという悪循環に陥るだろう。このような段階では、初期要因を批判するだけで問題は解決しない」

 PTSDのことを知らない読者にとっては説得力ある記述に思えるかもしれませんが、何度読み返しても意味不明です。
 櫻井さんは「心的外傷」ではなく「外傷」をイメージして書かれたのではないでしょうか。
 たとえば、足に切り傷ができ、その初期処置がうまくいかなければ、化膿し、症状が長引きます。化膿への処置が施されなければ、重篤な感染症に陥り、場合によって足を切断しなければならなくなる。
 化膿したり、感染症になったりした場合は、初期の切り傷の治療するどころではありません。(初期要因を批判するだけで問題は解決しない)
 櫻井さんの記述通りです。
 ところが、PTSDに関する記述だとすれば、失礼ながらまるでトンチンカンです。阪神大震災のPTSDの例を考えながら、上記の引用文を再読してみてください。
 阪神大震災のPTSDは、家族や友人を失ったというトラウマ(心的外傷=初期の要因)が原因となって、震災後にそれがポストトラウマ(心的外傷後)となって様々なストレス症状を生み出しているわけです。精神科医たちは現状を改善する手だてとしてトラウマの除去に取り組んでいます。
 ところが、櫻井説によれば、PTSD症状が長引けば、初期の要因(トラウマ)よりも現在のPTSD(ポストトラウマ)がさらに次の症状を生み出すとということになります。外傷ならば次の症状は感染症といったことになりますが、PTSDになると何を意味するかまるで不明です。「ポスト・PTSD」「新・PTSD」とでも命名できるものかもしれませんが、聞いたことはありません。
 それほどPTSD関連の論文を読んでいるわけではありませんし、精神科医の斉藤環さんや奥山真紀子さん、心理学者であり臨床心理士の西澤哲さんなど5人の専門家にレクチャーを受けただけですが、PTSDの治療は教科書によればトラウマ(=心の異物、初期の要因)を取り除くことが基本とされています。
 巻末の参考文献でPTSDに関する文献は、前述の池本・中村論文と、『二次的外傷性ストレス』だけのようです。後者がそれに該当するかと思い、調べたのですが、トラウマの救助者(治療者)のストレスのことが書かれている本のようです。つまり、参考にされたPTSDの文献はなかったということになります。
 ひょっとすれば書き忘れたということかもしれません。池本・中村論文が依拠したのはハーマンの『心的外傷と回復』と書かれており(p103)、ハーマンのこの著作は読まれたと思いますが、櫻井さんの先の説を裏付けるようなことは書かれていません。櫻井さんが自説を唱える根拠となった文献と該当箇所を教えてください。

 また櫻井:「このような段階では、初期要因を批判するだけで問題は解決しない」と断定されていますが、誰ひとりとして(拉致監禁)を批判するだけでPTSDの問題は解決するとは語っていないし、私もそのようなことは書いていません。誰も言っていないのにさも語っているようにして批判的に書くのは、誠実な態度とはいえません。