櫻井氏への質問の詳細6

E宗教社会学者はPTSDの原因を特定したり解釈したりすることができるのでしょうか。
 =(p106)

櫻井:「たしかに、第1段階への導入と第2段階への移行がうまくいかなかったということがPTSDの原因であったかもしれない」

 櫻井さんにとってこのような解釈ができる直接的な材料は「ルポ」と「2人の女性と一度だけ会ったときの観察」と「2人のホームページ」というわずか3点しかないはずです。それなのに、どうしてこのような解釈ができるのか理解できませんし、前述の自分がつくったモデルに合せた勝手な憶測としか思えません。
 宿谷麻子さんからそれこそ何度も話を聞いた精神科医は、ルポでも書いた通り、PTSDの原因は「脱会カウンセリングの導入がうまくいかなかったり、精神的脱会への移行がうまくいかなかったりしたから」ではなく、拉致・監禁そのものであると診断しました。
 PTSDの原因を推測したり特定したりできるのは、ルポライターや宗教社会学者ではなく、実際の治療にあたっている医師だけです。ある特定の人の精神疾患やその原因について、担当医以外の人が記述できるとしたら、担当医から話を聞いてその言葉を紹介するだけにとどまります。私は担当医に取材し、医師の言葉をそのままルポに引用しました。
 櫻井さんが担当医に取材しいろいろ質問した結果、診断に疑問を抱き、櫻井:「PTSDの原因は拉致監禁によるものではなく、第1段階への導入と第2段階への移行がうまくいかなかったからではないか」と記述するのは、一つの解釈として成立します。
 しかし、櫻井さんは担当医に取材されていません。
 ある特定個人の具体的な精神疾患について担当の専門医に取材することなく、我流で解釈し叙述するのは何人たりとも許されることではありません。ジャーナリストがそんなことをすれば名誉棄損で訴えられます。それとも、大学教授だけに許される特権とでも考えていらっしゃるのでしょうか。

 私には、“脱会カウンセラー”(牧師)の指導による拉致監禁が信者をしてPTSDにいたらしめたという事実を、同じく反統一教会の立場に立つ学者がPTSDの原因を勝手に解釈変更することによって、消し去りたい、薄めたいのだとしか思えません。もしそうなら、繰り返しますが、櫻井さんの姿勢はあまりにも党派的であり、フィールドワークを重視する学者というよりは運動家のそれというしかありません。