春のつれづれ

徒然集INDEX


○5月28日

5月から、東京日本橋での仕事が始まる。東京駅八重洲口から徒歩5分のオフィス街。私もそこに相応しいようにスーツを着て颯爽と出社。東京でCADの仕事なので、これまた過去最高の時給額更新。契約期間は6ヶ月で、更新の可能性あり。月に20時間程度の残業有。この分だと、一ヶ月25万ぐらいは余裕で稼げる計算になる。
統一教会から脱会してから、いや、拉致監禁の被害を受けて、何も手につかずに暮らしていたころから比べると、これでやっと社会人として一人前に戻れた気がする。大学を卒業して晴れて社会人になったときの気分に似ている。スーツを着て、オフィス街で颯爽と働くキャリアウーマンの復活。派遣の前の、大学出立ての正社員の頃は、官公庁、大手企業と大型コンピュータを扱う仕事場だったから、新宿副都心のビルの37階とか、池袋副都心の45階とか、本当に最新設備の行き届いた、カードでセキュリティされた一流の仕事場だった。
東京のこの仕事場も、そんな雰囲気に似ている気がする。ただ変わったのは、私の会社への貢献心と緊張感。その頃は如何にユーザーが満足のいく、よりよい製品を作り、客を満足させるか、如何に何でも出来るキャリアウーマンとして認められるかということで、頭が一杯で、毎日緊張感が絶えなかった。会社は怖いところだ、戦場だ、と思っていた。私は企業で戦う戦士として毎朝、気持ちを戦闘モードに切り替えて会社に切り込むように働きに行っていた。
しかし今は戦うと言う気持ちは微塵もない。今や会社は怖いところではなくなっていた。拉致監禁という経験をした以上、それ以上の恐怖があるとは思えなくなっている。だから、会社と会社の人間をとても甘く見ている。
会社の業務なんて、世間体を気にして、見積書をワープロできれいに作成したり、言葉尻を丁寧にしたりすることで、会社や人間の質を見てくれ良くしているだけに過ぎない。そんな見積書の内容なんて、子会社を間に入れて、金額も適当にぼった食って作成し、仕入れの10倍近い金額で客に売りつけている。それが、去年まで働いてきた会社の内部構造を見てよく分かった。お客様のためなんかじゃないし、働いている人も一流なんかでもない。確かに電話対応や、資料作成などは、優良企業ほど洗練されて入るが、それは単にマニュアルに沿っているだけで、その人が優良なわけではないのだ。そんなものは見てくれが格好いいだけのことで、中身は唯の普通の人間なんだと私は思っている。
会社での回覧資料なんて、その代表格だ。「関係者各位様」なんて、馬鹿みたいと私は思う。そこらで働いている人をさも一流にしようとしている言葉だ。毎日「おはようございます」「お疲れ様でした」なんて、みな、その人の目を見て挨拶なんてしていない。ただ、言葉だけなのだ。誰も心底「おつかれさまです」なんて思ってはいないのだ。「お疲れ様」と言っても、無言の沈黙があったりする。そんな言葉は聞いても意味がないし、答えても意味がないことが明白なのだ。明日、その人が交通事故で死んでも、体裁だけ葬式に社長や専務だけがきて、他の人は、「ああ、死んじゃったんだ」と話の噂にするだけだろう。しかもそんな内容はその日だけの会話で終わり、その人のことなんて、次の日には覚えていないのだと思う。ただ、その人の机の整理が一仕事になったわと思うぐらいだ。
会社の人間関係なんてとても希薄なものだ。派遣社員で働いていると、正社員よりも強くそのことを感じる。一緒にお昼を食べて、他愛無い話をするだけで、仲良しごっこをしている。馬鹿みたいなものだ。明日急にいなくなっても何も思わないのに。ただ、仲良しごっこのおかげで人への気持ちの心遣いをすることなく、業務がスムーズに運ぶから、そうしているに過ぎない。
会社で働くと言うことは、一種独特の世界で、そのマニュアルどうりに、きちんと挨拶、笑顔を絶やさず、話し言葉や文書は的確にすれば、どんな人間でも立派に見えてしまうのだ。そこに人の感情の入る隙間はない。表情もいつも明るく朗らかに、態度も能率的に合理的に装っている。それさえできれば、社会人として立派な一人前なのだ。今までの経験上、大企業で世間に名の通った会社ほど、そうした傾向が見られる。今そんな古巣に戻って、今度の私は、そんな会社の裏事情を知り尽くし、会社をなめてかかっている。はっきり言ってしまえば、会社で一流のキャリアウーマンになるためのマニュアルは知り尽くしている。今の私は、緊張感などなく、余裕でそのマニュアル通り言葉遣いや身振りや仕事ぶりをこなして、楽して、儲けてやるって感じだ。


○3月5日

土日と、平日の会社から帰った後の時間は、毎日ネットゲームをしている。ゲーム以外に何もやる気がしないからだ。もしゲ−ムがなくなってしまったら、私はまた寝込む日々を過ごすだろう。
ネット上では、いろんな人と出会う。だが、そこでは日常的な挨拶ができれば、普通の人のように思われるので、非常に楽だ。挨拶の会話は、すべてゲーム上に登録したので、ボタン一つで、挨拶できる。これで、人とのやり取りはすべてうまくいく。また、面倒なプライベートな内容など話さなくてもいい。私がどこの誰か、何をしてきた人なのか、普段何をしているのか、今どう思っているのかを、打ち明ける必要はない。暗い感情をあえて表す必要はない。そんなことはネットでの人付き合いではタブーなのだ。いつも誰とでも、「こんにちはー^^」と明るい雰囲気を作り出して、人のなかに入っていけばそれですむ。本当は明るい気持ちでもなく、憂鬱と不安を押し殺しているのが、私の毎日の気分なのだ。だが、そういうことはすべて隠して、知らない人と友達付き合いをしている。この感じは、会社での人付き合いと似ている。不安とイライラと恐怖が混在する職場環境で、明るい素振りをして、「了解しましたー」と言っているのと同じようなものだ。
確かに、素性のわからない人と付き合うことは、怖いといえば怖い。実際最初のうちは、そういうことが分からなくて、場所や名前は話さなかったが、派遣で仕事をしていることや、ここはきれいだねと感情を話した男の人がいた。すると、その人は私のキャラクターに惚れたのか、ゲームにINしていると、必ずその人から呼び出しがかかるようになった。始めは、その人とゲームをすることで、私のレベルがぐんぐん上昇するので、利用するつもりでいた。しかし、その人の異様さは度を増し、ゲームのときは、他の誰もいない二人だけの状態を作り出されてしまう。次第に会話も私的になっていく。そして、その人は、画面上で体を重ね合わせてきた。ゲームでは、人がぶつからずに重なってしまう。見ていて、とてもいやらしい感じがする。更にその状態で「好き」とか「チュッ」とか言われ、非常に気持ちが悪いというより、不気味に感じる。ゲーム上でそんな感覚をするのは、とても嫌だし面倒なので、その人を、一度ブラックリストに載せた。ほとぼりが冷めたころにブラックリストをはずした。しかし、その人の異様さは更に度を増していて、数あるサーバーから私を見つけ出し、ストーカーのように付け回される。そして、「あんた、今すぐ話し合いに俺の部屋に来い。」「来ないなら、おまえのアカウントを消してやる」とメールで脅迫された。そこでもう一度ブラックリストに載せ、二度と解除しないことに決めた。これで、その人が私を検索して周りをうろついたり、嫌がらせの会話やメールが入ってくることはない。感情を含めた内容やプライバシーは、ゲーム上ではもう二度と絶対に話さない、と心に誓う。


○3月1日

前の仕事の終了日は、直属の上司が退職祝いの席を設けてくれた。だが、その席で聞かれたことは、会社への愚痴と仕事の出来ない部下への愚痴ばかりだ。もちろん私のことではない。私は上司の聞き役となって、そうですねと慰める。まるで、上司のための飲み会のようだった。だったら、その仕事の出来ない部下を辞めさせて、私を引き続き雇ってくれれば問題は解決するのにと思ったが、この会社では時給が安いので、考えるのをやめた。
2月26日より新しい仕事に就く。前の会社よりも、ずっと時給が高いのがうれしい。新しい職場につくのにあたっての不安も特にない。 ここでも、会社独自のプログラムソフトがあり、それで運営している。派遣社員となれば、要求されるスキルは高い。教わってすぐにマスターし、初めて扱うソフトでも次回から説明なしに使いこなせなければならない。教わりながら、瞬時に覚えるというのは、とても高度な学習能力が求められる。だが、このような状況に対しても、すばやく反応できる。手馴れたものだ。今まで培ってきた派遣社員としての経験が役に立つ。場慣れしている為か、戸惑いもない。 コンピュータの環境も、新しいパソコンを設置されたので、業務に必要なソフトや、ドライバなどを自分でインストールしたり、カストマイズする。パソコン内部の設定も自分で更新した。普通のOLでは出来ないような内容だ。
派遣社員は、配属されてすぐに仕事が出来なければ、派遣の意味はないのだ。時給をもらっている以上、就労時間を無駄にしてはならない。ただのOLでは出来ないような、パソコンやソフトの専門的知識を持っていなければならない。とても厳しいが、私としてはこれくらいの能力を要求されるほうが、やりがいがあって、自分に自身が持てる。


2007/1  2007/夏