四悪道
地獄
地獄とは、仏法の教えに背き罪を犯した者が死後赴く世界で、六道の一つの世界である。地獄と言っても、そのランクや種類は沢山ある。一般に知られている地獄は『八大熱地獄』の事を指している。この地獄は先に述べた様に、南贍部洲の地下約二万ヨージャナの場所に存在し、『八大』の名前が指し示す通り、八つの異なった苦しみを受ける地獄が存在している。その順は一番刑が軽い?ものから
1:等活
2:黒縄
3:衆合
4:叫喚
5:大叫喚
6:焦熱
7:大焦熱
8:阿鼻(無間)
となっている。
『等活地獄』
等活地獄は殺人を犯した者が落ちる地獄で、閻浮提の地下1000ヨージャナに存在し、その広さは10000ヨージャナある。ここではお互いに争っている罪人同士がいると、鉄棒や鉄杖を持った獄卒がやって来て、その罪人をその武器を使って体を打ち砕いてしまう。しかし、しばらくして涼しい風が吹くと、その罪人達は再び蘇って、また争うという。そして再び鬼に責めたてられる。
この地獄には東西南北に其々4ヶ所、計16個の小地獄と言われている物がある。その小地獄とは『屎泥処』・『刀輪処』・『瓮熟処』・『多苦処』・『闇冥処』・『不喜処』・『極苦処』・『衆病処』・『両鉄処』・『悪杖処』・『為黒色鼠狼処(いこくしきそうろうしょ)』・『為異異廻転処』・『苦逼処』・『為鉢頭摩鬘処(いたいずままんしょ)』・『陂地処』・『為空中受苦処(いくうちゅうじゅくしょ)』が等活地獄には付随している。その内の幾つかを説明すると、『屎泥処』は鹿や鳥を殺した人が、『刀輪処』は物を貪ったり人を殺してしまった人が、『瓮熟処』は殺生して煮て食べた人が、『多苦処』は縄で人を縛り杖で人を打ち、険しい崖の上から人を突き落とした人が、『闇冥処』は羊の口や鼻を塞ぎ窒息死させたり、亀を瓦に挟んで圧死させた人が堕ちる所とされている。

『黒縄地獄』
その等活地獄の下には黒縄地獄が存在し、先の等活地獄の罪(殺生)の上にさらに盗みの罪を犯した者が堕ちる地獄である。この地獄に堕ちた者は、獄卒が罪人を捕らえて熱鉄の地の上に寝かせ、真赤に焼けた鉄の縄で罪人の体を打ち、傷を負わせた所で、熱鉄の斧や鋸で体を切り刻んでしまう。或いは、2つの鉄山があり、その山の頂上の間を鉄の縄で繋ぎ、その下には熱い釜がある。罪人は鉄を背負ってこの縄を渡るのだが、当然その縄から落ちれば煮えたぎった釜の中に入ってしまう。また、切られても煮られても再び蘇生するが、等活地獄と同じように再び同じ刑を受け続ける。
この地獄には、邪な考えで法を説いた者や、崖から投身自殺をした者が堕ちる『等喚受苦処』と貧欲の為に人を殺したり人を縛って縄で縛って食物を奪ったりしたものが堕ちる『畏熟処』と言う2つの小地獄がある。この地獄は生前『縄』で縛ったりした人物が堕ちる地獄なので死後は自分が『縄』を使って苦しめられるのであるが、これは仏教の教義である『因果応報』を端的に示している良い例だろう。

『衆合地獄』
黒縄地獄のさらに下には、殺生、盗み、淫欲の三つの罪を犯したものが堕ちる『衆合地獄』が存在している。この地獄に堕ちた者は、牛や馬の頭をした獄衆によって2つの鉄山の間に追い込まれ、そこで鉄山が動いて押しつぶしてしまう。また、刀のように尖った葉を持つ木の上には美女がいて、罪人はその美女に近づきたくてその刃葉に身を切り刻まれながら木を登っていくと、美女は木の下にいる。罪人はそれを追いかけて再び木を降りるのだが、今度はまた木の上にいる。そこで再び木の上に…というように、何度も往復して行くうちに体は切り刻まれてしまうのだが、やっぱり復活して同じ事を繰り返すのである。
この地獄には『大量受苦悩処』・『割刳処』・『脈脈断処』・『悪見処』・『団処』・『多苦悩処』・『忍苦処』・『朱誅処』・『何何奚処』・『涙火出処』・『一切根滅処』・『無彼岸受苦処』・『鉢頭摩処』・『大鉢頭摩処』・『火盆処』・『鉄火末処』という、計16個の小地獄がある。このうち、『悪見処』は他人の子供を強姦した罪を犯したものが堕ちる地獄で、ここに堕ちたものは自分の子供が獄卒によって責められるのを見せつけられ、自分自身は逆さに吊るされ、肛門から熱い融解した銅の液体を流しこまれ、内臓を焼かれるる。また、好色の女の堕ちる地獄は『多苦悩処』で、他人の婦女を犯した者は『忍苦処』に堕ちる。『多苦悩処』は、体が熱くなり男を抱くと身が溶け、生き返ると恐ろしくなって逃げ出すのだが、断崖から落ち、鳥や狐にいどまれる。『忍苦処』は獄卒によって樹木に吊るされて、下から火あぶりにされて焼かれ、口をあけると火が口に中に入り内臓が焼かれてしまうという所である。

『叫喚地獄』
衆合地獄の下には殺生、盗み、淫欲、飲酒の四つの罪を犯した者が堕ちる場所であり、ここに堕ちる者は獄卒に追いかけられて矢で射抜かれたり、鉄棒で頭を叩かれ、熱い鍋に入れられ煮られられたりする。
この地獄には『大吼処(だいくしょ)』・『普声処(ふせいしょ)』・『髪火流処(はつかりゅうしょ)』・『火末虫処(かまつちゅうしょ)』・『熱鉄火杵処(ねつてつかしょしょ)』・『雨炎日石処(うえんかせきしょ)』・『殺殺処』・『鉄林曠野処(てつりんこうやしょ)』・『普闇処』・『閻魔羅遮約曠野処(えんまらしゃやくこうやしょ)』・『剣林処』・『大剣林処』・『芭蕉烟林処(ばしょうえんりんしょ)』・『有煙火林処(うえんかりんしょ)』・『雲火霧処』・『分別苦処』がある。このうち、酒に水を加えて売って利益を上げた者は火末虫処、他人に酒を飲ませて酔わせた挙句に、あざけり弄んだ者は雲火霧処に堕ちる。火末虫処に堕ちた者は四百四病にかかるが、その病の一つに体中から虫が出てきて、皮、肉、骨、髄を破り、食い尽くすという病がある。雲火霧処には高さ109メートルの高さの業火が常に燃えていて、その中に罪人が投げこまれ、焼き尽くされると、また呼び戻され復活すると、再び焼かれる。

『大叫喚地獄』
叫喚地獄の下には殺生、盗み、淫欲、飲酒、嘘吐きの者の堕ちる『大叫喚地獄』がある。この地獄には『吼吼処(くくしょ)』・『受苦無数数量処』・『受堅苦悩不可忍耐処』・『随意圧処』・『一切闇処』・『人間煙処』・『如飛虫髄処(にょひちゅうずいしょ)』・『死活等処』・『異異転処』・『唐希望処』・『双逼悩処』・『送相圧処(そうそうあつしょ)』・『金剛嘴鳥処(こんごうしちょうしょ)』・『火鬘処(かまんしょ)』・『受鋒苦処』・『受無辺苦処』・『血髄食処』・『十一炎処』の計18種もの小地獄が存在している。このうち受鋒苦処は熱鉄の針で口と舌を刺され、泣き叫ぶ事さえ出来ない。受無辺苦処は熱鉄の鋏で舌や目を抜かれ、抜き終わると再び生えてくるが、また抜かれる。

『焦熱地獄』
大叫喚地獄の下には殺生、盗み、淫欲、飲酒、嘘吐き、因果の道理を否定した者の堕ちる場所である。ここでは罪人は獄卒によって熱鉄の地にねかさせられ、棒で打ちつけられ肉の塊の様にされたり、鉄鍋に入れられ猛火であぶり転がし焼き伸ばされたりする。この地獄の火は豆粒ほどでも、閻浮提に置けばその大陸を瞬時に焼いてしまう程の猛火である。
焦熱地獄には『大焼処』・『分荼離迦処(ぶんだりかしょ)』・『龍旋処』・『赤銅弥泥魚旋処(しゃくどうめでいぎょせんしょ)』・『鉄钁処(てつかくしょ)』・『血河漂処』・『饒骨髄虫処(ぎょうこつずいちゅうしょ)』・『一切人熟処』・『無終没入処』・『大鉢頭摩処』・『悪嶮岸処(あつけんがんしょ)』・『金剛骨処』・『黒鉄縄ひょう刃解受苦処(こくてつじょうひょうじんげじゅくしょ)』・『那迦虫柱悪火受苦処(なかちゅうちゅうあつかじゅくしょ)』・『闇火風処』・『金剛嘴蜂処(こんごうしほうしょ)』の計16個の小地獄がある。このうち、天に生まれ変わりたいと思い、自ら餓死したり、他人に偽りの言葉を言う様に仕向けた者は分荼離迦処へ、不正な見方をする者は闇火風処へ堕ちる。分荼離迦処に堕ち、火炎に包まれた罪人が、水を求めて、ようやく池に辿りつくと、池の水は火焔となって燃えあがって焼かれてしまう。闇火風処に堕ちた者は風に吹かれ、つかまる所がないので、輪のようにクルクル廻され、廻り終わると今度は違った強風が吹き始め、体が砂の様に砕かれてしまう。

『大焦熱地獄』
焦熱地獄の下には殺生、盗み、淫欲、飲酒、嘘吐き、因果の道理を否定し、戒律を厳しく守っている尼を犯した者が堕ちる場所である。この地獄に堕ちた者は炎熱で焼かれ、その苦しみは他の地獄の10倍だと言われている。また、ここでは無量億千歳のあいだ苦を受けるという。
この地獄には『一切方焦熱処』・『大身悪吼可畏処』・『火髻処』・『雨沙火処』・『内熱沸処』・『たたたざい処』・『普受一切苦悩処』・『へい多羅処』・『無間闇処』・『苦鬘処』・『雨縛鬘抖そう処』・『髪愧烏処』・『悲苦吼処』・『大悲処』・『無非闇処』・『木転処』の計16個の小地獄がある。このうち、尼僧を犯した者は一切方焦熱処、出家の身でありながら戒律を守っている女性に酒をもてなした上で、女性を誘い情交し財物を与えた物は、普受一切苦悩処に堕ちる。一切方焦熱処に堕ちた者は、獄卒によって炎が針の孔ほども隙間の空いていない、しかも虚空まで燃え上がっている火の中に連れこまれてしまう。当然火の中で泣き叫んでも救われる事はなく、火も消される事はない。また、普受一切苦悩処に堕ちると、炎の力で体の皮膚を刺され熱い大地で焼かれ、ドロドロした鉄の湯を体にかけられてしまう。

『無間地獄』
大焦熱地獄の下には先の罪に親や、師を殺したり、釈迦の説いた教えをそしった者が堕ちる地獄の中でも最も罪深い者が来る場所である。この無間地獄は城のように堅固で、広さは8万ヨージャナあり、7重の鉄の城壁と7重の鉄網に囲まれ、下方には18の壁で隔てられ、四隅には銅の狗がいる。壁と壁との間には84000匹もの鉄の様に硬く強い大蛇と500億匹もの虫がいて、80個の釜が用意されている。
この無間地獄には『烏口処』・『一切向地処』・『無彼岸長受苦悩処』・『野干吼処』・『鉄野干食処』・『黒肝処』・『身洋処』・『夢見畏処』・『身洋受苦悩処』・『雨山聚処』・『閻婆度処』・『星鬘処』・『苦悩急処』・『臭気覆処』・『鉄よう処』・『十一焔夢見畏処』の計16個の付随した小地獄がある。この小地獄の内、仏像や仏具、僧の住居を焼いた者は鉄野干食処に、仏の持ち物を盗んだ者は黒肝処に、僧の食べ物を取り、しかも、人々に分け与えなかった者は雨山聚処に、飲料水としている河を壊して、そのために人々を渇死させた者は閻婆度処に堕ちる。雨山聚処に堕ちた者は、大きな鉄山が落ちてきて打ち砕かれ、まわりから十一の立ち上る火焔に取り囲まれ焼かれ、そこに獄卒がやって来て、それをさらに刀で切り刻んでその切れ目に熱い白鑞の汁を流しこむ。閻婆度処では、象のような大きい閻婆という悪鳥が罪人を捕らえ、空中に飛びまわった挙句に空から放す。放された罪人は当然地面に叩きつけられてしまう。夢見畏処に堕ちた罪人は大きな鉄の箱の中に押し込められ、上から棍棒で叩きつけられる。そこから逃げ出そうとすると、野狐や火炎を吹き出す鳥が襲い掛かってきて食べられてしまう。

八大熱地獄の名称の相違
増一阿含経 正法念経 阿毘達磨倶舎論巻11 長阿含経巻19 往生要集 裁かれている期間
等活 等活 等活 1665億3125万年
黒縄 黒縄 黒縄 黒縄 黒縄 1兆3322億5000万年
等害 衆合 推圧 衆合 10兆6580億年
涕哭 叫喚 号叫 叫喚 叫喚 85兆2640億年
大涕哭 大叫喚 大叫 大叫喚 大叫喚 682兆1120億年
焦熱 炎熱 焼灸 焦熱 5456兆8960億年
大炎 大焦熱 極熱 大焼灸 大焦熱 一中劫半
阿鼻 阿鼻 無間 無間 無間 一中劫

『増』と呼ばれている別処
八大熱地獄には大きな地獄と小地獄の他にも、『増』という名前がついた場所がある。『増』という名前がついた理由は、苦しみが他の地獄よりも重いからという説と、もとの地獄で苦しみを受けたあと、更なる苦しみを受けるからであるという二つの説がある。別処は其々の地獄の四つの門の外側に設置されている。
熱い灰が膝まで積もっている『トウエ増』、屍や糞の泥にみちみちている『屍糞増』、多くの剣の刃が今にも刺し殺そうと用意されている『鋒刃増』、灰の汁の中に熱せられた鹹水が満ちている『烈可増』などがあり、地獄で罪を受けている者達が地獄の門から外に逃げ出そうとしてもかなわぬ仕組みになっている。

八寒地獄
南贍部洲の地下の大地のかたわに存在している八つの寒い地獄。
極寒の為に身がただれ瘡ができるという『額部陀』、『寒さの為に手足などにできた水泡が裂けてしまう『尼刺部陀』、あまりの寒さの為に苦しみに耐えられず思わず声を出してしまうという『アタタ』、反対に舌がもつれて動かずにハハヴァという声しか出ない『カカバ』、口さえも開く事のできず、苦しさのあまりフフという声しか出せない『虎虎婆』、寒さの為に蓮のように体が折れ裂けてしまう『ウバラ』、寒さの為に紅蓮華のように肉が裂け血が流れる『ハドマ』、またその血が勢いを増しほとばしる『マカハドマ』の系八つの地獄が存在している。
畜生道
畜生道は地獄・餓鬼と合わせて三悪道と呼ばれている世界の一つである。畜生道に生息している生き物の種類は34億種におよび、大別すると鳥類・獣類・虫類の三種類に分けられる。畜生道では常に弱肉強食の自然の摂理が世を支配し、日中夜恐怖に駆られ心が休まることがないという。また、水中にすむものは漁師に、地上に住むものは猟師に捕らえられ殺される。象や馬や牛などの家畜類は鼻や首を繋がれ、背に重い荷物を負わされて人に鞭打たれる。虫たちの中には闇の中で一生を終える者、人の体に這い蹲って人と共に生き死んでいくものなど様々な生き方をする。畜生道に堕ちた者は、ある者は非常に短い時間、ある者は150億劫にもおよぶ非常に長い時間、計り知れない多くの苦しみをうけたり、突然思いもかけぬ市に肩をしたりする。この畜生道に堕ちるものは人の世のとき愚痴で恥知らずで、在家信者の施しを受けるばかりで償いをしなかった者達がこの報いを受ける。