等価交換・・・・・?











「やだ、もう俺辞める。絶対やんねい」

「“やんねい”ってね・・・・兄さん」

僕は頭を抱えた。何故なら、兄は24歳にもなる立派な社会人(加えて国軍少佐だ)の身でありながら、今朝から延々と3時間以上もの間ベッドから離れずにこうして駄々をこね続けているのだ。今日は日曜日でもなければ祝・祭日でもない。だからして、当然僕も兄も本来ならば軍の建物内に居てそれぞれの任務をこなしていなければならいハズなのだが・・・・。

 

 

 


「俺にかまわねぇで、お前はとっとと仕事行けばいいだろっ!?」
 
なんて言いながら僕に枕を投げつけてくる。これは完全なる八つ当たりだ。僕にしたって何時までも煮え切らないこの人に付き合っている場合ではないのだ。軍に行けば自分に割り当てられた仕事が山ほどあり、このロスした時間分だけ残業をしなければならないのだから。

「仕方ないでしょう?大総統から名指しで言われたら、いくら気が向かなくてもやらない訳にはいかないでしょ」

「“気が向かない”なんて生易しい言い回しじゃおっつかねえよ!俺はイヤなの!ずぇっっっっったいに、や・り・た・く・ね・え・の!!」

「はあ〜〜〜〜〜・・・・」

駄目だ。これはいくら説得しようがテコでも動きそうにない。

そもそも、この兄がストライキを強行している原因は、先週軍施設のホールの掲示板に張り出された、『今年度の国家資格の査定方法変更について』の告知にある。大総統のサイン入りで張り出されたそれによれば、兄を含む(勿論僕もだ)上位の国家錬金術師のみ今年度の査定を免除するというもので、その代わりに軍職員のレクリエーションとして命令どおりの扮装をし、それに添った錬成を披露するというものだった。
告知の備考欄によれば、主に女性職員を対象に事前に行ったアンケートによって扮装の内容が決定されたという事だった。成る程、普段どうしてもしわ寄せが行きやすい内勤の女性職員達の機嫌を取ろうという目論見らしい。しかしこれにより、普段彼女達からどのような対象で見られているかというバロメーターになるともいえた。因みに発表された扮装はこんな具合だ。



 アルフォンス=エルリック少佐
    扮装=童話シンデレラの王子
    錬成物=ガラスの靴

 エドワード=エルリック少佐
    扮装=童話シンデレラのヒロイン
    練成物=かぼちゃの馬車


「・・・・シンデレラ自ら馬車を練成しちまう乱暴な設定はこの際置いといて・・・・だ。何故にこの俺様が“シンデレラ”なんだ!?ああん!?」



            「似合うからだ」なんて、気の毒でとても言えない。 

 

  

時間は無常にも刻一刻と過ぎていく。時計を見ればもうじき10時を回ろうかという、僕としては非常に差し迫った状況だ。何しろ提出期限が今日中の書類が数点ある上、その査定代わりの『扮装で練成デモンストレーション』は今日の夕方に行われるのだ。今年度のみとはいえ、査定が免除されるというのは願ってもない事だ。毎年これに時間を取られて普段の任務にしわ寄せが行き、結果兄と過ごせるはずの貴重な休日が果敢なく消えていくのだから。
ここは兄との愛の日々を獲得するために、なんとしても二人揃って寸劇シンデレラを演じきり、手間と時間のかかる査定の免除を受けなければ・・・!!!

 

僕はひとつ静かに溜息を吐いた。自分を落ち着かせ、覚悟を決める為に・・・だ。

「兄さん。僕だって錬金術師の端くれだ。何も厭な条件だけを押しつけるつもりはないよ。それ相応の対価があるからこそ、こうしてあなたを説得しているんだ」


そう再度説得を試みる僕の声は、自分でもうんざりするような猫なで声だ。しかしこの兄は可愛い事に、僕のこの声に弱いのだ。ほら、微かに頬を染めて居心地悪そうに身動ぎしている。効果てき面。これまで「いやだ」の一点張りだった頑固な兄が態度を軟化させ、相変わらず憮然とした表情ながらも僕の撒いた餌に食いついてきた。


「・・・・・何だよ、それ相応の対価って。言っとくが俺は別に査定なんて慣れっこだから免除なんかされなくたって一向に構わねえンだ。それともお前が何か魅力的な特典でも提供してくれるってのか?」

「しましょう」


「え・・・・・っ!?な、なにを?」


「そうだねえ・・・・例えば。これまであなたが僕に『お願い』していたけど、まだやってあげていなかった・・・・・・『ア・レ』とか」

含みを持たせた言い回しで意味深な目線を兄へと向けてみれば、いつになく目を輝かせ、頬を染め、唇を綻ばせたその人が身を乗り出すようにしていた。こころなしか呼吸までが荒い。

・・・・兄よ、そこまで『アレ』が好きなのか。


 

 





僕が提示した特典に思わずといった体で食らい付き、勢いで首を縦に振ってしまった兄は今、軍の女性職員数人の手により着せ替え人形にされている。僕はといえば、用意された衣装にサッサと着替え、兄の説得に手間取った分だけ滞った書類仕事を片付けながら、着替えを済ませた兄がこのドアの向こうから現れるのを待っているところだ。



「よ!アルフォンス!うは〜〜似合うなぁ、お前!一体どこぞの王族か!?」

「ハボック大尉・・・・ていうか、シンデレラの王子のコスプレですから。王族に見えてくれなければ困ります」

「イヤミなくらいハマってんなぁ。お前ちゃんと『自分は兄さん一筋ですから!』って言いながら歩き回れよな。女どもに妙な期待をいだかせたら承知しねぇぞ」

くわえタバコの大柄な昔馴染みは、此方のつま先から頭のてっぺんまでをまじまじと眺めて大げさな溜息を吐いた。

「ところで、アナタの上司の支度はもう済んだのでしょうか?」

僕の言葉を聞くなりブハッと噴出し、咥えていた火の点いていないタバコを床に落とした。書類を膝に広げて座っていた僕が足元に落ちたタバコを拾ってその人に差し出すと、身体をくの字に折り曲げて笑い転げていた。ソレもそのはず。



「・・・なんでよりによって中将、『森のクマちゃん』なんでしょうね・・・」

「ぶはははははは!!!!い、い、言うな〜〜!言わないでくれ・・・ぎゃははははは!!」

 
「ハボック大尉。いくらなんでも笑いすぎでしょ?直属の部下の立場として、もうちょっと気の毒そうな顔の一つもしたらどうなんです」

いつまでたっても馬鹿笑いを止めない相手をたしなめていると、着替え中の兄がいる部屋のドアの向こう側から黄色い歓声が上がった。

その常ならぬ声を聞きつけた軍人たちが、何事かとドアの前に集まってくる。

「な、なんだ?敵襲か?」

「ないです、ソレは」


其の時、閉ざされていたドアが音もなくゆっくりと開かれた・・・・・・・・。

  

それまでざわついていた場が、一瞬にして静寂に包まれた。居合わせた誰もが目を見開き、声を出す事も忘れ、ただ、目前に現れた美しい人の姿に見惚れていた。もちろん、この僕も例外ではなかった。


光の加減によっては虹色の光沢を放つ淡いピンクのドレスはレースやフリルがふんだんに使われた可憐なデザインで、小柄で華奢な兄の身体に恐ろしく似合っていた。ボリュームを持たせた裾部分とは対照的に、兄の細い身体をこれでもかと強調するようにウエストが絞られていて、これが堪らず男心をくすぐる。胸を飾る豪華な細工のレースと、薔薇のコサージュがうまい具合に平坦な胸部分を覆い隠して、その上には色っぽい鎖骨と細い首のラインが続く。
そして・・・・・・・嗚呼!何という事か・・・・!!!
ただでさえ淡い桜色の可愛い唇に今日は控えめにだけれど紅が引かれ艶っぽさを演出しているし、いつもは後ろで無造作に束ねているだけの金髪もゆるりと編みあげられ、その頭上には小さなティアラが輝いている。


「「「「「「う・・・・・・・ウツクシイ・・・・・」」」」

そこに居合わせた全員が、申し合わせたかのように声を揃えてため息とともに呟いた。


駄目だ。こんな姿の兄を大衆の目に長時間曝すわけにはいかない。ただでさえ隠れたFANが多いというのに、これ以上この人の虜になる人間を増やしてどうする!?危なくて、おちおち一人で出歩くことさえさせられなくなる。
しかし。それにしても・・・・・・。


「兄さん・・・・素敵だ・・・・僕は幸せ者だ・・!」

「何が『幸せ者だ・・・』だ!?俺はこの上なく不幸だコノヤロウ!!大体そんな目でじっと見ンじゃねえ!お前も!それから周りのお前らも皆キモいんだよ!」

その形で、照れ隠しの為か普段以上にさらに乱暴な態度のギャップがまた堪らない。僕はもうメロメロです、お兄様。

「・・・・あ、この衣装、借りていってもいいのかな?」

兄の後ろに控えている、着付けとメイクをしてくれた数人の女性職員ににこやかに笑いかけると、勿論ですとの快い返事が返ってきた。

「ありがとう。必ず明日返しますから、今日は終わったらこのまま借りていきますね」

「オイ待てアルホンス!俺は終わったらこんな窮屈な服、とっとと脱ぐぞ!」

そんな兄を無視して僕は今だに呆然としている群衆に向かって声をかけた。

「さあ、さあ、さあ、さあ!さっさとノルマの錬成こなしちゃいましょうか!皆さん、会場となる娯楽室へ移動しましょう?」



その後、娯楽室で行われたレクリエーションは、アメストリス軍に新たな伝説を生んだとか生まないとか・・・・・。

 

 

 

 

 

 

ドレス姿のまま徒歩で帰宅するのは流石に無理だろうと、呼んだ車で帰宅した僕と兄は今、一階のリビングで無言のまま対峙している。
 優雅なドレスの裾を乱暴に膝上までたくし上げ、どっかとソファの肘掛に腰をおろした兄は、まるで借金の取り立て屋の如き柄の悪さで僕に要求してきた。

「俺は責務を果たしたぞ。さあ、約束通り代価を払ってもらおうじゃねえか」

いや、違う。『如き』どころか、まるっきり借金の取り立て屋そのまんまの兄の様子に、僕は辛抱堪らずとうとう立ち居振る舞いのレクチャーを始めてしまった。
 
「駄目駄目そんなんじゃあ!ドレスの裾は鷲掴みにしてはいけません!いい?こう、こうやって、親指と人差し指と中指でついっと控えめに・・・・・」

「だああああああああ〜〜〜やかましい!こんなもんとっとと脱いじまえばいいんだろうが!」

兄の方もいい加減忍耐力が底を尽きかけているらしく、もう我慢できないと喚き散らしながら脱ぎ方の分からないドレスの布地をあちこち引っ張っている。暴れ始めた野生小動物には僕の麻酔がテキメンだ。背中の紐に指が届かず掻き毟る両手をそのままひとまとめに捕えて細い腰を抱きよせ、泣きどころの項に唇で愛撫を加えつつ、アノ声で囁いた。

「大人しくして・・・・・あまり聞かないと、酷くしちゃうよ?」

「ンア・・・・・ッ」

面白いようにくにゃりと体中の力を抜き、腕の中に落ちてくる可愛い人をそのまま抱き上げ、僕の部屋のベッドの上まで素早く運びこむ。そっとシーツの上に横たえ、まだルージュの残る唇に丁寧なキスを一つ。

唇を離して見下ろす、ベッドに横たわるその恋人の姿は・・・・・・・もう、筆舌に尽くしがたい。

憮然とした表情を取り繕いつつもほんのりと頬を染め、口付けで潤った唇が誘うように僅かに開き、ドレスを纏った愛しい身体を居心地悪そうに縮こませている。でも、その金の目は潤んで、早くその先が欲しいのだと正直な胸の内を告げている。

「いい子で待っておいで。今、約束を果たしてあげる・・・・」

そうひとこと言い置いて、僕は一度部屋を出た。兄とのアノ約束を果たすために。

 

 

 


簡単にシャワーを浴び着替えを済ませた僕は、階段を上がりながら自分の今のスタイルを改めてかえりみて、深い深いため息をハーと吐いた。

でも仕方無い。兄はあんな(兄的には)屈辱的な扮装で、職場の同僚や上司や部下たちの好色な視線にさらされながらも堂々と課題であったカボチャの馬車を錬成してみせたのだ。ここで約束を反故にすることなど、できようはずもないのだ。(もっとも、その錬成物のデザインについては今更とやかく言ったところで詮無い事なのだが・・・・僕の美的感覚からすれば、残念な事に最低最悪の部類に属するものだった)

部屋の前に辿り着くと、今度は軽く深呼吸をした。
これからこの中で起こるだろう事態に、決して動じないための心構えが必要だった。

・・・・・・・・・そう。色々な意味で。

「兄さん」

静かにドアを開け、隙間からするりと身を滑り込ませる様に部屋に入る僕は、何故か足音を忍ばせていた。
さっきシーツの上に身を横たえていた恋人は起き上がり、ドアの方を向いて座りこみつつも、何故かその目をギュッと閉じていた。


「・・・・・・本当に、約束の『アレ』なんだよな?」

そうたずねて来る声は上擦っている。

「そうだよ、僕があなたとの約束を違えるとでも思った?」

頬を赤くしてまだ目を閉じている恋人のすぐ前に立ち、ついと伸ばした指先で耳朶を軽く愛撫した。

「ア・・・・・ッ」

敏感な身体を持つ彼はすぐさま身をビクリと竦ませ、きっとまだ開けるつもりではなかったらしい目を開いてしまった。その途端、只でさえ上気していた頬がさらに赤みを増し、全身を硬直させ、その額には汗の粒が浮き出している。しかしながらその金の双眸はカッと見開かれ、僕の全身のありとあらゆる箇所を見逃してはなるものかとばかりにせわしなく視線を走らせている。


「うあ・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・!!」


ポーカーフェイスを得意とするこの僕でさえ、少しでも気を抜けばたちまち頬に血が集まってしまいそうなその熱視線に、わざとゆったりとした笑顔を向けた。ここで引いたら男が廃る。
踵を返し向かったのは、ベッドから数歩離れた場所にある皮張りの白いソファだ。

背を向けて数歩進むその間も、僕の後姿に隈なく熱い電波が突き刺さる。痛いぐらいだ。そして恋人からは、荒い呼吸の音・・・・さらに『あ』とも『う』とも『ひ』ともつかない意味不明な声が聞こえてくる。興奮が最高潮に達しつつあるその人は、もはや人語を失ったらしい。
さあ、ここからが最大の見せ場だ。今こそお前の持てるすべてのフェロモンを放出するんだ!
ゆけ!アルフォンス=エルリック!!!!


ソファにドサリと身体を投げだした僕は、わざと肩ひもを解き、意味深な流し目を兄へと送った。使う声音は勿論あの誉れ高きエロボイス。出力全開だ。



「・・・・おいで。いい夢を見させてあげる・・・・エドワード」



その声が空気を震わせ恋人の耳朶を熱く愛撫したのだろう。途端に身を震わせ、そしてやがてゆるりと立ち上がると、しどけなく着崩れたドレス姿に尋常でない色香をまとわりつかせた恋人がふらふらとこちらに近づいてくる。


「お前・・・・・・お前・・・・・・い、色っぽい・・・・俺、もう心臓がバクハツしちまいそう・・・・・!」


「ふっ・・・・・そんなに?」


ここまで恋人を喜ばす事が出来れば、僕も本望だ。目元を潤ませ、荒い呼吸に肩を上下させた恋人の腕を引き、腕の中に抱きこんだ。すると珍しく積極的に自ら唇を求め舌を絡めてくる兄の手は、僕の胸やわき腹や臀部や太ももを撫でさする・・・・・・・。ふと間近で見たその目は完璧に『どこかにイっている』状態だった。


「ああ、スゲぇ・・・。コレだ、俺はコレを求めていたんだ!これぞ男のロマン!裸エプロン!!!!た、たまんねぇ・・・・・アル、お前可愛い過ぎ・・・兄ちゃんもうメロメロだ・・・・!!!」


・・・・・・・・ああ、予感的中。愛しい恋人のスイッチは、果たして攻めモードに切り替わっていた。

僕はウンザリして天井を仰ぎ見た。これから始まるであろう、裸にエプロン一枚を纏っただけの変態的なナリをした大男と、その裸エプロン姿に欲情する変質的な嗜好を持つドレス姿の美人の、イニシアチブを巡る攻防に想いを馳せて・・・・・。



まあ、結局最後に僕の手管に啼かされるのは、この人の方なんだけどね。








        **********とりあえず終わり〜w**********


これは、何を隠そうナオズミ様から頂いた裸エプロンあるぽんの絵につけさせて貰おうと思って書き始めたヤツなんです。う〜ん。ナオズミさんのあの男の色気満載〜なあるぽんを表現するのは難しいです><こんな駄文をひっつけてUPしたら折角の絵が台無しになってしまうかも・・・・^^;

でも、
めちゃめちゃカッコええでしょう!
           
              ↓↓↓





そして勿体なくも有難いことに、シンデレラコス兄さんまで・・・・wwww

可愛い〜〜〜〜〜ッ!!wwww


↓↓↓



急に思い立ち、発作的に始めた≪北海道オフいけない人祭り≫(←直さんのマネっこだにゃ^^;)
その時『ひとりごと』で書いたSSでした。
ナオズミさんから頂いた、裸エプロンあるぽんがあまりにカッコ良くて、
ついつい刺激されて作ってしまったのでした。ナオズミさんのイメージを大幅に破壊してしまっただろう私。
ナオズミさん!そしてナオズミさんFANの方、申し訳ございません!!m(_ _)m
でも私だってナオズミさんFANなのよ〜〜〜〜><ヒイイ


ナオズミさん、ありがとうございました!!

そのナオズミ様の素敵サイトはこちら






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