夢・・・・? 

 










「・・・・は・・・・ッう・・・・・ん、アア・・・ッ!」

自分で聞いていて、髪をかきむしりたくなるような悩ましげな声に被さるのは、ベッドが軋む音と、忙しない呼吸の音・・・・それから・・・・・。

「す・・・・ご・・・・にい、さん。聞こえる?ホラ、僕が出したのが、あなたの中で・・・こうやって、動くたびに、音をたててる・・・・・」

ねっとりとイヤラシイ声が耳元でそう囁いた所為で、またさらに温度を上げた奔流が体の中心を駆け上がってくるのにキリキリと歯を食いしばって俺は耐えた。

「兄さんのココ・・・・イヤラシイ・・・・・・・堪らない・・・・ッ」

何抜かしやがる!?イヤラシイのは俺のココじゃなく、お前の存在だ!!!!!・・と、言い返したいのに言い返せない。そんな余裕なんてない。平和に寝入っていた俺の体を帰宅するなり獣のように貪り出した男に、残らず根こそぎ持っていかれていたからだ。


真っ暗な部屋の中、闇に慣れた俺の視界の隅に映るもの。月明かりに薄ぼんやりと照らされた床、そこに散らばる弟の青い軍服のジャケットとスカートと白いワイシャツ、俺のパジャマの上下、弟のデカいコンバットブーツ、俺の下着・・・・・・・・未開封のまま投げ出された沢山のコンドームのパッケージ。


「あ、あ、アア・・・・ッ!!イヤ、だ・・・ゴム・・・・・つけろって言って・・・」

「いまさら手遅れ・・・・・もう、三回出しちゃったし・・・・ゴメン、ね」

珍しく回ったらしい酔いの所為か、いつも以上に蕩ける甘さを含んだ声が言う。
唯一自由に動かすことができる首から上を力の限り仰け反らせて抵抗するのに、項に回された手が乱暴に後ろ髪ごと頭を鷲づかみ、それすら封じられてしまう。と、途端に降りてくる、酒の味がする噛み付くような口づけに、分かっていながらも流されていく俺の平常心。

揺すり上げられるたびに、体の中でグズグズと音を立てて移動したり結合部から溢れ出る、決してこの世に血脈を遺すことなくただ排水溝に流されるだけの運命を持つ遺伝子たち。

悲しいなぁ・・・・お前ら。可哀想に。
もし仮に俺の体に子宮があれば、宿し育み遺すことができただろうに。愛しいこの男が、この世に生きた証明を。

なんとも形容しがたい音が体の中で生まれる度に、罪悪感に身を切られ、官能に身を焼かれ、俺は悶え狂った。狂いながら悶えながら、言っても詮無い言葉が勝手に口からこぼれ出る。

「・・・・アア・・・・・・ごめんな・・・・・・・・俺が、兄ちゃん、で・・・・ゴメ・・・・ん、ああ・・・・ッ!?」

「また、余計なコトッ、考えてる・・・・でしょ?そんな余裕、もうあげない。あなたが、明日起きられなくても、それはあなたの所為だよ・・・・!」

「は・・・・・ふぁッ!?い、うあッ!ああッ、ああッ、アアン・・・ッ!!」

さらに体を折りたたまれて、俺の両膝はそれぞれ頭の両脇で固定された。ありえない角度でありえない奥まで穿たれて、意識が遠のく。もう・・・・死ぬ、死にそうだ・・・・・死んじまう。

その後も、好き勝手に体の位置を入れ替えられながら延々と、一体何度弟の熱を身の内に受け止めたのか・・・・・俺は、覚えていない。

 

 

 






翌朝目を覚ますと、隣にあるのはわずかなぬくもりだけで、弟の姿はなかった。ベッドに縫い付けられたように体が重く、喉の粘膜同士が張り付くほどカラカラに喉が渇いていた。

 

「ア・・・・・・ル・・・・・」

 

掠れた声で弟の名を呼ぶと同時に扉が開き、すっかり身支度を整えた軍服姿が現れる。しなやかな身のこなしで音も無く近づき、ベッドの横に膝をついて心配顔で覗き込むと、額同士を触れ合わせてくる。背に腕を差し込まれ、わずかに身を起こされながら手渡されたコップから貪るように水を飲んだ。

 

「少し、熱があるね。これじゃ軍務は無理だ。中将には僕から言っておくから、今日は一日休んでいて」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

声を出すのも億劫で瞬きだけで応えた俺に頷き返すと、そっと触れ合うだけのキスをしてから愛おし気に頬を一撫でして、弟は部屋を出て行った。

 

 

体の奥には未だに何かを食んでいるような感覚があり、疼くような痛みと熱にジワリと汗が額に滲む。毛布の中でもぞもぞと体を動かしても不快感は無いから、また意識のないまま弟に事後処理をされたのだと分かる。

 

まるで弟の目前で排泄するようなその行為に、俺も初めのうちこそ抵抗したが、羞恥心はあるものの今では半ば開き直ってやらせていた。

 

きっと昨夜も気を失った俺をバスルームへと運び、それをしたのだろう。俺の中から、残滓を掻き出す空しい行為を。

 

 

無残に流され死に逝くだけの、“命”にすらなれなかったもの達。お前はそれを見て、何を思ったろう。俺を人生の伴侶に選んだことを、ほんの少しは後悔したりもするんだろうか。

 

宿せるものなら、宿したい。そうすることで、見出したいのだ。俺とお前が禁忌を犯してまで結ばれてしまった・・・・その、意味を。

 

 

 

 





 

自分の呻き声で目を覚ますと部屋の中は既に暗く、わずかに開いたドアの隙間から明かりがこぼれ、遠くで食器の音がしていた。俺はずいぶんと長い間眠っていたらしい。ぼんやりしているとやがて足音が近づき、部屋に明かりが点されると同時に弟の柔らかな声がする。

 

「兄さん、気分はどう?起きられないなら、ここに食事を運ぼうか?」

 

「だ・・・・・・いジョウブ・・・起きれる」

 

思うように力が入れられない腕を支えに上半身を起こした途端、ぐらりと視界が回った。それと同時に襲ってきたのは、如何ともしがたい吐き気だ。

嘔吐く素振りを見せた俺を、弟はすぐさま抱え上げ洗面台の前に運んでくれた。丸一日なにも食べずに眠っていたから当然胃の中は空っぽで、何も吐くものが無い俺は結構な時間を費やして気が済むまで胃液を吐き出した。

 

 

その後、再び抱き上げられた俺はリビングのソファで弟にぐったりもたれ掛かったまま、この体調不良の原因は矢張り昨夜のアレの所為なのだろうかと考えていた。

 

ごく稀に弟は、酷く執拗に激しく俺を抱くことがある。といっても、決してそれは俺の身体を傷つける訳ではなかったし、こちらの制止を聞き入れないとはいえ行為の最中手前勝手に快楽を追うようなこともしない。つまり、俺は弟のその行為自体から明確な“愛”を感じ取っていたから、これまでも敢えて受け入れてきたのだった。

 

 

「・・・・お前、昨日すげぇ酔っ払ってたろ?軍とかで・・・何かあった?」

 

「ううん。何も無い・・・・・・ただ、兄さんの体温が無性に恋しくなっただけ」

 

 

毎回訪ねても、毎回同じように返されるどこか曖昧な答え。

 

 

 

命が宿らないことが、もどかしいとは思っていないか?

 

何故、何も遺せない関係を選び取ってしまったのかと、重荷に感じてはいないだろうか?

 

 

怖くて、聞くに聞けないそれらの言葉は、狡くて弱い俺の中に落ちては積もり、積もった上にまた落ちてくる。

 

 

「ごめん」

 

 

その声を、一瞬自分が無意識に発したものだと勘違いした俺は、弟の腕の中で顔を上げた。暗い目が俺を見下ろしている。

 

「あなたの不調の原因は、僕にある」

 

「平気だこんなの。すぐに直る」

 

「違うんだそうじゃない。聞いて」

 

弟の大きくて温かい掌が、俺の臍の下部分にあてられた。薄いパジャマの布地越しの温もりに、俺は自然目を閉じた。

 

「昨日の夜、あなたが眠っている間にね・・・・・僕が錬金術で・・・・ここに」

 

 

 

子宮を埋め込んだ。

 

 

 

ところが意外な事に、俺はまったく驚かなかった。いや、嬉しいとさえ思った。それは今、俺が一番欲してやまないものだったのだ。


 

「あなたの身体に合うように僕が作ったものだから、たぶん拒絶反応は起こらないはず。でも馴染むまでの間は、時々こうして吐き気とかの症状が出るかも知れない」

 

弟の淡々とした説明を、俺も妙に冷静に聞いていた。

 

「僕とあなたの子を、ここに宿すんだよ・・・・・いいよね?」

 

うっとりと呟く男の目には、常にはない狂気の光が見てとれた。でも、いいんだ。俺だって大概狂ってる。だって、それがこんなにも嬉しいんだ。

 

 

「すげ・・・・嬉しい・・・・・ありがとな、アル」

 

「僕も嬉しいよ・・・・・兄さん・・・・・・ありがとう、ごめんね」

 

 

「ごめんなさい兄さん・・・・ごめん・・・・・・ごめんね・・・・」

 

そう繰り返しながらも弟の手は、俺のパジャマの隙間から素肌の上の弱い部分を探り出そうと忙しなく動き回る。まるで飢えた赤子が懸命に乳首を探っているような動きにもとれ、俺の中に愛しさが溢れた。

 

まだ痛みと熱を持った身体で受け入れるのは、正直辛い。でも俺は、求められるままに身体を開いた。

 

「あ、ヒ・・・・・ッ!ん・・・、あ・・・」

 

長い指を抜き差しされて、時折アノ部分を掠めるようにかき回される。痛いのに、同時にそれ以上の快感を引きずり出されるのが酷く気持ち良くて、たまらず喘いだ。

 

「アル・・・・・、アル!アルッ・・・・!」

 

早く欲しくて、もどかしくて、狂い出しそうだった。かぶりを振って、淫らに腰を揺らして全身でその先を強請った。

 

 

早く・・・・・早く・・・・・早くしてくれ・・・・・!

 

「昨日あんなにしてあげたのに・・・・・フフッ・・・・・まだ、欲しいの?」

 

「アル・・・・・焦らすな馬鹿・・・・・・・・!」

 

「だって、そんなあなた初めて見るから・・・・興奮しすぎて・・・・格好悪いコトになりそう」

 

「何だっていい・・・!早くくれよ・・・・・アアアアアアッ!?」

 

いきなりの衝撃に悲鳴を上げて仰け反った。痛みなんてない。あるのは只、圧倒的な快感だけだ。昨夜あれだけ猛り狂った弟の欲望は、恐るべきことに完璧なまでに力を漲らせて、俺を攻め苛んだ。

 

「アッアッアッアッ・・・・んん、アア・・・ッ!」

 

いつもならば堪えようとする声を、今の俺は我慢しなかった。強制的に与えられる快感をそうして逃がさずにいれば、発狂してしまいそうで怖かったからだ。もはや俺の目には何も映ってはいない。本能を剥き出しにした下等な獣に成り下がり、ただ与えられる快楽だけを浅ましく貪った。

 

やがて、中の熱がひときわ大きく脈打つ。絶頂が近いのだろう。

 

「に・・・・さ・・・・・出すよ・・・・・全部、受け止めて・・・・」

 

俺は既に息も絶え絶えだったが、膝裏をすくい上げられていた足をさらに大きく広げることでそれに応える。

 

 

注がれている間中俺は、嬉しさに・・・・・・・・・泣いていた。

 

 

 






 

 

兄は時々、酷く飢えた表情をして何かを思い詰めることがある。口には出さずとも、兄がそれを僕に知られたくない事を分かっているから、いつも何も聞かずにいるけれど。ただそんな時期が数日続き飽和状態になった頃、僕はいつもよりも激しく手加減なしに兄を抱く。(はばかりながら、これでも普段は相当手加減しているのだ)その艱苦の根が無くなることはなくとも、無理やりにでも我を忘れて快楽を享受させることで、彼の中で凝り固まった澱を取り払うことができるからだ。

ただ昨夜は少々過ごしてしまった酒のせいもあり、兄の身体に必要以上の無理を強くことになってしまったのは僕の過失だった。

 

相当に辛いらしく、少しも身を起こすことなくぼんやりとした目を向けてくる恋人の額に額を合わせると、やはりわずかながら発熱していた。

 

少佐の地位にある兄はもっぱらデスクワークが主とはいえ、その軍務は厳しい。ビタミン剤を溶かしこんだ水を兄に飲ませながら、この身体では今日は休ませるしかないと踏んだ。

 

 

 

 

軍で任務に当たる間中、兄の様子が心配なあまりどこか気もそぞろだったらしい僕に、書類の管理を任せている下士官が気を利かせてくれた。まもなく到達する引継ぎの時間までにはとても片付きそうにない未決書類の日付を、全て明日の日付に書き換えたのだ。つまりこれで、僕の今日の仕事は全て明日に持ち越されたという訳だ。

有能な部下に礼を言うと、私服に着替える時間も惜しかった僕は軍服のまま足早に帰宅の途についた。

 

 

予想通り、帰り着いた自宅を見上げればどこの窓にも明かりが灯っていなかった。この分ではきっと、サイドテーブルに用意しておいた食事にも手を付けずに眠っているに違いない。

 

家中の明かりを付け、料理の為に湯を沸かし、バスタブにも熱めの湯を張る。堅苦しい軍服を脱ぐと、ネルのシャツに袖を通した。これから胸に抱いて諸々の世話をする兄のことを考え、肌触りのいいものを選んだのだ。

 

水差しに新しく水を汲み、それを片手に寝室へ行くと、兄はまだ眠っていた。これもまた予想通り、今朝作っておいたオートミールは手付かずのまま、乾いてしまっている。

 

頬に触れると朝よりも少しだけ熱が上がっていることに気がつき、自分の迂闊さに舌打ちをした。ひとまず冷やすものをと立ち上がりかけたその時、兄が辛そうな声を上げた。

 

「ウア・・・・・・・・・ッア・・・・ル・・・」

 

僕の夢を見ているのだろうか。熱い頬に手の甲で触れた直後、それは涙で濡れた。

 

「にいさん・・・・・」

 

「・・・・・・・ゴメ・・・・・ア、ル・・・・・ゴメン・・・・な・・」

 

兄は、眠りながら僕に詫び、泣いていた。

 

「兄さん・・・・起きて、兄さん、兄さん・・・・!」

 

眠っているのも構わずに胸に抱きしめると、ぐったりしていた身体に力が入り身動ぎをする。

 

「あ・・・・・・オレ・・・・?今・・・どう、してた・・・?」

 

「泣きながら眠ってた。酷くうなされてたから、可哀想だけど起こしたんだよ。身体、まだ辛いよね?汗をかいてるから、少し綺麗にしようか」

 

まだぼんやりとしている兄の身体を抱き上げると湯気で暖められたバスルームへと運び、椅子に座らせた状態でパジャマをはだけて身体を拭いてあげる。重そうな瞬きを繰り返す兄は、その間中ずっと、何かを思い出そうとしているようだった。

 

それが済むと、ベッドではなくリビングのソファに行きたいと言う兄の希望どおり、毛布にくるんだ彼をそっと下ろした。

 

「・・・・・ん、すげ・・・・良い匂い」

 

火にかけておいたスープの鍋から漂う匂いに反応した兄は、掠れた声で嬉しそうにそう呟く。ようやく夢と現実の区別がついてきたようだ。

 

「食べられそう?大丈夫かな?」

 

「大げさだって、お前。丸一日眠ってたんだぜ?もうすっかり元通りよ。何も食ってねぇから兄ちゃんは腹ペコだ。がっつり食うぞ」

 

ソファの上で毛布に包まりながら美味しそうにスープを啜る頃には、すっかりいつもの調子を取り戻していた兄だったけれど、最後のパンを租借しながらまた何かを考える表情をしていた。

 

「どうしたの?」

 

「ん・・・・・お前さ、さっき俺を起こす前にも一度俺と喋んなかったっけ?お前、俺を抱えて洗面台まで連れてかなかったっけ?」

 

「????何言ってるの?寝ている人とどうやって喋るの?大体さっきは帰ってきてから初めてベッドルームに入ったんだよ。それに僕が連れて行ったのはバスルームでしょ」

 

「・・・・だよなぁ・・・・・そっか・・・・・」

 

「変な夢でも見た?」

 

「まあ・・・・・・つーか、アッチとコッチ、どっちが夢でどっちが現実なのか・・・・・まだ混乱してるみてぇ。お前、ホントのアルだよな?」

 

「夢でも現実でも、僕が本物だといえば兄さんはどっちだろうと信じちゃうだろうから、その質問には意味がないよ。問題はアナタ自身がどう感じるか、でしょ」

 

「・・・・・・・わかんねぇから聞いてんのに・・・・お替り」

 

「・・・・『夢の中』でお替り?」

 

クスリと笑いながら、兄から受け取ったカップを手にキッチンへと向かう。兄が眠っている間に見た夢は、相当リアルなものだったようだ。どうやら本当に夢と現実の区別がつかずに困惑しているらしい。

 

「旨い・・・・・そういやぁ、夢の中で食うものって、この世のものとは思えない旨さじゃねぇ?じゃあコッチが夢かも」

二杯目のスープを啜りながら、兄が言う。

 

「う〜ん・・・・僕はあんまり食べ物を食べる夢を見たことがないから分からないな」

 

アナタを抱く夢なら、何度も見たことがあるけどね・・・という言葉は当然言わずにおく。

 

「じゃあさ、こうすればいいよ。アッチとコッチの僕、アナタにとってどちらの僕が望ましい姿をしていた?」

 

「望ましい方が現実ってコトか」

 

「逆だよ、逆」

 

「?」

 

「夢は願望の現れでしょ。だから望ましいほうが夢。そうじゃないほうが現実・・・・・さあ、どっち?」

 

僕の言葉に兄はハッとした表情を見せた後、自嘲気味な笑顔を見せただけで、決してそれに答えることはしなかった。だからこそ、兄の答えが分かってしまった。

 

この自分は、兄が望むような存在ではないのだ・・・・と。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺から誘ったのは、多分今日が初めてではなかろうか。

 

昨日の今日だし、何よりその所為で俺は丸一日寝込んでしまったのだから、当然弟は首を縦には振らなかった。でも、したかった。自分でも抑えきれない衝動を持て余した俺は、強請る俺の身体を胸に抱きこみ無理やり眠る態勢に入ろうとする弟に、知っている限りの技巧を駆使してキスを仕掛けた。

 

「・・・・どうしたの?今日のあなた、どうかしてる。眠れないのなら話でもしよう?」

 

俺が嫌だと言ってもするときには好き放題する癖に、全く乱れない弟が憎らしい。

 

「良いから、抱けよ。昨日みたいに滅茶苦茶に俺を抱けよ・・・!」

 

躍起になって、腰を摺り寄せるようにしてさらに強請った。もう、形振りなんて構っていられない程に俺は切羽詰っていたのだ。

 

 

アレが俺の願望だなんて・・・・耐えられない。打ち消したい。忘れてしまいたい。今すぐに、狂気に支配された弟に熱を注がれたあの記憶を塗りつぶしてしまいたかった。

 

「夢の中で、僕とした・・・・?」

 

鋭い弟は、やはり気づいてしまったらしい。

 

「して・・・・ねぇ・・・っ!」

「嘘」

「う・・・・嘘なんかじゃ・・・・」

「ねえ、僕は知ってるんだよ。あなたが嘘をつくときは、必ず瞬きの回数が増えるんだ。可愛いよね、本当に」

 

ニヤリと笑った弟の表情に不穏な色が混ざるのを見た俺は、一転して身を引いたのだが間に合わず・・・・。

 

「そう・・・・夢の中の僕に・・・・抱かれたんだ?どんなだった?良かった?どんな体位でしたの?」

 

矢継ぎ早に言いながら、弟はシーツから錬成した拘束具で俺の両手の自由を奪うと、さっきまでの優しく穏やかな表情をがらりと変えて圧し掛かってきた。

 

「答えるまで、ご要望どおり滅茶苦茶にしてあげる・・・・」

 

俺は、愕然とした。

 

何故ならそう言って俺を裸にむきながら、濃厚な愛撫を施してくる弟のその目に、夢の中の弟に見たのと全く同じ狂気の色を見つけてしまったから。

 

 

「さあ・・・・全部言うんだよ?さもないとあなた、我慢できずに狂ってしまうかもしれないよ?」

 

ジクジクと熱を持つソコに長い指が穿たれ、抜き差しされる度に生まれる熱に内側が溶けてしまいそうな錯覚に陥り、俺は悶えた。

 

「あ・・・・アア・・・ッ」

 

「言って?最初はどうされた?」

 

「ゆ・・・指でッ・・・そう、やって・・・・・アウッ!

 

「そう。良い子だね。次は・・・・?」

 

 

 

 

 

結局全てを白状させられ、夢と全く同じ事をされてしまうのだと悟るのに、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

遠慮手加減なしに攻め立てられ、泣かされ、夢の内容を全て引きずり出され、やがて力の入らない身体をシーツに投げ出した俺は、拘束された両腕もそのままに弟を見上げた。

 

「お前・・・・・お前・・・・・・狂ってる・・・・・・」

 

「大丈夫。すぐにあなたの身体に合う子宮を作ってあげるから・・・・それまでそうしているといい」

 

そう言って微笑む弟の優しく残酷な顔を見て生まれた感情の正体は何なのだろう。絶望と呼ぶにはそれはあまりにも甘美だったが・・・・・・しかしそれが何であれ、全て俺が無意識のうちに望んだものだという事だけは確かだった。弟は、それを叶えようとしているだけだ・・・・・・ただ、俺の為に。

 

 

 

 

ああ・・・・・そうか・・・・それともコレもまた、夢の中なのだろうか・・・・目を覚ませば、きっといつもどおりの弟が目の前にいるはずだ。

 

 

 

そう思ったのを最後に、俺の意識は途切れた。

 

 

 

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