わんこなアイツ 13
犬には理性というものがない。だから放っておけば、食べたい時に食べたいだけ食べ、眠くなったら眠り、発情すれば周囲の状況お構いなしに交尾に及ぶ。
犬と共に生活しようとするならば、躾によってそれらの行動をコントロールする必要がある。だがしかしアルフォンスは既に育ち過ぎた成犬で、今からどう頑張ったところで、躾が入るかはどうにもあやしいのだった。
飼うと決めてしまったものの、このサイズの犬をコントロール出来ないとなれば、笑い事では済まない。死活問題だ。
今さっき出てきたばかりの風呂場に再び引き摺りこまれ、そこでほぼ左手一本だけで服を剥ぎ取られ動きを封じこまれてしまった俺は、立て続けに二度イかされた。その後も生ぬるいシャワーが降り注ぐ中、あちこちを色々されて喘ぎながら、ぼんやりと思う。
・・・・俺は情に流されて、判断を誤ったのだろうか・・・・・?
タイルに胡坐をかいたアルフォンスの上に座らされ、背後から首の後ろを咬みつかれたり吸われたりするだけでもう、俺の意識は危ない感じに朦朧としていた。これはアルフォンスのテクが凄いのか。はたまた俺が弱すぎるのか。・・・・いや、違う。
これだけ好き放題をしておきながら、甘い吐息まじりにひっきりなしに『お願い』を繰り返すこの男のやり口がいけないのだ。
「エド・・・逃げないで・・・・お願い、お願いだから・・・・・好き、好き、好きだよ・・・・大好き・・・・出来る限り優しくする。だからお願い・・・・させて・・・」
こいつにお願いされてしまえば、俺が嫌とは言えないのを知っていてそれを言うのだ、この犬は。けれど何より手に負えないのは、そう思う傍からコイツを許してしまう俺の方だった。
何をしたっていい。どんな我儘だって、どんな無茶だってさせてやる。思いっきり甘やかして、猫っ可愛がりしてやりたい。
そう思う俺は、犬飼い失格の駄目人間だ。
「アル、包帯濡れちまった・・・・・傷しみるだろ?風呂は終いだ」
まだ名残惜しげに俺の首筋を吸っている頭を撫でてやる。俺の声は自分でもギョッとするくらい甘かった。
「・・・・来いよ・・・・風呂出て身体拭いて、傷のガーゼ替えたら・・・・いくらでも、何でもしてやるし、させてやるから・・・」
俺の言葉に呼応するように、俺の尻に触れていたアルフォンスのモノが一気に熱を増し角度を変えるのが分かった。俺の背に、ゾクリと戦慄に似た震えが走る。
それを言ったのは、未知の事だとは言えそれなりの覚悟があってのつもりだ。だがしかし、やはり俺は本当には分かっていなかったのだ。同じ体を持つ男同士が繋がるというのが、どういうものかという事を。そしてアルフォンスの身の内にある欲望の、その奔流の激しさを。
タオルで身体を拭き、髪を拭き、何も無い部屋ながら生傷の絶えない自分には欠かせない救急箱にあるもので傷の処置をしてやる。
それらをしている間、まるで洗礼を受ける者のように神妙にしていたアルフォンスだが、ただ唯一その中心だけは盛んに欲望のありようを俺に知らせていた。
痛々しいまでに反り返る堂々としたそれは、同じ男の俺からすれば本来嫉妬という感情ばかりを呼び起こすものである筈だ。けれど、今の俺の中は、これをどうして慰めてやれるのか・・・・・・・と、そればかりが占めていた。
「・・・アル、痛ぇだろ、ソレ・・?」
大丈夫と首を振るアルフォンスの額には玉のような汗がいくつも浮かんでいるのに、俺が『よし』と言うまでは何としてでも我慢するつもりでいるらしい。『お願い』を連発して強引にふるまっておきながら、こういう健気さで俺の男心をくすぐるから困るのだ。
ひととおり手当を終えると、救急箱を膝で脇に押しやりながらすぐさまアルフォンスの欲望にとりかかる。
「エ・・・・エドッ!それは・・・・・!」
今朝は触ってとねだって自分から触らせた癖に、今度は全身を強張らせて俺の手を拒む。
「アル、もう『おあずけ』は終わりだぜ?我慢すんな、見てるコッチが痛くなる。一度出しちまえ、な?」
いつまでも我慢しようとするアルフォンスに逆に焦れて言ったその考えなしのセリフが不味かった。アルフォンスの目つきが変わったのだ。
またスイッチが切り替わった・・・・・どころではない。鬼のような荒々しさで、動かせば激痛が走る筈の右腕まで使って俺を抱き込みながら畳の上に引き倒し、咥内の粘膜をそぎ落とすような勢いのキスで瞬く間に俺を骨抜きにしてしまった。
色あせた畳の上で息を荒くして身を投げ出している横で、アルフォンスはいそいそと部屋の隅に畳んであった布団を広げた。野獣化してそのまま我武者羅に事を進めるのかと思えば、一応それくらいの理性は残しているらしい。
「エド・・・・・」
肩から首筋にかけて覆う白いガーゼが痛々しくも、アルフォンスの見事に鍛え上げられた身体からはエネルギーが見えない炎のように立ち上っていた。
布団の上から手を差しのべられ誘われるまま、俺は力の入らない身体を引き摺ってアルフォンスへと近付く。アルフォンスは俺の手を取ると、その指先に恭しく唇を寄せながらも、獲物を狙う肉食獣の目で俺を見た。
それはまるで、麻酔のようだった。その目で見られるだけで、全身から力が抜け、思考がぼんやりとする。
アルフォンスに組み敷かれ、ああ・・・・俺はこれからこの男に食べられるんだ・・・・・・・と、目を閉じた。
「エド・・・・・・・ゴメン。本当に余裕がない。酷くしてしまうかも・・・・!」
くいしばる様に漏らしたその言葉を最後に、その後暫くの間、アルフォンスが人語を話す事はなかった。
部屋の中がやけに暑い・・・・いや、熱い。
四畳半の狭い空間は、アルフォンスと俺から放出される熱で異常なまでに温度を上げているようだった。シャワーでも浴びたかのようなびしょ濡れの身体が、乱れた布団の上で絡み合う。
俺はもう、自分がどんな体勢をとらされているのかすら分からない状態だった。
始めてから一体どれくらいの時間が経ったのか。自分が何度絶頂の波に押し上げられ、啼かされたのか。何も分からない。
「ん・・・・・ん、ハッ・・・・・アウ・・・ア、ア、ア・・・・・ッ!」
俺の尻には深々とアルフォンスの怒張が突き刺さっていて、不規則な動きで暴れ回っては俺の意志とは関係なしに、勝手に身体を痙攣させていた。散々射精に導かれた先端からは得体の知れない透明な体液が時々漏れ出して、俺とアルフォンスの身体を汚す。
「ン、ア・・・・・また・・・・クる・・・・ア!イヤ・・・・・ヤ・・・・!」
再び耐えがたい波が襲ってきてブルリと全身を震わせると、アルフォンスの膝の上で大きく広げられていた身体をうつ伏せにさせられ、一層激しい動きで奥を抉られた。
二、三度突かれただけで気をやった俺に構わず、アルフォンスはそのままビクビクと痙攣する俺の腰を鷲掴んで更に深部を犯し続ける。
絶頂を迎えているのに、更にその上へと持って行かれる。これが幾度となく、休むことなしに延々と続けられていた。
このままでは本当に死んじまう・・・・・・・・!
命の危険を感じた俺が逃れようともがいても許さず、さらに覆いかぶさってきた熱く大きな身体が俺の全身を抱きこんで動けなくされる。
内股には結合部から溢れだした液が次々と伝って落ち、俺の膝裏にぬるりと絡みつく。その感触にすら感じてしまう程に、俺の身体はアルフォンスの手によって変えられてしまっていた。
これが、セックスか?まるで捕食行為のような、これが。
それなのに俺が息も絶え絶えに身を震わせて涙を流すと、この獰猛な獣は少しの間だけ動きを緩めて俺の唇や目尻や頬、そして身体のあちこちに唇で優しい愛撫を散らすのだ。
そしてまた暫くすると荒々しさを取り戻して、ガツガツと俺の身体を貪り喰らう。
・・・・これの繰り返しが、一体どれだけ続いたのか。
俺が、この行為の終わりを知る事は無かった――――――。
目をあけると、部屋はオレンジ色に染まっていた。
鉛のように重い身体を少しだけ動かし音がする流しの方を見ると、腰にタオルを巻いただけの大きな裸の背中が何かをしているようだった。
『アル・・・・・』
声を出したつもりなのに、俺の喉から出たのは息を吐き出す音だけだ。散々啼かされて、喉を嗄らしたようだ。
諦めてそのままゴロリと天井をながめていると、炊きたての飯の匂いがしている事に気付く。きっと何かを作っているのだろう。
「・・・・・・グスッ・・・・・・」
鼻をすする音に目だけでアルフォンスの方を見ると、何やらゴシゴシと目を擦っているようだ。
そのまま暫く見ていたら、今度は肩を大きく揺すって鼻をスンスンと鳴らしている。見えない耳と尻尾を縮こませ、全身で悲しみを表していた。
・・・・・どこまで犬なんだ、コイツは・・・・・。
呆れていると、アルフォンスが得体の知れない物体を乗せた皿を手に振り向く。その目は真っ赤で、頬にはいく筋もの水滴が線を引いていた。
『・・・・馬鹿・・・・・・・何も泣くことねぇだろ・・・・』
俺の声はやっぱり音を成さなかったが、アルフォンスは俺が目を覚まして何かを言った事に気付き、ビクリと全身を震わせた。
「エド・・・・ッ!ゴメン・・・・ゴメン・・・・ゴメン・・・・・!身体、どこか痛い?ゴメン、僕・・・・なんて事を・・・!」
俺のすぐ傍に跪いたものの俺に触れる事を恐れるように一度出した手を引っ込め、そのまま自分の顔を覆って項垂れる馬鹿犬を、堪らなく愛おしいと思ってしまう俺もいけないのだ。
『・・・・しょうがねぇ犬だなぁ・・・・・』
息だけで笑いながら、俺はアルフォンスの前髪をグイと引っ張り自分の方へと引き寄せた。驚いた泣き顔がバランスを崩して俺の直ぐそばまで降りてくると、その唇に、今度は俺が咬みついてやった。
閉じたままの唇を舐めてやれば遠慮がちに応えてくるその頭を更に引き寄せ、胸の上に抱いた。
アルフォンスが理性を失くして結構な無茶をやったのが、こいつだけのせいではないという事を、俺は分かっている。何より、あれだけ激しくしておきながら、どうやら俺のケツは無事なようだ。おそらくあれでも必死に手加減しようと努力してくれたのだろう、この優しい犬は。
こんな時に言葉を使えないのがもどかしいが、仕方がない。せめて少しでも自分の心が伝わるようにと、アルフォンスの前髪越しの額にキスをし、親指で乾きかけの涙を撫でるように拭ってやった。
再び合った視線に、精一杯の笑みを向けてやれば、正直にも花がほころぶような笑顔を浮かべるのが憎らしいほどに可愛らしい。
畜生・・・・畜生・・・・コノヤロウ・・・・・!
ああ。きっと一生、俺はコイツを手放す事なんて出来ない。どんな酷い仕打ちを受ける事が仮にあったとしても、コイツを愛しいと思う心が損なわれる事はないだろう。
俺は声が出ないのを良い事に、唇の動きだけで告白してやった。
ア ル フォ ン ス 、 ア イ シ テ ル ゼ ――――――――と。
料理をするとなるととんでもなく不器用になるらしいアルフォンスが、一人泣きながら頑張って作っていた物体は、両手で持ってもまだ重い、アム丼得盛り定食もビックリなボリュームの握り飯だった。ひとつで丼一杯以上の飯を使ったようなそれには、あちこちに罠のような具が仕込んである。それはツナピコだったり、かまぼこだったり、ビーフジャーキーだったり、柿の種だったりした・・・・・。
『お前な・・・・・なんでおにぎりの具に酒のつまみばっか突っ込むんだよ!?ざけんな!俺はおにぎりの具はウメボシオンリー派なんだ!覚えとけ!・・・・・・????ギャ――――ッ!!なんでいきなり納豆が出てくんだよ!?ありえねぇだろうが!』
パクパクと叫びながらも得体の知れない物体を腹に収める俺を見ながら、アルフォンスは嬉しそうに笑う。笑いながら、その手にはすでに三個目の得体の知れない物体があった。
『飯粒ほっぺたにひっつけやがって・・・・・・クソッ!可愛いじゃねぇかコン畜生め!』
これから先の俺の人生の明暗は、コイツの躾の成功如何にかかっている。
そんな底知れないプレッシャーを感じつつ、馬鹿犬の頬に付いた飯粒を取って食べながら、同時にじんわりとした幸せを感じているのもまた事実であって・・・・・。
馬鹿犬とその犬にメロメロになってしまった馬鹿飼い主の日常は、これから先もこんな風に続いて行く見込みだ。
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最後に補足(スイマセ・・・) アム丼得盛りの得は、特別な大盛りの『特盛り』ではなく、普通サイズのラーメンと餃子とパフェまでついてきちゃう
お得メニューですよ〜・・・という意味で、『得』という字を使ってます。 はい、どうでも良い補足でした。ゴメンナサイil||li_○/ ̄|_il||li
嗚呼・・・・
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