T字帯ネタ















「エドワード・エルリックさん。朝の検診ですよ。カーテン開けますね?」

どうせ待てと言ったところで絶対に待つ気なんかないストイックぶった男の声がカーテン越しに聞こえる。
俺は今日もまた世捨て人のように遠い目を殺風景な白い天井へと向け、『ドーゾ』と投げやりに答えた。しかし声の主は、そんな俺の返事さえ待たずにカーテンの隙間からするりと長身の白衣姿をベッド脇にすべり込ませてくる。

「おはよ、兄さん。良く眠れた?」

不機嫌にヘの字に曲がっているだろう俺の唇に、ちゅ、と軽いキスをしながら朝の時間帯には不釣り合いな甘ったるさで囁いてくる男は、俺が2週間の予定で入院しているこの病院に勤務する医者である弟だ。
俺はちょっと人には言いたくない理由で肛門部に慢性的な裂傷があり、それが悪化して外科的な治療が必要になり、この病院に入院しているのだが・・・・。

「あのなぁ・・・・首から下げたネームホルダーに脳外科って書いてある医者が堂々とこんなトコに出入りしてんじゃねえよ。しかも毎日、それもほぼ2時間置きにだぞ?こんなんでちゃんと仕事してんのかよお前?」

そう言う俺の寝巻の前を肌蹴て脇に体温計を差し込みつつ、弟は男らしく整った端正な眉をひょいと上げて、何を今更という口調で返してきた。

「兄さんに関してだけは僕が最初から診察も手術もしているんだから、別におかしなことじゃないでしょ?その様子だと昨夜も痛まないで眠れたみたいだね。さ、患部を見せてもらうよ。」

―――――――そう、何がおかしいって。こいつは脳外科の世界的権威ドクターマルコーの『秘蔵っ子』とか『唯一の後継者』と言われ、インターンの時分で既にあちこちの名だたる大病院から誘いの声がかかっていたほどの、言うなれば脳外科界のホープなのだ。
それを俺と一緒に過ごす時間が少なくなるという幼稚園児並みの理由だけで、自宅の近所にある町医者よりもちょっとだけ大きな病院の小児科の医者に収まろうとしていた馬鹿な行動を必死の思いで止めた出来事は、まだ記憶に新しい。

そんな兄ベッタリの弟は、医者としての能力だけは『天才』と言われるだけはあり、俺がこの忌まわしい病におかされたと知るや否や即専門外である科のスキルを身につけ、まんまと俺の担当医の座をせしめてしまったのだ。

―――――今更明言するまでもなく、俺が掛かっている科とは、『肛門科』だ。

患部を露出させやすいようにと、俺が着ているのは羽織って前を簡単に合わせて紐で結ぶだけの布切れ一枚と、下着の代わりに前後を逆にしたフンドシのような心もとないもののみだ。弟は勝手に俺の身体の下に腕を差し入れてころんと横向きにさせてしまうと、抵抗する間もなくすらりと裾をまくり上げてウエストにかかった紐に絡めてあるだけの局部を隠していた布を解き、患部を診る。

「うん、いいね。とても綺麗だよ。フフ・・・・・そんなにきゅんきゅん締め付けちゃって、僕の指がそんなに恋しかった?」

この優秀なおつむを持った眉目秀麗な一見非の打ちどころがなさ気な男だが、勿体ない事に、実は兄のケツの穴に欲情できるとんでもない変態だった。今朝もまた、診察中には似つかわしくない卑猥な言葉を囁きながら俺の患部をガン見している。ここで恥ずかしがったり抵抗したりするのは逆にこの変態を喜ばせる事になると既に学習していた俺は、ギリギリと枕カバーを噛みしめながらじっと我慢の子だ。

そもそも俺がこんな手術をするために入院するはめになったのは、コイツが朝な夕な俺のケツの穴にスクスク成長しすぎて、見る度に思わず目を見張ってしまうようなサイズのアレをガンガン突っ込んで来る所為だった。
結果俺のケツの穴が可哀想な事になってしまえば、今度はそんな大切な穴を自分以外の人間に見せるのは断じて許さんと専門外である肛門科での院内研修に励んだ末、俺の担当医の座に就き、診察と称して朝な夕なほくほくと嬉しそうに俺のケツの穴を観察したり指でつついたりこじ開けたりしている。
まだ完全に傷が塞がっていないから無茶は出来ないらしく、弟の指は名残惜しげに入口付近を行ったり来たりしながら時折指先を入れてくるだけだが、弟の手によって開発されてしまった俺の身体はこの『診察』の度にちょっとヤバい感じになる。
しかし、それを悟られないように俺はわざとつまらなさそうな声を出して弟を窘めた。

「弟よ・・・・それほどまでにケツの穴が好きか?お前は失念しているかも知れんが、お前の身体にもきっちりと肛門という器官が装備されているんだぞ?そんなに肛門を見てハァハァしたければ自分のを見ればいいだろうが。」

それに弟は、さも心外だと言わんばかりに答える。

「排せつ物が出てくる不潔な穴を見て、どうしてハァハァしなくちゃいけないの?兄さん、僕がまるで変態みたいに言わないでくれないかな。」

―――――変態だろう思いっきり。全く自覚が無いらしい。なんという図々しい男だろうか。

「お前が今、中指の先っちょでクニクニしているのは、その排せつ物が出てくる不潔な穴だ!大体診察が長すぎんだよ!ええい、いい加減その卑猥な手をどけろ!」

いつまで経っても悪戯を止めようとしない弟の肩にガシガシと蹴りを入れながら半ばキレかけた俺の怒鳴り声が、がらんとした室内に響く。この部屋は本来4人部屋だが、これまた弟がウラで手を回したらしく他の三つのベッドは無人だった。だからこそ、毎度毎度この男がこうして悪戯をするわけなのだが。

「ええ〜!兄さんのココは違うよ?排泄はあくまでもオマケの機能で、本来は僕の性器を受け入れる為の器官なんだから!その辺、ちゃんと自覚してくれないと困るんだよなぁ。」

あまりのセリフに俺は固まった。
こいつは本当に医学を学んだ人間なのだろうか・・・・?いや、それとも逆に学んで学んで学び過ぎ、極めてしまったからこそ出てくる発想なのだろうか?
俺のケツの穴は本当に、クソをする役割の方がオマケで、メインは弟のデカ○ラを突っ込まれる為にあったのだろうか?ヤバい。言われてみれば確かに、クソを出すよりも弟のアレを突っ込まれた回数の方が断然多い気がする。気がするどころじゃない。確実に多い。それもゼロ一個分はかたい。
自分のケツの穴の存在意義が、自分で思いこんでいたのと全く別のものであった事実に思い至った俺はショックを受け、暫し茫然とした。


そこに弟の付け入る隙が出来てしまったのがいけなかった。
心身ともにまったくの無防備になってしまった俺の手を、どこから取り出したのか伸縮性のある包帯でベッドの頭上のパイプに括ってしまう。そしてその左の指先にサックのようなものをパクンとはめ込み、これまた手品の様にどこからともなく取りだした医療用の仮留めテープでくるくると巻き固定する。

俺に覆いかぶさりながら弟がベッド脇に設置されていたモニタのスイッチを入れた途端、病院でお馴染みの電子音がリズムを刻み始める。どうやら指先に付けられたのは、心拍数と血圧をチェックするセンサーらしかった。

「なんだよ?なんでこんなモンつけんだお前!?ちょ・・・・・・!」

仰ぎ見た弟の目に尋常でない色を見てしまった俺の背筋に冷たいものが走る。

ヤ  バ  イ

この部屋は独占状態だとはいえ、廊下と部屋を隔てる曇りガラスがはめ込まれた引き戸には鍵がかけられておらず、ドアの向こうをしきりに人が行き来しているのだ。いつなんどき誰がこの部屋にやって来るかもしれないこんな状況で、両手の自由を奪われ、寝巻を肌蹴られ、T字帯も弛められ・・・・そして、そんな俺を見下ろしているのは不穏な笑みを浮かべた白衣の鬼畜・・・・・という、絶体絶命のピンチだ。

弟の指先が、明らかに医療行為とは違う意図を持って俺の肌の上を撫ぜる。
まずは唇から・・・・・・首筋、耳、もう一度首筋を一気に降りて、鎖骨、乳首・・・・・・・・

「ん、ハ・・・・・・、止めろ馬鹿・・・っ!」

指はソコで止まり、摘まんだり押しつぶしたり、弾いたりと、いつものように俺の反応を楽しみながら動く。背が勝手にしなり、全身がビクビクと震え、甘ったるい吐息が鼻から抜ける。何とか耐えようといつも思うのだが、これまで一度として成功した試しがない。
弟の手を止めたいのに、身の内に生れてしまった熱が出口を探して駆け巡り、早くも理性が揺らぎ始めている俺の身体が、無意識にその先を強請るように揺れる。嫌が応でも耳に入ってくる俺の心拍数を教える電子音は、忙しなくなる一方だ。

「・・・・・可愛い・・・・・ねえ、兄さん…こうして縛っただけでどれだけ興奮してるの?凄い心拍数だよ。・・・・もしかして・・・弄ってほしいの?」

「・・・・な、ワケあるかッ!コレほどけよ・・・・・!」

最後の抵抗とばかりにもがいている俺の様子を、熱っぽい目をした弟が見下ろしている。俺のこんな姿などいい加減見慣れているだろうに、今日もまたゴクリと喉を鳴らしているのが可笑しかった。
しかし、そんな風に思った報いだろうか。弟の手は更に不穏な動きを見せた。
両腕と同じ様に、今度は左右の足も大きく広げた状態でベッドのパイプに拘束してしまったのだ。更に腰の下に丸めた布団を突っ込まれ、弟の目前に股間を突き出すような格好だ。そして非常にマズイ事に、絶妙な加減で与えられた刺激に俺の大事なムスコはめでたくも独り勃ちの半泣き状態で、弛められたT字帯が辛うじて股間を覆ってはいるものの、角度によってはチラリと『こんにちは』してしまいそうなキワドイ具合だった。

それを見たアルフォンスは、本当はすぐにでも俺に色々と仕掛けたいと思っている癖にわざと平静を装い、ついと布の横から差し入れた指先で悪戯を始めた。
裏筋をなぞるように何度も何度も行き来を繰り返し、だがしかし先端には決して触れてこないという焦らしプレイに、俺は全身を戦慄かせた。鼻にかかった甘ったるい声が、食いしばった歯の隙間からこぼれる。

「・・・・アッ!ヤメ・・・・くぅッ・・・・・ん、ア!」

「兄さん・・・・どうしたの?T字帯の布のココのとこ、色が変わってきてるけど・・・・濡れちゃってる。ただの診察なのに、まさかコレ、我慢汁だなんていわないよね?僕の兄さんはTPOをわきまえずに欲情しちゃうような淫乱じゃないもんねぇ?」

TPOをわきまえずに破廉恥なことをけしかけて来ている張本人にそれを言われてカっとなった俺は、迂闊にもこういう鬼畜モードの時の弟には決して逆らってはいけないという大原則を失念してしまった。

「ク・・・ッ!馬鹿ヤロ・・・・・・・・ッテメェどの口で診察だなんて言いやがる?そもそも患部はケツの穴だろうが!コノッ色情狂め・・・・・・・!」

そう毒吐いた途端、弟の笑顔から感情が消えた。冷たいのに大天使のような慈愛に満ちた(ように見える)笑顔は、悪魔もションベン漏らしながら裸足で逃げ出しそうなド迫力だ。

「誠心誠意アナタの治療にあたっているのに、悲しいなぁ・・・・・・・僕の診察の仕方が良くないのかな?じゃあちょっと肛門科のベテラン看護師のウィンリィさんに見てもらって、僕の診察方法にどこか悪いところがないか客観的なアドバイスをもらおうかなぁ。」

その恐ろしいセリフはどうやら本気らしく、なんの躊躇いもなく枕元にあるナースコールに手を伸ばす弟に、俺は青くなった。

―――――ちなみに肛門科きってのベテラン看護師ウィンリィは『腐女子』とかいう種類に属する変態だ。兎に角ケツに突っ込まれてヒイヒイ喘ぐ男を見るのが三度のメシより好きで、とうとう趣味が高じて肛門科の看護師になってしまったという筋金入りだ。その超能力ともいえる鼻の良さで、俺と弟の関係もバッチリ把握していて、今だってもしかしたらこの部屋のどこかにヤツが仕掛けた隠しカメラや盗聴用のマイクがあっても何ら不思議はない。


「アル・・・・待て馬鹿!落ち着けよ!止めてくれ!頼むから・・・・・ソレは嫌だ!」

たまらず涙目になって声を上げた俺に、弟は動きを止めると目を細めて微笑んだ。俺の目尻に溜まった涙を唇で拭い、そのままちゅ、ちゅ、とキスをしながら移動して、やがて辿りついた唇を甘く噛んだ。

「・・・・ゴメン。ちょっと、虐めすぎたね。」

それまでの雰囲気をがらりと変えて、弟は困ったようにくしゃりと笑った。そして先程から忙しなく自己主張する機器の電源をパチンと切る。
その電子音が消えたと同時に、どこか甘さを含んだ空気が周囲にたちこめた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・バカヤロー・・・・」

唇を合わせながらも言葉を投げあう。

「だって・・・・・兄さんが入院してからもう10日以上経つんだよ?その前だってお尻の状態が良くなかったから、もうずっとしてない・・・・・・それに兄さん、周りを気にして僕に冷たくするし・・・・もう、寂しくて死にそう・・・」

「ん、・・・・・・・仕方、ね・・・・・・だろっ?ウィンリィは諦めるとしても、それ以外の人間に俺達のことがバレたら・・・・・お前の出世に、かかわる・・・・ん、フ・・・・・」

「出世なんていいよ・・・・・・兄さんさえいれば、僕はそれでいい・・・・・・・ねぇ、甘えさせて?」

「バ、カ・・・・・・・ア・・・・・ッ!」

指先でくすぐる様な刺激だけしか与えられなかった俺の中心は、そこで初めて弟の大きな手にしっとりと握られた。しかし、その手はそのまま殆ど動かない。

「アル・・・・・・イヤ・・・・・ヤダ・・・・・・・・ぁ・・・・・・・!」

首を左右に振ると、俺に覆いかぶさっていた弟は少し体を横にずらし、目線で下を見ろと言う。

「腰が動いてる、可愛いね・・・・それにほら。もうT字帯の布がぐっしょりだ。兄さんからも見えるでしょ?ね。ホントに可愛いなぁ。」

下に布団を入れられて腰が高く持ち上がった状態だったから、目を開ければ自然にその部分が見えてしまう。

「・・・・・・・・・・・・・・ヤ、ダ・・・・・・・・ッ!」

もうすっかり勃ち上がってしまった俺の中心は白い綿の薄布を押し上げて、さらに先端を濡らしてしまっている所為で張り付いた部分が透けている。あまりにも卑猥なその光景に、ゾクリと腰に熱い刺激が突き抜けた。

ここが何処だとか、今が何時だとか、誰かに知られてしまうかもしれないとか・・・・・もう、何も考えられなくなってしまった。ただ、手を伸ばせばすぐに届くほど目の前にある、甘い愉悦の海にもみくちゃにされたい。この愛しい男と一緒に溺れてしまいたい。
ただその思いだけが、俺を支配した。

そんな俺の耳に、弟の情欲に上擦った声が吹き込まれる。

「どうしてほしい?・・・もっと、触ってほしいのかな・・・?」

素直に頷けば、「じゃあ、自分で動いてこの布をとってみて。」と言われるものの、俺の両手両足は拘束されていて、自分ではどうにもならない。

堪らず身を捩って弟の名を何度も呼んだ。

「アル、アル、アルッ・・・・・・・・・・アル、フォンスゥ・・・・・・・!」

「もう・・そんなに切ない顔して。あと少しだよ?ほら・・・もっと腰をうごかさなきゃ・・・」

明るい場所で弟の熱い視線を全身に感じながら、先走りに濡れて張り付いた布を取り去る為に淫らに腰を振る。
なんというはしたないことをしているのだろうか。そう思いながらも、一刻も早く決定的な刺激が欲しくて、俺は狂ったように身をくねらせた。

「うん・・・いやらしくて凄くいいよ。たまんない。見ているだけでイけそうだ・・・!」

「アアア・・・・ハァ・・・・・アル・・・・・・・俺・・・・・俺ッ・・・・・もう・・・・・・・!」

握られているだけで達してしまいそうになったそのとき、とうとう邪魔な布が俺の体からハラリと落ちた。

「・・・ふふ・・・・兄さんの、すごく可愛い。僕が恋しくていっぱい泣いて・・・・・・ほら」

「イヤぁぁぁぁぁんッ!アア!アア・・・・・アアア――――ッ!」

くちゅくちゅと濡れた音を立てて扱かれ、堪らず高い声を上げてしまう。もし今廊下に人が居れば、間違いなく聞かれてしまっているだろう。

「いい子にはご褒美をあげる。ねぇ、どうして欲しい?このまま手でやる?それとも・・・・・」

薄っすらと開けた俺の目に、弟の形の良いセクシーな唇が映る。瑞々しい舌先で唇を舐める仕草に、とうとう最後のタガが外れた。

「口で・・・・・・・・・・シテ・・・・・!」

言うと同時に、ゴクリと弟の喉が鳴る音がして・・・・・・・・。
次の瞬間には、大きな手にガシリと腰を掴まれ固定され、俺の中心は根元まで全て咥えられた。

「フア・・・・・・・ッヒ、アル、ア、アアアアッ、ンク・・・・・・・・アルッ!イヤァ―――――ッ!」

聞くに堪えない恥ずかしい水音を立てて施されるそれは、今までされた内のどれよりも激しく、全く手加減のないものだった。

全身が勝手にビクビクと跳ね上がり、自分の身体だというのに、自分の自由になる部分は何一つない。ただ、拘束されている所為でアルフォンスに触れられない事が酷く切なくて、俺は何度も何度も弟の名を呼び、泣きながら絶頂を迎えた。











それから3日後。俺は久しぶりに、あの薄っぺらで心もとない入院患者用の寝巻きではなく、自分の普段着を着て病院のエントランスに立っていた。今日は当初予定していた通り、退院の日だ。
今日に合わせてしっかりと休みをもぎ取っていた弟が退院の手続きをアレコレ済ませ、俺の隣に戻ってきた。

「兄さん、外じゃなくロビーで待ってればいいのに。」

さり気なくアルフォンスのジャケットを肩に羽織らされるくすぐったさに、俺は笑みを浮かべた。

「久しぶりに外の空気を吸えるってんで、待ちきれなかったんだよ。」

車を置いている駐車場に向かって並んで歩きながら、今日これからの予定を話し合う。身体はもうすっかり元通りだし、久しぶりに外出を楽しんでから帰宅しようという俺の案は、やんわりと弟に取り下げられた。
なんだよと尖らせた唇に、一瞬だけ弟の唇が触れた。

「バ・・・・・・・ッ!誰かに見られたらヤバ・・・・!」

「兄さん」

慌てて周囲に視線を走らせながら言う俺に、弟は急に真面目腐った顔をした。

「・・・・・・・・んだよ?」

「今日はこのまま真っ直ぐ帰ろう?二人で食事の支度をして、二人でワインでも開けてのんびり食事して、・・・・・・恋人の時間を、過ごそう?」

まるで口説かれるみたいな熱い目を向けられて、俺は黙ってコクコクと頷くしかなかった。

――――とんでもない色男め・・・・!この硬派な兄ちゃんをこんなメロメロにしやがった責任は、後できっちり取ってもらうんだからな・・・・!



その後弟の要望どおり、何から何まで甘ったるく濃密な時間を過ごした俺たちだったが、弟の裸の胸の上でうつらうつらしていた俺は、ふと思い出したことを口にした。

「な、アル。退院する2、3日前にお前が病室で駄々こねたじゃん?」

「うん?」

「考えてみたらあん時って俺一人がイっただけで、お前なんもしなかっただろ?」

その時は、場所もわきまえずに盛りやがってと腹を立てもしたが、暫くしてから弟は欲求不満を爆発させたのではなく、ただ俺と触れあいたかっただけだったのだと気付き、自分だけ欲を満たしたことに僅かながら後ろめたさを感じていたのだ。

それを言えば、何故か弟は気まずそうに視線をそらせて「あー」とか「うー」とか言っている。

「・・・・・・・・・・・・?なんだよ?その件では俺の借りだから、怒んねぇから言ってみ。」

「・・・・チャラにしてくれる?」

「オウ。いいぜ。」

どうせ他愛無いことだろうとタカを括って気安く頷けば、弟は「男に二言はないよね?」と、ヤケに念入りに言質をとってくる。
それにも俺が頷いたのを確認すると、俺を胸に乗せたまま腕だけをサイドテーブルに伸ばし携帯を手に取り、俺に差し出した。

「いい?怒っちゃダメだからね?」

「・・・・・・オウ。」

言われるまま画像データを呼び出し、『ひとり用オカズ百選』というフォルダを選択した。俺のいない間、ひとりで簡単に作れる献立でも開発してそれの写真を撮っていた・・・・・・・・という訳では勿論なかった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁなんっじゃごりゃあああああ!!!」

「はぁい。怒らない怒らない。男に二言はないんでしょ?」

「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐじゃあせめて今目の前でコレを全て消去しろー!!」

「いいよぉ?だって全部仕事場のパソコンにも入ってるし、バックアップも万全だもんね」




『ひとり用オカズ百選』とはつまり、情事の後俺が放心状態になっている間に、俺のあられもない事後の生々しい姿を撮影した画像のことだった。その中には当然の如く、先日病院でいたした恥ずかしいプレイの後の写真もあり・・・・・。


「ウワァン馬鹿ホンスー!エロホンスー!お前なんかもうエッチさせてやんねぇ!」

「いいよお?どうせ兄さんだってそんなに長くは我慢できないでしょ?でも僕にはその間、この『ひとり用オカズ百選』があるもんねぇ。自慢じゃないけど、兄さんが居ない間これだけで何回抜いたか分からないよ僕。」

「寄るなーヘンタイ!」

ベッドの上で『変態!』『愛してるよ』と、ちぐはぐな応酬をしつつもみ合いながら、実はこっそり考えていた。

俺も今度、アルフォンスが眠っている隙にヤツのセクシィな姿を自分の携帯で撮って、『ひとり用オカズ大全集』を作ってやろう・・・・・・と。
















おわり