頑張れ!グレートあるほんすJr.

 

 

 

 

 

 倦怠期を回避する為に起こした行動が裏目に出てしまったのは、きっと僕の読みが甘かったせいではない。原因は兄の、常人の域から外れまくった変態的ともいえる趣味嗜好にあるのだと思う。

昔から常々『どこぞの国の小学生男児か』とどつきたくなるような、無駄にゴテゴテとか、キラキラとか、メカメカとかしてるド派手なデザインばかりを好む人だったけれど、大人になる過程でその粗悪な趣味嗜好も多少は改善されていくに違いないと傍観していたのがいけなかったのだろうか。それは改善されるどころか坂道を転げ落ちるかのごとく悪化の一途をたどり、ついには今回のザマだ。

 

大体、何が問題かって・・・・・・

 

「もう、3週間もシてないよ・・・・・・・・」

 

あの鼻眼鏡事件以来、勿論恋人から“Yes”の意思表示などある訳がなく、またさらに再び組み敷いた恋人の顔にアレが装着されてはいないかと警戒するあまりに、この僕とした事が情けなくも二の足を踏んでいるという状況なのだ。

 

しかしこのまま平行線を続けていていいものか。兄の方から折れる見込みは全くなく、とすればこちらが歩み寄らない限り僕は御馳走にありつけない訳で・・・。

 

要は、発想の転換だ。

パッケージに難があるだけで中身は極上品なのだから、気にしないでそれらを早急に剥いてしまえば然程問題視する必要もないかも知れないと無理やり自身を納得させた僕は、早速恋人に打開案を持ちかけた。

 

 

 

 

「え?マジ?“ヤろーぜ”のサイン、アレでいいのか?」

 

僕は床に膝をついて力なく項垂れた。「ヤろーぜ」って言い方はやめて下さいお兄様。

 

「良いというか・・・相手の意思を尊重するべきかと考え直したんだよ。それにアレがあった方が兄さんの気分が盛り上がるっていうのなら、僕ももう反対はしないよ?」

「良いのかよそんな事言っちまって。だって俺この目で見たぜ。お前のムスコが情けなく萎えていく様を」

そう言う兄の口調が揶揄するものであれば軽く受け流すこともできただろうに、その様子があまりにも憐れみを帯びていた為に、僕のプライドが受けたダメージは甚大だった。つい、大人げなく向きになって反論してしまう。

 

「あんな鼻眼鏡ひとつで不能になるようなだらしない僕じゃないよ!この間は不意打ちだったから驚いただけだってば!だいたいあの後は復活しても既にそんな雰囲気じゃなくなってたし」

「ふっふ~ん」

 

あ、イヤ~な笑い。今、絶対ロクでもない事思いついたんだろう?

 

「“鼻眼鏡ひとつ”くらいじゃあ、お前のムスコはビクともしないんだな?そうかそうか、それは頼もしいなあ。つかそんな強力なヤツの相手するんじゃあ俺の身が持たねえかもな・・・・。よっしゃ!そういう事なら今日は俺の言うとおりのコスチュームでヤってみる?これで無事致す事が出来れば・・・・・そうだな」

 

兄は勿体つける様に考え込む振りなんかして、わざとらしい間をおいた。こういった手合いの事で滅多に優位に立つ事が出来ないから、今の状況が余程嬉しいと見える。

 

「今後一ヶ月、エッチ関係の決定権はお前に一任してやる」

 

「それは時、場所、状況、方法すべての決定権て事?」

 

「家の中限定でな」

 

腕を組みふんぞり返る兄は、鼻息荒くそう言い放った。自分の勝利を確信しきっている様子だ。なんと可愛いことだろう。僕は戦利品の豪華さに俄然やる気満々だ。腰に手をあて、顎を突き出し負けじと言い返した。

 

「いいね。受けて立とうじゃない?」

 

「決闘は今夜、俺の部屋だ。吠え面かくなよ」

 

「こっちのセリフだね」

 

そう言い返してから、すっかり兄のペースに乗せられていた事に気がついた。“決闘”って何なの!?まったく・・・艶っぽさの欠片すら見当たらない。

 

 

 

 

 

 

 

そして運命の時を目前にしたその夜。

シャワーを終えた僕が自分で準備した着替えを入れたはずの籠からタオルを取り上げると、見慣れない布地が目に入った。

 

「なんだろう・・・・?」

 

手に取ってみると、それはやけに肌触りの良いコットン生地でつくられたTシャツ様のものと、膝丈のいわゆるバミューダパンツ様のものだった。しげしげと眺めてみたところ、肩幅やウエストのサイズからして、どうやら兄が僕用にと調達してくれたものらしい。初めて目にするデザインのソレは、身につけてみればきっと着心地は良いのだろうけれど・・・・・・・。

 

「よく分からないけど、僕の美的感覚が断末魔の叫びを上げているような気がする・・・・」

 

ところが自分で用意した筈の着替えはコレと引き換えに兄の手によって持ち去られたらしく、たとえ自分の家の中とはいえ、僕はタオル一枚腰に巻いただけの格好でうろつくような行儀の悪い真似をすることは好きではなかった。仕方無くそれらを身につけた僕は、まださらに籠の中に何かがあるとこに気がついた。

 

これまた意味不明な形状をしたその布切れを手に取り眉をひそめつつ、いったいどのような用途に使用するのかと思案した。ソレは細かく編み込んだウールを筒状に仕立てたもので・・・・・とにかく、一言で表現するならば貧乏臭い代物だった。これの用途を知ってしまう事に本能的な不快感を覚え思考を中断した僕は、まださらに籠の中に何かがある事に気がついた。

 

それは・・・・・・・どういう訳か、頭頂部に植毛加工が施されていないウィッグだった。またこれには付属品があり、その形状から察するに・・・・・。

 

「これは・・・・・・付けヒゲ?」

 

何という事だ。僕は天を仰いだ。この意味不明な薄手の名称さえも分からない摩訶不思議な(でも本能レベルで激しい拒絶反応が起きている)上下のセット。その用途を知りたくもない薄い茶色の筒状の布きれ。そして何故か禿げ頭を装うためのウィッグ、さらに趣味の悪い付け髭。(軍の潜入調査の為の扮装用だろうか?)これらすべてを身に着けた上で自分を抱けというのか、あの人は         !?

 

これは兄弟で契るという禁忌を犯した僕に与えられた罰、もしくは試練なのだろうか。あの愛しい人をこの胸に抱き、快楽の海へと引きずりこみ、悶えよがらせ、あられもない声を聞き、その痴態をじっくりと堪能するためには、この苦難を乗り越えなければいけないという事なのか・・・・・・ああ、辛い。

 

 

 

「アル、何こんなとこで四つん這いになって項垂れてるんだ?」

 

目の前に立ちはだかる苦難に打ちひしがれる僕の背後、いつの間にやってきたのかドアの隙間から兄の声が掛けられた。

 

「に・・・・兄さん・・・・・!こんな格好、嫌だよ!」

 

僅かに開いた隙間から顔半分だけを覗かせた兄は、僕の全身に鋭く熱い視線を注いだ後、満足げに目を細めた。

 

「・・・・って言いつつ全てほぼ完璧に着こなしてんじゃねえかお前。嫌だ嫌だと言いながら、アンタも好きねぇ~~~www」

 

「・・・・・ナニ語ですかソレは?」

 

「いや俺にも良く分からん。お前のそのスタイルを見ていたら、何やら口をついて出てきちまった。遺伝子にそういう反射行動が組み込まれているのかもしれねぇな」

 

いつも思う事ながら、今日のこの人はさらに輪をかけて訳が分からない。

何故か今日は兄が別人に見える。だが確かに僕も、その兄の言うとおり無意識の内にあの使途不明の布切れを残し全てを身につけ終えていたのだった。ああ嫌だ嫌だ。

 

「おっと、アル。そのharamakiは、ちゃんと腹に巻かなきゃダメなんだぜ」

 

「ハラ・・・マ・・・?」

 

「ハ・ラ・マ・キ!これを装着しねぇと、“古き良きニッポンのオヤジスタイル”は完成とはいえねぇんだっつの!ほれ!」

 

「今日の兄さん・・・・・一体何語で喋ってるの?」

 

「いいんだ。分かんなくたって。俺にだって訳分からん。今日の兄ちゃんは本能のみで動いちゃってるからな。マジで何すっか分かんねぇぞ~~~~?フッフッフッフ~~」

 

不気味な笑い声を響かせながら兄が閉じた扉を、僕は途方に暮れた気持ちで暫く見つめていた。

 

 

 

 

 

 

兄が待っているだろう部屋の扉を開くと、思っていたとおりメインの明かりは落とされ、ベッドサイドの小さなスタンドライトだけが煌々と光を放っていた。恋人はベッドに身体を横たえすっぽりとシーツを被っていた。僕の鼓動は否が応でも高まる。言うまでもなく、期待ではなく恐怖の為に・・・・だ。いや、こんな弱気な姿勢で勝負に臨んではいけない。素晴らしき戦利品を脳裏に思い浮かべる事で自分を奮い立たせた僕は、あの忌まわしい鼻眼鏡さえつけていなければ「どんな扮装だろうがドンと来い!」的自棄っぱち気分で、情けなくも震えそうになる手をシーツに伸ばし一気に捲り上げた。

 

ぱさり・・・・・・と、音を立ててシーツが床に落ちた。

横向きに身体を丸めるようにしている恋人の顔には、僕が恐れていた鼻眼鏡は装着されていなかった!!

 

「に・・・・・に・・・・・に・・・・・・」

 

「落ち着け」

 

兄は悪戯っぽい目を此方にキラリを向け、やけに落ち着き払った声で余裕の表情だ。しかし          

これが落ち着いてなぞいられるものか!!!

 

ただでさえ魅惑的で常に僕を惑わせて止まない兄の身体。今兄は、その体に艶やかな絹と真っ白なレースで作られた純白の衣装を纏っているのだ。ウェデイングドレスかと思いきや、スカートにあたる部分の丈が異様に短く、兄のすらりとした美しい足が惜しげもなく僕の目に晒されている。これは・・・・・・・・チュチュだ!白鳥の湖だ!!オデット姫だ!!!

 

 兄と恋人の関係になってからというものすっかり沸騰しやすくなっていた僕の理性は、一瞬にして蒸発してしまった。

 

「兄さん兄さん兄さん・・・・・襲っていい?犯していい?強姦していい?」

 

最早自分でも何を口走っているのか分からない状態だ。いつもであれば奇声を上げて逃げ出す筈の兄は、まったくそんな素振りを見せずに大人しく横たわったままでいる。エクスタシーまで一直線か!?と勢いづく僕に、いつになくしおらしい恋人の声が言う。

 

「アル・・・・・あのな?あと一個だけ俺の頼みを聞いてくれたら、いっくらでも好きにして構わねぇんだけど。兄ちゃんのささやかな願いを聞いてくれるか?」

 

 その兄の言葉に僕は間髪いれずに頷いた。

 

 「勿論!何だってするよ!何をすればいいの?この付け髭の位置を変える?それともこの恰好でポーズでも取る?」

 

 急くように早口でまくし立てる僕の目前に、何故か恥じらいの表情を浮かべた兄が差し出したのは、鼻眼鏡。勿論しっかり鼻毛付きだ。

 

「コレ・・・・・・つけてくんねぇ?」

 

「ぼ・・・・・僕がコレを?」

 

ココまでやってしまえば、今更鼻眼鏡ひとつアイテムが増えたところで大した変わりはない。僕は潔く受け取ったソレをあっさりと装着した。と、その瞬間兄の表情が恍惚としたものに変化する。目は蕩けそうで焦点が怪しく、頬を染め、赤く色付いた唇は半開きだ。

 

 

「アル・・・お前・・・カッコイイ・・・・・可愛い・・・色っぽい・・・完璧」

 

「・・・・・・・・・は?」

 

「アル、アル、アルフォンス・・・・・襲っていいか?犯していいな!?強姦するぜ!!」

 

「ええええええええええええええええええええ!?」

 

息も荒くトンデモない宣言をし、すっくとベッドの上に雄雄しく立ち上がった兄のチュチュの股間と思しき部分から、にょっきりにょきにょきと天に向かって伸びる白鳥の首を模したものを目にした瞬間、僕は自らの敗北を悟ったのだった。

 

 

 ・・・・・・・・・・・僕達夫婦のセックスレス期間は、まだまだ続いてしまいそうだ。

 

 

 ※改題   頑張れ!(なかった)グレートあるほんすJr.・・・・あるほんす完敗。しかしこのままで終わる男ではない(ハズ)  

いつも素敵な萌えネタを下さるしおみん様に、慎んで押しつけ・・・・・じゃなかった。慎んで捧げます。
励ましてくれたり、元気を沢山ありがとうございます。しおみんさんのおかげで、私の人生がらりと明るくなりました。(≧▽≦)


そのしおみんさんが、チュチュ兄さん描いて下さいました~~~!!!!(≧▽≦)好きにしてもいいだなんて言って下さったので、お言葉に甘えて・・・・・うふふふふふふふ
綺麗なのにしっかり変態チックで超私好みデス~~~~!(´Д`;)ハァハァ イイワ~

 

 










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