どうしようもない

 












「なぁ、いくら兄弟でもあるからってお前・・・あの色気豆と一緒に生活するなんて、よく心臓がもつよなぁ」


半年ほど前から取り組んでいた研究が一段落したのを口実に、僕が取り纏めているチームのメンバーに他部署の人間が数人加わった大所帯で酒を飲んでいた時だった。すっかり馴染みとなった雑多ながらも居心地の良いパブの端の席。僕は賑わっている輪から少し離れたところでのんびりとウィスキーを舐めていたのだが、ほろ酔い気分の同僚がボトル片手にやってきて、飲んだそばから減った分だけ僕のグラスに酒を注ぎ足しながら自分の恋人の惚気話を語り始めた。最近漸くできた念願の恋人にすっかり夢中らしいこの同僚は、だらしなくやに下がった顔を赤らめながらとりとめなくも幸せな日々のあれこれを口にしていたのだが、やがて自分が手前勝手に話し続けていた事に気がつくと、今度は僕に話を向けてきた。それがその、冒頭のセリフという訳だ。


色気豆とは、本人だけが知らない兄のあまりにも有名な呼称だ。元々は、生意気でがさつな子供時代の兄を知る軍部の誰かが、予想外に艶っぽく成長した兄に対する親しみと寂寥をこめて揶揄する気持ちで言い始めたらしいのだが、いつしかそれが軍部内だけにはとどまらず兄を知るすべての人々の間で(但し本人のいない場所でのみ)日常的に使われるようになっていたのだ。

「エイブ・・・・いつも本人の前では必要以上にオドオドしている癖に。いつか間違えて兄の前で口を滑らせても、僕は助けないよ」

つい突き放すような言い方になってしまうのは、僕がこの呼称をあまり良く思っていないからだ。このエイブラハムという僕と同い年の研究員は国家資格こそ持たないが中々の腕前の錬金術師で、その純朴そうな外見を裏切らない誠実で情に厚い男だ。今では可愛らしい彼女と愛の巣を作るべく奔走するエイブだが、少し前まで彼は兄に性的な意味も含め少々度を過ぎた憧憬を抱いていて、その事は僕の数ある不安材料の内のひとつだった。だから今の僕がそっけない口調になってしまうのは、その所為でもあるのかも知れなかった。

「俺だって命は惜しいぞ!そんなヘマやるもんか。今は酒の席ってことで多めに見てくれよアルフォンス。それにこの影のふたつ名に興味を惹かれて群がる不届きな輩がたとえいたとして、お前がしっかり守ってるんだから何も問題はないだろ」

そう言いながらまたグラスに酒が足される間ちらりと時計を見れば、すでに日付が変わる頃。そろそろこの場を辞したいところだ。
それほど乗り気ではなかったとはいえ、気心の知れた者ばかりの集まりは自分が思っていた以上に楽しかったらしく、あらかじめ中座する算段をしていたというのに少々長居をしてしまった。
そしてこの盛り上がりに水を差すことなく、先に暇する為に声をかける機会をうかがっていたときだ。

・・・・・・・・・・不意に僕は、抗い難いある欲求にかられた。

家にいるだろう恋人が今、たったひとりで過ごすこの時をどうしているのか・・・・と。一度考えだしたら止まらなかった。今、無性に彼の声が聞きたくなった。

ここから徒歩で30分足らずの自宅に、僕は電話をかけてみることにした。

 

 

 

 

 

手際よくグラスを拭いている黒縁眼鏡の店主に一言断って、カウンターの端に置かれている電話から受話器を取り上げた。もう深夜だが、宵っ張りの恋人はまだ起きているに違いないから、ためらわずダイヤルを回す。

受話器からコール音が聞こえ、1回、2回、3回・・・・・・・・4回目の途中でそれが途切れた。

『・・・・はい?』

読書の邪魔をされて、明らかに不機嫌そうな兄の声が応える。
「にいさん、僕だよ。遅くなってゴメンね」

『アルか?どした電話なんかかけてきて、何か問題でもあったのか?』

「うん、実は困ったことになってね。今から帰るところなんだけど、急に兄さん欠乏症の発作が出ちゃってね、だから応急処置が必要なんだ」

『なんだお前、珍しく酔ってんな?』

笑いながらそう言う兄の声は、優しく甘く僕の耳を撫でてくる。ああ、何て心地良いのだろう。

「そうかな・・・・そうかもね。早く兄さんに逢いたい。今すぐギュって抱きしめてキスしたい」

『あーあー、分かった分かった!どうでもいいからとっとと帰って来い』

面倒臭そうに、そして半分は恥ずかしさをごまかすようにわざとつっけんどんな物言いをする言葉尻が少し掠れている。色っぽい。この恋人が今、受話器の向こうでどんな表情をしているのか考えながら、僕は目を細めた。

「うん。帰ったら、すぐあなたを捕まえに行くよ。まずはうんと甘いキスでトロトロにしてあげる」

『オイ・・・・いい加減に・・・』
「それからその細い首筋の感触を唇と舌でじっくり堪能させてもらおうか。弱い背中もちゃんと愛してあげる・・・・フフ。きっとそれだけで腰が抜けちゃうだろうね、兄さん?さあ、その次はどうして欲しい?」

『・・・・・・・イタ電なら切るぞ!いいか?マジでもう切るからな!』

度を越した冗談に腹を立てているのなら黙って一方的に電話を切ればいいのに、律儀にも兄は僕との通話を続けてくれる。これはきっと自惚れではなく、愛あるが故のことだろう。

「愛してるよ・・・・待っててね、すぐ帰る」

それだけ言って応えを待たずに受話器を戻すと、カウンターの中でワザとらしくあらぬ方へ視線をやっている店主に向け、カウンターテーブルの上にコインを弾いて滑らせた。

「どうもありがとう。ミートパイがとても美味しかったですよ、ご馳走様でした」

「そりゃコッチのセリフだね、色男はとっとと帰んな。アッチの連中は勝手に盛り上がってるから放っとけばいい。アンタの飲み代はつけとくよ」

うざったそうに手をヒラヒラさせながら笑う店主にもう一度礼を言い、丁度遠巻きに目があったエイブラハムに軽く手を上げてから店の扉を押した。

 

 

 

 

 

初夏とはいえ、流石に真夜中はひんやりとした空気が肌寒い。街灯が点々と灯る、昼とはまた違った趣の慣れた道を急ぎ足で辿りながら、先ほどの同僚の問いをふと思い出す。

いくら長年一緒に暮らして免疫があるとはいえ、あの人と共にする生活は確かにドキドキの連続だ。天才特有ともいえる兄の突飛な行動にはいい加減慣れているけれど、あの全身から滲み出るフェロモンには全く耐性が出来ず、未だに僕は四苦八苦している。子供の頃の記憶を辿ってみても、一度たりとて兄に性的な意味での魅力を感じた事はないのに、いつから僕は・・・・いや、きっと変わったのは僕ではないのだ。
兄はある時期を境に、まるで蛹が蝶へと瞬く間に変化するかのように変わった。そう、僕の身体を取り戻した、その頃が境界だ。

逞しく頼りがいがあり、負けん気が強く、相手が大人であろうが物怖じしない自信家で、物事に関してがさつで大雑把なところがありながら人一倍情深い。今でもその本質は変わっていないけれど、かつての兄はそれらの性質を特に意識して行動しているようだった。男らしさの手本のようなあの姿は、ほかの誰でもなく僕に見せる為にあったのだろう。鎧に魂を定着させただけの不安定な存在だった僕の不安を少しでも払拭しようと、実際以上に頼りがいのある兄貴を精一杯演じていたのだと気付いたのは、自分が生身の身体を取り戻してからわりとすぐのことだった。それは、ある意味兄本来の持つ姿が現れ出した時期であるともいえた。
それでも僕の目に映る兄は女っぽさとは無縁だったが、これまでただがさつなだけだった仕草の端々に細やかさが見え隠れするようになり、日々の生活の中で繊細でナイーブな感受性を発揮することもしばしばだった。
旅から旅の根無し草生活だった頃は、シャワーもない安宿で眠るというのはまだマシな方で野宿することも多く、だから当然まともに身繕いもできない兄は、大抵髪も肌もガサガサだった。けれど人並みの環境で暮らすようになってからは彼が本来持っていた美しさがみるみる開花し、生身の身体を取り戻したばかりの当時の僕は度々ドギマギさせられたものだ。そして美人は3日で飽きるという先人の格言は僕に限っては当てはまらず、未だに彼の美しさに目を奪われ虜になっている。我ながら重症だと思わないでもないが。

そんな思案に暮れているうちやがて家へとたどり着くと、玄関はこんな時間に不釣合いなほど明るい光が灯されていた。僕の帰宅を知った兄が、気を遣ってくれたようだ。

さあ、この玄関ドアを開けたらそこにはきっと、ワザとそっけない表情を浮かべた愛しい恋人がいる筈だ。

僕は緩んでしまう頬をどうにも出来ないまま、目の前のドアを開けた。



「よう。帰ったな、セクハラ大王め!!」

腕組みに仁王立ちという雄々しい姿に、目一杯眉間に縦皺を作った三白眼で睨みつけてくる可愛い人。あまりにも予想どおりなその様子に、真夜中だということも忘れて大声で笑ってしまった。

おそらく帰るなり襲われる事を想定していたに違いない兄は、笑いだした僕に完全に肩透かしを食らったらしく一瞬あっけにとられたような表情を浮かべたが、すぐに僕の先ほどの所業を諭してきた。しかし。

「お前、マジで飲み過ぎたんじゃねぇの?楽しい酒だからまだ良いけどよ、他人の耳がある場所でああいう電話はどうかと思うぜ、兄ちゃんは」

「・・・・・・兄さん、顔赤いよ?」

「るせ。お前今日はもうしゃべんな!声出すな!黙ってろ!」

頬の赤さを指摘した途端、毛を逆立てる猫のように威嚇しながら2階のベッドルームに駈けこんでドアを閉じてしまった。その過敏な反応に首を傾げつつ、まずは身体に染みついた煙草の匂いを洗い流すためにシャワーを浴びる事にした。

 

 

 

 

「あれ?兄さん?寝ちゃったの?」

パブからかけた電話は『お誘い』のつもりでいたから、てっきり僕がシャワーを終えて戻ってくるのを待っていてくれると思っていたのに、寝室は全ての明かりが落とされ真っ暗で静まり返っていた。ベッド脇のスタンドランプをつけると、キングサイズのベッドの窓側の定位置に、毛布を頭からすっぽり被った兄が横たわっているのが見える。呼びかけても反応はないが、不自然に息を殺しているので起きているのがバレバレだった。

ふぅとワザとらしい溜め息をつきながら兄のすぐ横に腰を下ろし、その耳元付近の毛布に顔を寄せてもう一度呼びかける。

「ねえ、タヌキ寝入りは終わりにしてくれませんか?僕は一刻も早くあなたと乳繰り合いたいんですが」

「ぶは・・・・・ッ!おま・・・・乳繰り合うとかゆーな!思わず笑っちまっただろうが!」

先程の電話にしろ、今にしろ、今日の兄は何故だかよく笑うし、何時にも増してころころと表情を変える。気分が高揚しているのだろうか。

掴んだ枕を軽くぶつけてくる兄の腕を受け止めながら圧し掛かって、まずは忘れていた『ただいま』の挨拶をした。

「・・・・ただいま、兄さん」

「ん・・・・・・・・」

ちゅ、と一度唇を離そうとしたら珍しく兄が追いかけてきて、これまたあり得ない事に舌先で上手に唇を割って舌を入れてきた。
同性で兄弟なのだから勿論社会的には夫婦というわけではないが、僕と兄はいうなれば『新婚』という時期をすでに通り越している。それなのに、未だに兄からのこんな思わぬプレゼントに動揺してしまう自分の何と可愛いことだろう。

眩暈さえ覚えながら、僕は夢中で舌と唇で愛撫を返そうとしたのだけれど、どうしたことか無情にも次の瞬間にはなんの余韻もなく唇が離れていった。

「・・・・お前、あんまり酒の味しねぇぞ?酔っ払ってんじゃなかったか?」

親指で自分の濡れた口元を拭いながら首を傾げる兄の表情は『通常モード』だ。
もしかして今のはキスじゃなく、僕の口の中を検分していただけだった?

僕に組み敷かれたまま見上げてくる兄の表情は何度見返しても色っぽさの欠片も見当たらず、それが『兄からのディープキス否定説』を裏付けた。途端に兄の上で脱力した僕は、情けない声をあげてしまった。

「僕の乙女心は弄ばれてズタズタのボロボロだ・・・・・」

「ウアッ!バッバカヤロウ!耳元で声出すな」

「え?今日はまだアノ声使ってないよ」

使うと兄が怒るので伝家の宝刀はもう長い間封印してあって、勿論今日だって一度も使ってはいない・・・・というのに、兄のこの頬の赤さは何なのだろうか。

「・・・・・そういえば、帰って来たときから顔が赤かったよね、兄さん?」

「気のせいだろ」

僕のその問いをあらかじめ予想していたかのような兄は、上に僕が乗っているのも構わず強引に毛布を引上げて寝返りを打とうと頑張っている。何か僕に知られたくないことがある様子だ。

「邪魔だ邪魔!シッシッ!あっち行け!」

僕の重みで結局毛布を引き上げることも寝返りを打つこともできなかった兄は忌々しそうに舌打ちをして枕に顔をうずめると、掌で追い払うようにする。つれない態度はいつものことで慣れているから、この程度ではめげない僕だ。

「犬扱い?じゃあもう5日間もガマンして良い子でいたご褒美をもらわないと」

一気に毛布を捲り上げて床に放ると、兄の膝を割りこれでもかと腰を密着させながら耳の後ろに顔を埋めた。ここは恋人の数ある『スイッチ』のうちのひとつだ。

「ん・・・・・ア・・・・!」

パジャマ代わりの薄手のTシャツのうえから胸を探れば、すでに硬く立ち上がった乳首が指先を押し返してくる。遠慮なしに密着させた下半身から伝わる状態も・・・・・今日はずいぶんと元気が良い。

「どうしたの?珍しく溜まってたのかな、兄さん?」

「アアッ!だから・・・・もう、声、出すなぁ・・・ッ」

「にいさん?」

「ぁ・・・・ッ!」

頭の下にある枕を掴んで両耳を塞ぐようにしながら唇を引き結び、眉根を寄せて何かに耐えている恋人の様子は、明らかにいつもと違う。

しばらく動きを止めて黙って見下ろしていると、やがて全身の力を抜いた恋人が閉じていた目を開いてボソリと呟いた。

「・・・・・っぶね・・・・もうチョイでイッちまうトコだった・・・・」

「えええええええええ〜〜〜〜〜〜!?」

急になんという爆弾発言!?と目を剥いている僕の頭に兄の容赦ない鉄拳が降り注ぐ。

「お前が悪い!お前の所為だ!この前の眼鏡プレイといい、今日のイタ電攻撃といい・・・ああもうチクショウ!俺のカラダをこんなにしやがってテメェどう責任とるつもりだゴラ!」

「ええと。じゃあとりあえず兄さんが『これ以上やったら死んじまう』って泣くまでご奉仕させて頂きます」

「それは奉仕とは言わねぇ、ほぼレイプだ。つか、今日はマジでもうお前黙っとけ。いくらなんでもその声卑猥すぎる。聞くに堪えられん」

兄はぶっきらぼうにそう云うと今度こそ寝返りを打ちうつ伏せになり、枕を頭の上に被せて耳をふさいでしまった。

成程。つまり兄は、何故だか先程の電話で僕の平常時の声にも『ソウイウ』威力があることに気づいてしまい、それで僕の声を聞くたびに頬を染めたり過敏に反応したりしていた・・・ということらしい。
兄の云う通り件の眼鏡プレイ(あれはなかなか素敵な体験だった)にせよ、また今回のことにせよ、どれだけ僕に魅力を感じて虜になってくれているのか、この人は。今までは僕だけが相手の魅力に取りつかれて夢中になっているのだとばかり思っていただけに、こうした兄の様子を見るにつけ天にも昇りそうな気持ちになってしまう。

さて。兄は『黙ってろ』と言ったが男アルフォンス=エルリック、ここで攻めずに何時攻めるというのか?僕は颯爽とシャツを脱ぎ捨てると、枕で頭を隠しただけで全身はまるで無防備という可愛い状態の恋人を後ろから抱き締めた。

「にいさん・・・・今日は本当に我慢できない。お願いだからおとなしく僕に抱かれて」

「はぅ・・ッだから、喋んじゃねぇ!ウヒャ!?」

Tシャツも七分丈のコットンのボトムもそのままに、わざと布の上からゆっくりと愛撫を与える。胸、脇腹、腰、足の付け根、大腿部、膝の裏、脹脛、足首・・・・全身をまんべんなく堪能しながら、唇は背中のラインに沿って登ったり降りたりを繰り返す。ただ、それだけだ。
いつもと違い、決定的な快感を与えない歯がゆいはずの愛し方なのに、けれど兄の反応は素晴らしかった。

「兄さん・・・・気持ちいい?・・・・ここは・・・・?ん?」

「アアッ・・・・・・ん、アル・・・・イヤ、だ!俺だけ・・・先に・・・・厭だ・・」

「もうなの?そんなに僕の声が好き?フフ・・・・兄さんのココ、いっぱい泣いてる。可愛いな」

緩めのウエストから手を差し入れて触れた兄の分身は、思った以上に熱を帯びて蜜にまみれていた。

「ざ、っけん、な!く・・・・コノ、エロアル・・・・!ヒア・・ッ!?」

冗談ではなく僕の声だけで達してしまいそうな癖に、この期に及んでまだ憎まれ口をたたく恋人に嗜虐心が沸き上がる。乱暴にズボンと下着を脱がせると逃げる間も与えず腰を捕まえ引き寄せ、蜜を滴らせる果実のような象徴にむしゃぶりついた。

「ハァ、ハァ・・・・んく、あ、アアッ!」

身を仰け反らせ、がっちりと抱え込まれている両足を痙攣させて、細い指先全てが僕の髪に絡み、時折切なげにかき乱す。僕の好きな甘い声を絶え間なく聞かせてくれる、僕の恋人。この世にこんなに素敵な人は他にいない。

「は・・・・・ん、アアッ!ア・・・・ル・・・・ウ!イヤァ・・・・ッ」

これでも兄なりに精いっぱい耐えたのだろうが、嬉しくなるような早さで絶頂を迎えた彼の迸りを咥内で受け止め、飲み込む。

「んん、コホッ・・・・ごめ・・・・・・スゴイいっぱい出たね?ちょっと溢した」

こんなセリフ、いつもなら電光石火の早業で蹴りが飛んでくるはずなのだが、兄はぐったりとシーツに身を投げ出したまま、虚ろな表情で未だ射精後の余韻に身体を震わせていた。その姿の妖艶さといったらない。僕の声どうこうなんてレベルを遙かに凌駕している。兄が僕の声だけでイけるというのなら、僕は視覚だけでイけそうだ。この兄にしてこの弟あり・・・・ということか。

「ふ。まったく、僕たちってつくづくどうしようもないカップルだよね。お互いがお互いにメロメロになってさ」

「・・・・・・アル・・・・・・」

ようやく人心地がついてきたらしい兄は、少し舌足らずな口調で僕を呼ぶ。普段は決して聞かせないその甘えたような声音に、僕のボルテージはますます高まる。

「兄さん、今日は寝かせてあげられないや。ごめんね」

「ウア・・・・・冗談言うな・・・・アウッ!?」

これまで自制していたリミッターを全て外した僕の容赦ない愛撫を受け、またたく間に蕩けていく恋人の姿に、僕もまたさらに煽られて・・・・。    

翌朝になればいつもの如く、『ケダモノ』だ『エロホンス』だとなじられることは分かっているけれど、この怒涛のような激情を止める術を僕は持たない。

だって、愛しているからこそ、どうしようもないのだ。






                                            

 

 


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