身体での納付も可能です〜デコトラ兄さんシリーズ
俺の名はエドワード・エルリック。相棒の名はビッグエドワード丸。張り出し量1100mmもある自慢のラッセル戻しバンパーやアルミ製の突起物満載の攻撃的なフロントデッキ、リアにはスピードを上げすぎたら離陸してしまう危険をはらんだウィングが。そしてボディには、荒波をバックに堂々と浮き上がる髑髏という芸術的なペイントが施され、随所にスポットライトばりの電飾が装備されている。 世間は俺のような人間を『トラック野郎』と呼び遠巻きに見るが、そんなのは俺の知ったこっちゃねぇ。 デコトラは出入り禁止とお高くとまる企業なんぞに飼い殺されて、のっぺりツルンとしたトラックを相棒に走るつまらない人生なんざコッチから願下げだ。 そんな訳で、俺の職業はフリーの運び屋だ。といっても特別にグレードアップした4バックエアサスペンションを装備しているビッグエドワード丸と俺のドライビングテクのタッグにより、運搬物の品質確保のレベルは他のライバルの追随を許さない俺達だったから、数か所の漁業組合と契約を結ぶ人気っぷりで、この不況の荒波もなんのそのだ。 今日もまた声のかかった漁業組合のある漁港から都心の魚市場まで、海の男達が身体を張って水揚げした魚を運ぶ為、夜の高速道路を疾走する俺とビッグエドワード丸だったが、魚市場まであと10キロの地点で高速から一般道に入ろうとしたところで検問に出会った。 いつもなら同じドラック野郎同士無線で検問の情報を回すのだが、今日はタイミング悪く事件でもあったばかりなのか、俺は迂回することなく検問の網にあっさりとかかってしまったのだ。 ヤベェ・・・・この間の車検も、検査を通す為にバンパーとリアウィングと電飾を外したんだった。モロ道路交通法違反ボディで俺とビッグエドワード丸がなすすべなく誘導されるまま停まると、ドアを見上げて中年の警察官が声をかけてきた。 「はい、ちょっとね君ねー・・・うはー・・・凄いねコレ。見て分かるけど、一応バンパーのサイズとか色々量らせて貰いますよ?」 分かっていたが思わず舌打ちしつつ、こうなったら一刻も早く警察官に作業を終わらせて貰って魚市場へ時間通りに到着しなければならないと、俺は免許証の入った財布を手にシートから飛び降りた。 他の警察官に『電飾の位置の高さも確認してー』などと指示をしていた中年警察官は、俺の姿を見るなり失礼にもギョっとした表情を隠さなかった。 「あー・・・ええと・・・いや・・・・驚いたな・・・・え、コレ君のトラックなの?本当に?」 ご丁寧に頬まで赤らめている。キショいつーの。 しかしいい加減、ビッグエドワード丸から降りた俺を見たこんな相手の反応には慣れっこだったから、俺は何てことなく答えた。 「俺のです。言っとくけど『女と見間違えた』とか『綺麗』とか『美しい』とか『キュート』とか『セクシー』とか言いやがったらただじゃおかねぇからなお巡りさん」 どれもこれも耳にタコが出来る程聞かされてきた言葉だが、相手が警察ではぶん殴ることも出来ないから一応先手を打つ俺に、その中年警察官は薄ら笑いを浮かべながら頷きつつ俺の全身にネットリとした視線を這わせている。 コイツをぶん殴って公務執行妨害って、あまりにも俺が可哀想じゃね?この警察官の視線の方が余程法に抵触していると思うぜ? 「いいから・・・・とにかく荷降ろしの時間に間に合わなくなっちまうから、ちゃっちゃとして下さいよ!」 ノロノロとヤル気なさげに動き回る警官達にジリジリしながら携帯で時間を確認する。このペースで果たして間にあうのだろうかと心配しながら缶コーヒーを啜っていたら、白バイが一台やって来てビッグエドワード丸の直ぐ脇に停車した。 白バイをナマで見るのは初めてではなかったが、こんなに近くで拝むこともあまりないから俺は興味津々でそれに目を向けた。青を基調にした交通機動隊の制服を恐ろしくカッコ良く着こなした背の高い男が、傍に寄って来た警察官と二言三言言葉を交わしながら頷く。と、その男が俺の方に顔を向け、ヘルメットを外しながら此方に向かって歩いてくる。その様子を、俺は少しだけドキドキしながら見ていた。 白バイ野郎が近づいて来るにつれ、俺の脇の下には嫌な汗が流れた。 そいつは恐ろしく整った容姿の、まるで世界的一流アーティストのような独特で強烈なオーラを放つ男だった。通った鼻筋に適度な厚みの唇。そう太い訳でもないのに精悍な眉。優しげな目元は流石職業柄か眼光だけはギラリと鋭く、全身に纏う雰囲気は男臭くワイルドだ。この男がただの品の良いだけの男ではない事をすぐさま悟った俺の脳裏に危険信号が点滅する。 ヤバい。脊髄反射的に危険を察知した身体が勝手に身構える。 なんだこの気味の悪くなる程の美男子は!?つか、整い過ぎてマジキモいからこれ以上近寄るんじゃねぇ! そんな俺の心の雄叫びなんぞ、もし聞こえていたとしてもきっとこいつは逆に嬉々として足を速めるんだろうななどと妙な確信をいだきつつ後ずさろうとした俺の前に、とうとうそいつがそびえ立った。 ――――だって、ホントに目の前に立たれるとそういう感じなんだよ!目を合わせると首が痛ェんだよ馬鹿野郎! そしてその唇が『ニコ』と口角を上げて発したセリフが空気を振動させて俺の鼓膜に到達したのは、わずかそのゼロコンマ数秒後。 「やあ、これは魔除けになりそうな程悪趣味なカスタムだなぁ。アハハハハハ」 俺は我が耳を疑った。 白バイで颯爽と現れ、男の俺でさえ思わず見惚れてしまう肩幅と胸板とケツ肉と足の長さを持った高身長九頭身の人間が爽やかに笑いながら言ったセリフがそれだなんて――――――!!! ここまで整った容姿に、どんな逆贔屓目に見ても難のつけようがない物腰。そしてそこらへんでフツーに声を発したら周囲の人間全てが振り向きそうな耳を痺れさせる声。思わず息を飲む、やたら無駄に艶を持つ目配せ。 そんなフィクションの世界にしかいないだろう人間が唐突に実体を持って目前に現れるだけでも悔しいのに、そいつが俺の分身・・・・いや、理想の具現ともいえる相棒の存在を『魔除けになりそうな程悪趣味』と、こともなげに一蹴したのだ。これで逆上するなという方がそもそも無理な話だった。 「俺の趣味に文句あんのかゴルァァァァァ!!!」 警官相手に掴みかかることはできないから、つま先立ちでギリギリまで顔を近づけ至近距離から睨みをきかせてやりながら怒鳴ってみたが、これではまるで品の悪いそこらのチンピラだ。 しかし白バイ野郎は派手に上体を仰け反らせてパチパチと瞬きをした。 「あ。びっくりした・・・・・キスされるのかと思ってしまいました・・・・」 「キ・・・・・・・・・・・っ!?」 場違いな単語についていけず呆気にとられる俺に、白バイ野郎はまるで職務中とは思えない素に戻った表情でクシャリと相好を崩して笑った。ちょ・・・・なんだよその可愛いらしい笑顔は!?俺が女だったら見ただけで母乳が噴き出すぞその笑顔!! そう思った途端に我に返り、髪をかきむしる。 「・・・・って何考えてんだ俺!しっかりしろ俺の脳下垂体!母乳ってなんだ、その乙女な発想は!?大体こんな図体した野郎相手に可愛いとかありえねぇだろボケ!」 一人錯乱する俺の横では、職務を思い出したらしい白バイ野郎がビッグエドワード丸のセクシィボディをじっくり検分している。 「ああ、やっぱりあったあった。『検問突破』のステッカー。アハハー!これ貼っといて引っかかってるなんて恥ずかしいよね」 前言撤回。職務を忘れたままらしい。実に楽しそうだ。 「『全長28メートル。死ぬ気で追い越せ』この煽り文句も見るねぇ!コレを貼ってるのは大抵、ブツの貧相さに強烈な劣等感を持つ所為でサイズにばかり固執するようになっちゃった人だと思うんだけど・・・・・・えーと・・・・」 わざとらしく、さも何かを考えているような表情を作った白バイ野郎と目があった俺は、もはや戦闘態勢に入ったハリネズミ状態だ。 お前・・・・・その単語だけは言っちゃならねえぞ!それは踏むことを許されない地雷だぞ!押せば破滅を招く起爆スイッチだぞ!言うな・・・言うんじゃねえ・・・・!!! ところが。 可笑しなことに半ば祈るような気持ちで固唾を飲んでいた俺に、白バイ野郎はご丁寧にも幼稚園児に話しかける迷子係かの如く膝を曲げて腰を落とし、顔を傾けながら覗きこむようにして優しく言い放った。 「アナタの場合、サイズを気にしてるのはアレというよりむしろ背丈の方?」 次の瞬間、俺が白バイ野郎に掴みかかって拳を振るったのは人としてあたりまえの事だ。しかし残念な事に、一市民が立ち向かうには、あまりにも相手が悪かった。 国家権力?いや、そうではない。この男こそ、何があっても逆らってはいけない性質の悪い危険人物なのだと程なくして俺は身をもって思い知ることになるのだ。 相手がわざと避けずに俺の拳を頬に受けたのだと気付いたのは、そいつがさも嬉しそうに「してやったり」と目を細めた直後だった。 「あ〜あ〜。やっちゃいましたねぇ・・・・・このまま大人しく僕と一緒に署まで行きます?それとももっと派手に暴れて大勢の警官相手に大立ち回りを演じてみたい?それも楽しそうだよね?ふふふ」 俺は『しまった』と歯噛みした。今警官相手に手を上げてしまった所為で、この場でコトが済むはずがない。すなわちこれで競りの時間に間に合うようにモノを届ける事は絶望的になってしまったのだ。 自分の美意識と主義主張の赴くままにカスタマイズしたビッグエドワード丸に乗る俺は、時に一般人から白い目で見られたり嘲笑されたりすることもままあった。だがしかし、物流に関わるプロとしてその業務に手を抜いたことはこれまで一度としてなかったし、それが俺の誇りでもあった。みてくれだけを重んじる軽い人間ではなく、自らの信念を確然と持ち続けるだけの意志の強さと、一度請け負った仕事はプライドにかけて最後まで責任を全うするというプロ意識を持つ男の中の男。それこそが真のトラック野郎だと俺は考える。 ところがどうだ。 業務中にまんまと挑発に乗り、よりによって警官相手に手を上げてしまうなんて、俺はプロ失格だ。 項垂れながらもせめて近くを走っている仲間の誰かに積荷を託せないかと一縷の望みをかけ、白バイ野郎に『ひとまず積荷の運搬の委託先を探すから時間が欲しい』と言えば、そいつはそれまでの楽しそうな笑顔を引っ込め、代わりにまるで可愛いものでも見るような表情で俺を見下ろしてきた。 目を細めて笑うと頬にできる皺がなんとも愛嬌のある雰囲気を作りだして、それを見た俺は余計に戸惑った。この男はどうしてこうもコロコロと印象を変えるのか?つくづく距離の取り方が分からなくなる相手だ。 戸惑う俺に、白バイ野郎は言った。 「その心配は無用です。諸々の処理なら僕が一時全ての権限を預かって市場まで一緒に付いて行くから、アナタはきっちりと責任を果たせばいい。さ、アナタは車を出す準備をしてて下さい」 「は?」 先程までのどこか俺をつついて楽しんでいるような様子をガラリと変えた白バイ野郎は、状況が良く掴めずに立ち尽くしている俺から一度離れて他の警察官と何かやり取りをしに行った。 程なくして小走りに戻ってくると、腕時計を指示して俺を急かす。 「時間が無いんでしょ?早く車をだして!僕は後方から付いて行きます。法定速度内で最大限急いで下さいね。」 なんだかんだで、結局この白バイ野郎は俺の窮状を救ってくれているらしい。いささか腑に落ちない点はあったが今は積み荷を届ける事が先決だったから、俺はビッグエドワード丸に乗りこむと、白バイに後ろを守られるようにして目的地へ急いだのだが・・・・道中、サイドミラー越しに白バイ野郎の視線を厭という程感じていた。 シェルぱあ! ゆかいうめこちゃんに描いていただきました。美しいデコトラ兄さんに爽やか白バイアル 定刻通り荷を届け終えた俺は、無事仕事をやりおおせた安堵にホッと息を吐いたのもつかの間、この後白バイ野郎から反則切符を突きつけられるだろう事と、それから勤務中の警官相手に暴力を振るった件で何がしかの咎を受ける事を思い、鬱々とした気分でビッグエドワード丸の横にバイクを停めて俺を待っている白バイ野郎の元へ向かった。 バイクのシートを机代わりに何か書類を書いているらしい白バイ野郎だったが、その口にはパンダを模したキャラが描かれた『シャオメイ印の甘々ココア』の缶が咥えられていて、それを見た瞬間あまりのギャップに俺は噴き出した。 「あ、お疲れ様。荷物の引き渡しは無事に済みました?エドワード・エルリックさん、お預かりしていた免許証をお返ししますね・・・・・・?何か、おかしな事でも?」 立ち居振る舞いや目配せに寸分の隙も見いだせない油断のならない男と思いきや、缶を口に咥える子供っぽいしぐさを普通にやってのけ、しかも『シャオメイ印の甘々ココア』は成人が口にするには糖分量がべらぼうに豊富な『お飲み物』なのだ。 頭は切れそうな奴なのに、そのあたりのギャップに気付いていないのか、俺が笑い転げている理由がまったく分からずに首をかしげる様子がまた可愛らしくて、俺の中にあった白バイ野郎に対するマイナスイメージがみるみる内に塗り替えられてしまう。 「ア・・・・アンタ、さあ・・・・・・スゲー面白いヤツだな。そんなナリして甘党かよ?勤務中の白バイ隊員が『シャオメイ印の甘々ココア』なんて締まらねぇにもホドがあるぜ?」 白い手袋の手から免許証を受け取りながら、まだおさまらない笑いまじりに俺が言えば、白バイ野郎はまたしても予想外なセリフを返してきた。 「緊張すると甘いものが欲しくなっちゃうんですよ。実はさっきから心臓が壊れてしまいそうな程活発に動いてくれちゃって・・・ほら、書類の文字もガタガタでしょ?情けないったらない。」 『ほらね』と見せられた書類の文字は、確かに整ってはいたが線が酷くブレている。 「・・・・・?今日、白バイで初めての勤務とか?」 「いいえ。交機での勤務は今年で3年目。ああ・・・・名刺とかないからなぁ・・・惜しかったなあ・・・今日会えるって分かってれば何かしら準備してきたのに・・・」 「?」 意味不明な独り言をぶつぶつ呟いたソイツは、いきなり俺に詰め寄ると、まだ免許証を持ったままだった俺の手を両手で握りしめてきた。 「あの、突然ですが僕、アルフォンス・エルリックっていうんですよ偶然にも!そうある名前でもないのにファミリーネームが同じって運命を感じますよね」 いきなり『運命』なんて仰々しい言葉を持ち出して身を乗り出してくる相手の額には汗が浮かんでいる。なるほど確かに、必要以上にテンパっている事は理解した。だがしかし、何ゆえに? 「あー・・・・・・あの・・・・・・・お巡りさん、あのさ・・・・」 「アルフォンスです。もし良ければアルって呼んで欲しいんだけど!是非!」 なんなの、そのやたら強引で意味不明な要望。アルフォンス・エルリックと名乗る外見だけは完璧な男の目は血走っていて怖かったし、このままでは妙な方向に話が逸れてしまいそうだったから、俺は相手の言葉も自分の中にある疑問も無視して話を進めた。 「・・・・あの・・・・・・ところで反則金とそれからさっきアンタを殴った件だけど・・・・」 ところがだ。 白バイ野郎・・・・もとい、アルフォンスは、真面目腐った顔でこんな事を言いやがった。 「ああ。荷台部分の電飾の内8個、これは微妙だけど『赤』とみなされる可能性が大だと思う。そうすると規制の範囲だから外すか別の色のモノに交換してもらわないと・・・・・後はバンパーのサイズ、これ今の新しいのに付け替えるときに構造変更申請してないでしょう?これはちゃんとやっておいて下さいね?アナタはいつも法定速度内で模範的な運転をしていることで有名な人だけど、今日の検問でアナタを止めた警官みたいに其処らへんの事情を良く知らない異動したての人間とかハナシの通じない奴も中にはいるから。僕がいつでも今日みたいにタイミング良くフォローできるとは限らないし・・・・」 「・・・・・・・・は?」 「今回の事ではアナタは何も心配しなくていいです。アナタを止めたあの警官なら、残った他の同僚たちが適当に誤魔化してくれてるだろうし。」 こいつの言わんとしている事が理解できなかった。だってこいつは、取り締まる側の人間だ。それがまるで俺を取り締まり側から擁護するような発言をするのだから、混乱せずにはいられない。 きっとアホ面をさらしているだろう俺に、アルフォンスはまたあの可愛い笑みを向けてきた。 「実は僕、アナタの大FANなんですよ、エドワード・エルリックさん。ビッグエドワード丸のオーナーといったらこの道で知らない人間は居ませんよ。同僚にもアナタの熱烈なFANは沢山いるんです。あんな悪趣味なトラックに乗っておきながら本人はまるで花のように美しくて、しかも模範的な優良ドライバーで・・・・」 「ちょっと待てゴラ!」 目を潤ませてひとり勝手に熱弁をふるいだした男の言葉の中に聞き捨てならない単語を聞いた俺が声を荒げて睨み上げようとも、その男のボルテージはまったく下がる気配をみせない。むしろ加速度的に情熱を迸らせる様子に尋常でないものを感じた俺は、悟られないようにじりじりと後ずさった。・・・・といっても俺の右手はヤツの両手にがっしりと捕らえられたままだったから腕の長さ分だけしか間合いは空けられなかったが。さらにヤツの作戦だろうか、いつの間にか俺はビッグエドワード丸のボディを背にしていて、片側の退路は白バイによって阻まれていた。 既に競りが始まっている市場の活気溢れる喧騒から遠く離れたこの駐車場には、俺達の他に人の姿がほとんどなく、さらにここは位置的に人目につきにくい死角でもあった。 背筋に嫌な汗が流れる。 「・・・・・・・・お・・・・・落ち着けよ・・・・・ッ!」 思わず上擦った声を上げてしまったのが不味かった。それがスイッチになったらしいアルフォンスの表情がまたしても豹変したのだ。 俺を見据えたまま物騒な笑みを浮かべた男は、見せ付けるようにゆっくりと手袋を取り去った指先で、俺のタンクトップの胸元をついと引っ張った。 「そう・・・・・・でも、これは取り締まらないといけませんよね?この襟ぐりの広すぎるタンクトップは違反です。ほら!こうするだけで簡単に乳首が見えてしまって卑猥でしょ?アナタは周囲の男達を性犯罪に走らせる気ですか?いけませんね」 「な・・・・・・・・・ッ!」 あまりに非常識な事態にまったく対処できずにいれば、今度はデカイ両手に腰を掴まれた。 「このローライズのパンツもダメ。細い腰をこれでもかと見せつけて・・・・・危険すぎる。違反です」 「ヤメ・・・・・・・・!!!!」 掴まれた腰を引き寄せられつつ膝を割られ脚の間に逞しい大腿筋が差し込まれると同時に、首筋に顔を埋められた。くすぐったさに全身がビクリと跳ね上がる。 「ポニーテールも禁止。どうしてそう無防備にうなじを人目に晒すんです?ああもうこれも違反!ダメ!絶対ダメ!大体上下とも黒で統一しちゃってるのも全身を更にスレンダーに見せてしまってる。そのくびれたウエストと細い腰は既に犯罪だから!ああ・・・・なんて小さなお尻なんだッ!思ったとおり、か、片手で掴めるッ!」 服の上からではあるが全身を撫でまくられて俺は大パニックだ。 「何、考えてんだッ・・・・・放せよ・・・・・!もしかして、さっきぶん殴ったのを根に持ってるのか!?だったら俺は逃げも隠れもしないぜ!警察署にでも連れてけばいいだろ?」 「そんな勿体ない事できる訳ないでしょう!?それにさっきのは、初めて間近で見たアナタがあまりにも可愛らしくてついつい虐めたくなってしまった僕が悪かったんだし・・・・ああもう!ホントに可愛い〜〜〜ッ!!!!」 万力のような力で抱き締められ、全身の骨がギシギシと悲鳴を上げた。 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!お巡りさん助けて〜〜〜!」 「だから僕がお巡りさんなんだってば。さあさあ、それじゃあビッグエドワード丸の中でじっくり取り調べの続きをさせて貰いますからね。はい、抵抗したらいけませんよ〜?よいしょっと」 幸せそうな様子の白バイ隊員は俺を肩に担ぎ上げると、ビッグエドワード丸の運転席に遠慮なくよじ登る。 「放せ!マジで止めろ!お前何するつもりだ!?」 俺の本気の抵抗もモノともせずに、ヤツは白い歯を見せて爽やかに微笑んだ。ここであの可愛らしい微笑みを見せるか!?畜生!!! 「まあまあ落ち着いて下さいよ。あ、そうそう!違反金の納付はカラダでも出来るんですよ!ご存知でした?(ニッコリ)」 その後、仮眠用のカーテンが引かれたビッグエドワード丸の中で何があったかなんて・・・・・・絶対誰にも言いたくなんかない。 |