ザッツデイ |
といっても別に、必要以上に距離を取られているとか、避けられているとか、そういう訳では全くない。 今朝もいつもと同じく、兄は「おはよう」と言いながら掌を僕の額に当てて体温のチェックをする事を怠らなかったし、朝食のテーブルにつけば、やれ牛乳を飲めだの、やれトマトもちゃんと食えだのと口喧しく言いながら、世話をやこうと甲斐甲斐しく頑張ってくれていた。
しかし、だ。
今日は、ここのところ、学会に出す論文の作成や、その研究データの洗い出しなどで研究所に泊まり込むことが多かった兄と、久しぶりに揃って出勤できる朝だった。だから僕は玄関ドアを開ける直前、ドアノブに手をかけていた彼の腰に後ろから腕をまわして引き寄せると、その唇に素早く口付けをほどこした。言うまでもなく、とびきり濃厚なヤツを。
「ん・・・・ア、ル・・・・ッ!馬鹿、何やって・・・・・ンッ」 「兄さん・・・・可愛いね、顔が真っ赤・・・ふふっ」 「んあ・・っ!止せって・・・!」
キスだけですっかり出来上がってしまったその人の色っぽい首筋に唇だけで咬み付いて、その耳元に僕の必殺技で甘い攻撃を仕掛けてあげた。
「兄さん。今日は、ちゃんと普通の時間に帰ってきてよ?こんなに長い間僕を放っておいたらどうなるか・・・・・・分かっているでしょう?」 「ひ・・・・・あ、朝から・・・・・ッ!何、考えてんだ・・・・・ッ!」 「決まってるでしょう?いつだって、あなたの事ばかり考えてるよ・・・・」 「サカり過ぎだっ!!!」
涙ぐみながら(!!)も繰り出す情け容赦ない拳が、僕の二の腕を直撃する。相変わらず、気合いの入った良いパンチだ。さすがです兄さん。
「痛いよ兄さん。ホントにいつも手加減ないんだから」 「じゃあもっと痛そうに言うんだな」 そっけなく言いながらドアを勢いよく開けると、さっさと一人でポーチの階段を降り、振り向く事なく僕を置いたまま歩いて行ってしまった。 残された僕は鍵をかけ、郵便受けから取り忘れていた新聞を抜き取って小脇に抱え、その兄の後を追ったのだけれど、その時には一直線に続く欅の並木道のはるか彼方に、ポツンとした人影が見えるのみだった。門を出るなり、僕の追撃を振り切ろうとフルスロットルでスタートを切ったらしい。
「ふ・・・ッ、全く、可愛いことをしてくれちゃって・・・・」
きっと頬を真っ赤にして、ものすごい形相で走り続けているだろう兄の姿を想像すると、つい笑いが零れてしまった。折角久しぶりにふたりで出勤出来ると思っていたのに勿体ない気もしたが、また休憩時間にでも兄の様子を見に行けばいいと考え、僕はのんびりと新聞を片手に読みながら、研究所までの道を歩いた。
ところが、そんな日に限って、厄介な書類の作成依頼が複数寄せられ、僕は休憩時間どころか、昼食を取る時間さえ満足に確保することができず、結局兄のいる部門に顔を出せないまま時刻は既に終業間際の4時50分に差し掛かるところだった。
・・・・仕方がない。
僕はデスクの上の分厚いファイルを纏め、そのまま自分のブリーフケースと上着を取ると、部署内の職員たちに挨拶をして部屋を出た。先刻まで取りかかっていた書類の作成に使う為、統計データ管理室から借用していたファイルを返しがてら、兄のいる鉱物錬成部門に顔を出し、帰宅予定の時間を聞いてから帰ろうと思ったのだ。本当ならば一緒に帰る事が出来ればいいのだが、昨夜遅く帰宅した兄がぼやく様に口にしていた内容からすると、その望みは薄いと思われた。 いずれにしても、この重たいファイルを先に返却してしまおうと、統計データ管理部門のあるフロアに足を向けた。
「あら?アルフォンス、珍しいね。今日はパシリ?」 相変わらず、うず高く積まれた膨大な量の資料が連なる雑然とした室内を覗くと、その山岳地帯の中心から見知った人物の声がかかる。 「自分で使ったファイルを戻しにきただけ。相変わらず、ここの人たちは終業時刻厳守だね?」 マイラー以外の職員がいない室内を改めて見渡しながら、資料室の鍵が開いているかどうか尋ねる僕に、その彼女の金色の瞳がキラリと光った・・・・・ような気がした。 「さっき来た人に渡してあるから、鍵はその人から受け取って。私も、もう帰るから、明日まで君が鍵を預かっといてくれない?」 「え?僕は構わないけど・・・・でも、他部署の人間に資料室の鍵なんて預けちゃって大丈夫?」 心配して聞く僕に、マイラーは平気平気と手をひらひらさせると、そのまま挨拶も適当に、慌ただしく帰ってしまった。
終業時刻が過ぎた直後だというのに、既に人影がない静かな廊下を歩き、その資料室の扉を開けた。貴重な文献や資料の紙質の劣化を防ぐ為窓のない密閉された空間に、独特の紙の匂いが漂う。天井高とほぼ変わらない高さの書棚が列を作る暗い室内の左奥から、その灯りは漏れているようだった。この手元のファイルをしまう棚も、その灯りが点いているあたりだったはずだ。もし鍵を持っているこの先客が、まだこの部屋での用事に時間がかかるようなら、鍵を預かる為に待っていなくてはならない事を思い、少し面倒な気持ちになりながら目的の棚の方へと足を向けた。
丁度僕が探していた棚の前に、その人影はあった。 真っ暗な室内には、出入口とこの目の前にいる人物の手元にしか光源がなく、脚立に置いたスタンドライトの光を受けた金色の髪が、まるでそれ自体が光を放っているかのように輝いていた。 シルバーフレームの眼鏡をかけ、白衣を羽織ったその小柄な人物は、少し見ただけでは男性なのか女性なのかすぐには判別がつかなかった。僕はその場に立ち止まり、その綺麗なシルエットにしばし見惚れた。 尖った小さな顎のライン。そのすぐ下の細い首のライン。少しいからせたような白衣の肩。右手はポケットに入れて、左手に本を持ち、器用に親指だけでページを繰るその仕種・・・。
「にいさん・・・・・・?」
声をかけると、すぐに顔をあげてこちらに目を向けた。
「おう。どした、アル?何か急ぎの用か?」 「・・・び・・・っくりした・・・・」 「んあ?」 「ごめん。だって兄さんだと気付かなくて・・・・それなのにうっかり見惚れちゃったから、これはマズいな、と思ったんだ」 「よく言うぜ。この節操無しが」 フンと笑いながら、閉じた本を書棚に戻し、脚立に載せてあった数冊の本を小脇にかかえると、僕の方に向って歩いて来る。滅多にかけることのない眼鏡を外し、それを胸のポケットに引っかける見慣れない仕草に妙な色気を感じてしまう僕は、少しどうかしていたのかも知れない。
「もう、すんだの?」 「済んだ」 僕の問いに短く答えながら、そのまま横をすり抜けようとする人の腕を掴んだ。 「・・・・なに?」 「鍵。持ってるでしょう?マイラーから明日まで預かる様に頼まれてるんだ。忘れちゃうといけないから・・今、渡してくれる?」 「・・・・おう?・・・・ほれ・・・・ちっさい鍵だから失くすなよ」 僕が広げた掌の上に鍵を落とすとそのまま踵を返しかけたその人を、両腕で抱きこんだ。
「ちょ・・・・何、やってんだよお前・・・ッ?」 この部屋には他に誰もいないはずなのに、何故か小声で抗議をしてくるから、僕もささやき声で返した・・・・その、耳元に。 「あなたが・・・・足りない。ねえ、今日も研究所に泊まりなの?それとも遅くなるだけで帰っては来る?もう寂しくて死にそうです」 「分かんね。どうでもいいが、お前、その粘着気質なオンナみたいな態度はやめろよ、マジでウザい」 「褒めないでよ・・・・照れるから」 「褒、め、て、ね、え!!」 胸と腰に腕をからめて抱き込んで、後頭部に、項に、耳の後ろに・・・・・いろいろな場所にキスを落とすのに、まったくムードに流されない。ひとたび研究モードに入ってしまうと、まるきりクールでストイックになってしまうのだ。僕の一挙一動に、すぐに赤くなったりうろたえたりする家での様子とは大違いだ。 「そんな事言って、本当に新しい法則見つけちゃう兄さんって一体どんな天才なんだろうね?」 「なめんな。どこのどいつが確立したか知らんが、あんな穴だらけの構築式に別の法則見出すぐらいの事、錬金術でメシ食ってる人間が出来なくてどうするよ?」 「ふふ・・・・・ね、しよ?」 「はい・・・・・・・?」 さすがにそう言った僕自身でさえ、脈絡も常識もムードも何もあったもんじゃないなあと思うセリフだった。だから、それを言われた本人が、その意図を理解できないのは当然の事だ。だけど・・・・・。
「したい・・・・凄く」
そう、この人が研究所に泊まり込むことが既に2週間以上続いていて、その間帰宅することは数回あったものの、疲労困憊でまさしく眠るためだけに帰って来るような状態のその人の身体を酷使するわけにもいかず・・・・・。つまり、俗にいうところの“おあずけ状態”なのだった。
「ちょ・・・ま・・・・ッ!お、落ち着け!話せば分かる!」 「うん、話そう・・・・・カラダで・・・・・」 「ぎ〜〜〜〜や〜〜〜〜!!!!」 色気のない声をあげて僕の腕の中で手足をバタつかせるその人のひざ裏をすくいあげ、バランスを崩したところをそのまま書棚に張り付けた。これで、ベストポジションは手に入れたも同然だ。 「待て!待て待て待てアルフォンス君!待ちたまえ!ここはマズい!公共の場だ!しかも職場だ!破廉恥にも程があるぞ!」 「そういうおどけた口調の兄さんも・・・・カワイイね・・・」 「目が!目が怖ぇッ!ソッチモードから戻ってきてくれ頼むから!」 「イ・ヤ!」 「可愛くゆ〜な・・・・うは・・・ッ、そこ、触ん・・・・な・・・・!」 「・・・・・・・にいさん・・・・・」 「う・・・・あ・・・・・」 「・・・・・・・・・・」
僕が勝利(?)を確信した、その時だった。
「あ。駄目。俺、今日生理。しかも多い日」
「・・・・・・・・・はい?」
思わず、僕の動きが止まった。 生理?しかも2日目?(いや、2日目とは言っていない) こんな言い訳文句、兄の引き出しの一体どこから出てきたんだろうか?
「まさか・・・・・ウィンリイ?」 「お、スゲ!大当たり!」 顔の前に、ピッと人差し指を立てて嬉しそうに兄が言う。 しまった、すっかり健全モードに逆戻りしていると思っても、時、既に遅し。 「どうしても拒みたいときには、試しに使ってみろっつってたの思い出してよ。わはははは〜!マジで効いてやんの!面白すぎ!」
ウィンリイ・・・・・あのアマ・・・・・いやいやいやいや、あの人も本当に、ことごとく僕の邪魔ばかりをしてくれる。 いやしかし、これしきの障害に負けてなるものか・・・・・!
勝ち誇ったような微笑みで僕を見上げてくる無防備な唇に、ソッチモード全開のキスを手加減なしで仕掛けた。案の定、予想外の動きに対応しきれないらしいその人は、抵抗することすらできずに只、僕の舌に口内を蹂躙され、甘く身体を震わせた。
「は、ウソだろ・・・・!そこまでマジなのお前?勘弁してくれよ・・・あ・・ん・・っ」 「生理なんでしょう?じゃあいっそ今日なら“安全”だよね?」 ここぞとばかりに、エロボイスを最大出力で発動。 「・・・・・ざけんな・・・・そうくるか・・・・サイテーだ、畜生・・・」
貪られて真っ赤に熟れた唇で悔しげに言うその表情が、堪らない色気を醸し出していて、それを見た瞬間、僕の中にわずかに残っていた理性も、熱い波に飲みこまれていった・・・。
最初に違和感を覚えたのは翌日の通勤途中、ポプラ並木の道を歩いている時だった。
何故だか、あからさまに見られているような気がする・・・・いや、明らかに見られている。兄の言葉を借りて言うならば、“ガン見”されている状態だった。視線を感じてそちらの方に目をやると、その瞬間に逸らされている。そして視線を戻すと・・・・・・・・また、見られている。この、繰り返しだった。
昨日の資料室での逢瀬のあと、結局早々に仕事を切り上げざるを得ない状態になってしまった兄は、一度家へと戻ってきたものの、シャワーを浴び、2時間ほど仮眠を取っただけでまた研究所へととんぼ返りしてしまい、今朝も僕一人での通勤だった。 それにしても・・・・・・。 昨日の兄の艶姿を思い出しては、ついつい弛んでしまいそうになる頬を叱咤しつつも、あの鮮烈な映像は僕の脳裏に色濃く焼き付いて、なかなか離れていかない。
「うわ・・・・ホント、どうしよう。これは参った・・・・」
これでは、今日一日仕事になりそうもないな、などと嬉しそうに心配していた僕の耳に何やら囁き声が聞こえてきた。
「・・・・・・・・・い」 「・・・・・・ん?」
朝っぱらから不埒な光景で脳内を満たしていた僕を、足早に追い抜いていく女性達の群れから、その単語は聞こえたようだった。
・・・・・つ・・でい・・。
皆口々に“ざっつでい”・・・と言っているようだった。 何か、流行りのおまじないの文句か何かだろうか?と、特に気にするでもなく、研究所の建物に辿り着いた僕は、いつも通り自分の持ち場のデスクへと急ぎ足で向かった。
「おはようございます」
毎朝最初に入室する際のいつもの第一声も、今日は張りが違う。きっと今の僕の笑顔は、尋常じゃなく輝きに満ちているはずだ。さあ、今日も一日張り切っていこう!!気合を入れてデスクの上のファイルを手に取ったその時だった。
ざっつでい・・・・・・。
「は・・・・・?」 その声の方向を振り向けば、同じ部署の女性職員たちが輪になって、意味深な目配せを交し合い、こそこそと何か言葉をかわしつつ、時折僕の方に視線を向けてくる。
何だろう・・・・・?
ふとその女性たちの幾人かと視線がぶつかったので、反射的に愛想笑いを返した途端、耳をつんざくような黄色い悲鳴が響き渡り、他の職員たちは皆何事かと驚いている様子だった。 どうやら、研究所の一部の職員の間で、僕に関する(きっとあまり良くない)噂話が広まっているらしかった。尤も、人から勝手気ままに様々な噂をされることに関しては気にしない性質の僕だったから、特に何を感じるでもなく、そのまま午前中の業務に没頭したのだった。
「あれ・・・・兄さん・・・・?」 昼休み、いつもの喫茶室に入ったところで、窓際の席に、女性陣に取り囲まれて真っ赤になっている兄の姿を見つけた。真っ赤も真っ赤。熟れきったトマトも真っ青(?)な赤さだ。複数の女性から、愛の告白でも受けているのだろうか・・・・?まさかね。 僕は自然、そちらの方へと足を向けた。
「凄いね兄さん、今日は大勢の美人に囲まれて羨ましいな・・・」 女性達へのリップサービスも欠かさずに、兄へと声を掛けた僕だったが、その彼女たちからまたしても大音量の黄色い声が上がって、思わず後ずさってしまった。
「な・・・・・んですか・・・・?」 僕の問いかけにも、互いに目配せやら肘の突きあいやらひそひそ話しをするのみで、返事らしい返事が返ってくる様子のない事に困った僕は、その中心にいる兄の方へ縋るような視線を向けたのだが・・・・。どうしたことかその兄は、まるで取り殺さんばかりの殺気を背負い、親の敵を見るような目で僕を睨んでいた。
・・・・・何か、怒ってる?
そして、首を傾げる僕の耳に聞こえてくる女性たちの囁きあう会話の端々に、またアノ単語が混ざっている。
「あの・・・・・今朝からずっと気になっていたんだけど・・・・・」 僕がそう女性たちへと問いかけた次の瞬間、何故か喫茶室にいた人間全てが申し合わせたかのようにその口を噤んだ。だから、僕の質問は、静かな喫茶室のすみずみにまで響き渡ったに違いない。
「“ざっつでい”って、なんですか?」
・・・・・その後の喫茶室の様子を、なんと表現したら良いのだろう。 おりしも昼食時の、場所は喫茶室で。そこには当然、食物を口内で咀嚼している人が大勢いる訳で・・・・・。つまり、あちこちで噴出す人間続出の室内は、何というか、もう・・・・・・目も当てられない状況だった。
汚いなあ・・・・常々感じていることだけれど、この研究所の関係者は全くそろいもそろって品位というものが欠落しているのでは、と顔をしかめつつも、兄の隣で紅茶を口に含んでいた女の子にだけは心の中で及第点をあげた僕だ。偉いぞ彼女。兄に向けて噴出す事無く、よくぞ持ちこたえてくれた。でも鼻から少し出ちゃってるね、紅茶。
「・・・・・この、ケダモノが・・・・ッ!」 その阿鼻叫喚の状況の中、兄から吐き捨てる様な言葉が寄越された。 「????何を怒っているの」 兄の怒っている理由が理解できず聞き返す僕に、さらに怒りをヒートアップさせ、もはや鬼の形相になっている可愛い人が、がんがんテーブルを叩きながら怒鳴り返してきた。 「そらっとぼけるんじゃねえ!!このばかちんが!!“ザッツデイってナンデスカ”だと!?」 「うん。だから何なの、それ」
「う・・・・お・・・ッ俺に、聞くな・・・・!!」 途端にしおしおと座り込んでしまった兄の代わりに、僕の後ろから声がした。
「アルフォンス。昨日、“生理中”の恋人に迫ったでしょう?」 「何で知ってるの・・・・・・・ああっ!!!」
や・・・・・・やられた・・・・・。
そう、見ればまたしてもそのマイラーの手に、見覚えのある紙片が・・・・・。 「まさか昨日僕に鍵を預かるように言って先に帰るフリをしたのは・・・・」 「いいシチュエーションだったでしょう?セッティングしてやったんだから感謝しなよ」 にやりと笑うその表情に、僕の背中を嫌な汗がつたう。 「・・・・トトカルチョのセッティングまでは余計だよ。つまり、一部始終見てた(聞いていた)って訳?」 「こっそり現場に忍び込んではみたものの、まさか本当にコトに及ぶとは流石の私も思わなかったけどねぇ。エディがあんまり色っぽい声をあげるから、私も居合わせた彼女達もどんなにいたたまれない思いをしたか・・・」 しかもなんと、昨日の資料室に潜んでいたのはこのマイラーだけではなかったのだ。これにはさすがの僕も舌を巻いた。・・・・しかし、これで朝からの女性たちの態度にようやく合点がいった。 「嘘言わないでよ。どうせスルかシナイかの2択で、マイラーの一人勝ちだったんでしょう?」 「・・・・・・ふふふふ」 空恐ろしい程の抜け目の無さを持った彼女とのそんなやり取りのすぐ横では、改めて事実を確認させられた兄が、両手で顔をかくしてイヤイヤと頭を振る可愛い仕草をしていた。
「待てって言ったのに!職場じゃ拙いって言ったのに!マックスパワーでエロボイス効かせやがってコノヤロウ!てめえの所為だぞエロホンス!!お前の手が俺の××を××のとか、お前の××が俺の××に××のとか、さらに××が××で××のとか全部聞かれちまったじゃねーか!!この落とし前、どうやってつける気だ、ウラ〜〜〜〜〜ッ!!!」
・・・・・その後の喫茶室の様子を、なんと表現したら良いのだろう。 おりしも昼食時の、場所は喫茶室で。そこには当然、食物を口内で咀嚼している人が大勢(以下略)
この日以来、研究所内で、僕が兄の目の届く範囲にさえ近づくことが許されなくなったというのは、あまりにも厳しい措置だと抗議しているのだけれど、この接近禁止命令が解かれることは当分望めそうにない・・・・。
******ハイ・・・。スイマセン・・・・・・・・・*******************
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