Last up date 2001/05/09


ザァァァァァァ・・・・・

闇の中に雨音だけが響いている。

そして、雨音以外には無い空間に張り詰める異常な緊張感。。。。

ブゥゥゥン、、、ウォォォォン・・・・・

その中にかすかに聞こえる目覚めようとする野獣の息吹、、、、

「・・・・・・」

誰もが固唾を呑んで、その2台だけを見つめていた。。。

スバル インプレッサWRX バージョンX、、、、

そして、その横にピタリと並ぶトヨタ アルテッツァ・・・・・・

ドドドドドド、、、、、

全てを解き放つ一瞬前の2台の静寂・・・・

これから始まる激しく、気高く、そして、狂気に満ちた世界への戦い・・・・

皆が雨が降ってる事さえ忘れさせる戦慄にも似た興奮・・・・・

そして、、、、、

2台の車のヘッドライトに映し出される一人の男・・・・・

スピードマジック代表の井嶋は目の前に停止した2台の車を静かに見つめた・・・・

―いよいよだな・・・・・無事に下れよ。。。2台とも!―

「カウント行くぞ!!!、、、、5!」

張り上げられた声に呼応するかのように2台のエンジン音が昂ぶりを増す。

「4!」

ブォォォォォン!ブォォォン!!!

「3!」

―雨でもお前なら勝てる・・・・・―

信じる者・・・・・・

「2!」

―天は味方してる。勝たせてやってくれよ、、、、―

祈る者・・・・・・

「1!」

―・・・・・・・―

ただ、前だけを見つめる者・・・・・・

「GO!!!!!」

全てが見守る中、一瞬時が止まった。。。。そして!!!!

ギュゥ・・・・・ブォォォォォォォン!!!!!!

ギャァァァァァァ・・・・・グゥゥゥゥゥゥオ!!!!!

「!?」

2台のマシンが全てを解き放つ獰猛な雄たけびを上げ、残像を残すような速さで闇の中に

突っ込んでいく!!!

「うわっ!スタートでアルテッツァが前に出たぁ!?」

「信じらんねー!このコンディションで4WDより良いスタート決めるなんて・・・・」

「絶妙のクラッチミート!!」

ギャラリー達の叫び通り、スタートでホイールスピンを最小限に抑え、最高のスタートを切った

アルテッツァがインプレッサを従えて暗闇に消えていく。

―怜の奴、、、スタートであんなホイールスピンさせるなんて、、、、らしくないな・・・・―

やや不安げな表情で闇消えていくインプレッサのテールランプを見つめる井嶋・・・

―最高のホールショットを決めたな、大樹、、、この勝負貰ったぞ・・・・・―

対し、落合はインプレッサの激しいホイールスピンにドライバーのスキルを見た気がして、内心

勝利を確信していた。

ヴゥゥゥゥゥン!!!!!・・・

「!?・・・・」

2台が走り去った直後、その反対側から近づいてくる全開音・・・・

―この音・・・・・まさか!?―

落合が音の方に視線を向けた瞬間、凄まじい速さと量の水飛沫を上げながら銀色の車体が駐車

場の前を通過していく。

一瞬の出来事で、その場の誰も対応する事が出来ない。

「・・・・・ちっ!どこのバカ野郎だ。。。。今走り出したばっかだってのに・・・・まさか、あの2台に混ざ

ろうなんて考えてんじゃないだろうな、、、、くそっ!おいっ!みんな下に連絡してくれ、、、、どっか

の勘違い野郎がコ−スに入ったから2台が通過してもギャラリーをコースに出さない様に、、、

って・・・・・」

井嶋は走り去った車の方角を苛立たしげ見ながらチームのメンバーに指示を出す。

「そー言えば、車種は何だった。。。。」

「96年式プレリュード、、、多分Type-Sだ。。。。」

呟く井嶋に落合が静かな口調で告げる。

「!?、、あっ、すいません。思わぬ邪魔が入ってしまって、、、、しかし、プレリュードなんてデートカー

な半端者で乱入しようなんてなめやがって、、、、」

井嶋の顔には心の中の苛立ちがはっきり分かるほど表情に浮き出ている。

「あの車の事知ってるのか?」

「・・・・いえ、あんな奴は初めて、、、、大体プレ(←プレリュードの略)なんてタマ数も少ないし、ス

ポーツとしても半端だから乗る奴なんて滅多にいない。。。」

「そうか、、、、」

―このエリアの車じゃないのか・・・・・―

内心呟く落合。

「何か気になる事でも?」

「いや、、何でもない。。。。すまんな」

井嶋に礼を言いながら背を向けた落合だが、心の中には井嶋とは逆に、何とも言い難い感情が

心の中に渦巻いていた。。。。

―あの2台に追い着ける訳なんて、、、、、だが、何なんだ、この不安感は・・・・・―

ブォォォォォォン!バッシュ!

先頭アルテッツァ、そのすぐ後ろにピッタリとインプレッサ・・・・・

―前に出るには出たが、1コーナーまでの直線、、結構ある。。。インプレッサは330、40psは出て

_るって話だ。後ろに付けてパワーで並びかけてくるか?。。。―

アクセルを底まで目一杯踏みつけながら大樹は前に出ても決して油断してはいなかった。

グゥゥゥゥォ!!!!パシューン!

アルテッツァの後ろにぴったりと張り付いているインプレッサ。

この雨と目の前のアルテッツァが巻き上げる水飛沫でドライバーの視界は殆どゼロに近いと言っ

ても過言ではない。ただ、水飛沫の中にかろうじてぼんやりとアルテッツァの赤いテールランプが

見える程度。。。。

しかし、怜は臆する事無くアルテッツァの背後にピタリと付け、凍りのように冷たい視線で前を行く

アルテッツァのテールを見つめていた。

1コーナー

ウォォォォン・・・・・

全開音が遠くからこだましてくる。

「始まったみたいだぜ、、、、1コーナー先に飛び込んでくるのはどっちだ?」

「やっぱ4WDのインプレッサがどー考えても頭だろ。。」

「それにパワーもあるしな・・・・」

どんどん近づいてくるエンジン音にギャラリー達にざわめきと期待感が広がっていく。

「・・・・・周りの意見は、、だそうだ。。。遙、お前の意見は?」

傘をさし、1コーナーを見つめたまま、たずねる男。

「・・・・まぁ、常識的に考えればそうだろうな・・・・・」

ブォォォォォォ!!!!

すぐそこまで来ているエンジン音にも表情一つ変えず相変わらずの素っ気無さで遙は答える。

グォォォォォォ!!!!

闇の中から現われる2つの光源。それは異常な速さで自分達の方へ近づいてくる。そして、

「アルテッツァが前だ!!!」

判別可能な距離まで近づくと同時にギャラリーから驚きの声が上がる!

ブォォォォォォォ!!!!

グゥゥゥゥゥゥオ!!!!、、、、グォン!

1コーナー約90度角のブレーキングゾーンに進入した2台の内、先にブレーキを踏んだのは、

「!?・・・・・」

後ろのインプレッサの方だ!

ブォォォ、、、ギィィィィィ!!!!!!

一瞬遅れてアルテッツァが雨の中、限界ギリギリのブレーキング!!!!

そのワンテンポでアルテッツァとインプレッサの間がスゥーと広がる。

先にブレーキングしたインプレッサの車体がほんの少しだけ早くコーナーのクリッピングポイン

トを向く。完全なグリップ走行。

逆にアルテッツァはギリギリのブレーキングから鮮やかにブレーキングドリフトに移行。

車体の向きが変わり出すタイミングではインプレッサの方が僅かに早かったが、車体がドリフト

でスライドしているアルテッツァの方が向きが変わるスピードは速い!

両者は殆ど同タイミングで向きを変え終え、コーナーのクリッピングポイントを掠めていく。

そして、立ち上がり、、、、

グゥゥゥゥゥオオオオオオオ!!!!!

インプレッサのエンジンが荒々しいサウンドを炸裂させ、その瞬間、インプレッサは4WDの最大

の武器である強力無比なトラクションを活かし、その車体を前に弾き飛ばす。

ブォォォォォォォォォ!

インプレッサがロックのような激しいエンジン音を炸裂させる反面、アルテッツァはオーケストラの

ような滑らかさでアクセルを踏み足し、エンジン音もそれに応えるように滑らかに吹き上がる。

次の瞬間、コーナーの入り口でのブレーキングで開いていた差が、コーナーの出口ではキレイに

消え再びインプレッサがピタリとアルテッツァの背後に付ける。

グォォォォォォン!!パシューン!!!!

2台はバックファイアを吹き絡み合いながら、一瞬でギャラリー達の前を駆け抜け、次のコーナー

へ向かう。

「・・・・・今の見たか?」

「あぁ、、、、突っ込みでは確かにアルテッツァが勝ってたのに、しかも、完璧なブレーキングドリフト

でコーナーもクリアしたのに、コーナー出口になったらキレイにその差が消えちまった・・・・・」

「その上、インプレッサは逆にいつもの流すスタイルじゃなく、完全なグリップ走行・・・・・」

「・・・・・・・何が起こったぁぁぁぁ!?」

確かにインプレッサの方がアクセル開けるタイミングは早かった。。。しかし、こうも簡単にこの雨

の中、差が埋まるものなのか?

「・・・・・おい、、遙・・・・今のは・・・・・」

「・・・・・・・」

「おいっ!」

「もう1台来る・・・・・・」

「え?」

男の言葉を無視した遙の呟きだったが、遙が視線を向けている方に思わず視線を向ける。

ヴュゥゥゥゥゥゥン!!!!!

独特の甲高いVTECサウンドが遙達の方に近づいてくる。

茂みから零れるヘッドライトの光、、、、そして、、、

「・・・・・なんでもう一台来るん、、、だ・・・・・・・うわっ!!!!」

「ヤバイ!!!!」

次の瞬間、コーナー入り口のギャラリーから切迫した声が上がり、そこに居たもの達が大慌て

でその場から離れる様とする。

ヴュン、、、、ヒュィィィィィィィィ!!!!!!

ブレーキローターを真っ赤に燃え上がらせながら、今にも姿勢を崩しそうな限界ギリギリのブレー

キングで銀色に車体が突っ込んでくる。

―!?!!―

「!!!!!!!」

さっきのアルテッツァより奥のブレーキングポイント、、そして、速い進入・・・・それは誰の目にも

明らかなオーバースピードに写った。

だが、フルブレーキングの姿勢から、絶妙なタックイン!!!!

グワァと魔法をかけられたようにノーズがIN側に切れ込み、リアがOUT側に流れ出す。鮮やか過

ぎる荷重移動!!!!車は流れながら完璧な姿勢制御でクリッピングポイントの方向を向く。。。

が、しかし、向きが幾ら変わったところでスピードが乗りすぎているのは明白だ。このままじゃ、、、

―クラッシュする!!!!―

その場に居た誰もがその無謀な進入にそう思った。

ヴュゥゥゥゥゥン!!!!!ガシュッ!!

が、次の瞬間、闇を切り裂くようなエンジンの咆哮と同時に、フロントに移っていた荷重がリアへ移

動。リアに過重が移る事によりグリップを回復したリアタイヤは測ったかのようにそのスライドを止

め、コントロールを失うギリギリ手前でコントロールを回復、車をコース上に押し留める。そして、車

は車速を保ったままクリッピングポイントのガードレール掠め、その後、強烈な横Gを受けながら渾

身の全開音を響かせレコードライン、ガードレールギリギリを立ち上がる。

「・・・・・・・・・・・・」

まるで手品でも見てるような一連の流れ、、、、。

その車が走り去った後、誰も一言も発しない、、、、。

あまりに非現実的なコーナーリング・・・・・

その場を遠巻きに聞こえるエンジン音と降りしきる雨の音だけが支配する。

誰しも何が起こったのか、現実を受け止めるのに精一杯だった、、、、一人を除いて。。。

―・・・・・あのプレリュード、、、―

今の、あのプレリュードから強烈にほとばしるオーラにも似たギリギリの集中力が、遙の中に

ある走りのDNAを揺り動かす。。。。スピードのDNAを持つ者達だけが感じる内に眠る本能の

共鳴・・・・・昂ぶり・・・・

何処か平静さを失いかけている自分を必死に押さえている自分がそこにはいた。

―いつか俺の望むステージに到達したら走る日が来るかもしれない・・・・・―

冷静な自分の中にも、、もう一人のスピードの狂気に魅入られた自分の中にも、そんな予感を

感じさせる走りだった。。。。。

ブォォォォォ、、、、ウォン!ウォォン!!!

ギィィィィィィィ・・・・・・

全開音から一転、ヒールアンドトゥーのシフトダウン音と同時にフルブレーキング。

アルテッツァのリアが流れ出し、車体がコーナーのクリッピングポイントを向く。

「ちぃっ!」

―やっぱりだ!・・・・・・―

大樹は車をコントロ−ルしながら一瞬、ルームミラーに映るインプレッサを見て、舌打ちする。

ルームミラーからはインプレッサのヘッドライトがくっきり見える。

ヒュゥゥゥゥゥン!!!ブォォォォォォ!!!ブォォォォォ!!

クリッピングポイントを過ぎ、リアのスライドを抑えて全開加速!!!

タービンの吸気音と共にエンジンが重低音を響かせ、ヘッドライトの明かりに映し出される、ガード

レールの繋ぎ目が通り過ぎて行く間隔がどんどん短くなる。

再びルームミラーに目をやる。ルームミラーから見えるインプレッサは、、

―・・・・・・くそっ!―

今度はインプレッサのフロントがアルテッツァのリアの直後に滑り込み、ヘッドライトどころか、アルテ

ッツァのリアに当たるインプレッサのヘッドライトの照り返しで、僅かにインプレッサのブルーの車体が

見える程度だ。。。。

先ほど同様、コーナーの進入ではアルテッツァが勝っているのに、コーナーの出口でその差が消えて

しまう状況・・・・・。しかし、それは単に2台のコーナーリング性能が特性こそ違えど拮抗しているという

事ではないのか?では、大樹のこの苛立ちは一体?・・・・・

ヒュゥゥゥゥ、、、ブォォォォォォ!!!!

「!!!」

ウォン!ウォォン!!ギィィィィィィ・・・・・・・・

再び次のヘアピンコーナーに進入。。。。

アルテッツァは限界ギリギリのブレーキング!!!

再びルームミラーに目をやる大樹・・・・・

後ろのインプレッサは、、、、やはりワンテンポ速いブレーキング。コーナーの進入では離され

ている。

―やっぱ見てやがる!・・・・・―

ステアを僅かに切り込み、荷重移動でリアが滑り出すを感じながら、大樹は心の中で確信した。

アルテッツァはアクセルワークでリアのスライドをコントロールしながら、レコードラインをスムー

ズに立ち上がる。一方のインプレッサは進入ではアルテッツァに一歩譲るものの、コーナーから

のスピードの伸びの鋭さがアルテッツァより数段上だ。

一体何が起こっているのか?・・・・

そう、インプレッサはコーナーの進入でアルテッツァに『離されている』のではなく、『離れている』

のだ。コーナーの立ち上がりにおいて重要な事はタイヤのホイールスピンを抑え、トラクションを

フルに活かして立ち上がる事だ。では、もし、コーナーの立ち上がりで派手にホイールスピンさせ

た場合はどうなるのか?トラクションがかかっている状態と言うのは言い換えれば、タイヤが前

に進む力の限界内でエンジンパワーをかけて車を前に進める状態という事が出来る。そのタイヤ

が前に進む力の限界を超えるのがホイールスピンであり、もし、それ以上の力がかかった場合、

行き場を失った力は逆にタイヤの前に進む力を一気に奪ってしまう。そして、これがコーナーの

立ち上がりであれば、コーナーの遠心力が加わるので、前に進む力を奪われたタイヤは遠心力

に抗いきれずに横に流れ出す。この現象はFRでも4WDでも変わらず、そしてこれが俗にドリフ

トと呼ばれる現象である。進行方向(エンジンパワー)と横(遠心力)に力がかかっているから車は

斜めに進む。ただ、ここで忘れてはいけないのは、4WDは全てのタイヤに等しく力が加わってい

るので、激しくホイールスピンを起こした場合でも4輪全てが等しく横に流れ出す。だが、FRと言う

駆動方式においては、後ろの2輪だけが流れ、前の駆動力の無い2輪はそのまま前に進もうとす

る。その為、FRはドリフトした場合、アクセルを緩めて(つまりタイヤの前に進む限界力にエンジン

パワーを落として近づける)横スライドを止めながら、カウンターステアと呼ばれる後ろのタイヤが

流れる分だけ、前のタイヤもステアを切って横に流し、後ろと前の帳尻を合わせて車の姿勢を保

つ、と言う事をする。だが、これでは車は横に進んでも前には進まない。逆に等しくタイヤの流れ

る4WDは横に車が流れていても、カウンターステアを切る必要が無く、アクセルをガンガン踏んで

加速していける。では、今の雨の降った滑りやすい路面ではどうなるか?4WDは路面が滑りやす

くともカウンターを当てるという作業が無いので姿勢を乱す事も無く、横に流れながらも前に進んで

いける。だが、FRはアクセルワークの一瞬の油断が即ホイールスピンに繋がり、リアが横に流れ

出した車はあさっての方向を向こうとする。もし、これをカウンターステアで抑えようとしても、道幅

の狭い峠では車を横に流すスペースの余地は少なく、又ギリギリのスピードバトルの中ではその

ような余地は皆無だ。つまり、そこにFRの、大樹の苦しさがある。

―コーナーの進入で少し離れた方がこちらの車の動きを観察できる・・・・・

―そして、立ち上がりでトラクションの差を活かして、差を詰める・・・・・冷静だぜ・・・・・

―この条件でFRが思い切り踏んでいけないのを見越してやがる・・・・・なら、、、、―

ヒュゥゥゥゥ・・・・・・ブォォォォォォ!!!!!!

インプレッサを従え闇の中を突き進むアルテッツァ・・・・・

まるでそれはインプレッサの照らし出すライトの光から逃れようとするかのようだ。

全開加速を続けるアルテッツァの先でガードレールに取り付けられた反射版がチカチカと光り、

コーナーも接近を知らせる。

それにも構わずアクセルを床まで目一杯踏み続ける大樹。。。。

グゥォン!!!

後方でインプレッサのブレーキングに合わせたインプレッサのヒールアンドトゥーのエンジン音が

こだまし、ミラーに映るインプレッサのライトがスゥーと離れる。

―こっちは更に限界まで攻め込むまでだ!!!!―

ブォン!!ギィィィィィィィ!!!!!!

今までより更に遅らせたアルテッツァのフルブレーキング!!!

大樹の闘志に応える様かのように雨の闇の中で灼熱に焼けたブレーキローターが怪しく輝く。

アルテッツァの車体が今まで一番前のめりになり、リアが今にも横に逃げだしそうになる。

それをギリギリで堪え、ブレーキを残しリアを振り出すアルテッツァ!!

ポテンシャルによって鍛え仕上げられた脚は、雨の中、落合の執念が宿っているかのようにと

ても4ドアとは思えないような粘りのあるグリップを稼ぎ出し、大樹のカートで培ったスキルは尋

常じゃない状況下でもコントロールを失わずアルテッツァを前へと押しやる。

氷の上を滑るような無駄の無いスライドコントロールで姿勢を制御すると、そのままトラクション

を最大限に活かすカウンターを必要しないアクセルワーク。。。。

ヒュゥゥゥゥ!!!ブォォォォォォン!!!!

―ただ少しでも前へ、、、、速く、、速く、、前へ・・・・―

伸びのある独特の低いサウンドを響かせアルテッツァは大樹の想いを受け止めるように完璧

に近い理想的なラインを立ち上がる。

バシュ!!ブゥゥゥゥォォォォォォォォ!!!!

そして、直線を向くと一転、一気に全てを解き放つ荒々しい全開音!!!

1つのコーナーをただ速く抜ける為、持てるポテンシャルのギリギリをぶつける大樹とアルテッ

ツァ!

1コーナー付近・・・・

「・・・・確かにアルテッツァのドライバー、伊東 大樹は悪いドライバーじゃない。ステアの切り方

も荷重移動もスムーズだ。この濡れた路面の中、車の性能を最大限に生かしてると言える。

明らかに公道の走り屋のレベルは超えてるドライバーだ・・・・」

遙は1コーナーから自分の車の停めてある駐車場に向かって歩きながら、隣の男に淡々と答え

る。

「だが、バトルはドライバーのスキルだけでは勝てない。。。ドライバーのスキルではどうしても超

えられない物理的限界の壁があるからな。ドライバーがいくら上手くても、パワーが倍になる訳で

も、グリップが増える訳でも、トラクションがかかりやすくなる訳でもないからな。。。。車の性能っ

て奴はどうあがいても埋まるもんじゃない。。。レースでもドライバーが渾身のアタックで削った

コンマ5秒を、他のドライバーが車の性能で埋めてしまうなんてのは良くある話だ。それにこの雨

、、、車の性格をより分かり易くしてしまう。。。悪い路面では4WDが圧倒的に有利だ。

 

 

 

グゥォォォォォ!!!!

―!?・・・・ペースに上げて逃げる気か・・・・―

明らかに全ての動きがワンランク高い次元でシンクロした動きを見せたアルテッツァに後ろの怜も

アクセルを開ける足にも力が入る。

―幾ら走り込んでいるとは言え、今までのアルテッツァのペースはとても雨のFRのペースじゃない・・

―そこから更に上げてくるとは、、、、口だけじゃ無いって事か。。。。。―

ギュゥォォォォォォ!!!パシューン!!!、、、、グゥォォォォ!!!

アルテッツァのテールランプを見つめながら、大樹の底力を証明するかのように、更に鋭さを増す

アルテッツァの走りに、怜は内心驚いていた。

―だが、、、、、バトルのファクターはドライバーだけじゃないぜ。。。。―

が、、、しかし、それでも怜の瞳の動揺は見当たらない。

ドライバーだけじゃ足りないもの・・・・それは。。。。